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みなさんこんにちはだか、こんばんはだか、それはどうでもいいです。です。誕生日はまだなので16歳、花の女子高校生です。祖母がドイツ人だったりしますが、それは今は全く関係ありません

さて、
わたしの大好きなノリコがある日突然ばっさりと消えてしまったので、か弱いわたし途方にくれ、とりあえず探そうと
プラスチック爆弾なんぞこしらえ、爆死しかけてみました。

ちょっと遣り過ぎかな☆とか、正直思わなくもないんですが、けれど人生思い立ったらアグレッシブに突っ込んで
玉砕、あ、骨はノリコが拾ってね、がわたしの心情だからいいんですよ。

「………あら、まァ」

さてそのわたし、伊原16歳。現在妙な場所にいます。

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

「わたしがいたところは味気ない、犬も散歩でマーキングしないようなつまらない道の電柱前だったはずなんですけどね」

どちらかというとはファンタジーは好きな方で、日本のファンタジーで一番好きなのは神/崎一先生の異邦人シリーズだったりするわたしなんですが、今のこの状況には唖然とする。

とりあえず今現在がいるのは、一千一夜物語に出てくるような豪華な絨毯やクッションを敷き詰めた部屋。窓は大きく中庭が見え景色が素晴らしい。気になったのは気候で、ドイツのものとも日本のものとも違う。日本に来て最初に驚いたのは湿度の高さ。母がピアノ教室を開いているのだけれど、ドイツとは音が変わると嘆いていたのを思い出す。この場所は少し乾いいていて、気温は日本の春より暖かいくらいだろうか。

日本、とわけている時点ではここが「別の場所・あるいは別の国」とそう意識の中でわけていた。

……いや、普通に考えてこのアラビアじみた場所が
日本だったらそれはそれで笑うのだけど。

「……とりあえず、壁、壁っと」

きょろきょろとは周囲を見渡して一番近い壁に近づく。

 

 

 

そしておもむろに頭を打ちつけてみた。

 

 

 

 

「…………よしっ、痛い」

別にMではない。

いや、ただ、とりあえず夜の路地から突然太陽明るい燦々とした場所(それも異国情緒溢れる場所)に風景が変わったら「え、夢?」と疑ってみるべきだろう。あと考えたくはないが、自分は死んだということもありえる。爆死が死因というのは中々面白い死に方ではあるのだが、死ぬのが目的ではなかったので、痛みがあることにほっとする。

死んだことはないのでわからないが、まさか死後の世界に痛みはないだろう。…多分。

『×××××』
「うん?」

ごんごん、と打ち付けて納得すると背後からため息交じりのような、声が聞こえた。

「……おや、まぁ」

振り返って見ては驚く。いつのまにいたのかが頭を打ちつけた場所とは反対側に背のスラっとした黒髪の男性が立っているではないか。

「あ、どうも。
お邪魔してます

ぺこり、とは頭を下げてみる。

『××、××××』

男性はまるで感情の篭らぬ目を真っ直ぐにこちらに向けてくる。その形の美しいとしか表現しようがない唇からもれる言葉はには聞いたことのないものだ。

一応日本語とドイツ語、それにどこでもたいてい通じる英語と中国語では「この言葉はわかりますか?」と問うてみたが、相手の男性は眉を潜めるばかりである。だがこちらが言語を変えて接触を試みているというのは伝わったのか、男性もあれこれとニュアンス・発音を変えた言葉を出してくる。

『……』
「……あ、今絶対同じこと考えた」

そうして暫くして、男性がため息を吐いたのでは「言葉が通じない」と諦めたことを悟った。

は四ヶ国語でお手上げだったが、この男性はあれこれとよくもまぁ多く出てくるものと感心したほどだ。しかしそのどれも聞いたことがない。なんだかは自分の方に比があるようで申し訳なくなったが、最大奥義である「ラブアンドピース」も通じなかったので諦めてはいた。

『×××、××××、××××××』
「いえ、あの、ですから何言っているのかわからないんですよ」

こちらを一瞥し、何か言ってくる男性に眉を寄せては手をぱたぱたと振ってみる。しかし男性は通人ことはわかっているとでも言いたげな顔をしてパン、と手を叩いた。

『×××××、×××、××××』
『××、××××××××××』

すると廊下?に繋がるだろう場所から二人ほど人が新たにやってくる。は顔を引き攣らせた。

 

どう見ても通訳さんではない

 

どちらかといえば、兵士か何かか?

