あらしのうた

 

 


天魔は地上を駆け、
やがては竜となって昇る。
空を焼き尽くし、
大地を真っ赤な血の色に染め、
一瞬にしてなおかつ永劫の時が終わりを告げる。
そのとき、天魔は闇となって地上に堕ちる。

―――仲路さとる・異戦国史第七章「家康謀反」実行編より


 

 

 

上洛を開始した武田信玄が三方ヶ原で徳川家康と激突した。圧倒的な武田軍の実力を知りつつも、ここで見過ごしては三河武士の沽券に関わると立ち上がり、戦国最強の武田騎馬軍団を相手に勇猛果敢に挑んだ徳川家康は相手の背後を突くつもりが見事に信玄の策に嵌り旧知に追いやられていたのである。
二年前、武田・北条の同盟国に裏切られ主家を失ったはいずれ信玄が何か理由をつけて家康に攻撃をしかけてくるだろうと読み、知己家康を守るために中央砦にて小太刀を振るい家康を浜松城へ逃がそうと奮戦した。
しかし突如乱入してきた北条の乱波・風魔小太郎により状況は一遍。「徳川を飼う」と言う風魔によって家康は配下に下り、武田信玄は小太郎によって葬られた。
今川義元を殺した張本人を前にして、は滾る憎しみを感じたが、徳川家康の命は風魔の手に握られている。逆らえば、また光を失うことになると恐れ、は風魔の傘下に下ったのだった。

「……」
は整った美貌を苦しそうに歪めて、嗚咽を堪えるように唇を噛んだ。苦しいと一言でも漏らせば相手はさぞ愉快になるだろうと解りきっている。その上で悲鳴を上げるなど愚かしいことはない。
「抵抗せぬのか?初めてであろう」
柔らかな布団の上にを組み敷いた男は喉の奥で低く笑うと、そっと意外なほど優しい手つきでの肌を撫でる。ぞくりと背筋に悪寒が走り、こみ上げてきた吐き気は恐怖と屈辱に発狂する一歩手前ゆえのもの。処女であること、悟られたことへの羞恥が沸く。しかし何か反応をすれば相手を喜ばせることになる。まるで根競べのようだとどこかで感じながら、はただ無言で男を見返した。
風魔小太郎――一刻前、家康よりの「主人」になると言い渡された男はが無反応だろうがなんだろうか構うことはない。この行為を続ける理由は何なのか、には解らなかったが、解らなくていいのだとも思う。
どうせ性欲処理か、ただの座興か、それとも仇と狙うを屈服させることで更なる憎しみを増やそうとしているのか。そんな、知りたくもない理由だろう。男の言葉を借りるとすれば「好きな理由を信じればいい」であるから、なら「知らなくていいこと」と信じさせてもらう。
「ッ!!」
下腹部に感じた圧迫感に喉を反らして息を詰めた。まだ指が一本差し込まれただけだが、いまだかつて他人を受け入れたことのない体には指だろうが辛い。
同年代とも、女とも付き合いのなかったであるから、今から自分にされるであろう行為がどういったものなのか正確にはわからない。ただ、幼少の頃はキリスト教徒として育っていた自分に「性行為」というのは子供を作る神聖な儀式であって、それ以外は「強姦」であるという認識はある。
憎しみの対象である男に体を開かれることは屈辱意外の何物でも無い。けれど耐えなければならないのだろうとも同時に思う。
家康がに頭を下げた。「すまぬ」と言って、見ているこちらがいたたまれぬほど辛そうにに「風魔のものになってくれ」と言う。
断れるはずがない。
あの日、義元を失ったにはもう何も残っていなかった。心にあるのは風魔への復讐心。けれど、けれど、復讐がどれほど空しい物なのか、はよく知っている。復讐が更なる復讐を生むことも。だから、義元を愛した心を貫くのであれば、また誰かに仕えて「らしく」生きることが最善だとわかっていた。亡き主君であれば、そう命じただろう。が、「笑って」生きること。それを、望んだ。義元の願いをかなえるのは、の全て。
新しい主人に選んだ家康は、にとって光だ。なぜ家康であったのか、別に適当に決めたわけではない。家康であれば、義元が望んだ「敵も味方もない世界」を作れる。皆が笑顔で過ごせる時代をきっと作ってくれる。そう思えた。だから、その手助けをしたかった。
だから、抵抗などはしない。風魔のものになることで、家康の「望み」を叶えられるのなら、なってやろう。
「くっ、んぅ…んっ…」
質量を増した異物が体内に挿入され、戦場で斬り付けられるのとは全く違う痛みが全身を貫く。ここで舌を噛み切って死んでしまいたかった。だが脳裏に家康の姿が浮かんでしまう。だから、抵抗などはしない。
「はっ…っ…うっ」
この国の人間は潔く死ぬことばかりを考える。はそれが嫌いだった。どんなに惨めでも生き残って、耐えれば望む未来がくるかもしれないのに。耐えれば、それは力になるかもしれないのに。この国の男たちは散ることを良いとばかり考えている。
家康は違った。耐えて、耐えて、耐えた先を見ている。その光のような直向さがは隙だった。かつて仕えた義元も、一途なまでに「和」を望み、争い死ぬことをよしとしなかった。家康と義元は全くの別人であるけれど、は家康の中に義元に見た光を重ねたのだ。
乱波などの傘下に下ること、三河武士の家康が苦痛ではないはずがない。それでも、あの場で降伏しなければ殺されていて、そしてそこで家康の人生は終わっていた。
だからこの茨の道を選んだのだということ、にはよく解っている。それを理解しているのだから、ここでが耐えないわけにはいかないのだ。
だけではない。半蔵も、忠勝も、皆耐えている。皆、耐えているのだから。
「う、ぁ…あっ、くっ!」
「つまらぬ。これでは死体を抱いているのと変わらぬな」
なら離せとは心の中で詰った。つまらぬのなら、飽きたなら離せ。そして、家康に厭きて開放してくれと、願った。
「我がなぜうぬを選んだのかわかるか?うぬのその目だ。我を憎み、噛み付くその目を愉快と思うて抱いているのに、うぬはくだらぬ」
こちらは呼吸もままならないと言うのに、さめざめと語る風魔はを貫いたまま汗一つかかない。それがこの行為が座興でしかないと如実に語っている。屈辱にさらにの心に憎しみが増した。
「風魔をも魅せる瞳を持ちながら、くだらぬ忠誠心とやらに拘って自我を押し殺すのか」
「……それが、だ」
痛みに震えながら、は初めて答えた。なぜ答えたのか、理由は解らない。ただ事実を告げたかった。この男はやたら人を犬だなんだというが、それが人間というもの。そしてという女はどこまでも、他人のためにしか生きられないのだ。矛盾した生き様。自我を押し殺すことが己であるという証明。
馬鹿らしいか。
誰にも必要とされず、邪魔だからと殺されそうになった彼女は、ただ必要とされることを渇望する。それを愚かしいと言うのなら、言えばいい。
それでも、そう生きることがに遺されたものであることに変わりはない。それを否定するのなら、それはを否定すること。
「…くだらぬ、くだらぬ……」
 口を開けばそれしかいえないのか。ぼんやりと痺れた脳で笑って、力の入らぬ指先から熱を感じる。
「うぬは、くだらぬ」
今までとは違う響きを持った声がそう呟き、の意識も薄れていく。うっすらと開いた視界に、無表情の風魔が映った。
なぜだか無性に、馬鹿な男だと見当違いのことを考えていた。

