人生とは、時に何が起きるか誰にも予測できないものである。
時に人は苦境に立たされ、希望を奪われる。けれども、さまざまな苦難を乗り越えてこそ真に人は幸福とは何かを見出せるものである。
とか、なんとか、そんなもっともらしい言葉を頭の中で流しながらも、心では「ふざけんな神てめェこの野郎!!」とか叫び、カウンターの隅にうずくまる、店主(年齢不詳)その小さな体はガクガクと震えていた。普段勝ち気過ぎて、溺愛する妹二人以外の人間なんぞ自分の下僕、くらいにしか思っていない彼女。それが現在恐怖に顔を引きつらせている。
「なんで!!どうして!!ぼくが何したっていうのさ!?神さまのサディストォオオ!!!!!」
「いい加減諦めの悪い女子じゃのう、おどれ、さっさと来んかい」
喫茶店営業中は和装のだったが、今日は久しぶりに尼僧服。その白い聖なる衣装、首根っこをがっと容赦なく掴んでずるずるとカウンターから引きずりだすのは、体格の良すぎる男。
はっきりいってヤのつく自由業の代表取締役にしか見えないが、恐ろしいことに国家公務員。濃い赤のスーツに開襟された柄シャツ。逞しい胸板が覗き、どことなく大人の色気のような妙なものが感じられないわけでもないのだが、つかまれたの顔は、ただひたすら、嫌そうである。
「いや!!絶対に嫌だって言ってるだろうこの変態!!!ロリコン!!鬼畜!!」
「幼女趣味とは失礼な。貴様、とうに三十路を過ぎちょるじゃろう」
警視庁の警視長どの。音で読むと解かりづらいが、警察の上から三番目に偉い立場の男である。
警視庁の組織犯罪対策、某所の部長であるこの男、初対面での実際年齢をきっちり言い当てた伝説ホルダー。警視庁の警視長、というのがなんだか長ったらしいので、この喫茶店では「警視どの」「警視さん」で通っている。階級下がっているんだが!!?とディエス・ドレークは只管慌てているのだが、とうのサカズキがあまり気にしていないもので、そのままになっている。
怪盗キャッツアイの事件を担当するディエスの上司、そうなれば情報を聞き出せるだろう。ということでこの喫茶店には出入りしているのだが、はっきり言ってはこの男が嫌いだった。
「ロリコン疑惑にだけ反論!!?あと二つは否定しないの!!?」
「さっさと行くぞ。わしは午後から仕事じゃけェ」
ぐいっと、サカズキが乱暴にを抱き上げる。お姫さまだっこ☆などという寒いものではなくて荷物でも担ぐように、である。その扱いにひくっと、は顔を引きつらせ、力の限りサカズキの背中を叩いた。
「なんで…!!!どうして二泊三日も君のところにお泊まりしなきゃならないのさ!!!!」
その余裕ぶった態度が嫌だ!!!!
ことのきっかけは、三女の臨海学校のお知らせだった。
ボガード曰く、三姉妹が揃って日本で暮らすようになってからというもの、は友人たちと遊ぶよりも姉妹で過ごす時間を優先させ過ぎていて、六月になった今でもまだ、高校生らしく、クラスメイトの女子グループに属せずにいるという。
なんでそんなことお前が知ってるんだ、とのもっともな突っ込みはも同感だったが、ボガードの「後見人ですから」という、魔法の言葉でそれ以上の追求はできなかった。
「臨海学校は、当然自主参加です。お嬢さんは学校が休みになる間、この店を手伝う気でいるようですが…この機会にお嬢さんがきちんとご友人を作れたらいいと思いませんか」
なぜかの高校の臨海学校のお知らせのプリントを持っているボガードは、が買い物に行っている間、集めた、にそう提案してきた。は少女漫画からしか女子高生の生活というものを知らないので、妙な偏見もある。
「女の子のグループには入れない……!!それは教室内での孤立化!!体育の授業…ペアを組んでくれる相手がいないのに先生はシカト…!!!!それはいじめかい!?」
「違います。落着いてください」
暴走するに冷静な突っ込みを入れて、ボガードはにプリントを渡した。
「お嬢さんは愛くるしい方ですから、クラスメイトにはよく好かれていらっしゃいますよ。ただ、特定の誰かと親しくしている、ということがないのです」
