小さな子供が、ジムに乗り込んできた、というのは別段珍しいことではないのだけれど、ハンマー片手に半泣きの少女、というのは、珍しかった。仕掛けとか、結構いろいろしてあるはずだけれど、この少女、が全部解いたのか。いや、とデンジは先ほどからジム内で聞こえたいろんなものが、まぁいろいろ、壊される音でなんとなしに、それは違うだろうと検討づける。(まぁ、別に。壊されてもまた作ればいい)また、というか今度はどんなものを作ろうか、考えて楽しむ脳内、片手にその、ハンマーというか金槌もった少女をぼんやり眺めてみる。
「で、オマエ、何?」
乱入者、は一見可愛らしい女の子。黒いワンピースに、フリルのきいた(という表現を思い出して一瞬、パンチマーマのきいた、友人を思い出す。いや、アイツってパンチパーマ?アフロか?)ピンクのスカートに、真っ赤なスカーフ。普通に、可愛らしい子だと、デンジが思う一瞬、ドスの聞いた、擦れ声。
「黙って殴られろ」
デンジが「それはちょっと無理だ」と言う暇もなく、容赦なく、少女の細腕が持ち上がって、落下。
「うわっ」
さすがにこれを食らったら普通にヤバイだろうといろいろ焦ってそれで、なんとか避けた。
「っ、避けるな!!」
「オクタン!やれ!!」
どちらも必死に叫んで、それで、まだジムリーダーという地位を持っている、それなりのオトナのデンジが勝った。(ジムリーダー関係ないといえば、ないけど)
もうこれ以上知って、眠れない夜と心中未遂
「で、何?」
「おまえなんか死んでしまえ」
何度問いかけても、この答え。飽き性だと自認しているデンジ、そろそろこのガキひっぱたいて灯台の上から突き飛ばしてやろうかとか、そういう思考回路になりかけた、けれど、別にこのよくわからん生意気極まりない子供が、そんなことで何か態度を改めることはないだろうということ、なんとなく、その面差し、わかったりも、した。
「悪い、無理だ」
少女に対しての答えか、自分の思考回路、提案却下への謝罪かわからぬままに、デンジはおくたんほうで泥まみれになった少女の頬を自分の袖で拭ってやろうとして、噛み付かれた。このガキ。
よし、次はライチュウな、とボールを構えかけて、突然バタンッ、と後ろの扉が開く。
「ヒカリ!!!」
「あ、新キャラか?」
噛み付かれたまま振り返って、扉の前に立っている金色の、ツンツンした髪の子供をぼんやり、眺める。その子供、一瞬沈黙、けれどデンジの手、の先の子供の小さな口に気付いて、あからさまに慌てた。
「ぅあああぁあああ!!!すいません!!本ッ当にすいません!!うちの子が、あぁああ!!ごめんなさい!大丈夫でしたか!?怪我とかされてませんか!!?」
怪我、は、血は出てないけれど、手をかまれた。がぶり、と。少年の登場に、少女がやっと口を話して、自分の腕で口を拭い、少年を睨みつける。
「うるさい、エトワール。黙ってろ」
どうやらこの飛び入り少年、エトワールとかいう名前らしい。カラフルな服装に、くるくる目まぐるしい顔だ。少年、エトワールは睨まれて一瞬ひるむものの、それはいつものことらしい、すぐに気を取り直して、少女に詰め寄った。
「ヒカリ!!おまえ、なんでそう毎回毎回と頃構わず問題起こすんだ!!コウキに言いつけるぞ!!」
「言ってみろ。お前のポケモンみんな野生に返してやる」
「ごめんなさい!!」
ヘタレか?即座に謝ってきっちり45度からだを倒した少年にぼんやりと思った。けれど、気の強い少女に対する姿勢になんだか共感するものを覚えた。エトワールは少女に平謝りしながら、少女の「誰にものを言ってんだ」という上目線にみごとに対応している。それを眺めるのは中々面白いのだけれど、いつまでもほうって置かれるのはデンジの好むところではない。
「……で、おまえら、何?」
頃合を見計らってデンジはぽつり、と、二人の世界に割って入って見た。ついに土下座をし始めたエトワールが顔を上げる。当然のように、少女は耳に入っていても無視してくれた。