「これは…あれ?明らかに不審者なわたしを捕獲的な?」

多分この予想は間違っていないだろうとは頷いた。そしてなにやら男性に命じられて怖い顔になっていく二人の兵士はガチャリ、と手に持った槍のようなものを構えて(銃刀法違反とか言っても無駄ですよね、多分)こちらに近づいてくる。

「いやいやいやいや、
待ってください。落ち着いてください。わたしは確かに怪しい者にしか見えないでしょうし不法侵入ですから捕まる理由はあると思うんですけど、とにかくお願いですからわたしに現状を把握する時間を下さいお願いしますマジでプリーズ」

No!と(ドイツより妙に英語が出るのは日本のバラエティの影響だと思う)主張するように両手を前に出すけれど、兵士二人が怯む様子はない。抵抗すると、多分怪我をするだろう。それは確実だった。

は焦った。

自分がしたかったのは妙な場所に飛ぶことではなくて、ノリコに会うことだ。明らかに「何か」が起きたというのに、目的にまるで触れられない。

自分が爆発によりこの妙な場所に来たのなら、ノリコにも同じことが起きた可能性はないだろうか?
ふと、の頭にそれが思い浮かんだ。

きっ、とは兵士二人を睨みつけて大声で叫ぶ。

「ノリコ…!!!きみたちノリコにも同じことしてないでしょうね!!!っていうかしてたら泣かすよ!蹴るよ!いろんな意味で後悔するよ!!
『×××』

とりあえず制服のポケットに手を突っ込み痴漢撃退用に常に持たされているスプレーを取り出し男たちに突き出した。鋭利さもないもので当然怯む彼らではなかった。それなら泣かすのみ!とがスプレーに指をかけようとした途端、背後で捕り物劇を観察していた男が待ったをかけるように短く声をかけた。

それでぴたり、と男たちの動きが止まる。

『××××××、××××××、ノリコ?』
「……今ノリコって言った?」

どうしたのかとが首をかしげていると男がなにやら呟き、そして最後ににもわかる単語が出てきた。単語、というより人名である。

『ノリコ×××××××××、×××?』
「いや、だからノリコっていうのは通じるんですけどそれ以外が無理です」

がパタパタと手を振ると、男は少し考え込むようにし、一度眉を寄せそして兵たちに「下がれ」というように手を振った。

『××××××ラチェフ××』
『××××××?』
『×××、ラチェフ××』

兵の一人が何か納得のいかなそうな顔をし、何か言ったがやはりには聞き取れぬ。しかし再度男が何か言えば顔を恐怖に引きつらせ、冷や汗のようなものを流しながらそそくさと部屋を出て行く。

同じ単語が聞こえた、とぼんやりは思う。それでこれから次は何が起こるのだと警戒しようと思ったのだが、一応こんな自分でも緊張していたらしい。武器を持った男たちが部屋から出て行った途端、すとん、と腰が抜けた。

『×××?』

突然座り込んだを不審に思ったのだろう。男が僅かに首を傾けてくる。これは「どうした?」とでも聞かれていると解釈できよう。は軽く笑い手をパタパタと振った。

「ちょっと腰が抜けただけです。普段はこんなに怖がりじゃないんですけどね」

まだ緊張を解くには早いとわかっているが、こればかりは仕方ない。にへらと笑っていると男が眉を寄せた。それで再び考え込むようにしてから、こちらに歩み寄り、そして片膝をついて目線の高さをこちらに合わせようとしてくる。

なんだろう、とが思っていると男はまず自分を指でさし「ラチェフ」とはっきり告げる。そして次にを指差し「ノリコ?」と問うようなニュアンスだ。

「ラチェフ?」
『××』
「あ、名前!」

ノリコ、というのはこちらの言葉の可能性もあったが、こうして男自身を指し何か言ってからの問いである。人名であると知らせているのだとにも判った。それでぽんと手を叩いてからフルフルと首を降る。

「違う違う、わたし、

ノリコは友人だ、とそういおうとしたが、ここでノリコの人名が「答えの言葉」の中に入っていたら混乱させる恐れがある。それでは首を振り違うのだという意思を表示してから「」と再度答える。