「それは別に、ちゃんが考えてやっていることなんだから、いいんじゃないですか?」
ひょいっと、もの手元のプリントを覗きこみながらもっともな意見を出す。ハイスクールでの女子グループに所属するうんぬんの大切さはも経験から知っているものの、はそういった友人関係に重点を置くより、今は姉妹といたい、ということだろう。これまで離れ離れになっていた分、はやとの時間をとても大切にしている。営業時間二時間の猫目喫茶、が開店している14時から16時の2時間。その少ない時間をちゃんと手伝えるようにとが学校から真っ直ぐ帰ってきているのも、の役に立ちたいと言う気持ち以上に、一緒にいたいから、というのがあるに違いない。
何しろ、店に出ている時間以外は殆ど自室にこもるという協調性のなさを発揮しているため、そうでもしなければ一緒にいる時間を確保できない。
「学生時代の思い出は、その時でなければ作れません。さん、姐さん、お嬢さんが学生らしい思い出を作れなくてもよろしいのですか」
ちなみにボガードは時々のことを、皮肉をこめて「姐さん」と呼ぶ。被後見人であるのことは「お嬢さん」その姉であるのことは敬意をこめて「さん」であるのだけれど、のことは、妹たちがいないときは「魔女」とはっきり言い、妹がいるときは「姐さん」と呼ぶ。一々それに目くじらを立てることでもないのでは放置していた。
「で、きみは?」
「もちろん俺も付いていきますので旅行先でもしっかりお嬢さんの身は守りますよ」
きっぱりと言い切ったボガードに、は問答無用でスリッパを投げつける。
「ふ、ふふふ、ふふ、要するにアレかい?君…旅先で不安になってるの目の前に『俺がいるじゃないですか』とか颯爽と現れて、クラスの女子生徒に『誰あの人!!の彼氏!?』とか騒がれたり…ホテルを抜け出したと二人っきりで夜の海……とかそういう展開に運ぼうとしているんだね…!!!?」
「ちゃん…それはちょっとボガードさんを疑いすぎですよ。ボガードさんはちゃんのことを思って」
カウンターからマシンガンを取り出してボガードに突き付けるをが慌てて止める。銃刀法違反だ、とかそういう突っ込みはない。喫茶店猫目、防音設備完備、などという生ぬるいものではない。防弾ガラス、さらには核シェルターまである軽い要塞。ドイツで「ホルンベルクの魔女」の異名を取ったが店主をしているのだから…まぁ、仕方ない。
それはさておき、にぎゅっと手を握られて、は心底気の毒そうな目を妹に向ける。
「ぼくの分の優しさまで持っている君だから、このエセ紳士を信じたい気持もわかるよ…でもね、くん、この男が考えてるのはくんの水着の色とかそういうことだよ…!!」
「察しが良くて助かります。あぁ、お嬢さんの担任は俺の大学時代の舎弟…いえ、先輩ですからリクリエーションへの参加も可能かと」
「先輩が舎弟って何…!!?っていうか、少しは本心隠しなよ!!!!!何堂々と言い切ってるのさ!!!!」
べしん、と再びはスリッパを投げつけた。一応ボガードもよけよう、とは試みているのだが、訓練を積んでいるボガードでも回避不可なの突っ込み。顔面にくらってずるり、とスリッパが落下するのを待ってから、ボガードはゆっくりと口を開く。
「俺の下心はさておいて、姐さん、まさかお嬢さんが楽しい思い出を作るのを邪魔したりしませんよね?ご自分がしてさしあげることもできないのに」
「ボガードさん、それは言いすぎです」
「事実じゃありませんか。お嬢さんを愛していらっしゃるという顔で、平然と放っておかれる。それなのに、お嬢さんが外で楽しめるチャンスを奪うんですか」
思わずが眉を寄せても、ボガードは容赦なかった。これは、彼なりの反抗であろう。がを慕っているのは誰の目にも明らかだ。しかし、はあまりを顧みていない。につれなくされる度に落ち込むを見て、ボガードがささやかな嫌がらせをしたい、と思っても、それは責められるべきではないのかもしれない。
