あの日と何も変ってないのは



 

 

 

 

「凄いね、今日も、たくさん殺したんだ」
「何か用でありますか?少尉殿」
事務的な声に、はサラサラと奇妙な笑い声を立てた。そうして、次には左手に持っていた鋭利な刃物をケロロの首筋に押し付けている。と、思えばケロロも反射的に動かした右手での心臓部に銃を突きつけていた。
「大丈夫、じゃないでしょう。ケロロくん」
ことん、とはナイフを床に落として、その手のままにケロロを抱きしめた。
「どうしようもないんでありますよ」
「そうだね」
「そうだよ」
「どうして、わがまま言わないの」
「我輩はとは違うんでありますよ」
「そうだね。でも、だからこそ、君はたくさん本音で語り合わないといけない人がいるじゃないか」
「ダメだよ。ギロロもゼロロも巻き込みたくない」
「でも、大丈夫じゃないでしょう」

 

それしか言えないのかと自分を卑下しながらも、は同じ言葉を呟いた。どうして、どうしてこの本当は誰よりも優しい彼が、こんな所業に巻き込まれなければならないのだろうか。自分、ならまだ理由も判る。という生き物は、そのために生まれてきたのだから、世界を憎む前に、ある程度のあきらめは着く。けれど、けれどこの、仕方がなく優しい彼は、その両親も、先祖にいたるまでも通常のケロン人で、彼だけが常識を逸脱しなければならない理由などはどこにもなかったのだ。

 

ある程度未来の想定が出来て生きてきた自分と、そうとは知らずキラキラと輝いた未来を求めてきた彼とでは、やはりその地獄も違う。それに、それに、あまりこういうことは認めたくはないのだけれど、自分には、やはり特権が与えられている。それはの代用品は、今のところケロン軍の科学力では作れないからであって、もし、のクローンを、このケロロと同じようにいともたやすく出来るのであれば、はもう少しだけケロロのことを理解することができたかもしれない。

 

所詮、同じだといっても、は絶対的に肉体を守られた水の塔に生きる立場で、ケロロは死ねばすぐにコピーに変換される気安さのある立場だ。その差に生じるお互いへの不信感というものは、言葉にはしないまでも、確かにあった。

 

「ねぇ、ケロロくん。ひとを殺すって、どういう感じ?」
「麻痺できるまで殺さないとならないって思ってるであります」
「マヒ?」
「そう、麻痺。我輩は、死ぬ気はないでありますよ。だから、交代させられないように、生きないといけないんであります。でも、殺すのは、正直好きにはなれないんでありますよ」
「バカだなぁ。ケロロくん」

 

好きになんてならなくてもいいし、麻痺なんてしなくてもいいのに。がぎゅっと泣き出しそうなほど眉を寄せて呟くと、ケロロがゲロゲロと笑った。

 

「そうでありますな」
「ガルルくん、呼んできてあげる」
「ゲロ?」
「ギロロくんの様子、知るには一番だし、伝言とか、あるかもしれないし、できるし」
「すまなんだでありますな、どの」
「いいよ、いいんだよ。それにね、安心したかも」
「ゲロ?」
「君は何も変ってない。いつか、いつか麻痺した君を見て今の君の時代を皆は「あの頃」とか言うかもしれないけれどね、でも、ホントはそんなことはないんだね。君は、いつだって、ケロロくんなんだ」

 

 

(差別化して逃げるなんて、そんな浅ましいことはしないでね)

 

 


 

 

・セリフだけで書いてみよう。