ワイン畑で働く使用人の一人が垣根に向かって殴り飛ばされた。ぐしゃん、と葉と枝が台無しになる音には唇を噛み締めて、顔を上げる。今すぐにでも飛び出して行きたいのだが、その腕は養母によってしっかりと抑えられていた。
「今、出て行ってはだめ」
「でも……!!!メメ…!!」
何度目かになるか判らぬ養母の制止に、は何度目かの拒絶の言葉を口にする。先ほどから養母の腕を振りほどこうとするのだが、この細い腕のどこにそんな力があるのか、若いが力を振り絞っても、養母の腕はぴくりともしなかった。
二人が立っている白い家の玄関。そこから広がる庭には、現在使用人、それにこの農場の持ち主であるの養父が集まり、そして、招かれざる訪問者と対峙していた。
「なァ、オーナーさんよォ。おれ達はチンピラじゃねェんだ。こりゃれっきとしたビジネスなんだぜ?アンタの弟に貸した金、そっくりそのまま返せねェってんなら、変わりにこのチンケな農場を貰ってチャラにしてやろうってんじゃねェか」
の養父の目の前にどん、と構えるのは、金髪の大男だ。ハイエナのような目をしている、とはいつも思う。この辺りを取り仕切るベラミー一家のボス、ベラミーである。この男は金貸しもしている。養父の弟はもう何十年も前に実家を勘当され行方不明になっていたのだが、一週間前にふらりと戻り、心やさしい養父はそれを歓迎した。よく戻ってきてくれた、と、クリスマスのためのガチョウがふるまわれた。も初めてみる養父の弟を好きになろうと努力したが、しかし、その時から、は妙に、何かおかしいと警戒せずにはいられなかった。
確かに、養父に似た顔をしている。けれども、養父のような暖かさがその目にはなかった。は常々、実母であるトカゲから「男は隠しごとが下手だ。その目を見れば何を企んでいるかわかる」と言われてきたので、必ず相手の目を見ることを心がけていた。
そして三日前。弟がベラミーから膨大な金額の借金をしていることが判明し、そして、その借金のカタにこの農場が奪われそうになっていた。
トカゲお母さん03
空港から列車に乗り、車で一時間と少し。ボガードご一行は次女が暮らす農場に辿り着いた。入り口までタクシーで送ってもらい、ボガードはの荷物を腕に持つと、そのまますたすたと慣れた足取りで進んでいく。
「あ、待ってよ。ボガード。お姉ちゃんが乗り物酔いからまださめてないの」
飛行機の中では散々「神よ。絶対落ちます」と尼僧の格好でのたまい続け、乗客たちに妙な不安感を与えた長女。CAたちも苦笑いをするしかないフライトだった。飛行機から降りても只管、鬱陶しかったとボガードは言い切れる。の願いであるから今回、三人が暮らせるようにという手伝いをしているのだが、文明をまるで知らぬ長女の存在など捨て置いた方がかなり楽だった。その、「ぼく…馬は得意だけど、あの鉄の車はちょっと…」などと言いながら胸を抑えている。いっそ一人だけ馬車で向かわせればよかったのだと、心のそこからボガードは思う。
「大丈夫?乗り物酔いにはハッカ飴が良いって言うけど…お姉ちゃん食べれそう?」
けれども、心底足手まといであると思うボガードとは対照的にはかいがいしくの世話を焼いていた。これまで一度も面識がなかったというのに、早くもはを「姉」と慕っているようである。の、あまりよくない噂はさすがのドレークも吹き込んでいないが、「ちょっと変わっている」ということは教えている。少しくらい警戒して接して欲しいというのが本心だが、の耳にはの数々の所業も「なんかすごいこと!」と、素直に受け入れられてしまったようだ。この辺りの素直さはの実父に似ているのだろう。
「ハッカ…ぼく、からいの嫌いなんだけど」
「そっか…じゃあしょうがないね…。あ、そうだ、ポカリ飲むと楽になるかも…でもこのへんにコンビニとかあるのかな…」