「あ、ハイ!俺はフタバタウンのエトワールです!こっちは、幼馴染のヒカリ!」
「くされえんだ」
げしっと、エトワールの頭を殴ってヒカリは修正した。デンジは「俺は、ここのジムの……」と名乗ろうとしたけれど、その前にエトワールが興奮したまま、遮った。
「知ってます!デンジさんですよね!!ホント、ヒカリがすいませんでした!!ほら、ヒカリも謝って!!」
「いやだ」
「いやだ、じゃない!」
「だって、このクソヤローが、停電させた所為で……」
「女の子がクソとか言うなって!ハルカさんへのメールなんてまた書けばいいだろ!!そんなことで殺人とかするな!頼むから!!」
「そんなこと、だと?」
「あ」
「エトワール。おまえが死んだらコウキが悲しむから……殴らせろ」
「いやいやいや!!それで殴ったら死ぬ!普通に死ぬ!!」
必死に説得を試みる少年を庇うわけではないが、デンジは殺意バリバリの少女に向かって、やる気がなさそうに口を開いた。
「あー、おい」
「おまえはその次だ」
「じゃなくって、何、おまえ、ハルカの知り合い?」
ぴたり、とヒカリの動きがとまった。
「オマエ」
「デンジだ」
「……デンジは、あのひとの知り合いか」
「まぁ、な」
知り合い、というにはもう少しだけ何か濃いものがあるように思える。ハルカ、あの、ホウエンから一人の生き物を追いかけて(けれど本人の口ぶりからそれが愛のような甘やかなものが感じられない)きた熱意の持ち主。デンジとはシロナの家で出合った。父親の知り合いだとかなんとか言っていたが、そこはデンジの興味のあるところではない。
「で、お前は?」
ヒカリの目の中の凶暴性が瞬時に消えたことに気付いたから、どっかり、デンジは床に座り込んだ。子供は、見下ろさないほうがいい。ぼんやりと、のんびりした目をして問うと、ヒカリは僅かに目を細めた。
「あたしは、」
「コイツの両親、ナナカマド博士研究所で働いてンですよ、だから、ホウエンのオダマキ博士の娘さんとも知り合いで、」
何か言おうとしたヒカリを遮って、エトワールが説明をしだした。一瞬ぴくり、とヒカリのこめかみが動いたが、軽く足を上げただけで、素直にそれは下ろされる。そして少し考えるようにデンジを見た後、ヒカリはさっさと破壊した扉を踏み越えて外に出て行ってしまった。その間際、振り返って高圧的に言い放つ。
「あのひとの知り合いなら、今回は見逃してやる」
ぶっきらぼうにも聞こえる低い声。意識して出しているんだろうとなんだかデンジにはわかってしまって、不快感がいだけない。傍らでエトワールが「ヒカリについに思いやりが!!」とか言っているが、それはヒカリが投げたコンクリートの破片で黙らせられる。
「次にわたしの邪魔をしたら、許さない」
「ひとってのはな、生きてるだけで誰かに迷惑かけるもんなんだぞ」
ぼやっと、言うとハンマーが飛んできた。なんだ、この女、とは思うが避けないといろいろ大変奏だったので必死こいて避けて、それで、体制立て直すと、もうそこにあの、破天荒な娘さんはいない。
いったいなんだったのだろうかと思いながらデンジ、たしかにあの娘さんはおっかないけれど、自分の知り合いの、本気でおっそろしい人を思い出し、なんだか、会いたくなってしまった。
(なんか、発明したら見せに行くか)
Fin
デンジはツンデレだと思います。うちのヒカリもツンデレです。
ライバルくんの名前が通説わからなかったので、エトワールになりました。星。自分がプレイしたときのなまえは「サカキ」だったので、さすがにソレはなぁ…と。
ちなみにこのあとやっぱり停電してヒカルが殴りこみに。
(07/7/3 17時32分22秒)
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