真夜中にこっそりとは一階を改造した「喫茶・猫目」に降りてきた。

元々はの「知人」が茶室として使っていた古い民家を買い受け一階を喫茶店、二階を建て増しし住居として使えるようにした家。造りは一見和風でありながら、建設途中のの「もっとこう、ステルス機とかが突っ込んでも平気なようにおしよ」という理不尽な要求によってどことなく西洋じみた気配のする建物。一階は最大集客可能人数20人程度というこじんまりしたものだが、カウンターは五席、四人がけのテーブルが二つ、二人がけのテーブルが2つという喫茶店としては十分で、夜半ともなれば明かりの点らぬ店内、その辺に躓きかねない恐れがある。そんな中、「暗闇が苦手だ」というがひょっこりと手明かり一つ持つことなく記憶にある配置を頼りにカウンターに進んでいた。

ここ最近、東京は例年にない猛暑に見舞われていた。気温は常に30度以上に上昇し、普段から「一定以上の気温になると部屋から出ない」とに顔を顰められているはとことん引きこもりがちになり、太陽が昇っている時間は熟睡し、こうして真夜中になれば起きてくる。食事はが平常時間に作ったものが冷蔵庫にきちんと用意されているのにきれいにスルーして自分の好きなものだけ食べる、と、お前はどこのニートだ、と言われるほ自堕落極まりない生活を送っていた。

これが聖界で「最も自尊心のある枢機卿」といわれるホルンベルグの魔女かとかつてケルン大聖堂でのの姿を見た者たちは顔を顰めそうものだが、あいにくそういう突っ込みをする者はいない。妹二人は基本的に自分に甘いのだから文句は言わないだろうとがタカをくくっているところがさらにその自堕落な生活に拍車をかけているに違いなかった。

そういうわけでは本日も夜中の十二時、妹二人がすっかり寝静まっている時間に当然のように起床してトコトコと下に下りてきたのだった。

一日中寝ていたのにお腹は空く。ぐぅっと腹を押さえながら、は喫茶店の事務用冷蔵庫を開けひやり、とした冷気に目を細める。いっそ冷蔵庫に住みたいと思ったっておかしくない、というのがの今年の夏の主張。もうちょっとこの冷蔵庫が大きかったら入れるのに、とそんなことを考えながら冷蔵庫の棚を漁った。

「・・・・・・?うん?」

がさがさ、とチルドや冷凍庫を探り、は首を傾げる。食事はある。冷蔵庫を開いてすぐに目をつく場所にが用意しただろう本日ののごはんだろう冷やし中華が彩りよく皿にもりつけられサランラップにくるまれているのがわかるが、が探しているのは「食べてください」と用意されたそれではない。

「あれ?おや?え?なんで?昨夜こっちに入れて置いたのに」
「何を入れておいたんです?」
「うん?くんの留守中に鳥が送って来たお中元…」

聞こえてきた声に振り返ることなく答えてごそごそと野菜室を漁っていたの動きが止まった。

「……おや、夜更かしはよくないよ?明日も学校だろう?」
「おはようございます、ちゃん。最近すれ違いばっかりでしたから会うのは三日ぶりくらいですよね?」

ギギッと首を動かして振り返り、はつとめて平然という顔をして姉らしいことを言ってみたのだが、振り返った先に立っていた妹は笑顔を浮かべるばかりだ。いや、笑顔一色、ではない。室内に明かりがないため目立たないが冷蔵庫から漏れる光にうっすらと浮かび上がっている、額のそれは青筋だろうか・・・?は内心物音は立てなかったはずだが、と舌打ちをする。すると沈黙しているのその心境を感じ取ったか、が笑顔のまま言葉を続けた。

「現物を上手く隠したところで、おねえちゃん、宅配物には配達表というのがあるんですよ」
「ぼくちゃんとゴミ箱に捨てたよ!?」
「私は毎日ちゃんが分別しないでゴミを捨ててないか確認して封をしているんです」

う、とは顔を引きつらせた。基本的に「エコ?本気でしたいなら人間なんて滅びればいい」という。ゴミの分別なんぞしない。部屋のゴミ箱も燃えるゴミ・燃えないゴミと折角が丁寧に銘打って二つ用意していてくれるのには一つが満杯になったもう一つを使う、という、本当に地球に優しくない使い方。お前本当に聖職者かと時々ドレークから突っ込みが入るが、それは例によって当然、スルーされている。

「確認してみれば私が留守中に宅配便が届いていて、送り主はあのドフラミンゴさんじゃないですか。ちゃん宛てだったにしてもお礼を言っておこうと電話したら、ちゃん、ドフラミンゴさんが何送ったのか私に知らせないために隠したんでしょう」
「・・・・そ、そんなことないしー」
ちゃんの口調が子供っぽくなる時は十中八九自分に都合が悪いときだって知ってましたか」

