さぁ午後のお茶を楽しもう! ひょいっとこちらを見上げてくる青い、真っ青な夜の海のような色の瞳を見て、その青は自分のものとどちらが藍のように蒼いのかなど埒もないことをぼんやり考えた。それでどうなるわけでもなし、そしてその目、の持ち主、最近サカズキの補佐官になったらしいという女性、が不思議そうにこちらに問うてくるまでじぃっと、黙った。 「なんでそんなところにいるんだ?」 キョトン、と音の出てきそうなほどあどけない顔。これがセンゴクの昨今の悩みどころなのかと不思議に思うほどのあどけなさ。も同じくらいにキョトン、と顔を幼くして、とは反対方向に首を傾げる。 「降りられないんだよ」 ディエス・ドレーク中佐いぢめの延長戦。今日は彼がのお守。昨今の海の情勢の所為で大将殿の大忙しの毎日で、何もせずただソファに座って一日過ごしているだけのはまぁ邪魔だろうからと、別室に移された。それでそこの監視役、にさせられた哀れな中佐殿をからかい倒すためだけに大脱走。それで、ただテコテコ馬鹿正直に徒歩で逃げていればバレるからと木に隠れるために上ったのはよかった。 「降りられない?」 「うん。降りれなくなっちゃって」 困ってるんだよ、とちっとも困ってない顔でニヘラと笑う。がおや?と首をかしげた。 「デッキブラシで降りられないのか?」 もっともな意見である。しかしは肩を竦める。 「持ってない」 「いつも持っているイメージがあるんだが」 「しまってあるのを出したりしてるだけだよ。今日はサカズキに没収くらってるの」 そういえば、とはサカズキさんの執務室にそんな掃除用具が立てかけてあったのを思い出した。まさかのものとはすぐに思いつきもせずなんでこんなところに掃除用具がと不釣り合いさに気になってはいたのだけれど、のものだったのか。というか、取り外し可能だったのかなんて新たな発見。それで、ふんふんと頷き、の方へ手を伸ばす。 「それなら、手を」 少しの高さはあるけれど、女性にしては背の高いであればの腰掛ける最初の幹くらいまでは手が届く。それで伸ばせば、はフルフルと首を振った。 「高いよ。ぼく、今日は怪我したくないんだ」 落ちたら、とそれを気にしているのだろう。しかしはにこりと笑顔を浮かべた。あまりこういった表情は得意ではないのだけれど、を安心させるためである。自分ではきちんとした「穏やかな」笑顔を浮かべたと思ったのだが、しかし、が「うっ」と顔を引きつらせる。 「なぁにその「何か企んでます」みたいな顔」 「一応笑ったつもりなんだが」 「……まぁ、人には向き不向きがあるよね」 とても失礼なことを言う。は何のことかわからずにキョトン、と眼を丸くするだけである。それでもがまだ「うん、高いよね」とためらう素振りなもので、一度手を引っ込めた。ひょいっと木に登って救出、という展開も考えたのだが、の腰掛けているのは細い幹である。とて(食べるわりには)細身であるけれど、人二人の体重を支えられるほどではないだろう。これでバギッと降りて二人落下。は受け身を当然とれるが、は普通に落ちるだろう。空中でを保護するにも、距離が短すぎるもの。 それでしようがなく、の意思で下に飛び降りてもらい、それをがキャッチ、という手段になってしまうのである。ふとはぼんやり、サカズキさんなら、彼女の保護者ならここでの有無など関係なしに縄で首を縛って引き摺り下ろすのだろうと思った。まぁ、それはそれ。 「この俺がさんに怪我なんてさせるわけがない。この俺の目の前で傷など負わせるわけがない」 きっぱりはっきり言いきって、そしてもう一度手を伸ばす。はキョトン、と眼を幼くしてから、それで、「ふ、ふふふ」と含み笑い。なぜそこで笑うのかには瞬時に判断できず、しかし次の瞬間、どさり、とあれだけためらっていたのが嘘のように、勢いよく、がに向かって飛び降りてきた。勢いが付けられたので少々、にも負担がかかる。どさっ、と体重を支えきれずにが尻もちをつき、がぎゅっと、の体に抱きついた。ふわりと香る薔薇のにおい。その香りがの鼻腔からはいりこみ脳に薔薇のにおいと確認される前に、の体がすっと、どいた。幼い子に押し倒されるという妙な体制、は目をぱちくり、とさせて、自分を見下ろす魔女の目を見つめる。 「さん?」 わけのわからぬ行動、それに不思議に思うばかり、表情を見ようにも逆光で良く見えぬ状態。