それ以前に、フランスに例のスポーツ飲料があるのかどうか、ボガードは疑問だった。首を傾げるは本当に可愛いとかそういう末期なことを思いつつ、の腕を掴む。
「歩けないのなら俺が背負いますが?」
「……このぼくがそんな醜態…認めないよ…」
「ではちゃんとしてください。さんに会うのにそんな様子でいいんですか」
もちろん、この辛辣極まりない言葉はに聞こえぬよう小声である。もそれがわかっているのか、唇を噛みながらも、何とか自分の足で立ち上がり、気丈に振舞った。この辺りが、母親に似たプライドの高さだろう。いや、あの女性なら人の背に負ぶわれても「おい、速度を上げろ」くらいは言ってノリノリで人力車扱いしただろうが。まだまだは幼いということであろう。実際年齢はボガードよりはるかに上だが。
「くん、くんの家はこっちでいいんだね?」
顔色は未だ悪いが、平時の声をつとめる。は心配そうな顔をしたが、あまり気遣って姉の自尊心を傷つけると判断したのか、にこり、と笑顔を浮かべて姉の手を取る。
「うん、この道を真っ直ぐ行くとマナーハウスに付くの。ちゃんには行くって教えてあるの?」
「急でしたからね。まだ連絡は入れてません」
気丈に振舞いつつも、口を開くのは億劫だろう。ボガードが答えた。何よりも、今回は三人の母親であるトカゲの死が切っかっけである。の口から二人に知らせることがトカゲの一番の願いであるため、ボガードもには何も告げていない。が二人に同時に告げることに意味があるのだと、アーサー・ヴァスカヴィルは言っていた。
突然の訪問、の正確なら必ず断りを入れると思ったが、は連絡を入れることなく行くことを強調した。
「ふぅん。そっか。ちゃん驚くね。お姉ちゃんの事は時々二人で話してたの。どんな人かなって」
「……ふふふ、そうかい」
何か言わねばならぬと感じたか、が短い返事を返す。その度に気分が悪そうに眉を寄せるのだが、にはあまり心配をかけぬようにとしているのが、ボガードには新鮮だった。あの悪魔のような女が、とさえ思う。
そうして三人で農場を進んでいくと、何やら屋敷の前に人だかりができていた。
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ボルドーの港町から車で一時間半ほどで辿り着く農場。広さは一般的だが、このブドウ畑から作られるワインは地元でも屈指の味を誇っている。通り沿いに植えられた木々が徐々に密生してきて、やがて鈴掛の木の並木に代わった。そしてその突き当りに、こじんまりとした屋敷が立っている。小さいが、本邸は優雅な屋敷だ。長方形の三階建の建物で、片側だけ後ろに建て増し部分が伸びている。灰色がかった石がところどころに見かけられるが、けして不格好ではない。石の層の間には細い黒の火打石が埋め込まれ、縞模様をつくっている。正面から見ると完璧な対称形となっているのがわかる。切り妻屋根が四つあり、それぞれに縦に仕切りの入った窓がある。中央には玄関ドアがあり、その扉の前には灰色の髪の少女が、フランス人らしい女性に肩を抱かれていた。
その少女が、であることは、には一目でわかった。炎のように燃える赤い瞳に、何もかもが燃え落ちた灰のような瞳。対照的な、しかし美しい輝きが今は、どんな苦しみが襲いかかっているのか涙でゆがんでいる。
おや、と、は眉を跳ねさせた。取り込み中らしいことはわかるが、しかし、どういうわけか妹は悲しい思いをしているらしい。
「あれ?お客さんかな?」
「少し、様子が妙ですね……ワインのディーラーでもなさそうですし…あれは…」
と同じように農場の異変に気付いたボガードと時が顔を見合わせる。抜け目のないボガードはすぐさま懐に手を伸ばしているが、はそれを目で制して止め、随分と久しぶりに、走り出した。
「お姉ちゃん!?」
後ろでが驚いた声を上げるのが聞こえるが、は振り返らなかった。尼僧の長いスカートを掴み、走りにくいことなどものともせず、そのままは、この農場の主だろう男を掴んでいる大男の背を蹴り飛ばした。