 

 



 

 

 

青い空に雅な鞠が吸い込まれるように上がった。軽い音を立てて、ひとつ、ふたつと数を数えるように堕ちては昇り、昇っては堕ちる。
これは夢だと、は思った。いつぞやの記憶が脳裏に呼び起こされ、レム睡眠に陥っている脳がそれを伝えているのだと。夢でも良い。
懐かしい、御所風造りの庭に義元と幼いがいた。は白い桟敷の上に跪き、眩しいものを見るかのように目を細めて義元を見詰めている。上機嫌に蹴鞠を蹴る義元の口元にも笑みが浮かんでいた。
義元さま。
は声にならぬ声で呼んだ。夢の中の主君に呼びかけても詮無きことだというのに。
義元さま。
呼ばずにはいられなかった。
「蹴鞠はのぅ」
ほっほ、と調子よく体を動かし、義元は幼いに声をかける。
「蹴鞠は和の心じゃ。次へ上手く繋げられるよう少しだけ力を入れてやればよい。強すぎてもいかぬし、弱すぎてもだめでおじゃる」
は何も答えず、ただ義元と蹴鞠を交互に眺めていた。その時自分が何を考えていたのか、ははっきりと覚えている。北条家に不穏な動きありとの知らせが武田信玄より届けられ、共に北条を討ち果たそうと言う誘いが着ていた。
北条も武田も、どちらも今川の盟友。しかし両家の睨み合いは遂に衝突にまで発展しており、今川家はどちらかに味方しなければならないと答えを迫られていた。
考えていたのは、どちらを敵に回すかということ。どちらを敵にするほうが義元の望みを叶えられるのかと、はそれだけを考えていた。昔はそれだけを考えればよかった。

「はい、義元さま」
ぽん、と蹴鞠が義元の手に戻った。途端に思考を中断して顔を上げる。
「…………敵とか、味方とか…最初に言い出したのは誰かの?」
いつものように能天気そうな微笑は浮かんではいなかった。どこか、寂しそうな表情をしている義元を、はじっと見詰めていた。

 

 


 

 