駄目だ、完全にお説教モードになってしまっているとは後ずさりした。

何があっても心優しく他人を害さぬ、トカゲ一家一番の心優しさを持つ。その彼女が現在笑顔は笑顔だが、額に青筋浮かべて、普段穏やかな声が凍りのように冷たいではないか。

は必死にこの状況の打開策を頭の中に浮かべるが、どの手も目の前の妹には通用しそうにない。

ぐっと、は眦を上げて自分より背の高い妹を睨んだ。

「ぼ、ぼくは子供じゃないんだから自分の好きなようにしたっていいじゃないか!!!」
「だからって毎日毎日カルピス一本あけるなんて虫歯になるに決まってるじゃないですか!!!というか、この夏をカルピスだけで乗り切ろうとしないでください!!!それが大人の女性のすることですか!!?」


開き直ったの大声に負けぬの正論が真夜中の店内に響き渡った。







暑い夏、ハイ!カルピスの黄金比っていくつですか!?







電気のついた店内は昼間のように明るい。そこのカウンター席にちょこんと座らせられている。そのテーブルの上には先ほど冷蔵庫の中に入っていた冷やし中華。自家製の麦茶まできっちりと用意されて「さぁ食べろ!」という状況であるのには用意された箸を持とうともせずふくれっつらをしている。

「言っておきますけど、食べない限り部屋には上がらせませんからね」

このままだんまりを決めるのなら付き合う、という姿勢の。どうやら明日は大学も休みのようでどれだけ起きていても影響はないらしい。この周到さ。これはひょっとしなくとも最近のの自堕落な生活に「姉のすることだから」と苦笑しつつ見守ってくれていた、ということではなく、今日という日を計画していたゆえの放置だったのか。

ドイツで暮らしていたにとって今年は初めて体感する猛暑。暑い、本当に暑く、これ何人人が死ぬんだろうかとまじめに思ったほどしんどい夏だ。

同じく日本の夏は初めてのは、農場で暮らしていただけあって猛暑での快適な過ごし方、対策は心得ている。そういうが、暑さでだれるに「日本の夏にはこういうものがいいんですよ」とに、ドレークからのお中元で送られて来たカルピスを作って出したのがそもそもの始まりだった。

「・・・くん、ぼくはカルピスさえあればこの夏は乗り切れる自信があるんだよ」
「そんな麻薬患者みたいなことを言わないでください。というか本来カルピスにそんな依存性はありません」

カルピス。お中元セットに多くあり、また小学生や中学生やらに好まれる例のあれである。瓶に入ったどろっとした減益をコップに入れて水で薄めて飲む、というもの。さっぱりとした喉越しに丁度いい甘さ、適度に分量を調節することによって人の好みにも合わせられるという便利なもの。は夏の暑さによって食欲が激減したのために、日本独特のカルピスについて調べ姉に出した。

それをが思いのほか気に入り、「くーん、作っておくれよ」とにこにこ機嫌よくコップを持って部屋から出てくるようになったまではよかった。


くんが作ってくれないからぼくは自分で作って我慢しているのに、飲むことまで禁止されたらぼくはどうやってカルピスを飲めばいいのさ!!!」
「飲んじゃ駄目なんて言ってません。私は一日3杯までだって言ってるじゃないですか!?」
「だからちゃんと守ってるじゃないか!」
「ピッチャーで三杯なわけないでしょう!!この、ちゃん愛用のマグカップで三杯です!」

ガッとがカウンターから出してきたのはプラスチック製、取っ手がついたピンクのマグカップ。きちんと「」と名前がマジックで書かれているかわいらしいもの。


カルピスをが気に入り、が作ってくれるものがおいしいと言ってくれるまでは、そこまでは本当に良かった。部屋から出てくるようにもなったし、顔色もそれなりに良くなった。だが、、どんだけカルピスが気に入ったのか知らないが「この夏はそれだけでいい」と妙なことを言い出してカルピスオンリー、時々アイス、という不健康極まりない食生活を始めたのだ。

最初は、何か食べる気力がないのなら、とも我慢したが、一日1本ペースで瓶を空けるってどういうことだ。そしてそれまでなんだかんだとそうめんくらいは食べていたのに、それすらもなくなった。

これはまずい、とが「ご飯を食べないならカルピスは禁止です!」と決定した。それが一週間前のこと。
しかし禁止したところで聞くような姉ではないとは早々に悟り妥協+理解を示したということで一日三杯までは許可した。姉のことを考えた彼女なりの優しさである。というのにはそんな気遣いも顧みず「ぼくは飲みたいときに飲みたいんだ!」とアル中まがいの宣言を堂々としやがった。

「ぼくはくんの作るカルピスが飲みたい!でもくんは作ってくれないから不本意ながらも自分で作ったもので我慢しているんだよ!?これ以上我慢する必要がどこにあるのさ!!!」

