惹かれあうこと事態危ないとは解っていても
トクサネのダイゴの家は、天体観測がしやすいらしく、時々、自然研究の一環です、と言ってハルカがダイゴの家にやってくる。これがハルカでなければ会いにくる口実だとか、そういう風にとることもできたのだけれど、ハルカ、自分の観測セットをダイゴの家の庭先に組み立てて始終、それこそダイゴが声をかける暇もないくらい付きっ切りになってしまうのだから、そんな期待浮かべる方が間違いだ。 でもさすがに、三日三晩徹夜する気はハルカもないらしく、四日目の朝にダイゴの分の朝食も作ってくれて、一緒に食べる事になった。 「試合とか、そういうのはあんまり得意じゃないんですよ、わたし」 珍しくハルカの方から言葉をかけてきてくれたと思ったら、振り返ったハルカはこれ以上ないって言うくらいの笑顔だった。え、これ、なんの前触れ?とダイゴは本能的に身構えてしまう。甲斐性なし。根性なし。まさか今から別れ話でも切り出されるのかとか、一番怒ったら嫌だなぁと思うことを可能性としていくつか脳内で上げつつ、ダイゴはハルカの言葉の続きを待つ。冷や汗ダラダラだ。でも冷静になって考えれば、「試合が好きじゃない」うんぬんで別れ話になるわけもなし、第一原点、二人は付き合っているわけではない。あぁよかった、ならいいや、とダイゴは安心する。え、そこ安心しちゃうの?とは突っ込む人は誰もいない。 「苦手なんです。勝つとか、負けるとか、そういうの。テニスで言えば、ずぅっとラリーをしていたい。どうして、勝つひとと、負けるひとがいるのかって、ダメなんです。たとえ、両者に得るものがあったとしても、わたし、どうしても、ダメなんです」 ハルカはトーストにバターをぬって、ジャムを添えて、白いお皿の上で丁寧に、ナイフで切って、ホークで口に運ぶ。 「ダメなんですよ、試合とか、勝負って」 「僕には耳の痛い言葉だねぇ」 「ちゃかさないでくださいよ、ダイゴさん」 「茶化してないよ。ハルカちゃん。僕は、いつも、いつだって勝負の世界に身を置いている生き物だからね、大好きなキミが、僕の世界を否定してくれると、とても痛い」 「それ、痛くなる場所耳じゃないじゃないですか」 「傷ついているわけじゃないから、心ってわけでもないと思って」 だって、ねぇ?と笑うとハルカが心底嫌そうな顔をした。ダイゴが、仮面性を発揮するとハルカはたいていこういう顔をする。それが、面白くもあるのでダイゴは、必要以上にハルカに向かって道化の下をあえて見せたりもした。けれど、今日のハルカは普段のように「気持ち悪い」と吐き捨てて退席することもなく、ぐっ、と腹に力を無理矢理込めて失敗した生き物の顔をして、ダイゴの目をじっと見た。 「だから、思ったんです。わたし、どうしてあのときにダイゴさんにあんなこと言ったんでしょうって」 「あのとき?」 「ユウキくんと二人で始めて、ダイゴさんに会った時のことです」 「あの時、」 「わたしはあの時ダイゴさんに、勝ち負けのある勝負を挑んだんです」 忘れてしまっていましたか、とハルカが聞くから、ダイゴは反射的に「まさか」と返した。嘘ではない、けれど別にあの瞬間、ダイゴにとってハルカはなんの興味の対象でもなかったし、言えば通り過ぎる背景のようなものだったから、記憶はしていても、意味のあるものだと認識してはいなかった。 「あの時は、おかしかったよ。ポケモントレーナーじゃない女の子が、チャンピョンの僕に挑もうとしているんだから」 「でも、ダイゴさんはちっとも笑わなかった」 笑ってほしかったのかい?ハルカちゃん。と、ダイゴが聞くと、反射的にハルカは「まさか」と返してくれた。先ほどとは逆だ。 「ダイゴさんだけなんですよ」 真っ直ぐに、ハルカがダイゴの目を見た。鋼色の瞳は彼女に冷たい印象を与えやしないかと、ダイゴはそれが心配で、目を伏せてしまいそうになったけれど、けれど、その、ハルカの瞳に篭った小さな熱に気付いて、伏せるどころか見開いてしまう。 「ハル、」 「わたしはダイゴさんにだけは、勝って、それで、一緒にいる理由を作りたいんです」 「それって、僕が、」 「わたしがアナタを好きだってことです」 知っていましたか?とハルカが聞くから、ダイゴは反射的に「まさか」と返してしまった。
Fin
・前回に引き続き、セリフメインで書いてみよう期間です。描写を、描写を書かせてくれぇ!!(禁断症状発祥中)なんか続きそうだなぁ…。ハルカがダイゴさんのことを好きだと自覚したら、いやぁ、どうなるんでしょうねぇ…。最近、どうしてハルカはダイゴさんじゃないとダメなのか考えて知恵熱。ダイゴさん→ハルカはそれほど考えなくても答えは出るんですけどねぇ…ミステリー。(2007/2/28 13:25)
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