バレンタインダイハル!と言い張る。

 





 

「ハルカちゃん、バレンタインって良いと思わない」
「へぇ、ダイゴさんって普通にスケベだったんですね。まぁそんな予感はしてましたけど、自分からカミングアウトするなんて」

今の会話でどうしてそうなるのか、ダイゴは一瞬いつものハルカの嫌がらせかと思ったけれど、どうやらハルカは本気で言っているようで、で、何だろうと自分の割と広いはずの知識の泉に問い合わせてみたところ、即座にそれらしいめぼしは付いた。早々確か外国のどっかの国のお話だ。バレンタイン伯爵だが侯爵だか知らないがそういう名前の貴族がいて、それで、その貴族領主サマが年貢だかなんだかを上げて領民が苦しんで、その奥方が「アナタちょっとそれやり過ぎやん。下げまひょ、下げまひょ」とか提案したんだけど、旦那様は普通に頑固オヤジで聞いてくれなくて「何言うてまんがない、領民から絞れるだけ絞るんがわてらん役目やろ。ふん、そやなぁ、そない言うんやったら条件出したるで。おみゃあさんが裸一丁で馬ぁ乗り回し町中周ったら考えちゃるよ」という問答。まさかそんなはしたないまねを貴族の、しかも高位の女性がするとは思わなかった領主サマだったけれど、奥様は普通に街の住人に「今から全裸で馬ぁ乗り回して周ります。けれど絶対観ないでね☆」と断って本当にやってしまったとか。町の人間は奥様のその自分たちを思う心に感動して皆窓をしっかり閉めて、奥様は一人颯爽と誰もいない大広間をぐるりぐるりと馬で回ったそうな。

「ハルカちゃって博識なんだねぇ」
「自分が知ってることを前提にそう褒めてるんですか」
「純粋に褒めさせてくれないの?」
「チョコレートならユウキくんとセンリさんとミツルくんにあげました」
「え、ボク誰を締めるべき?」

 にっこりとダイゴが脳裏に抹殺リストを作成しながら問いかければ、ハルカは一言「知りません」と情のない言葉。一応、ダイゴは傷ついたような顔をして見せて、「折角のバレンタインデーなのに、愛しいハルカちゃんからチョコレートも、祝いの言葉ひとつももらえないなんて」としおらしく言ってみたりした。まぁけれどダイゴ自身、貰えるとはかけらも思ってない。もしもらえるとしても、チョコを投げつけられるかもしくは、ハルカが自分用に買ったor作ったチョコレートを強奪するしかない。でも、言ってしまえばダイゴはそれほどチョコレート好きというわけもなし、第一にイベントごとに盛り上がるような性格をしているわけでもなかった。けれど一応、バレンタインだから、それなりの反応をしておいた方が人間らしいかなとか、そういう普通にハルカが聞けば張っ倒されそうなことを考えて、ハルカがフィールドワークに出ている場所で待ち伏せしたりしたわけだ。

 出会い頭にハルカが「やっぱ出やがったよ、コイツ」という顔をしてくれたので、おおむねダイゴは満足していたりもしている。結局のところ、バレンタインだからという理由でハルカが自分に何かしてくれるよりは、バレンタインだからという理由にかこつけて自分が何か行動を起こして、それをハルカちゃんが実はちょっと期待、していようがしていまいが構わないが、そういう予感をしていてくれて、それで、それを自分が叶えられれば良いわけだ。

 けれど、欲を言えば、投げつけられてでもいいからハルカちゃんにチョコレートを貰いたかったなぁ、とか、そういう、ダイゴ自身が認めない本心が彼の中にはほんのちょっぴりと、それこそ底辺にこびりついて離れないカビのような男の心があるのだけれど、そういうものを認められればとっくにツワブキダイゴはマトモな人間になっているわけで、結局彼は天邪鬼、ハルカも天邪鬼のまま、二人はいつもどおり、辛辣な言葉と愛情の篭らない愛の言葉とを交わしながら、ぐだぐだぐだぐだと、ハルカが自分のために作ってきた昼食のサンドイッチを一緒に食べたりするわけだ。

 

(Happy  Valentine day!)

 


Fin

 

・やっぱこうなったか……。うちのサイトのダイハルで恋人同士のイベントなんて無理に決まってる…。(07/2/13 23時54分)