「僕は忘れないよ」
数年ぶりにホウエンに戻ってきた親友は昔のままの柔らかな笑みで酷い言葉を吐くような生き物になっていた。けれどミクリは、彼自身も自分がマトモだとは到底思えなかったから、理不尽にダイゴを責める言葉も浮かばずに、いつものように自分の枝毛のチェックをしながら興味なさそうにチラリとダイゴの次の言葉を待ってみた。
「僕は、父が僕にしたことを忘れない」
「忘れられない、のではなくてか」
「忘れないんだ、ミクリ。忘れるものか」
「それじゃあいつまで経っても、親子お互い歩み寄ることはできないじゃないですか」
「そのときの僕をなかったことにして、あのときの僕をいなかったことにしてまで僕は、歩み寄ろうとは思わないし、それは解決になるのかい」
「嫌なことをいいますね」
「ミクリだって、そうだろ」
(僕らはどうしたって自分が一番大切なんだ)

・少年時代のミクリとダイゴ。

 

 


真っ白な思いをそっと隠しておいて

 


「追いかければよかったのに」
凛とした声で言葉をつむいで、その声音のまま真っ直ぐに背筋を伸ばして生きる強い女そのもののシロナは、すれ違う途中テンジにそう呟いた。一瞬、酷く苛立った顔をしたテンジは、次の間にはその顔をいつもの、酷く詰まらなさそうな、怠惰的な表情に戻してぽつりと一言。
「ジムがあんだろ」
っは、女らしくない笑い声をシロナがした。
「今更だわ」
「そうか」
「だいたい、似合わない」
「いいよ、別に」
のらりくらりとやる気なく交わして、テンジはどうこの女を傷つけてやろうかとかそういうことばかり考える事にした。そして思いつく。
「追いかければよかったじゃないか」
「道が違うって、ちゃんとわかってるもの。それだけ」
っは、今度はテンジが嫌にすれた子供のような笑い声を上げた。
「これだから優等生は」
お互いぎこちなくわらってそれで、きっと明日にはお互い挑戦者をただ待つという接点があって、それが全てなのだと気付いてなんだか、おかしくなった。

・テンジとシロナ。ホウエンからやってきたダイゴとハルカを思う二人、だったらいい。