conte d'autre fois
これはきっと昔のお話。 昔と言ってもちょっとだけ。
少しだけ勉強した。 少しだけ毒にも傷みにも慣れてきた。 少しだけ能力を旨く操れるようになって それで綺麗な花を拵えられるようになったから。 だから私は、それを”友達”に渡そうと、そう思ったんだ・・・。
_____偉大なる航路 海軍本部。
広い広い海軍本部の廊下に、軍の施設にはそぐわない、小さな足音がパタパタパ タ・・・、と響いていた。 忙しく仕事をしたり、訓練に励んだりしていた海兵たちはその”足音”には気が 付くが、どこからその音が来るのか出所が分からず、キョロキョロと不思議そう に辺りを見回していた。
(うん、私ちょっと上手いかも。)
そう思ったのは足音を立てていた本人。 そっと影から、自分が通り過ぎた後の廊下を覗き込んでいた。 そして、ニコーッと眩しいくらいに笑う。
まるで子供の様に笑ったのは、正真正銘のまだまだちっちゃい子供だった。 それが海軍本部にこっそりと忍び込んでいる。 何故にこんな所に子供が忍び込んで遊んでいるかと言えば、石の人の所為だ。 「石の人」・・・平たく言えば、と言うより普通に言えばそのチビ助の父親。 あんまり何事にも厳しくて一寸のミスも許さぬ父親ゆえ、そのチビ助は「石の人 」と密かにあだ名をつけていた。 その、「石の人」に昨日だか一昨日だったか、偉大なる航路のど真ん中に「取敢 えず1週間生き延びろ」と言う言葉と共にボチャン!と放り投げられて・・・、今 に至る、と言うわけだ。 でも、このチビ助はこの方が楽でいいや、とここ数日暢気にフラフラと過ごして いた。 家にいれば寝ても覚めても訓練にお勉強、何時拳を叩き込まれるか、刃物が投げ つけられるか、それは四六時中気の抜ける時はない。 チビ助の家はそういう家だった。 別に今の今まで対してそんな家のことについて疑問に思ったことはなかったが、 こうして放り出されてみると意外と暢気に過ごせて、ちょっとばかりの自由のよ うなものを感じていた。 毎日毎日休むまもなくあれやこれやと叩き込まれていたものだから一人とて特に 困ることも無い。 たどり着く先の島の本屋やら武器屋やらを梯子して、もう何だか楽しいくらいだ 。 このままダラダラして家に帰ればいいだけ。
まぁ、多少困ることもある。 チビ助は泳ぐのが得意でないので、海のど真ん中に、しかも海の中に叩き込まれ たのは非常に困った。 さらに偉大なる航路からちょっとだけ離れた凪の帯の中だったので、まず船に会 うことも無い。 海王類が丁度真下から襲ってきてくれたのは幸運だった。 海から上がれば、後は何とかなる。
そんなこんなで無事、目的地「海軍本部」に辿りついたのだった。
何度か「石の人」から聞かされた、”魔女”のお話。 ずーっと生きているらしい女の子。 「石の人」が話をする度にチビ助は目を輝かせていた。 チビ助はどうやら「石の人」がその話をする理由とは全くかけ離れた解釈をして いた。