堪えきれぬ悲しみに押しつぶされ、は目を開けた。視界に入った天井は高く、手を伸ばそうとして手首に鎖が嵌められていることに気付いた。どこの飼い犬じゃあるまいし、その前に犬でも鎖ではなくて縄で繋ぐのが常ではないか。では鎖でつながれる己は犬でもなく、何だ。どこかの三首番犬か?あぁ、それは良い。だがどう考えてもそれ以下だろう。自分で考えてやや落ち込む。堂々巡り。
冷たい感触も、感じる体の痛みに比べれば些細なもの。涙を流していた自分をどこか他人のように思う。生理的な涙は情事の最中出しつくした。ならこれは、感情ゆえか。ゆっくりと辺りを伺った。
「………」
まだ日も昇らぬ時刻、となりの男も眠っていた。を腕に抱きこんでいる男は戦場で見た様子とはまた違って見える。刺青ではなかったらしい異形な顔の文様もなく、髪も一つに纏められていて色の事を考えなければ尚更。ただし、眠っていても禍々しいイメージはどうしても拭えない。
ここで寝首でも掻くべきだろうかと、じっと考える。生憎素っ裸なので武器も何もないが、手首の鎖でも使えば首くらいは絞められる。けれど確実に目覚めるだろうし失敗する可能性の方が大きい。
手段を選ばないのは忍びらしいが、は忍びではないし、石橋を叩いて叩き割るほどの慎重派。けれどこの男を殺せば目下の問題が一遍に片付くのではないだろうかという甘美な誘惑があることも確かで。
さてどうしようかと悩んでみる。
そういえば、自分は昨日この男に強姦されたわけで、抵抗はしなかったとはいえ心が激しくこの男を憎んでいるわけだ。大義名分は多くある。私情を挟んでも挟まなくても、やっぱりはこの男を殺すべきなんだろう。
はて、と見れば共に仲良く一つの布団で就寝。
そんな立場ではないだろうと妙に可笑しくなって小さく笑い、起き上がろうとすると男の腕がそれを押し留めた。
起きていたのかとやや驚き。そういえば忍びなのだから熟睡はしないはずだ。よく知る忍びの男とは違い、あまり忍びらしくないこの男にやや忘れかけていた。
狸寝入りだったのかどうかは知らないが、やっぱり寝首を掻くような真似をしなくてよかったと思う。失敗して自分が殺されるのも嫌だし、その咎めを家康が受けるのも嫌だ。
第一今の自分の立場は「風魔のもの」になっているらしい。部下が主を裏切ってはならぬという法律があるわけではないが、むしろ下克上の世の中で気にすることはないのかもしれない。けれどやっぱり「微妙」だ。
体を抱きこまれて風魔を見上げる。体の痛みも、心の傷も全てこの男がつけたもの。憎しむ心は相変わらず中にふつふつと沸き起こっているけれど、良い夢を見た所為か今はそれほど荒々しく蠢いてはいない。その前に、憎んでいるからという理由でこの男を殺すことはないと思う。
「……泣いていた」
無表情というよりは、眠気を堪えたぼんやりとした目で風魔はを見下ろす。答える義理はなく、泣く理由なら心当たりはいくらでもあるだろうと皮肉を告げることもできた。
「良い夢を見ました」
けれど素直に答えるに、風魔も戸惑っていたのが解る。
「……良い夢なら何故泣く」
「過ぎた過去はどれほど良き思い出であっても、目が覚めれば幻、切ないだけでしょう」
言っては目を伏せた。最早夢の中でしか、義元には会えない。その事実が、失ったという実感をもたらし、そしてだからこそ生き続けなければならないと思わされる。
天国や地獄など存在しないと思っている。だから、死ねばただ終わるだけ。死後の世界で義元と会うなどという希望はにはない。ただ生き続けて、心と記憶に生きる義元を思うしか、もうないのだ。
「…まだ早い。お前も寝ろ」
夢を見て泣いた人間にその台詞は酷いのではないかとはため息を吐いた。嫌な男だ、と小さく呟くと「今更だ」といわれた。まぁ、確かにそうだ。