は軽く眉を跳ねさせ、ボガードを睨む。
「誰が反対したって?ぼくはくんが子供らしく楽しめるならそれは賛成さ。ただ君みたいなハエが集ると鬱陶しいなァと思っているだけだよ」
「お嬢さんが成人になるまで手は出しません」
「成人したら出すってことかい!!?」
「合意の上なら問題ないでしょう」
もうあれだ。は突っ込みに疲れた。というよりも、この自分に突っ込みをさせるってどういうことだ、と額を抑え、ずるずる、と座り込む。
しかしまぁ、口では不埒なことを言いながらボガードがに何かする、と本気で思っているわけでもない。仮にもこの自分がの後見人であることを認めた男である。が嫌がることは絶対にしないだろう。そういう信頼もあるわけで、結局はボガードの思い通りにさせよう、とも思うのだった。
いくら事情があるからとはいえ、とあまり過ごせないことを、それなりには気にしている。に事情を話すのが一番なのだろうが、言えばあの子が心配するとわかっているので言う気はない。
臨海学校のお知らせを、は何も言ってこなかった。恐らくは自分で出席しないと判断して処理しようとしていたのだろう。それだからボガードが手を打ってきた。
「わかったよ。くんにはぼくから行くように言っておく。くんも手伝ってくれるだろう?」
「そうですね。私も、ちゃんはちゃんと学生生活を楽しんで欲しいですし」
ぼくは君にもキャンパスライフを楽しんで欲しいんだけどね、と、は心の中でつけたした。
「でもぼく、命令は慣れてるんだけど説得は苦手でねェ」
「でしょうね。魔女が説得、だなんて地獄への契約書を書かせるくらいしか想像できませんよ、俺」
「そ、そういえば、臨海学校ってどこ行くんですか?」
とボガードが無言で獲物を手に持ち始めたので、が慌てて問いかける。臨海学校といえば海か山である。プリントを見れば「千葉、岩井海岸」と書いてあり、は「近場ですね」と思わず突っ込みを入れた。
「ちゃんがお土産を頼んだらちゃんも行くんじゃないですか?」
あ、なるほど、と、とボガードが頷いた。を敬愛するのこと、が「千葉の落花生を一度食べてみたいねェ」とでもぽつりと言えば問題解決である。それでいいのか、とかそういう突っ込みはしないであげてほしい。とてに「ボルドーのワインが飲みたい」と言われたら出荷前のワインだろうが何とか手に入れて姉に贈るだろう。
ちなみに、そうやって妹二人が甘やかすからのわまままっぷりに磨きがかかるのだが、今のところ二人が負担と思っていないので問題にはなっていなかった。
これでも学生らしい思い出が作れる、ととが喜んでいたところ、の携帯に一通のメールが入った。
「うん?おや、どうしたんだい、くん」
メールを開くなり顔を強張らせたに、が不思議そうに首を傾げる。携帯電話を使えないだったが、との涙ぐましい説明により、携帯電話がどういうものか、くらいの知識はある。メールとやらを「お手紙」と思っているところはあるものの、それを読んでの表情が変わったことにただならぬものを感じた。
「いえ…別に、何でもないんです」
「おや、きみはこのぼくに隠しごとをするように……天国のお母さん…これが反抗期かい…?」
「ちょ、え!!?ちゃんなんでお母さんの遺影に話かけるんですか…!!」
は懐からトカゲの若かりし頃の写真を取り出して「よよっ」と嘘泣きをしだした。嘘とわかっていても母を出されては慌てる。近づいたの手から、ひょいっと、は携帯電話を奪い取った。
「あ!!」
「おや、なんだい。バイト先からだね?おや、まぁ」
普段人の携帯メールを読むようなではないのだが、姉のカンというか、の妙な態度が気になったのだろう。礼儀を無視して人のメールを勝手に読む。そして下に進んでいくにつれて、の青い目が、面白そうに細められた。
そのメールは、がアルバイトをしている画廊のオーナーからである。北海道に二泊三日出張に出るので、ついてこい、という旨のもの。アルバイトのをオーナーが態々誘うのは当然裏がある。というより、そのオーナーの名はクロコダイルという。