「っ!!!何しやがるテメェ!!!」
小さな己の蹴りである。さほどの勢いもなかっただろう。だが、の蹴り。トカゲの直伝である。トカゲ曰く、娘たちには皆教えたというからもも使えるのだろう。しかし、こちらは年季が違う。は、的確に相手の背骨とアバラの丁度良い場所を狙って蹴っている。
大男は小さく呻き、反射的に農場の主の首から手を放した。
「お養父さん!!」
「あなた…!!!」
どさり、と落下する主に、二人の女性が駆け寄る。はまだじっくりとと対面する勇気がなく、いらだち紛れも半分入りながら、大男を見上げる。
随分と背の高い、そして体躯のよい男である。筋肉質なその体、己でも自覚しているのであろう。十分に鍛え上げられ、タンクトップにジーンズという姿でも、威圧感があった。しかし、の目には街のチンピラとそう変わらぬ、という程度のもの。
男は突然現れ、そして自分の背を蹴り飛ばしたのが尼僧であることに聊か驚いたようだった。丸い目をさらに丸くして、眉を寄せる。
「なんだ、テメェは」
「ふ、ふふふ、何か知らないけど全体的に君が悪人ポジションな気がしたからねぇ。ノリ?」
「テメェは何者かって聞いてんだよ。この辺にゃ、教会はねェぞ、尼さん。それとも何か?弱いものいじめはやめましょうって説教たれに来たのか?」
男が笑えば、周囲の人間(男の仲間だろう)がにやにやと笑った。カンに触る笑い声である。ただでさえ乗り物酔いで気分の悪いの神経に触った。その苛立ちを、は素直に相手に向ける。
「そうだね、悔い改めて荒縄で首を括っておしまいよ。おや、怖いって?そんなそんな、臆病者が今更臆病風に吹かれても面白くもなんともない」
尼僧の言う台詞ではない、と駈けつけたボガードの顔が突っ込みをいれていた。しかし自分とてまともな聖職者になった覚えは一度もない。ふん、とは鼻を鳴らし、あまりの言葉と、そして言った人物の装いに顔を引きつらせる大男を見上げる。
全くもって状況はわからないが、妹の暮らす家の主の首を絞めていたのである。はとりあえず、この大男を敵とみなした。それに、不思議なことに、自分はこう相手に嫌がらせ+傲慢な台詞を吐いていると気分がとてもよくなる。あれか、もしかして乗り物酔いになるくらい繊細になったのは、自分の黒い要素を片っ端から浄化しかねないが傍にいたからか?と思う。
すぅっと息を吐いて気分を立て直す。相手が怯んでいるその時間を考慮する慈悲の心など持ち合わせていない。
「どんな事情で今この場に立っているか知らないけどねぇ。理由を口にだして正当性を唱えてごらん、それをどうにもこうにも、暴力的にひん曲げて君を泣かしてあげるよ」
「な、なんだと……この、あま…!!」
「事実尼さんなんだから、悪口にはならないよ。大男総身に知恵が回りかねるというけれど、世の偏見をどうにかするためにも、口を噤んで利口さを出しておいた方がいいんじゃァないかな。坊や」
みるみる相手の顔が真っ赤になるのがには面白い。フランスにはトマト祭りはないそうだが、その時の真っ赤っかな有様に負けぬ赤さだろうと、満足気に見上げる。そう、明らかに優越感に満ちた笑顔をしていると、大男の腕がこちらに向かって振り下ろされた。
危ない、と、農場の人間たちからの声が上がる。しかし、その腕は振り下ろされる前に、止まった。大男がどうこうしたのではない。
「フッフフッフフフ、おいおい、ベラミー?仮にも聖職者に対して無礼な振舞いなんてするもんじゃねェぜ?」
「ドフラミンゴ!」
おや、と、は青い目を素直に見開いて驚いた。ボガードが銃を引くよりも前に、いつのまにか現れた、長身にハデなコートの男が一人、大男、ベラミーの太い腕を掴んでに振り下ろされるのを止めた。