どうやらここは風魔の屋敷らしい。昨日目隠しをされてどこかへ連れてこられたとは思ったが、いきなり組み敷かれたので考える時間がなかったというか。別にここがどこでも状況に変わりはないのだからいいのかもしれない。
体が辛くてあれから寝付けなかったをどう思ったのか、部屋を出て行った風魔が戻ってくるなり朝食の前に風呂に入れと言って今は浴槽にのんびりと浸かっている。
辛うじて空は白ずんできているが、まだ屋敷の中はひっそりと静まっている。けれどまさか風魔が自ら風呂を沸かすとは思えず、忍びの家であるから気配は感じずとも誰か彼かは起きて行動を開始しているのだろう。いや、風魔が風呂焚きをしたのならそれはそれで面白いが。
薬湯なのか白く濁った湯はぬめりがあり気持ちがよかった。戯れにつけられた傷に染みても痛みはなく、むしろ心地よい、細胞が治癒していくのがわかるようだ。ナイス風呂。
「お湯加減は如何です?」
「!!」
気配のしなかった窓の外から明るい女性の声が掛かって、はばしゃんっと水が跳ねるほどに驚いた。
「うふふ、ごめんなさいね。驚かせてしまったみたいで」
ひょっこりと顔を覗かせたのは温和を絵に描いたような中年女性。しかしその顔には刀傷と思われる一本の傷跡が右頬から鼻先まで走っている。風魔の忍び、くノ一か。穏やかではあるが、何か違う。若いころはさぞかし美しかったであろう容貌は、年期が入ってなんだか違うものになっている。言うなれば、花というよりは毒花ラフレシア。毒々しい、風魔の忍びはどこか一癖あるものしかなれないのか。
「い、いえ」
只管風呂に気を緩めていたところにこの登場は心臓に悪かったが、は何とか気を取り直した。思えば自分は部外者で、徳川の人質となっている立場なのだから監視がつくのは当然。慣れぬ環境と昨夜の行為で疲労した体は思考回路まで低下させていたらしい。
「ちなみにそのお湯には秘伝の乳剤が入っておりますのよ。牛の乳で作った液に没薬、万能菊、茴香、乳香などの精油を溶かし込んだものです」
 へぇ、と頷いてはお湯を掬った。まだこの国ではミルクを活用する習慣はなかったと思うが、さすがは忍衆なのか通常ではない習慣で回っているのかもしれない。聞いた薬草はどれも効能は良いと知るものでどういう経緯で調合されたのかは知らないが良い腕の薬師でもいるのだろう。
「疲れているときは本当によく効きますの。それに、冷え性改善にもなるから絶対にこれを使えと頭領が…」
のんびりと解説を続ける女性にうん?と首を傾げる。
「何で冷え性?」
別には冷え性ではない。ただ体温が低く温まりにくいだけだ。それを冷え性というのだが、まぁにその自覚はないのかもしれない。というか、その前に、なんでそんなことを風魔が知ってる?頭領、と聞くとそういえばあの男、立場では半蔵と同じ「お頭」なんだと今更思う。あの人間味のない男が。
「そりゃ、頭領はさまのお体が冷たいのをお気にされているんでしょう?」
当然のようににこにこと告げられ、はカァァアと顔が赤くなるのを悟った。この女性、が昨日風魔に抱かれたことを知っている。別にどんなことをされても気にしないとはいえ、羞恥心をなくせるほどまだ老練ではない。思わず身を隠すようにお湯に浸かった。
「かぁいらしい方」
くすくすと笑う声が今は恥ずかしいことこの上ない。は何とか話題を変えようとしたのだが、生憎上手く口が回らない。戦場では凄まじいほど雄弁に相手を論破できるのに、と恨めしく思う。
「本当は口を効くなと命じられているのよ。でも、貴方が余りに綺麗で、可愛いからつい、ね」
「は、はぁ…」
顔の傷を見る限り忍びのはずなのに、頭領の命令に背いていいのだろうかと疑問が浮かぶ。それを察知したのか、女は続けた。
「本当に口を効いては駄目なのなら私なんかには命じませんよ、頭領は」
ということは、話し相手として最初っから風魔はこの女を選んだということになる。としてはやや不思議だ。なんで自分などに話し相手を与えるのか。がもし逆の立場であれば絶対にこんなことはしない。普通の人質であれば丁重に持て成すだけれど、相手がもし、油断ならない相手で、しかも自分に憎しみを抱いているのなら尚更。監禁でもして情報を一切与えないように孤立させる。
それこそ、世界の檻にでもいれて。
「寂しい思いをさせたくないのよ。昨日の今日でしょう?国許を思って心細くなっていらっしゃるなら尚更。ならここは私みたいなオバさんでも奥方の気晴らしに…」
「は…?」
風魔の意図を探ろうと思考を働かせていたは、何やらここで違和感に気付いた。一瞬日本語を聞き間違えたか?とすら思いなおしてみるがそれはなさそうだ。大体、祖国で暮らしていた頃よりもこっちでの生活の方が長い。今更聞き間違えなど、とそうではなくて。
「あの…わたし、ここでの立場って、どうなってるんでしょう……?」
問いかける声が僅かに震えるのは寒さではない。風呂に浸かって暫く、既に頬は赤く上気しているほど。
「どうって、頭領のお嫁さんでしょう?こんなに綺麗な方を貰うなんて果報者ねぇ」
微笑ましそうに答える女の後半の言葉はの耳には入っていなかった。