問えばがさらり、と長い前髪を揺らし、何事か言うべくと口を開いた。 「何をしている」 と、そこにやや怒気をはらんだ低い声。反射的にの身が震えた。びくり、と強張る体、コツコツとした足音。ムシャムシャ紙を食むヤギのカウベルの音を伴いながら、肩の星を鳴らす、元帥どのの接近。 「に何をした。・」 「センゴク元帥、」 どちらかと言うと、助けた、という良点のあるはずの。しかし何かしでかしているのかと決めてかかるその声。一瞬何か反論しようかと口を開くが、条件反射、のようにセンゴクに相対すれば身がすくむもの。それもそのはず、海の正義を統べる存在。何もかもの犠牲すらも構わずに、ただ絶対的正義、法と秩序の守護者たる海の元帥殿、威厳・覇気・才気は並のものではない。ただでさえ、己はこの人物に良くは思われていないのだという前提もあって、は喉が張り付いたように渇き、声が出ない。 「貴様との接触を許した覚えはないが」 「くんはサカズキの補佐なんでしょう。将校じゃないの?将校なら別にぼくと接触しても問題ないはずだけど」 緊迫した空気を和ませる、という意図は皆無らしい。ただ疑問に思って己のわがままで問うだけの気やすさ、が不思議そうにセンゴクを見上げて問えば、センゴク、先ほどからに向けているさめざめとした表情を打ち消して、孫娘か何かでも扱うような、優しい顔、仏のセンゴクと呼ばれるにふさわしい、やわらかい顔をして、ふわり、との頭を撫でる。 「こんなものに階級など与えん。、こんなものと関わるな」 ふぅん、と不思議そうにはしたものの、逆らうことはせず、のみ込みのよい切り花のように従順に「うん」と頷いた。その目、からはどうも納得していない、ただうわべだけの反射運動のように見えた。 ◆ 「くんは悪いものなの?」 そして翌日堂々と、の執務室にやってきた、ひょっこり窓枠に腰掛けて、唐突に問うてきた。昨日のセンゴク元帥との問答はなんだったのかと一瞬疑問に思わなくはないのだけれど、とにかくがやってきたのならと一度仕事の手を止める。今日は別段急ぎの仕事もなく、珍しくクザンが仕事をしているようでサカズキにまで余計な仕事は回ってこなかった。いや、これが普通のはずなのだが。 「唐突だな」 「あ、これお土産。お見舞いはお花かメロンかってクレハが言ってたから」 窓枠からひょいっと飛び降りて手に持っていた薔薇を一輪に差しだす。青いバラである。自然界には存在せぬはずの色だが、が持っていれば人工的さなどは感じられなかった。受け取って礼を言い、花瓶を捜したがの部屋にそんなものが置いてあるはずもない。さてどうしようかと困惑した結果、先日ドフラミンゴが「土産だ」なんて持ってきたワインボトルに目を付ける。 一応なかなかの年代物。しゃれてが海軍に来た年のものを持って来たらしい、銘柄。は器用にナイフでコルクを抜き、躊躇いもなく流しにワインを捨てた。 「いいの?」 「構わない。どうせバカ鳥からのだ」 「そんなものは捨てたほうがいいと思う」 絶対何か入っている、ととの思考が一致した瞬間。それで「ひょっとしてさんももらったのか」と聞けば「もらった瞬間ミホークが切った」とすがすがしい答え。自分も貰った瞬間に落としてたたき割ればよかったと思う。あ、いや、しかしそんなことをしたら床の掃除が面倒だったか。 それで中身を抜いて、きれいに水で洗ってから薔薇を飾る。 殺風景だったの部屋に良い具合。 「ところでお見舞いってなんだ?俺は別に怪我なんてしてないぞ」 「心理的外傷?センゴクくんにいぢめられてたから」 「元帥はいじめてない。あれは、当然のことだ」 ワインボトルを机の上に置いて位置を確認しながら、はに背を向けた。は、悪だ。この海軍、絶対的正義の場において、悪であるという立場を、常々忘れてはならぬもの。身にしみて常に刻みこまれ、それを当然と飲み込まねばらなぬもの、である。 「くんは悪いものなの?」 黙ってしまったの背に、がきょとん、と不思議そうに先ほどと同じことを問う。、からすればこの世に悪などあるのかないのか、そんなことは正直興味はない。正義、正義、正しいこと、というものの定義すら、どうでもいいといえばどうでもいい。には、この世界に正義なんてものは存在しないとそう心のそこから思っている。