遠い空をも見たときに、あの人のことを思い出したり、忘れようと即座に自分の頭を叩いたり、した。それでも結局のところは、そういう風に意識をしてしまっているという以上、もう逃げられないのだろうなと思って憂鬱。

 

それでも、やっぱり、ハルカはダイゴのことがスキで、きっと、確認はしていないけれど、きっと、ダイゴもきっと、ハルカのことをスキだったのだろう。だった。だから、それが憂鬱だ。

 

 

 

公園でブランコを漕いでいたあの日を思い出すと

 

 

 


シンオウに行くね、言えば父のオダマキ博士(最近はそう呼ぶようにしている)は驚いて、え、と狸のような顔をさらに狸のように平べったい、丸々と目を見ひらいた顔をして、それで、持っていた茶碗を落とさないように一度机の上に戻してから、何か、助けを求めるように母に視線を向けていた。夕食時に言うべき内容ではなかったし、それはきっと、もっと改まった前置きを必要としてこそに吐くべき言葉だったのかもしれない。けれどハルカは、自分がこれからすることはなんでもないことなのだと印象付けたかったしそれに、悪いが母の作った佃煮はそれほどおいしくなくてそれで。それで、もう一度ハルカは言う。

 

「シンオウに行くの」
「どうして?」

 

母親は父親よりは冷静だった。僅かに憂いを秘めた目で、問いかけてくれた。普通、トレーナーを目指している少年少女であれば珍しくない旅の予告も、この、父についてフィールドワークを続けて、ゆくゆくは父を継ぐポケモン研究者となる道を選んでいる、トレーナーではない、旅など危険でしかたないハルカには何か異常事態だ。母はそれを、娘が大人になって、それで親の元を離れる時期の到来と、判断したらしかった。大人になったわね、ハルカ、と言う母親の目から逃れようとして、ハルカは手元に視線を落とした。

 

「旅をね、しようと思ったの」

 

ハルカはサラダボールを母の方に戻して、ナプキンで口元を綺麗に拭う。旅を、するの。するんだ、繰り返して、テーブルの下で手を握ったり開いたりした。この間にも自分の脳内には、これから暫く会えなくなる親しい友人とかの姿は浮かんでこなくてその代わり、見ようとしないように必死になって隅に追いやろうとした青年の嫌な笑顔ばかりが浮かんでくる。

 

「なんでシンオウなんだ?別に、ホウエンでもいいじゃないか」
「ホウエンには、ユウキくんと一緒についていって、いろいろ周ったから、いいの」

 

いいの、いいんだ、ハルカは繰り返して、それで部屋を出た。両親は追いかけてはこなかった。そういうもの、だ。


ダイゴさんがチャンピョンを辞めた。ユウキくんは勝てなかったのに、今でも、あのヒトに勝てるヒトはいないのにそれでも、あのヒトはこれまでの自分を創ってきた全てのものを投げ捨てるといって、それで、自分なんかに付いてくるという。


(あなたはわたしを好きにならない。それがわかっててどうして、わたしのこと、好きだなんていうんですか)

 

 

Fin