「ちょっ、アンタ!どこまで人の人生もてあそべば気が済むんですかぁっ!!」
うわぁぁん、とはこの上なく取り乱しながら風魔に詰め寄った。風呂から上がり一目散に寝ていた寝室に戻ると、やっぱりまだ布団の中にいた風魔をたたき起こしに来た。
「……喧しい」
風魔は眠そうに目を開けて、ほぅ、と感心し呟く。
「…良い眺めだな」
風呂上り、慌てて走って着たのでやや着崩れた寝巻き一枚、さらに上気して色づいた頬、乱れた息。そのが風魔の上に馬乗りになって見下ろしているのを見て上機嫌といったところ。
「知るかそんなこと!!」
べしんっ、と腰に伸びてきた風魔の手を叩き落としては叫ぶ。
「嫁って何ですか嫁って!」
「なんだ、佳代から聞いたのか?」
「説明してください!!」
先ほどの女性は佳代というらしいがそんなこと混乱状態のにはどうでもいい。風呂場で聞いた不愉快な名称は自分の気のせい、または佳代の聞き間違いであってほしいと願ったのに、言った本人は否定してくれなかった。
「説明も何も……うぬは我のものであろう」
本当にコイツ寝起きか?と疑いたくなるほどはっきりとした声音で風魔は答える。
いや、確かに家康から「風魔のものになってくれ」といわれ承諾してここにいるわけだが…それがなぜ嫁という話になる?!
「仕えろとかそういう意味での「もの」じゃ…」
「手下なら足りている」
「じゃあ人質」
「そのようなもの取らずとも家康は歯向かわぬだろう」
それもそうだ、と頷き、はあれ?と風魔を見上げた。いつの間にか体制が逆になっている。
えーっと、とが確認しようと一度瞬きをすると、風魔が心底心配そうに問いかけてきた。
、本当はうつけなのではないか?」
この才色兼備の智将を捕まえてうつけだなんて!何で?!かみつこうとして開けっ放しの襖から佳代の声がかかった。
「頭領、朝食の支度が………あら」
風魔に組み敷かれたと、まぁ、と驚いている佳代の目が合う。
「あら、あらあらあら……あらあらあら」
「ちょっ!え、な、何で閉めるんですか!!?」
の悲鳴もむなしく、ぱたん、と閉じられた襖。廊下を佳代がパタパタと去っていく音が聞こえた。
どこ行くんですかー!と叫びだそうとしたの唇を風魔が容赦なく塞ぐ。息苦しさよりも、昨夜のことを思い出して暖かいはずのの体が震えた。
「……怖いか」
 怖くないはずがない。忘れられがちだが、こちら今川のは知勇兼備の軍師とはいえ普通の女。恐れるななどといわれれば「あ、はいはい」と頷けたかもしれないが、問いかけられれば体は強張る。
その様子を見て風魔が苦笑する。無理やり体を組み敷いた男とは思えぬ気遣いに一瞬唖然とした。
「何もせぬ、先ほどよりはマシになったな。寝ろ」
用件だけさっさと言って、風魔はまたを抱きかかえたまま眠りに入った。朝食の支度が出来たと佳代が知らせたとはいえ、まだ朝食には早すぎる。
この男忍びのくせに惰眠貪りすぎじゃねぇの?は疑問に思ったが、確かに体の痛みはまだ酷く、もう暫く休んでいられるのなら休んでいたかった。



「……」
何でこんなことをしているのだろう、と今更ながらには疑問に思った。
「まず四十七に分けて、そこから三つに分けて編み込め」
の前に背中を向けて座っている男はそんな疑問を感じないのか当然のように下知を出す。反論しようかと何度か口を開きかけるのだが、別にこんなことで一々目くじら立てるのはどうだろうかと思い直し、それを繰り替えるである。
現在、憎い仇の風魔小太郎の髪を編んでいるはふと気付いて手を止めた。
「地毛だったんですか」
どうでもいい事のように思えるが意外だったので思わず声について出た。風魔は何を今更というように振り返って、の頭を指す。
「お前とて同じであろう」
「わたしはこの国の人間ではありませんから当然です。日本人で赤ってどういう色素してるんですか。っていうか、貴方本当に日本の人?」
「知らぬ。人がどうかも解らぬ」
ふぅん、と相槌を打ってはまた大人しく風魔の髪を編み始める。あまり容姿というものに関心がない所為か髪を結うということ事態あまりしない。簪一本で適当にまとめることが精々で、こうして手をかけるのがまさか仇の髪とは予想もしなかった。
「慣れているな」
「いえ、人の髪に触ったのは初めてです」
褒められたが嬉しくはない。慣れていると言うがそれはただ単に器用なだけだ。自慢ではない、事実。器用貧乏とでも言ってくれ。
「背中をさらしている最中に首でも切られるかと思っていたが」
含み笑いをする風魔は言葉ほどに危機感を持っているようには見えなかった。が最初からそんなことはしないと解っているようである。それについてはも何かいうことはない。自分の力ではこの男に適わないことをよく理解しているし、それに、「一応言っておきますけど。わたし、貴方を殺すつもりはありませんよ」と心境を語った。
ほぅ、とそれは意外だったのか風魔が首を傾げた。疑っているのかどうか前を向いてしまって表情が見えないので解らない。
「では義元の敵討ち、せぬと申すのか」
「望んでいませんから。そんなこと」
きっぱりといって、は編み終えた一房に傍らに置いてある留め具に嵌めた。の全ては義元の望みをかなえること。それは今でも変わっていない。
死んでしまった今、義元が何を望むのかは推測でしかないけれど、生き続けるためには推測し続けなければならないのだ。
「それほど義元を想うておるか」
風魔もそれを悟ったようで、やや声を低くして呟いた。普通に考えて、この乱世は憎しみや悲しみが支配しているといってもいい。裏切り裏切られ、復讐がさらなる復讐を生む。その中ではそれを否定した。
「憎しみすら、義元のために消せるものなのか」
「いえ、それは別です」
 馬鹿じゃないですか?と笑う。復讐しないのと、憎まないのは全く別問題。今だって、滾る憎悪はふつふつと沸騰しきっても蒸発はしない。
「……」
「わたしは生まれてから人を憎んだということがなく、なぜ憎しみを消して和解しないのかいつも不思議でした。けれど貴方を憎んで、憎しみとは自らでは消せぬものなのだということを理解しました」
言いながらは風魔の髪を編んでいく。その手つきはただ髪を編むというだけで、感情は込められていない。
「ではどうすれば憎しみは消える?」
振り返らずに風魔が問いかけた。何か今までとは違う感情が僅かに見える声音であったが、あえては風魔の表情を見ようとは思わなかった。見てしまえば何かが変わってしまう。
「聞いてどうするんですか」
は小さく笑った。消す気もない男に教える必要はないと声は言う。風魔もそれ以上は何も言わず、ただ大人しくが髪を編み終えるのを待っていた。
二人とも、無表情であるというのに、緑と青の瞳の奥には僅かばかりの動揺が浮かび上がっていた。