なんだその堂々とした開き直りは。さすがのもひくりと顔を引きつらせた。

基本的には姉のに甘いと自分でも自覚している。だがしかし、食生活において姉の主張を聞いてはいけないと最近なんとなく感じ取ってきていた。太陽の上がっている最中は冷房のがんがん効いた部屋で毛布につつまり熟睡し、アイスやカルピスしか口にしない、そんな生活をしていたらいずれ必ず病気になる。

「このままじゃ確実に夏ばてになりますよ!!」
「このぼくが夏ばてなんて軟弱なものになるわけがないよ!」

その自身はどこからくるのか。というか、すでに軟弱極まりない生活をしている人間が何を言っているのだろう。

はふるふると身体を震わせ、そして普段の彼女らしからぬ仕草、どんっとカウンターを叩くとやけに低い声で、とんでもない言葉を口にした。

「今日から一週間、ちゃんは私と一緒に行動してもらいます!!!!」






+++





「なるほど、そういうわけで普段この時間に姿を現すことなど西表島のイリオモテヤマネコ並に確立の低い卿が接客についている、というわけか」

いっそ小ばかにすればいいだろうとは額に青筋を浮かべ、もったいぶった言い方をした松永久秀を睨み付けた。本日も晴天、喫茶店内はの意向により地球に優しい26度。は普段妹たちに着せている喫茶店ユニフォームであるメイド服に身を包み、カウンターで皿を拭いていた。は他の客が注文したサンドイッチを作っている。の大学が休日になれば喫茶店猫目はその日の朝からしっかりと開かれる。それを知ってか知らぬか、まぁ確実に偶然だろうが本日は朝から利用者がおり、赤い髪にゴーグルをつけた高校生、同伴者は金髪に妙なマスクをした、おそらくは同級生だ。高校生らしい二人が何朝から喫茶店を利用しているんだ、というか授業はどうした、という突っ込みはもちろんこの喫茶店内では誰もしない。も学生が授業をサボるのは独自の判断自己責任、と意外にわりきったところがある。そういうわけで、それなりに朝から仕事のある喫茶店に、当然のようにふらり、とやってきたのは、何様俺様松永殿である。

朝からやっていることは確認済みだ、といわんばかりの態度には「ひょっとしなくとも君はくんのスケジュールを把握しているのか」と突っ込もうと思ったが、明らかに姉としては聞きたくもない言葉が返ってきそうで、珍しくは考えないことにしていた。

そういうわけで、松永が定位置であるカウンターに腰掛け、なぜ珍しくが接客の場に出ているのかと「何の罰ゲームだね?」というような口ぶりで問い、がしぶしぶ答えた、という状況。

「いやはいや、、卿は慈悲深いな。他人が糖尿病になろうと腐って死のうと構わないだろうに」
ちゃんは他人じゃありません。大事な家族です」
「大事な家族であるぼくから命の次に大事なカルピスを没収するきみは悪魔だよ!」

いつも通り状況をからかいをからかい倒そうというのか、普段のような口調で松永がいい、が否定する、とそこまでは普通の流れなのだが、そこに松永が更なる嫌味を言うまえにが批難の声を上げる。

松永は何か言おうと折角口を開いたのに言葉がにさえぎられ、一瞬ぴくん、と眉を動かす。見れば自分が折角からかおうとしたは「ちゃんのために言っているんです!」と姉に向き合ってしまっているではないか。

「ぼくはカルピスで出来ているんだよ!車で言えばガソリンもない状況!なのに働かせるなんて酷いよ!」
「それは手伝いしているんだから飲ませろっていうことですか!!?ちゃん、ぜんぜん反省してませんよね!!?」

ぎゃあぎゃあと大声ではないが、それなりに「普段らしからぬ」様子で姉妹が口論をしている。それは珍しく見ていて面白い、というものでもあるが、松永はこの自分が目の前にいるというのにが自分に向いておらぬ、というその状況が勘に触った。

ふむ、と松永は一拍考えるように口元に手を運んでから、ぱちん、と指を鳴らす。そのまま何か爆発でもすれば気も晴れるがあいにくそういう仕込みはしていない。

「オーダーだ」
「え?あ、ハイ。松永さん、えっと、コーヒーですよね?」
「バカの一つ覚えのように毎日同じものを出せばいいというものではない。そうだな、今日は気分を変えて別のものを所望しよう」

松永が指を鳴らせばが顔を向けてくる。それで松永がいつも注文するコーヒーの豆に手を伸ばそうとするが、それをさえぎり、松永は一度ちらり、とに視線を向けた。

「ちょ、きみ、まさか」
「甘ったるい飲み物なんぞ私は好まないのだがね、それほど人を惹きつけてやまぬ魅力があるというのなら一度は試してみるのも悪くない。客の注文だ、、カルピスを一つ持ってきなさい」

