【注意書き!】
*軽い流血表現アリ
*夢主は男主人公です
*直接描写はありませんがBLニュアンスを多分に含む表現アリ
「は赤い糸を知ってますか?」
「何、いきなり」
「思い出したんですよ、赤い糸で結ばれている運命の人の話」
うっとりしながら小さな手のひらを広げて見つめる少女。
可愛らしい話だ、胸やけがするほど甘ったるい砂糖菓子のような伝承。
そんな話をするには今の彼女はあまりにも似つかわしくない、ドクドクと白い指先から流れる血が甲板を汚していく。キキョウの左手の小指がぱっくりと割れている。
近頃の彼女の奇行にしてみれば大人しいものだがイゾウやサッチが痛い顔をする、マルコはきっと俺を見て顔を顰めるだろう。
「痛くないのか、それ」
「痛いのが気持ちイイんですよ」
「へぇ、新しい境地だな」
「」
「何」
「私は認めません、赤髪がの運命の人だなんて。あんなのが私の大事なの運命の人なわけがない」
にこり笑ったキキョウの顔は血を流しすぎたのか蒼白だ。
「私たちは家族でしょう、家族は離れちゃいけないって親父もマルコも言ってたじゃァありませんか」
「それは精神論を踏まえての話だろ」
「可愛い妹の頼みを断るんですか?」
「・・・俺はいずれ親父やマルコを傷つけるぞ」
巫子は能力者にとって天敵、能力者は海の力を持つ巫子を殺すことは出来ない。でも巫子は、能力者を傷つけることも、――殺すことだって出来るようになる。
自分という存在が危険因子になることは明らかだ。ヒトでいられる時間はあとわずか、明確な徴こそなくても今までの自分が軋みながら壊れていくのをはひしひしと感じていた。
それは赤髪が“鍵”となり存在を維持できたところで変わらない、何故なら彼が守るのは白ひげにいた今までのではない、海の巫子になった自身なのだ。
「俺は一番大事な奴の好きな男を傷つけたくない」
「・・・・・」
キキョウがマルコへ抱く想いが実を結ばない、結ばないどころかその想いが彼女を壊すことを知っていて止めないのは家族として間違っているのは承知の上だ。でも、彼女を止めることはしない。
彼女の脆く鋭い激情はあまりにも馴染みがある、だからこそ止めたところで止まらないのなら行き着く先まで行かせてやるのもまた愛だとかんがえる。それが果てしなく身勝手なエゴだとしても構うものか。
家族が知れば、それこそマルコに知られたら怒声が飛ぶだろうけど知ったことではない。
――仕方ないじゃァないか。だって俺は“そういう”イキモノになるのだから
独りごちては一歩足を踏み出す、手の届く距離にまで近寄れば鉄くさい匂いが鼻に流れ込んだ。
そのままキキョウの赤に塗れた手を取ってぎゅうと優しく握り込めば、ぼたり流れる血がの小指を汚す。
「だからここでお別れだ、キキョウ」
お前の傷ついた小指の先には誰がいるんだろうな。
「・・・・」
目覚めたら手の中に収まっていた赤い糸。
紬糸なのか縫糸よりも少し太めの糸を暫く眺めていたが、視線を寝室の壁にダガーナイフで縫いつけられた羊皮紙に移す。
そこには赤い文字で乱雑だが流暢な文字で「それを赤髪の小指に繋げろ」と書いてあった。
思い浮かんだ闖入者の顔と先ほどまで見ていた夢の内容に眉根を顰めた、我がもの顔で手に収まる赤い糸を振り落とそうと腕を振るが魔術の類でもかかっているのか揺れはするものの手から離れない。
瞬間接着剤も真っ青なその吸着力、真言を唱えるがまるで効かずに無意識に舌打ちが出る。
「トカゲの奴、妙な真似を」
一体何の余興だ。
がしがしと紫暗色の髪を掻きながらベッドから起き上がる、おもむろに抜き取ったダガーを外に放り投げれば何処かに飛んでいく。いっそ事故でも起きて心の臓にでも刺さってしまえ、内心毒づきながら用は済んだとばかりに海の向こうへ消えていくダガーを見送る。
地平線という世界の領分を侵犯したトカゲ、つまりこの世界においてイレギュラーな彼女は面倒くさいことに魔女でありながらも海の巫子の適応外だ。つまりトカゲが施した何かをは海の力を持ってしても解くことは出来ないということ。
