涙が石になるのなら、世界はもっと冷たい

 

 



研究所で出会った緑色のケロン人をじっとながめながら、はおもしろくないと呟いた。突然の、しかも理不尽な言葉にガラスケースの中で眠っているケロン人が反応することはないのだけれど。傍らにいた護衛官が「何か」と声をかけてきた。「これ生きてるの」「えぇ、もちろん。今は細胞を摂取して、精神レベルを計測中ですから、昏睡状態にしてあります」丁寧に説明する護衛官が近くの研究員に目配せをした。すぐに、簡単な資料が届く。手渡されて、眉を寄せた。こんなの、欲しいと誰も一言も言っていないのであるけれど興味を抱かれた、ということで妙な期待が込められる。己は先代ではないのだとは喉まででかかった言葉を飲み込んだ。「いらないよ。こんなの」苛立った声で言えば、護衛官は恐縮したように「はい」と頭を下げてきた。
ガラスケースに近づいて、冷たいケースに触れる。中に入っている液体は、自分がいつも入っている水溶液とは違って危険があるわけではないのだろうけれど、怖いと思った。
こんなに簡単にクローンはできてしまう。(こんなに簡単に)今すぐにガラスケースを叩き割ってやりたかったし、制限のある「我侭」の許容範囲だろうと予想は出来たのに。そっと触れただけで、手に力を込めることはできなかった。(力を込めたところで、割れるような物でもない)気を利かせたらしい護衛官が距離を置いて、離れていた。

 

(ケロロくん)(ケロロくん)(ケロロくん)

 

聞こえない相手に、聞こえないように心の中で呼ぶ。ごぽりごぽりと、水中でも呼吸できるはずのケロン人の口から空気の泡が漏れる。苦しくないのだろうかという疑問を、思うのは自分だけなんだろうか。この小さな世界の中で彼はどんな夢を見ているのだろう。夢をみたことがないから、想像もできなかった。

 

(目が覚めて、ガラスケースの中できみが最初に見る世界はどんな色をしているんだろう)

 

 



Fin



最近スランプというか書けない状態なのでSSにしてみました。はケロロにシンパシーを感じていればいいと思います。
(06/9/20 3時31分)