母を追い詰めた組織を潰すために、三姉妹は怪盗キャッツアイとして各地の美術品を回収してまわっている。クロコダイルのところへがアルバイトをすることになったのはちょっとした偶然だったのだが、クロコダイル、の正体を知っていて、あちこちに連れましてはトカゲの手掛けた作品の所在の情報を教えてくる。
何か企んでいる、とはわかるのだが、今のところはそれが何なのかわからない。などはクロコダイルはドフラミンゴよりはマシだと言ってそれほど警戒していないのだが、には無口なクロコダイルの方が得体が知れず恐ろしかった。
「行っておいでよ。殿方と旅行、なんてぼくは認めたくないけどね、あの男が紳士的な人物であると信じよう」
「そんなことには絶対にならないと思いますけど…でも、いいんですか?」
「行きたくないわけじゃないだろ?」
こちらを窺うの目には首を傾げる。の目には、クロコダイルとが敵やら仇やら、というだけではないように思えていた。いずれは戦う相手だが、だからこそ、よく知っておかねばならないし、何よりも、そういう葛藤を経験しなければはいつまでも「あまちゃん」のままである。そういうのドS心、というより姉心。
「行っておいで。北海道銘菓、食べてみたいしねぇ」
あっさりと言えば、は少しだけ困ったような顔をする。
「でも、日にちが…」
「一週間後か。でも国内なのだし準備はそういらないだろう?」
「ちゃんの臨海学校と同じ日になるんですよ?」
それが何か問題なのだろうか。妹が二人も留守になるということは、は一人で店を開かねばならなくなるが、面倒くさかったら閉店し続ければいいわけで、何も問題はない。日本で暮らすまでは何もかも自分一人でやっていた、そう不安もない。
しかしは、やけに心配そうな顔をしている。
「ちゃんを一人になんてできません」
「さん…この方は戦争が来ても死にませんよ」
むしろ無人島に一人取り残されても絶対帰還する、とボガードは自信を持って言い切った。が顔を引きつらせたが、自覚があるのか何も言わない。けれどもは首を振る。
とて姉が自分の身の回りのことくらいできることは分かっている。しかし、極度の文明オンチ、尚且つ危機感というものがまるでない。
「先日みたいに…泥棒が入ったらどうするんです…!運よくまた警視さんが助けてくれるとは限らないんですよ!!」
「ふん、なんでこのぼくが人に助けられなきゃならないのさ?」
つい三日ほどまえのことである。やる気がないことでご近所でも有名なこの喫茶店。日中は少女にしか見えないが一人で店にいることがバレているため、刃物を持った男が「金を出せ!」と飛び込んできた。
その時は、開店前だろうがまるで気にせず「口説きに来た」とのたまったサカズキが相手の刃物をあっさり奪い、過剰防衛と言えるほどフルボッコにしたためには何の被害もなかったのだけれど、としては、もしサカズキさんが来なければ、姉は泥棒を蜂の巣にしただろうという確信もある。
の不安は、姉の安否ではない。侵入者を容赦なく殺してしまうだろう姉の犯罪への意識の低さである。
もしこの店で人が死にでもしたら、姉は大変なことになる。それがわかっていて、は平然とドイツ寺院から武器を密入するのである。
ホルンベルクの魔女の育った田舎寺院。ごく普通の質素な生活だとは話しているけれど、時折聞くエピソードからは「…それは、どこの傭兵集団の話ですか?」と突っ込まずにはいられない。
「ちゃん一人でスーパーにお買いものとか…!!お客さんの対応とか…!!そんなの殆ど無理じゃないですか!!」
「くんはぼくをなんだと思っているんだろうね」
ダンッ、とカウンターテーブルを叩くには顔を引きつらせた。これ言ったのがじゃなかったら張り倒している。
しかし自分などを気遣ってくれるの気持ちが嬉しくないわけではない。はにこり、と、外道の魔女にしては珍しく邪気もなにもない笑顔を浮かべて、妹の頭を撫でた。
「いざとなったらディエスをパシるから大丈夫だよ」
