先ほどから電伝虫をにらみつけるようにして眺めてイライラと手に持ったペンを揺らすサカズキ、その向いの真っ赤なソファにはその様子をおっかなびっくり眺めている、暖色の髪の少女と、のんびりぐだぐだっと天井を仰いでいる、長身の男、さらにその前のソファにはサングラスの中年男性が、それぞれ独自の体勢でご着席。 、一人とりあえず自分はあんまり関係ないんじゃないかと心の底から思うのだけれど、しかし、この状況。逃げ出せるわけもない。とりあえずこのなんとも言えぬ緊張感を少しでも緩和させようと、机の上に出ているクッキーに手を伸ばし、パキリと音を立てた。 と、その動作が原因で苛立ちが頂点に達したのかは知らぬが、サカズキが顔を上げる。 「・・・・・遅いッ」 一応声は静かなものだが、その声、マグマ沸騰噴火寸前、というような危うきもの、はうん、と素直に窓から飛び出して逃げたかった。サカズキが口を開いたのを皮切りに、隣のクザン、向いのボルサリーノが揃ってうなづく。 「ん〜〜〜、遅いねぇ、何してるんだろぉねぇ〜、くん。あっしも付いていけばよかったよぉ」 「いや、黄猿さん仕事残ってるでしょーに。やっぱここは俺が付いていって一緒に自転車で帰ってくれば早かったんじゃないですか」 「仲良いねぇ〜、あっしのかわいいくんと二人乗りなんて100年早いよぉ〜」 「貴様ら二人は今現在仕事が滞っているだろう」 ガンッ、とサカズキの机を叩く音。げっ、と素直に顔を引きつらせたのはだけで、同僚、クザン、ボルサリーノは何処吹く風。というか、なんでサカズキの執務室に大将が三人もたまっているのかといえば、それは簡単なこと。 「め...・・・休日を取るのはかまわんが、行き先くらい報告せんか・・・・!!!!」 昨今海軍本部の大将付きに抜擢された少女、・。その能力もさることながら中々の人格、愛嬌で大将らの信頼を勝ち得た人物。はまだきちんとした対面をしたことはないのだけれど、いずれきちんと紹介されることになるという話は出ていた。それはまぁ、別にいいのだけれど。 その嬢、本日滅多にない休暇の日。それでサカズキも普段仕事を手伝ってくれる優秀な補佐官が折らず、多少の不便は感じていたものの、まぁ今日くらいはゆっくりさせてやりたい、むしろ彼女、普段あまり休むということをしないものだから、本当は一週間くらいの長期の休みをくれてやりたかったのだが、などといろいろ感慨深くなりながら、仕事をこなすこと一時間。 ばたん、ばたばたと、やってきた阿呆ども、じゃなかった、二人しかいない同僚、黄猿と青キジのご訪問。なにやらボルサリーノの情報網によれば、が、自宅ではなくグランドラインに飛び出していったという、その報告らしかった。 「別にねぇ〜、くんの実力だったら心配なんてないんだよ?あっしも、まぁ、くんを信用してるしねぇ。でも、いくら海の屑、ヒヨっこどもだっていったって、男だからねぇ〜。嫁入り前の娘さんにゃ、近づかないでほしいしねぇ〜。出来れば半径100キロくらい」 のんびり言う、ボルサリーノのこめかみ、ちょっとひくついていた。 何かあってからでは遅いだろうと、サカズキが海兵を使っての行方を調べさせている、のが三時間前。いまだに何の報告もない。 それでサカズキのイライラも限界まで達している、という単純なことなのだが、それを傍観させられているからすれば、え、なぁにこの状況と突っ込みの一つや二つや三つは入れたいところだがそれを口に出せばきっと綺麗に蹴り飛ばされる。なのでここは色々耐えてこくり、と紅茶、ティカップを傾けるだけにした。 と、そこへバタバタと人のかけてくる声。