______きっと私の”お友達”なんだ!
と。 だからそのチビ助は会いに来た。 綺麗な花を作れるようにもなったから。 チビ助を非常に可愛がっている兄が、チビ助が作った花を見て、「綺麗だから、 誰かが欲しがるかもしれねェよ。」と言っていた。 きっと”魔女”も貰ってくれるかもしれない。
チビ助はこれ以上ないほどウキウキしていたので、相当気持ちが逸っていた。 ”冒険”と称して”魔女”を探すために本部内をパタパタと走り回った。 誰にも見つからない。 そんなちょっとした油断。 チビ助が海軍でも将官クラスの海兵の部屋がある建物の中を、またパタパタと走 り回っていたときだった。 調子よく走っていた、と思っていた体が突然フワッと宙に浮いた。 案の定、首根っこを掴まれて持ち上げられ、その持ち上げた人物と対面すること になってしまった。
「・・・・どこから迷い込んできた。」
(あらまー。この人大将だ・・・。) そう思ったチビ助の前には、背中に「正義」目深に被ったキャップにフード、海 軍大将の肩書きを背負う男の顔があった。 チビ助はポカーンとその男の顔を眺める。 目の前にいるのは噂どおり、話どおり、情報どおり、「石の人」よりも厳しい顔 をしている大将赤イヌ。 そしてもう一つ困ったことがあった。 チビ助はまだ余り話ができなかった。 チビ助の家は、まず、家の人にしか通じない言葉を先に習う。 書物は大分読めるようになったが、まだそうサクサクと話せる程、人と話したこ とが無かった。
「おい、子供。聞いているか?」
チビ助はやはり黙り込んだまま。 頭の中ではウンウン唸って、はてどうしたものか・・・、と考えてはいた。 この男の手から抜け出すのは簡単ではあるが、ちょっとばかり状況が悪い。 相手は海軍大将だ。 本当にどうしたものか・・・。 しかし、どうしたものか、と考えていたのはチビ助だけではない。 捕まえた本人もチビ助をジッと見たまま、何か考えを巡らせている様だった。
「何も言わないのではどうしようもないな。まぁ、丁度いい。」
赤イヌは、まるで猫の子を持つが如くチビ助の首根っこを掴んだままカツカツと テンポのいい音を立てながら歩き出した。 (何!?どこいくの!!?丁度いいってなんですか!!?そこ教えてください! ) そんなチビ助の焦り等、赤イヌは気付く事も無く、颯爽と歩いていった。 そして、終着地点。 赤イヌは一つのドアの前まで辿りつくと、ふむ、まあいいだろう、と聞こえるか 聞こえないか位の声で呟いた。 ガチャリとドアが開けられ、チビ助は勿論首根っこをつかまれたまましっかりき っちり綺麗に整頓されている部屋の中に入ることになる。 そして赤イヌはポイッとチビ助をソファに放り投げた。 そして一言。
「土産だ。」 「何か企んでるの?」 「どういう意味だ?土産は土産だ。そのまま素直に受け取ればいい。」 「・・・土産って、コレ?」
チビ助はソファ頭から放り投げられて埋まっていたので、誰と話しているか分か らなかったが、ソファにもう一人座っているようなので確かに人は二人いるらし い。 でも、何かちょっと違う、と思う。 (んー、本当に二人?) どこと無くちょっと雰囲気の違う”もう一人”の気配を埋まったまま探ってみた 。
「そう、ソレだ。好きにするがいい。」 「でも、コレ、ぼくには人間に見えるけど。」 「そうだな。」 「しかも、ぼくよりちっちゃいよ?好きにしろっていっても・・・。」 「そろそろ黙れリノハ。土産は土産と言っただろう。」
赤イヌのその言葉にチビ助はガバッと埋まっていたソファから顔を上げた。 そして”リノハ”と呼ばれた少女をまじまじと見つめる。
(リノハ・・・!!?やっぱりパンドラ・リシュファだ!!)