の中でディエス・ドレークへの人権はない。容赦ない言い方だが、はそれに少し突っ込みたそうな顔をしただけだった。確かに、自分たちがいなくともあの刑事さんがそれとなく様子を見に来てくれるだろうし、と自分を納得させた。
心配がない、と言えばうそになるのだけれど、姉は一度こう、と決めたら頑固である。自分とが旅行に行くことが今の望みであるとわかっているので、もにこり、とに笑い返した。
「なんじゃい、珍しい、もう開いちょるんか」
と、そこへカラン、と出入口の鈴が軽く鳴り、低い声がかかる。が「う」と、あからさまに嫌そうな声を上げた瞬間、は一つの考えが閃いた。
「サカズキ警視さん!!お姉ちゃんを預かってください!」
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と、いうわけで、とが旅行に出る三日間、はサカズキ警視(長)どののおうちに預けられることとなったわけである。
「預かるってなに!!?これでもぼく家長なのに…!!ももぼくを何だと思ってるのさー!!」
乱暴に助手席に押し込まれ、しっかりシートベルトを着用させられながらは今はもう出かけてしまっている妹二人に向かって叫ぶ。ちなみにが出発してすぐボガードも車で出かけた。今頃パーキングエリア辺りで堂々と偶然の再会を装っているのだろう。
は朝7時20分発の札幌行きの飛行機に乗るためタクシーで羽田へ向かっていて、はベッドの中で出て行く音を聞いただけだ。
「ぎゃあぎゃあ騒ぐな。わしが誘拐でもしちょるよに見えるじゃろうがい」
「誘拐だよ!!どう考えたって無理強いした誘拐だよね!!」
「失礼な女子じゃのう」
きっちりと自分もシートベルトを絞めてからサカズキはアクセルを踏んだ。仕事柄、普段あまり自分で運転することはないサカズキだったが、今日は私用のため自分で車を回してきた。赤いメルセデスベンツはどう見ても国家公務員が乗るというよりヤの付く自由業かあるいは企業社長だろうが、突っ込みは不可。
「べ、べつに…ぼく一人でだって平気だったんだからね…!」
「そうか。じゃが一人でメシを食うことになるじゃろう」
「さ、寂しくないよ…!そんなの…!!なれてるし……!!」
普段強気で傲慢、尊大オレ様っぷりを発揮するだったが、サカズキ相手にはどうも調子が出ぬらしい。ツンデレか、としか聞こえないような発言を繰り返し、自分でも次第に気付いてきたのか、勢いを失って、ぶつぶつと押し黙ってしまった。
「わしは、迷惑とは思うちょらんが」
信号が赤に変わったので白線の前で停止し、サカズキはちらり、とを見る。日本では違和感しかない尼僧服であるが、普段の着物よりも実際のところには似合っていると思う。普段より若干赤みの増した顔を眺め目を細めていると、がぐいっと、小さな手でサカズキの顔を押す。信号はまだ赤のままだが、無理やり前を向かされた。
「き、きみに迷惑かけるのがイヤとかそういうんじゃないし…!!」
「そうか。わしは、貴様があの家で一人きりで食事をしちょるっちゅうんが、嫌じゃけ。連れてきた。それだけじゃァ」
「っ〜〜〜〜!!!」
信号が青になったので、サカズキはアクセルを踏んだ。隣のが言葉をなくしたように口をパクパクとさせているのがわかったが、運転中に余所見をするのは悪である、と心底信じている男。顔は動かさず口だけを動かす。
「不服か」
「っ!!!いっつもそういうことサラっという君が嫌い!!!!!!地獄の業火に焼かれて死んで!!!」
ぐいっと、は胸に下げた十字架を握りしめながら心の底からの願いを口にする。それを聞きながら、サカズキは夕食はに作らせるか、あるいは自分が作って食べさせるか、とそういうことを考え、家までの道を走行するのであった。
(ちょっとまって!!!この家ベッド一つしかないじゃん!!!!)
(一人身じゃけ、当然じゃろうが)
Fin
・本編で組長が出てこなさすぎるので…。
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