食事を終えると風魔はどこかへ行ってしまって、は「好きに過ごせ」との事。どこまでいい加減なんだと内心呆れなくもないが、まぁとにかく。
はほぅっと一息つきながら縁側でお茶を啜っていた。思えば最近は息をつく暇もないほど忙しかった。以前はよくこうして庭を眺めてのどかに策謀でも練っていたのに。
「……って、のんびりしてる場合じゃないでしょう」
っは、と気付いては首を振った。
乱世は全く終わっていない。織田、上杉、武田、毛利、長宗我部、伊達、島津、徳川などの大大名はこぞって覇権争いの最中だ。
このまま織田信長の優勢は覆らないとしても、当主を失った上杉・武田は変動しどちらかは消えるかもしれない。は両家とは懇意にしていたので謙信の死も信玄の死も悲しかった。信玄は今川にとって裏切り者であったとしても、それでも三方ヶ原にて風魔に殺されたのは本意ではない。そして、謙信に至っては、義元とは違う意味の情を抱いていただけに悲しみも大きい。
「けれど、上杉には兼続どのや慶次どの、それに景勝どのもいる。馬鹿な相続争いなどせず景勝どのが家督を継げば上杉の勢力は代わらないまま安泰でしょう」
うん、と独り言を言っては空を見上げた。武田は終わる。そんな気がした。終わって欲しいという思いがないわけではない。だが武田信玄亡き武田家は烏合の衆。真田家が着いているとはいっても、昌幸ほどの人物なら見限ることもありえるだろう。
「毛利は……元就どのはあの性格ですからねぇ」
ふふ、とは伯母の夫を思い出して笑った。誰も知らないことだが毛利元就の妻・妙とは親類関係にある。というのも、異人だといわれているであるが、半分はこの国の人間なのだ。の母の名を永子と言い、先の天皇の双子の妹で、双子は不吉とされ、しかも女ならば必要がないと永子は見限られた。だが天皇家の血を引く娘を殺せるわけもなく、永子は十五のときにポルトガル行きの船に乗せられて日本を追放された。その後の父であるエーデルワイス公爵の妾となってを出産するのだが、まぁ妙はその永子の妹である。
今川家の使いとして毛利に赴いたとき、妙と会い、あまりにお互いの顔が似ているので不思議に思いが自らの出生を明かして判明したことだった。
話は戻るが、毛利家の今後について、はそれほど危惧はしていない。今の元就は「兵とは所詮捨て駒よ」などというようなオクラだが、それでも最近は妙と子たちに囲まれて何やら考え方が変わってきたようである。天下を望み続けるのもいいが、おそらくいずれ毛利は天下に興味をなくすだろう。
(となれば、いずれ家康さまのために同盟を結んでおく必要がありますね)
今度は言葉に出さずはひっそりと頷いた。
伊達家については言うに及ばず。当主の政宗は野心たっぷりの可愛らしい少年だが、愚かではない。ちゃんと全てを見極めることが出来るとはよく知っているので今の時点では奥州平定を果たすまで急激な動きはしないはず。
(問題は北条家だ)
今回、が今の状態に陥る全ての原因である北条家は関東を拠点とする大名で、その勢力は年々衰えていたはずなのに、どうも風魔小太郎の所為で天下人候補になってしまった。
北条氏康が生前であればこんなことにはならなかったとは思う。初代当主・早雲の再来とまで言われたほどの名君であった氏康とは一度だけだが会ったことがある。異人であるを恐れることなく、まるで血の繋がった孫娘のように接してくれた情と能力のある優れた人物。氏康なら風魔小太郎を巧く扱うこともできただろう。
は脳裏に現在の当主氏政を思い浮かべた。
何が悪いというわけではない。戦のやり方も心得ているし、親族に対しての情も深い良い老人だ。
ただ、ちょっと、なんというか。
「微妙なんですよねぇ」
何が、とは言わずにはため息を吐いた。お茶はすっかり冷えてしまっていて、それをごくりと飲み干してからはとてとてとその場を去った。