チビ助は狂喜乱舞して飛んで跳ねて喜びたいくらいにテンションが急上昇した。 リノハの方は突然のチビ助の行動に驚いて少々身を引いている。 それでもチビ助は目をキラキラとさせて視線を外さない。
「キミ、誰?どこから来たの?」
チビ助はリノハに話しかけられたので嬉々として、大体の家の方角を見当をつけ て指をさした。
「それじゃわかんないよ。じゃー名前は?」
今度の質問にはチビ助も今日一番困った。 自分を表す記号みたいなものならば沢山ある。 でも、それは仕事で人と関わる前に決めるもので、今回は「石の人」にただ単に 放り投げられただけだったゆえに何も考えていなかった。
「名前、ないの?」
余りチビ助が困ってずっと難しい顔をして考えていたのでリノハは更に質問を投 げた。 無い、と言えばさっぱりない名前。 チビ助はコクコクと首を縦に振る。
「変な子だなー。しゃべらないし。どっからきたんだろうね。」
と、リノハは赤イヌに向って言うが、赤イヌはそれは物凄い真剣さで書類に向っ ていて、なのかなんなのか、そのままリノハには応えなかった。 チビ助はきっと赤イヌは「鉄の人」だ・・・、きっと「鉄の人」に違いない、と 思いつつ赤イヌをリノハ越しに覗き込む。 (しかし強そうだな。流石は政府の最高戦力。物凄く遊んで欲しい・・・。ちょ っと威嚇してみようかな。) 何て、それまでの表情とは一変、少し真剣な顔をして赤イヌの力量を測っている と、リノハがチビ助の視線にひょいと入ってきた。
「もうね、待ってても無駄だよ。聞いてないもん。」 「そうでもないぞ。凄い目で人の事を見るもんだな、ガキのくせに。」
それまで見向きもせずに執務に没頭していた赤イヌが片付いた分の書類をトント ンと音を立てそろえながらチビ助を睨んだ。 チビ助は心の中で「鉄の人」なんていってごめんなさい!!と叫びつつリノハの 後ろに引っ付いて隠れる。
「ガキ相手に真面目に聞くのも何だが、一体お前は何もんだ・・・・?」
チビ助にしてはそれはそれは赤イヌはデカくて、しかも子供だからと言って自分 の視線を下げようとは思わない赤イヌがリノハの目の前まで来て、その後ろに未 だごめんなさいごめんなさい、と唱えているチビ助を厳しい目で見下ろした。 そしてゆっくりとリノハの後ろに手を伸ばして細い首を大きな手で掴み、首を締 め上げながらチビ助の体をまた宙に浮き上がらせる。 チビ助の心中は大変なことになっていた。 (もう「鉄の人」って言いません!ごめんなさい!許して「鉄の人」!!・・・ あ!また言っちゃった!!) 考えがアサッテの方にしか向かっていないのはこの際置いておこう。 そんな事より赤イヌにガッシリと首を絞められている。 細い首には強すぎる赤イヌの手。 別に何時呼吸が止まり思考が止まって体が腐っても厭わない、大したことではな い、と気にも留めないチビ助だが、今は大きな未練があった。 まだ、渡していない”贈り物”が小さなヒップバックに入ったままだ。
(一瞬でいいから待ってください、鉄の人!!それさえなければもう何も言いま せん・・・。
パンちゃん・・・!!パンちゃんにちょっと会いたかっただけだから!! ちょっとだけでいいのでお願いします!!!
鉄の人っていわないから!!!)
チビ助が心の中で絶叫すると、チラリとチビ助の手元が光る。 ほんのちょっとだけの光。 視線が近かったリノハの目にその光が辛うじて入った。 その光にはチビ助の心の叫びが乗っかって、それもリノハにお届けすることが出 来たようだった。
すると、フッとリノハのサカズキを見上げる表情が変わる。 (会いたい・・・?ぼくに?) リノハはチビ助がそう言った気がしてサカズキに首を色が変わるほど締め上げら れているチビ助に視線を移した。