あるものはただの信念、それの名称を正義とそう呼んでいるだけで、その名称の示すものは時折、傲慢、尊大、無知、虚偽だなんて形を変えるもの、けれどその根底は皆おんなじものだ、とそれがの概念である。 だがしかし、この世界には、政府の定めている正義があり、そして悪という仕業があるのだということもまた理解はしているのである。だがそれはただのシステムであるからして、そのシステムの上でが悪いものなのかと、そう問うのである。 からすれば、本当の正義というのはT・ボーンの優しさ、サリューの掌のことを言うのだと心の底から思っている。が、まぁそれもどうでもいいといえばどうでもよかった。 「まぁ、センゴク元帥はそう思っているようだ。それに五老星もな」 くるりと身を返して、は机に寄りかかる。はいつのまにか座り心地のよさそうなイスをどこぞから取り出してきてそこに腰掛けていた。傍らにはテーブルまで出していて、ほこほことお茶が湯気を立ててセットされている。当然、のものもあり、それを受けるべきなのかとぼんやりは頭の端で考えた。 「ふぅん?」 ティカップに口をつけて、はわかっているのかわからぬのか、微妙な声を上げる。それで、渋い顔をして紅茶を見下ろした。 「少し濃いね。蒸らし時間、砂時計でちゃんと計ったのにずれてる。くんは紅茶はスプーンが刺さるくらい濃い方が好き?」 「さんには悪いが、どちらかといえばレモン派」 「邪道だね」 しかしひょいっとが指を振れば、の紅茶に輪切りのレモンがぽちゃりと浸る。眉を寄せてはいるものの、ホステスとしての礼儀はわきまえている様子にが、その仕草、なんだか幼い子供のように見えて小さく笑うと、が顔を上げた。 「ぼくも、正義の生き物ではないけれど、くんのそれはぼくとはちょっとばかり、違うよね」 「うん?」 「ぼくもくんもさ、その存在そのものが「良くない」っていうことだけど、でも、ぼくはぼくが「悪」であることで、正義の保証人になっているから、生かされてる。でもくんは違うよね」 カチャリとテーブルの上の時計の針の音。は勧められた椅子に腰かけて、紅茶に口をつける。得たいの知れぬものは飲むなとサカズキさんから言い含められてはいるが、この魔女の毒で死ねるのならそれはそれで構わぬような、そんな気が一瞬した。それに、が己を害する理由というのが見当たらぬ。 「俺はさんの詳細を承知、ではないんだ。だから何とも言えない」 「そうなの?」 「公式には。俺は海軍で無冠無位のしがない「幽霊」みたいなものだからな」 「ふぅん、公式には」 の言い回しを、面白そうにが繰り返した。それで、機嫌よく鼻歌なんぞ歌いながら、カチャカチャと三段トレイの一段目のタルトを取ってに進める。 「スコーンにしようかと思ったんだけどね、ジャムがなくて」 「さんが作ったのか?」 うん、とあっさりが頷いた。まぁ、悪ふざけをしなければ、はたいていのことはそつなくこなすのだとサカズキさんが言っていた言葉をは思いだす。それで皿を受け取ってデザートスプーンを横に倒した。桃のタルトである。に味覚はないはずだからこういったものを楽しむときは視角から、らしかった。 カチャリとは自分もタルトを寄せて切り分ける。正確なのか一度にきちんと四等分して端から食べるらしい。 「ぼくもくんの詳細は知らないんだ」 「さんは結構いろんなことを知ってると思った」 「くんの方が物知りだよ。ぼくサカズキの仕事は手伝えないし」 良いなぁ、くんはとぽつりと聞こえたような気がした。それでは顔を上げて、ころころ角砂糖を紅茶に沈めているを眺める。小さな子供、幼い子供。それでもよりずっと、ずっと長い時間を生きている。らしい、とそう言わなかったのは、そうとは承知だからのこと。 竜、遠い昔からのもの。化け物だなんだとセンゴク元帥のおっしゃりよう。まぁ分からなくもない、というのが最近ののさめざめとした思い。しかしだからなんだというのかと、己をすべて諦めきれぬのが、それが人という生き物である。センゴクに何と誹られようと、どれほど規格の人の枠と外れていようと、はこれまで己を「人間」以外とそう認めたことはない。悩んで、傷ついて、苦しんで、重い、思って、想う生き物、それはヒトではないのかと、そう思うゆえのこと。その核心があればこそ、世に人にどうとののしられようと、それは、の立ち位置には響かぬ。 