随分と背の高い男である。しかし、それでいてベラミーのような筋肉質ではない。オレンジのサングラス越しのためどんな目をしているのか、それはわからないが、卑しく口元を歪めてさえ、貫禄のある男だった。ドピンクの派手な色のコートを纏うその男の名に、は覚えがある。
ドンキホーテ・ドフラミンゴ。トカゲの所属した組織の関係者である。抜け目ないやり手であると、トカゲが称賛した数少ない、「本物の悪人」だ。確か母の愛人にはならなかった珍しい人物だ。「良い男だがな」と言っていた母の言葉を思い出す。年齢離れ過ぎているとかそういう問題ではなく、お互い、好みが違ったのだろう。
ベラミーというこの男はドフラミンゴの傘下ということか。であれば、この農場が狙われたのは偶然なのだろうかと素早くは思考を巡らせる。「蜥蜴の娘」を探している「悪人」にこの男ほどの適任者はいないだろう。抜け目なく立ち回る男だ。フランスを最初に選んだのは偶然か、とは若干の緊張さえした。
そのドフラミンゴ、尼僧姿のをじっくりと見下ろし、そして、聊か乱暴にのコイフに手をかけた。
「っ……!!!」
あ、と、が手で押さえる暇もない。あっさりと、は頭巾を奪われる。真っ青な空の下に、の燃えるような赤い髪が明らかにされた。それを目に止めて、ドフラミンゴが僅かに驚き、しかし、納得したように笑い声を立てるのがのカンに障る。頭巾を取られた程度で屈辱と感じるほど安いプライドではないけれど、この男の目的どおり姿をはっきり確認させられたことが、には侮辱と取れた。
「フフフフフ、フッフ。ホルンベルクの魔女にこうもあっさりお目にかけるなんて思ってもいなかったぜ?」
射殺しかねん勢いで相手を睨む。は相手の言葉を鵜呑みにする素直さの持ち合わせはなかったが、しかし、相手が嘘をついているのかどうかの判断能力は持っている。相手の目の動きが最も判断しやすいが、この男とてそれを知る者だろう。目を隠すサングラス、けれど背の低いからは、その目がよく見える。
母の手紙には隠し続けてきた三人の娘の居場所がバレた、とあった。それだけならは敵の手が長かったと思うだけだった。しかし、問題は同時に発覚した、ということである。
の存在などは前々から、感づかれていた。こちら囮でもあったのだから、それは当然として、居場所は、しかしそれでもはっきりとはしていなかった。
それであるのに、同時期に三人の居場所が、人の手に渡ったと言う。
母が信頼し、そして自分たちの居場所を知っていた誰かが告げたのだろう。そうは判断している。誰かが母を裏切ったのだ。それゆえに、トカゲは死んだ。
目の前の男は嘘をついていない。三姉妹を探そうとしていたかもしれないが、今こうしての家を狙ったことは、偶然だったということか。
「このぼくに会えるなんて幸運と価値に感謝して、この農場から手を引いてくれるととてもうれしいんだけどねぇ」
「フッフフ、そうはいくかよ。こちとら商売なんでな。そのジジィの弟がうちで作った借金そのままテメェが払ってくれんのか?」
「生憎ぼくに資産はないよ。借金というけれど、君ほどの男がわざわざ出てくるほどの金額なのかい?」
やっていることは悪行が殆どだろうが、しかし多忙な身のはずである。態々こんな田舎まで来る理由を探ろうとしていると、ドフラミンゴが隠す気もないのか、あっさりと口に出した。
「ハッキリ言えばな、こんな場所にゃ興味もねェ。青い目の尼僧がこの農場に向かってるっつー話を聞いて飛んできた。まさかとは思ったが、フフフフ、あのトカゲの娘が三人揃っているそのさまを見れるとはな」
借金の詳しい額を続けて告げたドフラミンゴに、も眉を跳ねさせる。確かに、農場ひとつ分には相応しい金額だったが、ドフラミンゴほどの男にはあまり意味のある金額ではないだろう。そもそも、この男はただ借金、回収、という野暮なことはしない。農場はその土地や製法を知る人間でなければやっていけないものだ。借金のカタに奪ったところで、ただ土地を貰っただけになる。土地としての価値は利益になるだろうが、こういうワイン農場はきちんと経営させてこそのものだ。土地以上の価値になる。それがわかっているドフラミンゴ、それでも今引き下がろうとしないことに、は苛立ちを覚えた。