魔女というイキモノの動機なんぞの知ったところではないがどうせ大した理由でもあるまい。
がっちり左手にくっついた赤い糸をもう一度見ては大きくため息をついた。
とにもかくにもこのままではいられない、あまりにも間抜けだし邪魔である。
「シャンクス指貸せ」
「唐突だな」
船長室の扉を蹴り飛ばせば奥にはベックマンに押し付けられたのか、書類やら海図に埋もれた赤髪の姿。
こいつまたこんなになるまで・・・、とひくり眦が震えるのを感じただが今はそれどころではない。
ずかずかと遠慮もなしに船長室に踏み入り、机にうっつぷすシャンクスの手を取る。
「いいから貸せ」
トカゲの目的が赤い糸を繋ぐという「お前ら今時のガキだってもっと大人だろ」な行為をさせ、羞恥を仰ぐためなのかどうかは定かではない。
しかし諸手を挙げて投げ出したくなるようなややこしい関係を結んでから今年で10年目という大台に入り、精神的な変化もあって髪色も藍から紫暗へと変わってきている現状。身体の関係も伴っておいて今更羞恥も何もないだろう。
ただトカゲの暇つぶしに自分が付き合わされることには一縷の殺意も覚えるがこの場合致し方ない。このけったいな物体を一刻も早く手から離すことが先決だ。
「何するつもりだ?」
「糸結ぶだけだ。大人しくしてろ」
「糸?」
訝しがるシャンクスは相手にせず、は左手にくっついた赤い糸の端を掴む。すると先ほどの吸着力が嘘だったかのように簡単に手のひらから離れた。
はらり零れた糸を手にとっておもむろにシャンクスの右手の小指にくくりつけようとする瞬間、思い出すキキョウの声、今の彼女なら赤い糸どころか神経そのもの引きずって結びかねないだろうなとは確信めいた予測を立てながら手早く赤い糸を結びつけた。
「じゃあな、用は済んだ」
「ちょっと待て、」
「何だよ、仕事しろよ。ベックに言いつけるぞ」
「お前これ一体何なんだ」
「赤い糸」
正確には小指に結ばれた赤い糸だ。
しかし小指とはいえ、男のごつごつした武骨な指に結ばれている光景はシュールどころか視界への暴力行為に近い。それもご丁寧にピンと小指を立ててくるシャンクスに結んだ張本人のは心底嫌なものを見たかのように顔を歪めた。
「お前、結んどいてその顔はないだろ」
「結んどいて何だけどバナナワニがヘッドドレスつけた方がまだ似合う」
「・・・・」
「・・・・」
些かの沈黙、先に動いたのはシャンクス。
くくりつけられた赤い糸の未だ空いている先端を手に持ったままの手をがしりと掴んだ。
それに嫌な予感を感じ更に歪んだ顔をシャンクスに向ける。
「なぁ、知ってるか。」
「何が」
「赤い糸っていうのは繋がっている相手と結ばれるんじゃなくて、元は相手を確かめるためにつけるもんらしいぞ?」
「は、」
にたり笑うシャンクスにの表情が固まる。
そんな話聞いたことない、しかし自分より一回り以上は年上の人間がいうことを手放しで否定することも出来ない。何たってを見下ろすシャンクスの目が嘘を言ってないのだ。
「私たち運命で結ばれてるんだね」なんてマシュマロの上にキャラメルでもかけたような甘ったるい迷信、それが自ら相手を確かめるための意味を持つなんざ自分たちの関係に置き換えて考えると洒落にならない。
こんなラブコメ的な展開、誰が予想出来ただろうか。
いやでもシャンクスはまだ結べとも何も言っていない、これが事実だろうと一人のことなら酒の席での笑い話ぐらいになる程度で済むはず。
そう結論づけ口を開こうとした矢先、やはり先手を打ったシャンクスが絶対的な一言を放つ。
「船長命令だ、。お前の小指にそれを結べ」
30分後、船長室を訪れたベックマンが見たのは書類処理に勤しむシャンクスとソファに寝転び不機嫌な顔で本を読むの姿。
ただでさえ珍しい光景に目を丸くした彼、その3秒後には銜えていた煙草を落とすことになる。
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