ゆったりとした口調で言えば、が一瞬を気にするそぶりを見せた。

は現在カルピス禁止中。そういう会話をした後にこの松永の注文。これまで散々松永にいびられてきた(松永当人は「これは愛情表現だ」と言って憚らないが説得力はない)にはわかる。明らかな嫌がらせだ!しかし、これまで松永はに何ぞ非道な行いはしてもにはしなかった。当人同士どういう程度の知り合いなのか、それはにはわからないが、松永とはどことなく共通することがあるらしくて「お互いの利益にも不利にもならない状況なら干渉しない」という暗黙のルールのようなものがあって、それで、これまで個性のドきついわがまま二人がぶつかり合うことなどなかった、はずである。

それなのに、この松永の、明らかな嫌がらせ。

がひくり、と顔を引きつらせた。しかし、ぐっと耐えるようにして、引きつったままではあるが笑顔を浮かべる。

「生憎この店でカルピスは出していないんだよ。飲みたかったら他の店に行きなよ」
「客のニーズに答えるのが店主だろう。原液があるのは割れているんだ。いくらふっかけられても私は構わんからさっさと出したまえ。客を待たせるものではない」

はちらりとと松永の顔を窺いどうするべきか迷っているようだ。松永の注文を引き受けるとなればの目の前でカルピスを出すことになる。なんだかんだといいつつがきちんと我慢している中そんな酷いことをしてもいいのか。そんな葛藤をしていると、悟ったらしい松永がそれはさわやかな笑顔を浮かべた。

「魔女に用を言いつけてこの場から離れさせようなんてつまらないマネをするんじゃないよ。飲めない人間の目の前で飲む、これほど良い飲み方があるかね?」
「こ、この・・・!!!何を堂々と言い切っているんだい・・・!!!!」
ちゃん!!怒ったら負けです・・・!!なんだかわかりませんが怒ったら松永さんの思う壺な気がします・・・!!」

松永のあんまりにも堂々とした台詞にの額に青筋が浮かんだ。それでぐっと前に飛び出し松永の胸倉を掴もうとするのを必死にが押さえ込んで止めた。

なんだか知らないが、今日は松永がに対して妙に攻撃的である。

このままでは喫茶店が戦場と化すのではないか、とそんな「大げさな」と思われそうで実際かなり現実味のある危機感がの脳裏をちらついた。カウンターの下にはの愛用のちょっと法的にまずすぎる品々が常備され、対する松永もたとえ丸腰だろうがは武装したと対等に渡り合えるんじゃなかろうかと、そういう妙な確信もあった。それで、本格的に二人が低い声で含み笑いを始めるまでには何か行動を取ろうとした。

しかし何をしようと戸惑う。下手なことでは状況を悪化させるだけだろう。それで眉を寄せ、何かいい案はないかと考えていると、カランカラン、と入り口で軽い音がした。



+++




昼前の商店街を歩きながらは只管緊張していた。

「なんじゃァ、おどれ、さっきから黙っちょるけぇ」

隣を歩くのは全体的にいろいろ「すいません、一般人?」と突っ込みを入れたくなるような、偉丈夫。高すぎる背にいかめしい顔。はんなりと露出された胸元からは、明らかにかたぎの人間は一生縁のないたいそうな刺青だ。とぼとぼとこれから売られに行く子牛のような心境のに気付いたか(子供と大人ほどの背の違い、さらには尼僧服を纏ったこちらに対しヤクザにしか見えぬ様子では、もう、これ何のコスプレだと周囲が疑問に思ったって仕方ない)気遣うというよりは、このおれと歩いているのに何が不満だというような態度で声をかけられた。

返事をせねば無礼になると、それはもわかっている。この男は何を間違えたか日本警察の上から数えた方がいい位置におり、これまでが馴染んだ世界とは180度違う場所にいて、そしてそのまっすぐさが当然という人物だ。馴染んだ妹や松永のような外道相手はともかくとして、は素の己を出すことの危険性をわかっていた。それであるから、出来る限り礼儀正しくあろうと頭の中では思っているのに、社交用の顔をこの男に向けることはどうしても憚られ、そして、といって素の己を出せるかといえば、そうでもない。

ぐっと眉を寄せ、は掌を握り絞めながら数分前の喫茶店での会話を思い出す。

松永とこちらが険悪な雰囲気になっている、というまさにそのとき。暇なのかただ偶然寄ったのかそれはわからないけれど、やってきました警視どの。テーブル席の学生を一瞥し「朝っぱらから堂々と学業をふけるたァ、どういう了見じゃァ」などとのたまい不良二人とにらみ合い、松永を振り返れば「この店にゃ、近づくなっちゅうた筈じゃが」と、本当、一歩入ってすぐにここまで場の雰囲気を破壊できるなんてどんだけ空気読まないんだと、は顔を引きつらせた。