偶然だったかもしれないが、その機会を逃がすほどお人よしではない、ということだ。
「で?誰が「そう」なんだ?」
睨みつけるようなの瞳を見つめ返し、ドフラミンゴが問いかける。駆け引きをする気はない、と言外に告げていた。のらりくらりとかわしたところでこの男には無意味であるとわかっているだけあって、もそれに気付かぬふりをするつもりはない。
ドフラミンゴが来たことで、一時的にベラミーは大人しくなりはしたものの、状況がよくなったわけではない。むしろ、悪化したのだ。
の背にはとその一家がいる。ベラミーたちが本気になればあっという間に、みな殴り殺されてしまうだろう。農場の借金程度ではそこまでの強硬には出なかったかもしれない。しかし、ドフラミンゴが来た。そして、トカゲの三人の娘が揃ってしまった。
ドフラミンゴは己の手持ちのカードを最大限に利用する。ここでがドフラミンゴの問いかけに応えなければ、すぐにこの農場は惨状となる。は少し離れた場所にいるボガードをうかがった。ボガードは銃を持っているが、いくら腕がよくとも一度に複数人を倒せるとは思えない。ドフラミンゴを狙い撃ちしてくれれば話は早いが、おそらく、銃口が向けられた途端、気付いてしまうだろう。
なぜボガードが銃を所持しているのかなど突っ込みは不可だ。むしろ持っていない方がおかしい。
「フッフフ、あんまり焦らすなよ?我慢できずにその口を割っちまうぜ?」
どう乗り切るべきかと思案して黙るの顎を、ドフラミンゴが掴む。無理やりに上を向かされては顔を顰めた。人に触れられるのは慣れていない。特に男が相手なら尚更。むしろ嫌悪さえ募り、ぞっと鳥肌が立ったが、それを表面には出さなかった。
「おや、きみは…このぼくがここで素直に一人の名を上げたところで、信じてくれるのかい」
沈黙を続けるをじっくり甚振るつもりか、ドフラミンゴの指先がの唇、鼻、頬、瞼、目じりを触れて行く。そうして何もかもに触れてしまう前に、はやっと口を開いた。
「そりゃ、信じねぇな。ホルンベルクの魔女ともあろう女があっさり話すわけがねぇ」
「それなのにどうして聞くの?」
「ジジィどもの戯言だ。おれは別に信じちゃいねぇが」
こういう類の人間が前置きをするのは珍しい。まさか超常現象の類か、とが呆れたような顔をすると、ドフラミンゴ、眉を寄せた。「聞きてェか」と、そう聞いてくるもので、は少し考える。しかし、なぜ聞くのか、と、言いだしたのはこちらである。頷けばドフラミンゴが、から手を放した。
「「誰」が「そう」なのかを知っている者がいる。そいつが「そう」だと認めた途端に、そいつは本当に「そう」なると、そういう話だ」
「……「それ」をぼくが知っていると?」
「トカゲが死んだ今、お前以外に知る資格のある人間はいねぇだろ」
ははっとしたが、もう遅い。
ドフラミンゴの言葉は、、そしての耳にしっかりと届いてしまった。はっとしては二人の妹を交互に振り返る。
フランス人の女性の近くにいる妹は、ドフラミンゴの言葉を受け、唖然とを見つめる。姉妹の名乗りもできなかった。しかし、の目はしっかりとを姉と認識してくれているが、しかし、それでも、今の、この言葉に、わなわなと唇を震わせている。
「……お母さんが、死んだ?」
「……ボガード…どういうこと……?」
少し離れた所では、がボガードのスーツを掴んでいた。
は、ぎりっと唇を噛み締めて力の限り目の前の男を蹴り飛ばした。
Fin
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