その、は、海兵としての詳細を知らされたことはないけれど、己の本分としては承知している。それが道理であるのだ。何も不思議なことはない。 「さんはかわいいから、いいと思う」 「今の会話でどうしてそういう流れになるのかさっぱりわからないんだけど。唐突だねぇ」 、自分がかわいい、ということは否定しないのか。そういう突っ込みをする人間はこの場にはいなく。も本心から思うこと、であるから否定されずとも好い。それで、続けた。 「俺はサカズキさんの傍にいる理由がよく見当たらない。あの人の背を、道を守りたいと思う。でも、時折、俺はどうしてここにいて良いのだろうかとそう思うときがある」 「それはくんが「悪いもの」だから?」 「負い目を感じている、という自覚はない。だが、」 必要とされていると、そう実感した時にふと感じる恐れがあった。人の絆の永遠などはないもの。それはの半生、よくよく突きつけられてきたことである。愛しいというその手が殺意を抱き、大切だと撫でてくれた慈悲の手が同じように首を絞めてくる。どうして生きているのかと、その状態は気持ちの悪いものなんじゃないかと、そう疑問に思われる方が自然だった、日々が道理となっていた、時間のことを思い出す。 あの人はまっすぐだから、そんなことはないと。一度そうと決めたことを、たがえるはずがないと、そうと信じ、信頼する心、確かにあるのだけれど、それでも、時折ふと、サカズキのその、己に向けられる強い瞳、その奥に潜む、わずかな優しさを感じ取るたびに、恐れが湧く。 これまで出会ったどんな人ともサカズキさんは違うとそう、わかりつつも、しかし、それでも、己を必要だと言ってくれているその手が、その唇が、同じように己を拒絶せぬ、という保証はこの世界のどこにあるのか。 「さんは、サカズキさんの隣にいるのが当然のように見える。違和感がない」 「一応薔薇の主従だからね」 「むしろ、とても似合っていると思う」 似合っている、というのは物と物に対する表現というだけではない。対人、人と人がともにいて道理のように見える空間、それを作り出せる二つの存在は傍らにいるべき要素があり、それをは「似合っている」とそう称す。その癖をが知るよしもないけれど言葉のニュアンスからそれとなりとは悟ったよう、ぴくん、と眉をはねさせて、カップをソーサーに戻した。 「くんはサカズキがすきなの?」 きょとんと向けられる幼い目。この少女に、恋愛の意味は知っていても、理解はできぬと、それは呪いの楔である。思い当っては慎重に言葉を選んだ。 「……あの人の剣になりたいと思う。盾になり、あの人の道を阻む全てをなぎ倒したいと思う。俺は、俺が進む道は、サカズキさんの隣に走るものであればいいと、そう思う」 それがすき、とそういうことになるのかはには判断つかなかった。己とて元来、そういった感情は、あまり得意な方ではない。だが、サカズキさんに目を向けられると、心がふわりと揺れるのは確かである。 「何があろうと、俺はサカズキさんのために生きていければと、そう思う」 それを「すき」というのかどうか、心中思案して、少しだけ頬を染めた。似合わぬ、らしからぬ動作には少しだけ戸惑って、隠すように紅茶を口に含む。がふわり、と面白そうに笑った。 「サカズキのそばにいていいか、なんてぼくからすれば贅沢な悩みだと思うけどね」 ふぅん、とは目を細めてさめざめとを眺める。長い手足、高い背。美しい声に、意思の強くだが時折揺らぐ美しさを秘めた瞳、白い陶器のような肌、薔薇色の唇。いささか女性らしさの足りぬ細身ではあるけれど、がどれほど望んでも手に入れることの出来ぬ「大人の体」である。そしてすぐれた運動能力。以前ミホークでさえ、の剣には心力があると評価していたほど、ドフラミンゴとてなかなかちょっかいをかけているということはの素質に興味を持っているのだろう。そして何より、彼女はサカズキの傍らに「仲間」として存在できる、海兵なのである。 からしてみれば、己が強く望む姿である。それで何か言おうと口を開きかけて、「うっ」との顔がひきつった。 バタバタと足音が聞こえ、こちらに近づいてくるよう。は慌てて腕を振り、指を振って大慌てで午後のお茶会セットを片づけると、ひょいっと、窓に足をかけた。 「ぼくは悪いことはしてない!!」 