天狗
珍しくハルカは自然調査を中断して、キンセツの、子供のポケモントレーナーが泊まると割引の聞く宿の中庭でキモリと一対一。そっぽを向いているキモリに説教でもするのか、という体制、腰に両手を当てて、前かがみになって、すぅっと息を吸う。吐く。
「ねぇモリーアンタは私のこと嫌いだし私もアンタのことがどうしてもカワイイって思えないのでももうユウキくんのミズゴローはヌマクローだしミツルくんのアチャモなんてバシャーモになったって一昨日お父さんからのメールに書いてあったのよなのにアンタだけまだキモリでいいの?」
ノンブレスで一気に言ったのに、緊張感のかけらも漂わない。説教とか、そういうの、苦手だなぁ、とハルカは内心思いながら、その、重いの思い、捨ててしまうわけにもいかなくて、モンスターボールからキモリよりは愛想もよくて、懐いているし、言う事もちゃんと聞いて、さっさとレベルが上がって大変なことになった、一見愛らしいのに強い、エネコを出してみた。
「エネコ、ちょっと、悪いんだけど、バトルしてやってよ」
でもエネコの目、「レベルが違いすぎるから、体当たりでも大変なことになるヨ」おやよりもしっかりしていらっしゃる。それじゃあ、最近捕まえたばかりのズバットにしようかとも思うけれど、ハルカの手持ちのズバットは、夜行性過ぎて、太陽が大嫌いらしく、ホウエンの炎天下に出すと見境ないしにきゅうけつしまくって大変だ。
まったくどうして、三匹しかポケモンを持っていないのに、こんなに個性的な生き物ばかりなのだろうかと、自分を棚に上げて考えて、みたり、して。
「ちょ、痛ッ」
モリーと呼んだからか、それともあからさまにエネコのほうを可愛がっているからプライドが傷ついたか、キモリ、いつものようにはっぱかったー。油断していたハルカはもろに食らって、スパッツとか、上着が少し、いや、かなり、切れた。
切れてしまったのは衣服だけじゃなくて、ハルカの堪忍袋も同時。
ぶじぃっと。
バトルしようぜ☆
「あれ、ごめん、ハルカちゃん、お取り込み中?」
「ユウキくんならいませんよ。今、トウカのお父さんのところに挑みに行ってるんです。勝ったらキンセツに来るって言うから、待ってるんですよ」
言いながらハルカはギジギジとキモリと取っ組み合い、すかさずキモリの足元を払おうとするのだけれど、さすがにキモリもその攻撃は読んでいたのか、ひょいっと飛び、そのまま尻尾を返してハルカの顔を叩いた。げふっ、とハルカがうめく。
「うわぁ、痛そう」
ちっとも同情していない、面白そうな声でダイゴが眉を寄せて気の毒そうな顔をした。それにハルカは腹を立てて、ぼそりと、キモリに「はっぱカッター」とか目で言って見たら、なぜだかキモリが着地と同時にちゃんと、ダイゴに向かって葉っぱカッター。
「うわっ、え、」
運動神経は消して悪くないだろうし、きっとダイゴなら子供一人と猫型ポケモン一匹、+重たい荷物とココドラを引っ付かせたまま幅跳びとかできるような予感がする(なんだろう、この、具体的な予感)のに、油断してたのか、ダイゴさんは面白いくらい見事に、キモリのはっぱかったーを食らってくれた。
「ダイゴさんは、初めてのポケモンって誰でしたか」
「この状況で言うことかい?それ」
いてて、と切れた袖口を見てダイゴは眉を顰めて、それでも、ハルカを見るときにはいつもの、あの、気分の悪くなる笑顔を浮かべていた。
Fin
・尻切れトンボはいなめない。最近ほんっとうにかけないですネ。あー。