好きにしろ、と風魔が言ったのだからがこの屋敷で何をしようとそれはの自由になるように手配されているはずだ。その通り、が屋敷の中をふらふらと歩いていても誰も咎めるものはいなかった。
屋敷に配置されている忍びは佳代だけではないらしく、時折すれ違うと皆に頭を下げて道を譲った。今朝方佳代から「嫁」という物騒な発言を聞いてしまっているだけにとしてはどう反応すればいいのか解らない。
「あ、佳代どの。いいところに」
いい加減散策するのも飽きてきて、は丁度洗濯物を抱えて前から歩いてきた佳代に気付き声をかける。
さま、いかがなさいました?」
「どうも退屈で、洗濯手伝わせていただけませんか?」
本当は風魔一族の書庫でも見つけて読書に励みたかったのだが、探す限りで書斎は見当たらない。忍びの家なのだから隠してあるのだろうかと思うが、まぁさすがに人に聞くのは躊躇われた。部外者が書に触れてはならないこともあるだろう。
「い、いいえ!いけません!さまに下女のような真似をさせるなど…」
「まぁ良いじゃないですか」
慌てふためく佳代などそ知らぬ用には佳代から洗濯物の籠を奪うとさっさと庭に降りた。駿河でも三河でも自分の身の回りのことは全て一人でこなしてきたは家事が嫌いではなかった。
物干し竿を見つけてさっさと干し始めるはどう見ても手馴れている。てきぱきとした動きに佳代は唖然とを眺めてしまった。
の知らないところで話は着々と進んでいるのだけれど、風魔忍軍の間ではは小太郎の妻になる女ということになっている。その世話を言いつけられた佳代を含む忍び一同は当初「え、頭領結婚するの?」と只管驚いた。
何しろ五代目風魔小太郎は、部下の間でも「得たいの知れぬお方」と恐れ敬われていて、どこか人間味のない男なのである。っていうか、同じ人間には見えない。だからいずれ頭領として妻を娶るのだとわかっていても、それは里の忍びであると思われていた。事実何人か、その候補はいたのだけれど、そこに突然の登場である。
と言えば忍である彼らも情報としてその詳細は知っている。今川家の軍師として名を馳せ、絶世の美女と謡われ、今川家亡き後徳川の家臣となった智勇兼備にして玲瓏な花「今川の」と。能力的にも風魔の嫁として申し分ない。だから文句など誰も言わないし、あったとしても恐ろしくて言えないが、問題はそこではない。
頭領が自ら「妻になる」と言ってを連れてきたことである。
女関係にだけは興味がないのか気まぐれに伽の相手を美しい女にさせるだけの頭領が、自分で選んで、しかも「妻になる」とはっきり言った。
そして早朝からたたき起こされて風呂の支度をさせられた佳代は、その時に頭領がやたらの体を気遣うようなことを言っていたのを聞いて、これは確実だと思う。
 間違いなく、絶対、頭領は「」のことが好きなのだろう。愛している、とはちょっと、言いにくい。なんだか似合わない。
 一応誰かに「愉快」以外の興味を抱くことは出来たらしい。これも驚きだ。そして、何よりも「伴侶」を選んで決めたことなどもっと驚愕の事実。今頃風魔忍軍ではこの話題で持ちきり確定。
「春だねぇ…」
「え?あ、そうですか?もう夏ですけど」
思わず呟いた佳代にが不思議そうに空を見上げて首をかしげた。