電伝虫経由じゃなかったのかとぼんやり思いながら、、部屋の前でぱたりと止まった影を見た。大将の執務室の前であるから、きちんと礼儀作法は必要。ノック二回、その後に、階級、所属、問い合わせの内容あらましなどを朗々と伝える声が聞こえる。 「入れ」 そしてサカズキの促す声。ばたん、と、やはり慌てているのか少々乱暴に扉が開いて、それで、通信兵らしい海兵が駆け込んできた。おや、と、は素直に驚く。 「・の居所が判明したのか」 「は、はい・・・!!先ほど・・・し、しかし・・・・」 「・・・なんだ?」 なにやら歯切れ悪く、そして三大将がそろい、しかも海の魔女までしっかり同席している状況に色々ためらうそぶりを見せた通信兵。だが、サカズキににらまれて、姿勢を正すと、キッと敬礼の体勢のまま、もう半分ヤケになって叫ぶようにしていった。 「×××島で赤旗X・ドレークと接触しております!!!目撃証言によれば手を繋いでショッピングモールを移動中とのことで!!!!」 は素直に逃げた。 その途端、バギッ、と、まずサカズキの手に持っていたペン(鉄製)がものの見事に割れる音。さらにバゴッ、と、テーブルが振り下ろされた足(光速ですね)で完全破壊(ついでに下まで貫通)されて、部屋が凍りついた。 「う、わぁお」 ひょいっと、通信兵を咄嗟にデッキブラシに乗せて回避したは顔を引きつらせ、一瞬で「え、なにこれ、どんな天災?」という状況になった執務室を見下ろした。 ちなみに突っ込みを入れたいのだが、それぞれどの点に激昂したのだろうか。あれか、が海賊と接触しているのがまずいのか、それとも赤旗というモト海兵だからまずいのか、それとものんきにショッピングなんて言う状況なのか、それとも手を繋いでいるらしいというところか。 (まぁ、全部だろうねぇ) のんびり思いながら、、とりあえずいつまでも浮いているわけにもいかぬとひょいっと、床に下りて、唖然としている通信兵を追い返す。まぁ、ここにいつまでもいてもとばっちりを食うだけである。出来れば自分も逃げ出したいが、まぁ、そういうわけにもいかないだろう。 「黄猿さん」 さてどうしようかなぁとが考えていると、サカズキの静かな声。ぱらぱら瓦礫が落下する音をまさかサカズキの執務室で聞くことがあるとは、思わなかったが、まぁ、それはそれ。サカズキに呼ばれてボルサリーノも顔を上げる。「なんだい〜?」なんていつもの調子でにこにこ笑うが、その眼、顔、全く笑っていない。 「お願いします」 こう、親指をぐっと出して、そのまま逆さにして、そう短く言う。ぞっと、は寒気がした。 (何その死刑宣告!!) 「ちょっと待ってよ、ボルサリーノさんが行くよりおれが行くよ。恐竜の死因はやっぱり凍死って歴史上決まってるでしょ」 「貴様は自転車だろう。私だって出来れば直接息の根を止めてやりたいが、効率を考えれば黄猿さんが一番早い。一秒とて長く永らえさせることはできんだろう」 反論するクザンに淡々というサカズキ。手に持っていた砕けたペンはさっき燃え尽きた。サカズキの態度は冷静だが、言っている言葉はどう聴いてもおっかない、物騒。 は遥か遠い地にいるドレークに合掌した。が、まぁそれは形式上だけのもの。本心、そのサカズキのいらいらがこちらにまでとばっちりを来ないことが重要である。 (がんばれ☆赤旗!) その頃、全く持って非のないドレーク、無理やりに手を引かれながらも、何だか物凄く寒気を感じて、ぞっと身を震わせていた。 fin あとがき 何気に続いてしまったんです、すいません。今回はヒロインの登場なしで。少女ヒロイン出張。 |