この男、正しい階級は警視長、別名「赤犬」と呼ばれているサカズキどのは、どうもどうやら、昨今巷を騒がす怪盗がたち三姉妹だとある程度の見当をつけているようで、それなりに探りを入れるような発言が時折ないわけではない。だが、たとえ予測が立っても、たちを捕らえることは日本警察では不可能で、たちを逮捕したいのなら現行犯逮捕、以外はけしてあってはならぬもの。それが、の正式な法衣の色が保証することであり、赤犬も承知らしかった。それであるから、意識の切り替え、とも言うのだろうか、この男、日常生活の場では、喫茶店「猫目」に、姉妹の周囲に危険人物が近づくことをよしとせぬのだ。その態度が、なんというかにはくすぐったい気がする。自分たち姉妹を案じてくれているのだ、ということがわかるからこそ、どうも、邪険にもできぬのだ。しかし、その「あの姉妹に関わるな」と正義の赤犬どのが真っ先に排除したくなるそのトップに松永どのは位置づけられているらしく、喫茶店で遭遇するたびに周囲がひやっとする会話を繰り広げてくれる。

「…その、松永どのが失礼なことを言って、ごめん」

このまま黙っている方が辛い。はあれこれと考え、結局なんのひねりもないつまらぬことを口にしてしまった。どうもこの男を前にすると、普段ウィットに富んだ会話をする、と定評をいただくこの己が頭の悪い小娘のような、本当に何の面白みもない言葉を吐いてしまうから嫌だ。

「おどれが気にするこたァねぇ」
「でも、折角来てくれたお客さまに失礼な態度を取ってしまったし」
「あれも客じゃろう」

本日の松永のステキ切り替えしは「卿に入店の許可不許可を判断されるいわれはないよ。私は卿のように戦闘の出入り禁止を食らう身分でもないからね」である。

うわ、と、店内が凍りつき、慌ててに買い物を頼み、姉一人では不安だからということで、恐縮だが、と前置きつつサカズキに同行をお願いしたのだ。そうして、現在二人は商店街を歩いている、という結果。

本日の松永どのの機嫌の悪さは特別だった、とは思い出しつつ、隣を歩く男の靴を眺めた。顔を上げることができない。それであるからに見えるのはサカズキのズボンのすそと靴。それにアスファルトだけだ。

「その、警視どの、今日はお仕事、お休み?」
「あぁ。三日だけじゃが、盆休みじゃけぇ、おどれんところがやってりゃァ朝食を食う気で寄った」
「ボンってなぁに?」

聞き慣れぬ日本語には首を傾げる。一応日常会話は困らぬし読書もできるが、それでも日本語は難しい。同じ言葉でまるで意味が違ったり、言い回しを使いこなさねばならなかったし。ある程度は把握しているはずだが、警視どのといる、というだけでは理解力が低下するような気がした。

「盆、は、おどれの国にゃァねぇか?」
「だから、ボンってなぁに?お休みになるっていうのはなんとなくわかるけど」
「尼僧のおどれにゃ、まぁ、馴染みねぇか。先祖供養の一環で、この時期になりゃァ家先に茄子やきゅうりに割り箸をぶっさして置いちょるん、見た覚えはねぇか」
「あぁ、あの野菜の無駄遣い?」
「そういう伝統じゃけぇ、無駄じゃねぇ」

ふぅん、とは相槌を打った。家に帰ったら調べてみようと思いつつ、それならオボンというのは学生ではないものにとって「夏休み」になるのかと疑問も浮かぶ。

「じゃあ、警視どのの夏休みなの?」
「まァ、そうなる」
「お使いに付き合ってもらってしまったし、あとで喫茶店で何かご馳走するよ。警視どのは、何か好きなものある?」

休みのしょっぱなから松永と嫌味合戦させてしまったのか。普段からこの男が職務熱心なことはも認めている。こう、走り続けている人の休みにきちんと休息をとらせてやれなかったことが心苦しくなり、ついそう口にすれば、頭の上で低い笑い声が聞こえた。

「…なぁに?」
「いや。なんでもねぇ」
「笑ったよね?」

自分にはわからぬことで人に笑われるのは不愉快、と本来プライドが山のように高いであれば思うのに、今感じるのは不安感だけだ。何か、くだらぬことでも言ったのか、と、なぜこの人がわらうのか理解しようと必死になっている。いや、そしてそういう反面、自分が何か言ったことで少しでも面白いと思ってくれたのなら嬉しい、と、そういう、心。

「ぼく、何か変なこと言った?」
「いや、外に出たっちゅうにおどれはわしと外食するよりおどれの店で何か出す方を選んだっちゅうんがな。おどれが作るつもりで言うたんか?」

外食の手もあったか、とは改めて気付く。だがなぜ自分が作るかどうか聞くのか、首を傾げつつ「くんはお店の仕事あるし、ぼくが作るのは当然だと思う」と答えると、男がさらに笑った。