「それはわかってますけど、」 今更何を言うのか、とそう不思議に思い首を傾げる、そのの真横を、ヒュン、と何かが通り過ぎた。 「この私の目の届かぬ所に逃げだすなと何度言ったらわかる。このバカ者が……!!!!」 ひゅるっ、ばしっ、ぐぎゃ、と、最後は当然の悲鳴。の真横を通り過ぎた茨の縄が見事にを捕獲した、らしい。一応のやわ肌に棘が食い込んで血が流れているが、ずるずる引きずられる「うぅ…」というだけで痛がるそぶりは見せていない。凄惨な光景なのだろうかとは一瞬首をかしげてしまった。 「」 「は、はい?」 なぜか敬語である。慌ててサカズキの方へ向ければ、ずるずると投網のようにを引き寄せながら、顔はこちらに向けず、サカズキが続けた。 「何かされたか」 「い、いや……さんとはただお茶会をしただけだ。何もされてない」 だからあんまりひどいことはしないでほしい、とそういう意味を込めて言えば、容赦なくの頭を踏んでいたサカズキの足がスッと退く。ゆっくりとを振り返る、その表情は帽子の影になって見えない。何か、彼にしては珍しく歯切れの悪い声。 「もそうだが……元帥と、接触したと報告を受けた」 「……大丈夫です」 心配、してくれたのだろうか。は困惑した顔でサカズキを見つめ、平常心を保ちながら答えた。元帥、に言われる言葉の一言一言は剣のようにの心臓につきたてられはするものの、しかし、あふれるほどではない。 「俺は、大丈夫です」 今はどっちかといえばさんの処遇の方が気になるのが本心だが、へらり、と笑った顔にサカズキが顔を顰めた。そして、一度をぐいっと荷物か何かのように抱え上げ、扉の前に立ち尽くしていたディエス中佐にひょいっと投げて渡す。 「ぼくは物か何か!?」 「貴様に人権があると思っているのか。ディエス、連れて行け」 はっ、と短い声。が「サカズキ呼ぶなんて卑怯だよね、ディエスのヘタレ!」とそんなことをののしりながらドレーク中佐に連れていかれていくのをは耳の端で聞いた。そして残ったサカズキ、がしまい忘れた椅子に腰かけて、一度疲れたように溜息を吐くと、どうして良いものかと所在な下げなに手を伸ばす。 「私は、合理主義者だと自分で思っている」 その手をどうするべきかは迷い、しかし避けることはできず、延ばされ、己の頬に触れられるままにした。少しだけ身をかがめてしまい、それで、サカズキが目を細めた。 「不要なものは傍に置かない。センゴク元帥のお考えがどうであろうと、それは私の領域に影響するものではない」 茨を扱う間はサカズキは手袋を嵌めない。いばらがの肌を傷つけるように、サカズキの指先も薔薇の棘により些かの傷ができていた。だがに触れる指先には血がなく、を己の血で汚さぬようにと細心の注意を払ってくれているらしいことがにはわかった。 「不安に思い、患うのなら何度でも、私は私にかけて誓ってやる。、私はお前が必要だ」 ゆっくりと息を吐く。当然のように、自然、あまりに当たり前の仕草で、サカズキの指先がの唇に触れた。ゆっくり細められ、わずかに笑みの形を作った表情、その途端に、は目を大きく見開く。 「文句があるなら言え。この私が納得できる理由のない限り、私はお前を手放さんぞ」 拒まれることなどないと招致しているからこその、ドSの笑み。は、心の底からサカズキさんにはかなわないと、それだけを思って、溜息を吐いた。降参、と無言で手を上げようとしたのに、その手を空いた手で掴み、見せつけるようにの手のひらに口づけてから、楽しむように問うてくる。 「返事は?・」 ◆ 「いっそチューとかすればいいと思わない?ディエス中佐」 「……こういうことをするから大将に蹴り飛ばされるという自覚はないのか?」 ぶらぶら登った木の上、ひょっこり顔をのぞかせて部屋の中を観察中。世にはこれをデバガメというらしいが「恋愛ってなぁに?興味津津☆」なからすれば社会勉強と堂々とのたまえる。それに強制参加させられたドレークはただ胃を押えながらキリキリとした痛みと格闘中。 やっぱりサカズキにバレてドレークともども木の上から引きずり落とされるまで、、サカズキとの様子を眺めながらニヤニヤと「青春だねぇ」なんて笑っていた。 Fin あとがき いやぁ、他家ヒロインで赤犬のノリノリS夢を描くとは思いませんでしたが・・・楽しかったです。 |