淡々と前に並べられていく膳を見て、小太郎はどう反応するべきか悩んでいた。出ているものは白飯に味噌汁、香の物、山菜の揚げ物といたって普通の夕食だ。
ただ問題は、白い割烹着を来て椀に白いご飯を盛っているの姿。
傍では佳代の娘でくノ一でもある紗代が困ったように立ち尽くしていた。
「……料理、出来たのか」
「突っ込むところが違うでしょう」
やっと口を開けば即座にがため息を吐いて応答する。
自身もこの奇妙さには気付いていた。なんで、自分が割烹着を着て甲斐甲斐しく風魔の食事を作らねばならないのだろう。
いや、答えは簡単。暇つぶしの延長戦だ。洗濯物を終えて暫くは佳代と談笑していたのだけれど、そこで紗代が夕食の仕込みをするけれど、に好き嫌いはあるかと聞いてきた。普段自分の食べるものは自分でやってきただし、台所を知るのも悪くないと思い今に至る。
「毒でも入れれば良いものを…」
「わたしも食べるんですから、毒など入れてどうするんです」
「風魔と心中でもせぬ限りに勝機はあるまい?」
「貴方、毒効くんですか?」
「効かぬなぁ」
物騒な会話をしながらも風魔の向かい側に腰を下ろし行儀よく正座をする。紗代は別に食べるというのでここには二人分しか膳がなく、しかし未だに紗代が立ち去らないのは頭領が許可を出さないからだ。身を縮めている紗代をちらりとも見ず、風魔は口を開いた。
「もう良い、行け」
「あ、はい!」
てっきり様を台所などに立たせたことで怒りを買うかと思ったのだが、対する頭領の反応は実にさっぱりとしたもので、安堵しながら逃げるように去っていく。はその後姿を眺めてそこまで怯えることか?と逆に不思議に思っていた。
「……」
何もいわず風魔が揚げ物に箸をつける。は「いただきます」とちゃんと挨拶をしてから箸をつけた。揚げ物ではなくて後に天麩羅と呼ばれるものに箸をつける。
別には料理が好きというほどではないし、誰かにそれを振舞ったことはない。その第一号がなんで風魔?とやっぱり不思議に思って首を傾げてしまった。
「不味くはない」
「別にまずくてもいいんですけどね」
言いながらは白飯を口に運んだ。風魔の言うとおり、不味くはない。一般的に、美味というほどには悪くない。

「はい?」
「嫁にならぬか」
「誰が仇と添い遂げるんです?」
にっこりと笑ってはべしんっ、と味噌汁の蓋を投げつけた。風魔は当然のようにそれを受け止めて、自分の傍らに置く。何もなかったかのように再び食事が開始した。
「昼、半蔵に会った」
どうやら風魔は三河に行っていたらしい。家康のところに行って、警戒した半蔵が出てきたのだろうということは考えるまでもない。傘下に下したものの、別に好き勝手今までどおりやらせるつもりの小太郎はその旨でも伝えに行ったのかもしれない。
「殺気を抑えながらな、お前を返せと入ってきたぞ」
「酷いですね、半蔵までわたしを物扱いですか?」
愉快そうに笑う風魔に眉を寄せてため息を吐いた。どうせこの男、散々半蔵をからかってきたに違いない。気の毒な半蔵。自分を心配してくれているのだろうけれど、別に今のところ不自由は…
「あ」
考えてははっとした。
「わたし、家康さまのご命令でここにいるんですよね?でもその間、わたしの仕事って誰がやるんです?」
はこれでも徳川の軍師で、家康の知己、よき相談相手なのだ。軍事にも政治にも明るいの意見を何かと重宝してくれて、必要とされていると実感できるからは嬉しかったし、それなりに愛着もある。
「帰りたいか」
「仕事したいです」
「そうか」
言ったきり風魔は静かに味噌汁を啜る。言うだけ無駄だったか、とが諦め鳥にでも頼んで事後処理の連絡をしようかと思案しはじめる。
「では帰るか。三河にお前の使っていない屋敷があろう?今日そこに手下を入れておいた。明日には住める」
「そういうことは早く言えよ!」
べしんっ、とは杓文字を投げつけた。が、これもやはり当然風魔は受け止めてに返した。ついでに茶碗も渡されて、嫌がらせのように米大盛りにしてやろうかとは思った。
三河の屋敷、とはが家康の家臣となってから貰い受けたそれなりの大きさがある屋敷だが、使用人を雇わなければ管理できないほどの広さを嫌がっては城に一室を貰い住み込んでいた。貰う禄は割りとあるし、兵を養うわけではないなら屋敷を管理するのは充分すぎるほど金子があるのだけれど、人には好みがある。そのため貰ったはいいが使わずそのまま放置されている屋敷となり、なぜか風魔がそれを知っていたようだ。
普通に盛った茶碗を渡して、は首を傾げる。
自分はここにいなくていいのだろうか?
てっきり玩具にされるためにいるのかと思った。三河に戻れるということは、以前のように生活させるということだろう。しかし、それでは家康のあの「風魔のものに」という命令はなんだったのか。
はたっ、とはそこで勘付いた。
「貴方まさか一緒に住むつもりじゃ…」
「くだらぬことを聞くな」
当然なんですか?!確かに屋敷の方は風魔の手下があれこれしているようだから、風魔が住むことは前提なのだろう。だが、それではまるで…
「新婚かよ!」とは流石に自分で言いたくないであった。そうしての波乱万丈人生は幕を開ける。



あとがき
これ書いて、がただ大人しい優等生からちょっとズレたキャラに変わりました。でも、復讐心がないキャラっていうのはいいと思う。風魔への殺意担当は半蔵さんだし。さんはその半蔵さんをみて「別にそこまで嫌がんなくてもよくない?」とか思ってるかもしれない。
半蔵さんはさんラブで、風魔に酷いことされてるんじゃないかとすっごい心配してる。きっと王子様のように救出に行ったりするんだろうな、んで、が「あ、半蔵」って洗濯物干してたりして。妄想。
平成十八年三月十九日