「だ、だから、なんで笑うの?」
「外で食うよりおどれは美味いもんを出す自信があるっちゅうことじゃろ」

それは、もちろん当然ではないか。

は基本的には自堕落な生活を愛しているし、の作った料理はどれもこれも舌鼓を打つこと間違いない。だがしかし、、料理が出来ぬわけではない。その味にも自信がある。めったにやらぬだけで、出せば相手を満足させること間違いない、とそういう傲慢ともいえる自信。それをサカズキは笑っているのか。むっと眉を寄せると、ぽん、と警視殿が頭に手を乗せて来た。

「それじゃあ、期待しちょるぜ。何を食わせる気じゃァ」
「そうだねぇ。警視どのは何か和食好きっぽいし、夏だし、梅と茗荷を使ったものにしようとも思うんだけど、オクラが冷蔵庫にあったと思うから豚肉買って巻いてたまねぎとあわせようかとも思うんだよね。たれは甘めと、あとポン酢の二種類がいいかな」
「詳しいのう。普段からするんか」
「まさか。ぼくらの家の冷蔵庫と台所はくんの持ち場さ。ぼくは気に入った人にしかお茶も出さないし、」

言ってからは立ち止まった。

あれ?今、自分はとんでもないことを口走らなかったか。

しまった、と思ってからではもう遅い。今偶然警視どのの耳が遠くなっていたりしないか、とそんな淡い期待を抱きつつ顔を上げれば、目を細め妙に得意げな顔をした赤犬どのと目が合った。

「わしゃ、毎度毎度おどれに茶を出されるのう」

ぽんっ、との顔が赤くなる。

先ほどとは違う理由で言葉をなくし、ただぱくぱくと口を無意味に動かしていると、そのの反応をじっくりと堪能してから、警視どのはまた喉の置くで引っかいたような、低い笑い声を立てた。




「〜〜〜!!!!」

下手に何か言っても自分は墓穴を掘るだけと、流石のも学習している。それで、ただ顔を真っ赤にして、これ以上その顔を見られぬようにと早歩きになって前を行く。信号が点滅していたのでそのまま走ってわたってしまおうと飛び出したが、しかし白線を踏む前に、その腕がサカズキによって引っ張られた。

「走るな。危ねェ、この辺りは車の通りが多い」

ぐいっと腕を引かれ後ろに身体が戻された途端、の目の前を信号無視した車が速度をまるで落とさず通り過ぎた。

今、腕を引かれなかったら轢かれていたかもしれない。

「…っ、あ、ありがとう」

普段なら左右を確認してきっちりと手をあげ渡るだが、今はかなり同様していた。信号無視をした車も悪いが自分も悪かったと思い、サカズキに礼を言おうと振り返れば、その当人、気難しい顔をして車の去った方向を見ているではないか。

「……け、警視どの?」
「一本電話をかける。少し待て」
「…え?それはいいけど」

どうしたのか、とが首をかしげていると携帯電話を取り出した警視どの、何やら仕事先にでもかけているのか、「わしじゃァ、交通課の××を出せ」と話しているその声は聞こえた。

……ひょっとしなくとも、今の信号無視の車を追わせるのだろうか。

そしてよく聞けば、あの一瞬だったにも関わらず、サカズキ警視長どの、しっかりと「ナンバーは」と伝えているではないか。え、何、あの瞬間によく見えたな、とは突っ込みたい。それは、自分とてナンバーは覚えているが、しかしそれはが特殊な訓練を受けたからで、え、一応この人ただの警察官だよね、と、そう色々疑問がある。

「え?あ、あの、サカズキ?」
「あァ、悪かったな。休暇中じゃろうと、どうもあぁいう輩は許せん」
「…仕事熱心なんだね」
「下手すりゃ、おどれが轢かれてた」

半分あきれて言えば、やけにまじめな顔をしてサカズキが言うではないか。ははっとして顔を挙げ、困ったように眉を寄せる。

(なんで、そんな顔するの)

轢かれなかった。警視どのはちゃんと助けてくれた。それなのに、なぜこの人は、今眉間に皺を寄せているのか。

ぎゅっとは尼僧服に隠れた手を握り締め、そしてもう反対の手でサカズキの手を掴んだ。

「ぼ、ぼく、この国の道は不慣れなんだよね。いっつも部屋に閉じこもってるし、それに、暑いとふらふらするし、だから、その、警視どのの手、掴んでてもいいかな」

相手の了承を得ずに掴んでおいてなんだが、は妙にどきどきと緊張した。それで、サカズキが特に何も言わず手を握り返してくれたので、余計に顔が赤くなる。

妙にくすぐったい。それで、二人でただ無言で信号が青になるのを待った。は自分の掌が熱くなっていることを気付かれぬかとそればかりが気になる。大きな手だ。松永やドフラミンゴの手も大きいが、松永の手がの手に重なることはまず、ない。というか嫌だし、もし手をつなぐようなことがあったとしても、それは互いの利益が一致しているときだけだ。ドフラミンゴの手を取る気など、は一生ない。今は飄々と「好きだ!!好きだ!大好きだ!」と頭の沸いたことをほざいているが、しかし、それでもあの男はトカゲの娘にとっては害獣でしかない。松永は「同じ穴の狢」ドフラミンゴは「いずれ殺す男」とそう意識がどこまでもある。