そんなリノハの動揺にサカズキはチビ助を掴む力を緩めた。 元よりチビ助を持ってきたのはリノハの為。 いい遊び相手になってくれればリノハが本部以外のところに行きたいと思うこと も少なくなるだろうし、自分も何かと画策する煩わしさから多少は開放されるの ではないか、と思ったからだ。 何より、リノハが喜べばそれでいい。 そのリノハにそんな顔をさせる為じゃない。 だが、リノハのそんな反応を見て最初の自分の思惑は達成できそうだ、と力を緩 めたのだった。 しかし、気になってはいた。 こんな小さな子供相手に少々真面目に対面したのは、先程のあの視線・・・。 探るように、まるで試されているかのように感じた鋭いガキにはありえない視線 。 こんな世の中だ、どんな奴がいるか分からない。 そう思った上に、さっきから締め上げているはずのガキの表情が一向に変わらな いのも気になっていた。 何かに相当焦っているのは手に取るようにわかる。 しかしそれはリノハの後ろに隠れだした時からの事で、首を締め上げてからも” そのまま”だった。 一向に”苦しい”という表情が見えることが無い。 赤イヌにはこんなガキがどんなものだろうとどうでもいいことだったが、リノハ に危害を加えられたら元も子もない。 まぁ、ただのガキだ。 いつでもどうとでも出来るだろう、と思い赤イヌはリノハに問いかけた。
「コレが気に入ったか?」 「うん、おもしろそうだと思うよ。」
リノハがそう言うと、またボスっとチビ助をソファにいるリノハの隣に放り投げ た。 チビ助はまたソファに頭から突っ込んだ。 そして、ありがとう、鉄の人!と感涙し性懲りもなく思いつつリノハの腕に絡み ついた。 おい、そんなに絡みつくな、と言いながらリノハはブンブン腕を振り回すがそん な事はチビ助は気にしない。 リノハは子供のすることだ、と直ぐに諦めてくれた。
「ねぇ、サカズキ。折角だから遊んできてもいい?」
リノハが赤イヌに問うと、赤イヌは無言でガラガラとデスクの引き出しを開けて 、その中に入っていたものを取り出すと、ソファの前においてあるテーブルにド スッと置いた。 それは弁当だった。 その包みの大きさはまるでこのことを予期してたかのように軽く二人分はあった 。 流石は「鉄の人」だ、抜かりがない、とチビ助は勝手に自分もこの弁当を食べて もいいのだという都合のいい思い込みと共に考えていた。 その弁当を取り出した当の本人は、リノハと一緒に食べるつもりだったが急ぎの 仕事が舞い込んできてしまったので、今日は無理だな、まぁ、リノハが楽しく食 えれば別にどうでもいい、と結果オーライと思いつつ弁当を出していた。
「丁度昼だ。好きにしろ。」 「やった!食べに行こう!」
チビ助はリノハが笑うとなんか嬉しかった。 それが自分に向けられると、更に嬉しかった。 話を聞かされてから、ずっと、いつか会いに来る、と思っていた”パンドラ”。 (そういえば・・・、「石の人」は何とかかんとかがあって、なにかに、ってい う義務があるとかいつも言ってたけど、なんだっけ・・・?) チビ助は”魔女”の話に夢を見て、他の話を記憶していなかった。 そんな夢を見ることの無い海の守護神の武器の名を持つ一族に産まれた異端の兄 弟の一人のチビ助の夢。
リノハに行こうよ、と言われて嬉々としてその後にくっついていった。 そして赤イヌの方へ振り返って一言、考えた文章の発音に戸惑いながら、言う。
「あ、ありがとう。イヌ・・・さん!!」
言われた本人は一体なにがだ、まぁ、たどたどしいが喋れるならばリノハも暇に ならんだろう・・・、と考え執務を再開した。 チビ助はとりあえずは聞こえてはいたみたいだ、と言うことを確認してドアを閉 めた。 赤イヌはひとつの事に気が付き書類から顔を上げて閉められた後のドアに視線を やる。 自分は、赤イヌという呼び名を言っただろうか。 あんなに小さな子供が自分を知り得るだろうか、部屋に入ったときには自分がぶ ら下げていたのでドアに掛けてある階級も名前も見えるところにはいなかったし 、ここに判断できるものも無い上、そこまでの状況判断のようなものがあんなガ キに出来るだろうか。 何事にも徹底している男の頭に数々の疑問が浮かぶが、リノハがのあの顔を思い 出し、これ以上一匹のガキ如きに詮索はしない事にした。
fin
う、うわぁぉ。FAISAN様に頂いてしまいました共演夢!!Sii嬢の幼き頃が可愛らしいったらありゃしません!!そしてサカズキさんの過保護っぷりは・・・!!!もう、本当、顔がニヤニヤニヤニヤ(長い)止まりませんね!!! こんなステキなものを頂いてしまって・・・・ありがとうございました!!! |