警視どのも、「敵」ではある。だというのに、今はその掌の大きさを、妙にじっくりと感じていた。

信号が青になったので歩き出す、一歩の方が早かったが二歩目で揃った。

「部屋から出ねェっちゅうんは、体調が悪ぃのか」
「うぅん、だって暑いから外、出たくないんだよ」
「身体は弱くねぇのか。おどれは色が白いすぐに倒れそうなイメージがあるが」
「強くはないけどね。今は警視どのが丁度いい日陰になってくれてるし、まだそんなに日も高くないから平気。でももう当分は出たくないかな」
「引きこもりか、関心せんのぅ」

対愛のない話をしながら、はころころと喉を震わせた。

「警視どのは、夏が得意そうなかんじがする。好き?」
「嫌いじゃねぇな。わしが好いちょるんじゃァ、おどれも好きになれ」
「なぁに、その理屈、変なの」
「嫌か」
「考えてみるよ。夏のいいところってなぁに?」

好きななれ、など、ドフラミンゴが言えば即行けり倒してコンクリートに生めるだけだが、この男に言われると、顔が赤くなるだけだ。それでもはそれを暑さゆえのことだと自分に言い聞かせ、サカズキが好きだという夏の長所を問うてみる。

「改めて聞かれると答えに詰まるのう」
「花火とか、お祭りとか、海とか?」
「まぁ、夏の名物行事じゃろう。なんじゃァ、おどれそれなりに知ってはおるんかい」

が「夏といえば!」と時折聞かせてくれることだ。めったに部屋から出ぬ己を何とか出そうとあれこれ雑誌の切り抜きなど見せてくれたことで、覚えてはいる。しかし、人ごみなど好きではないし、花火は煙が出るから嫌だ。祭りは何が楽しいのかよくわからない。海は、昔溺れた嫌な記憶があって出来れば近づきたくもない。

「あ、でもアイスとかカキ氷とか、あとカルピスとか、おいしいものは多いよね、夏って」
「夏じゃのうても食えるもんじゃねぇか。それに、食い物にゃァ違ぇねェが、腹の壊れそうなもんばっかり上げちょるのう」
「この夏のぼくの主食だから」

そういえば結局は松永どのにカルピスを出したのだろうか、とは思い出す。この自分の大事なカルピスがあんな嫌味大魔王によって消費されるのは気に入らないが、出し惜しんだせいでが松永にいたぶられるのも、あまりよくない。

買出しはお米なのだが、これこっそりカルピスを買ったりしたら、だめだろうか。

「…まぁ、確実にバレちゃうよね。レシート出さないと怒るだろうし」
「うん?なんじゃァ」

考えていることが口に出たのか、警視どのが首を傾げる。

「うぅん、あのね、くんはぼくがカルピスオンリーで夏を越そうとしているのがダメだっていって昨日ちょっとした口論になってしまってねぇ」
「・・・おどれら姉妹は何をしちょるんじゃァ。しかし、おどれは妹の言葉なんぞ気にせんと思うとったが」
「自分で飲むのもいいんだけど、くんの作るカルピスはおいしいんだよねぇ。黄金比っていうの?原液と水の割合が絶妙なの。自分で作ると、どうも濃かったり薄かったりでさ」

ただ原液と水を混ぜるだけだと言うなかれ。の作るカルピスは絶品だ。の作る手料理の中でカルピスが一番好きだ、と、そう言ったらなんだかは落ち込んだが、本当のことなのだから仕方ない。

「きみのところのドレークがお歳暮に送ってくれたやつは飲みきっちゃったんだけど、昨日また別口で貰ってさ。おつかいしたんだし、帰ったら一杯くらいくれるかな?」
「そこまで気に入ったか」
「うん、おいしいんだよ」

今はカルピスと言えばいろんな味が出ているし、お歳暮でもいろんな種類の瓶が送られてきたがの気に入りは元祖のもの。ぶどうやみかんなんぞちゃらついたもの用はない!とプレーンオンリーをこよなく愛している。

そう力説すれば、サカズキは少しばかりあきれたような顔をするが、やがて目的のスーパーについたのでここで一度話題は終わり、目的の米と、それに渡されたメモの品をそろえた。

お使いなんぞ随分久しぶり、は普段使うプラチナカードではなくが「家計簿を付けやすいんです」といって渡した現金から支払い、サカズキと二人で袋に詰める。

そうして帰り道を歩いていると、ふと、サカズキが通り過ぎる公園を指差した。

「少し休んでいかねぇか」

昼前の公園はまだ利用者がいない。とサカズキは木陰になっているベンチに腰掛て、スーパーの袋を下ろした。

少し汗ばんだ額をハンカチで拭いつつ、は気遣われたのだろうかと、隣のサカズキを窺う。暑さは苦手だといったから、こうして少しの距離でも休もうと言ってくれたのか。だとすれば、少し申し訳ない。まだ朝食をとってないというサカズキは空腹を訴えたりはせぬが、しかし、は早く喫茶店に戻って何か作りたかった。

いや、しかし今すぐ戻ったら松永がいるんじゃなかろうか、と、そんなことも思わなくはない。

松永がそれとなく察して出て行ってくれればいいが、あの男が身を引くなんぞ、まずないだろう。は即座にサカズキを連れ出すことには成功したが、そのあとどうするか、ということで今頃も頭を抱えているのは間違いなかった。

それを思えば、サカズキが気を利かせた、ということか。

眉を寄せていると、ひんやり、とつめたいものが頬に当てられる。

「っ!!」
「ほうけちょるのう。暑さにやれたか」
「っ、ち、違うよ…!って、なぁに、これ」

頬に押し当てられたのは、白と青の水玉模様の袋だ。アイスの袋、ではある。スーパー内で一瞬サカズキが姿をけして何か袋を引っさげて戻ってきたのは気付いていたが、何か必要なものを買っているのか程度にしか思っていなかった。

「おどれが食え」
「うん?」

頬から手元に移されてとりあえずそれを受け取ったもののは首を傾げる。

「アイスだよね。ぼく食べていいの」
「好きじゃァ言うたじゃろ」

おや、と、パッケージをひっくり返してみては驚く。見れば、カルピスのアイスではないか。途端顔をほころばせて袋を破り、長方形のアイスを取り出す。木の棒を指で押さえ口に含もうとしたその瞬間。

「この変態がぁああっ!!!!あれか!!?そんなに白いどろっとしたもの口にさせてこぼさせてぇのか!!!!!そんな変態プレイおれだってまだしたことねぇのに!!!!」

なんだかよくわからないことを口走りながら、この猛暑というのにまるで気にせずドピンクのコートを纏ったバカ鳥が二人の間に突っ込んできた。




+++




「なんじゃァ、このド変態は」

とりあえずにドフラミンゴが激突する前に、長い足でそれを蹴り飛ばし回避させたサカズキ警視どの、ぐいっと、鳥を足蹴にしつつに顔を向けてきた。

「え、いや、なんだろうね、それ」

あまりに突然のこと、なんだか少女マンガのような展開になっていたと思ったら出てきましたよ暑さでやられればいいのに、と願いたかったドフラミンゴ。登場してがその姿をしっかりと確認する前に、サカズキが素早く蹴り飛ばし、落下したところを足で押さえつけている、という、この展開はなんだ。

戸惑い、思わず落としてしまったアイスをもったいない!と思う反面、いや、だから何なんだこの展開は、と、さすがのも状況についていけない。

とりあえずは尼僧服のすそを払い、サカズキの足元でなんだか潰れ掛けているドフラミンゴに話しかけようとしゃがみこむ。

「鳥、何しに出てきたの?」
「フッフフッフフ、店に行ったらお前が出たっつーじゃねぇか、それに、あれだろ?カルピスネタの王道はカルピスが好きだっつーお前におれのカルピス飲ませてy」
「黙れ」

言わせるか!!と、こう、ぼぎっ、と、背骨を折りかねん勢いでサカズキがドフラミンゴの背をつぶしにかかった。というか、内臓はいっちまったんじゃなかろうかと、は顔を引きつらせる。

なんだこの状況、とわからぬことは多くあるのだが、しかし、今確実に自分がすべきことは心得ていた。

「……この……鳥ッ…!!!!!」

ぐいっと、はサカズキを押しのけて自分の足でドフラミンゴを踏みつける。

折角なんだかいい雰囲気だったのに、このあとお店であれこれ作りながら、また話が出来ると思っていたのに…。それを、それをこの、この鳥は……!!!!!!!

「いい機会だから、どちらが上かこのぼくが直々に調教してあげるよ…!!!!覚悟おしよね!このバカ鳥がッ!!!!!!」

過去ないほど渾身の力と憎悪を込めて、はどドフラミンゴの頭を蹴り飛ばした。

その決まりすぎる動きを眺めながら、とりあえずサカズキは、を軽井沢の避暑地に誘おうとした、そのタイミングを完全に失ったことに気付きあとで自分もあの男を蹴り飛ばそうと、そう心に決めるのだった。








Fin





(2010/08/14)