そして男、おそらくはラチェフという名前だろう男を指差し「ラチェフ」と言ってから「」と己を指す。

『×××…』
「あ、今違うのか、とかそういうがっかりニュアンス?ねぇそれはわたしに対して何か失礼じゃありませんか?」

自分はノリコではない、というのが伝わったのだろう。ラチェフが眉を寄せ立ち上がる。

どういう意味だと突っ込みはしたが、やはり通じない。立ち上がり再度兵をよばれてはかなわないのではぐいっとラチェフの長い服の裾を引っ張った。やはりアラビナンナイトに出てくるような服である。先ほどの兵士の格好や男の格好は見られたのだが、ここでは女性はどういう格好をするのだろうかと、そんなことをふと考えた。

『××……』
『待テ』
『……×××…』

先ほど兵士の動きを止めたラチェフの単語を拾い口に出してみる。すると聊か不快そうな顔をされた。

まぁ、確かに権力者らしい人間が兵士に制止を求めた単語であるので命令形なんだろうとは思う。そして何となく偉い人間っぽい雰囲気のあるラチェフがいきなりそんなことを女の子に言われたら、それは嫌だろうとは思うが、他に単語を知らないのだから仕方ない。

はなせ、とばかりに強く払われは手を離す。しかしここで負けてはノリコ捜索どころではない。何より、この男はノリコを人名として使った。ラチェフなんて日本人気配の欠片もしない名前を使っている人間から、どう考えても日本圏だろう人名を出された。これで「ノリコ=典子」を結び付けないほどは鈍感ではない。

「待ってよラチェフ!!きみ、ノリコを知ってるんでしょう!!今どこ何してるのなんできみが知ってるの!!!!ノリコはどこ!!」

再度ぐいっとは服の裾を掴み一気にまくし立てる。

『×××』

しかしそういう必死のの訴えにも表情一つ動かさずラチェフは冷たく言い放った。今のは何となくわかる。『黙れ』とかそういう言葉だ。

はっきりと単語がわからなくとスパッと切るように言われは少しばかり傷ついた。これで直接わかる単語で言われたらどれだけ傷つくわたしの心!などと言うことは欠片も思わないが、しかし、まぁ、思うことはある。

いまだ少しばかり緊張の解けぬ体を何とか奮い立たせて、は立ち上がると真っ直ぐにラチェフをにらみつけた。

「教えてくれたっていいじゃない!このケチ!!!ハゲ!!」
『××××××、×××ノリコ、×××』
「だから所々ノリコ言うから気になるんでしょ!
何きみノリコのファン!?それともストーカー!?っていうかここにノリコの情報があるのは間違いないんだから…だから…とにかく、誰か通訳いないの!!」

普通に考えているわけはないのだが、とりあえず叫ぶ分にはタダである。

が必死になるとラチェフはますます嫌そうな顔になる。女のヒステリックな声が嫌なのだろうとわかるが(まぁ、好きな男というのはいないだろう)しかし、にも意地がある。涙が出てこないわけではないが、そんなもの流す余裕があるのならわかる単語を探すほうに気力を使う。

「何か言ってよ!じゃないと何もわからないでしょ!」
『ラチェフ様を怒鳴る娘というのは珍しい。恐れを知らぬと見えますな』
「……って、はい?!」

自分でもどうすればいいのかますますわからなくなってきたの耳、というよりも、頭の中に唐突にしわがれた老人の声が響く。

「……!?」
『××××××?ゴーリヤ』
『えぇ。そのようですな。ラチェフ様』

驚き、が声を詰まらせていると部屋の隅にある扉がゆっくりと開いて腰の曲がった、というより曲がりかけた老人が姿を現す。

美形の次は枯れたおじいさんだ、と呟けば老人がこちらを見つめてくる。

「……ひょっとして聞こえた?」
『もちろん。わたしは心に話しかけておりますからな』
「うわ、そんなファンタジーな…」

確かに心の言葉というのは言語がないとかそんな本を読んだことはあるが、心で会話というのを実際経験してみると、はっきり言って何だか居心地が悪い。

「わたしも心で話した方がいいんですよね?やっぱり」
『どちらでも同じでしょう。心の声と言葉が一致しているのも珍しいものですがな』
「それは遠まわしにバカにされていると…?」

思っていることと口に出す言葉が一緒というのはあれか?何も考えてないということだろうか?

は色々思うことはあったが、とりあえずここで言葉が通じる(?)人間の登場に喜んだ。

「でも助かりました。さっきからのこのお兄さんノリコの名前は言うのに何言ってるのかわからないんですよ。おじいさん、このお兄さんにノリコのことご存知かどうか聞いてもらってもいいですか?」
『まずこちらから聞くが、ノリコというのは何者だ?』
「わたしの友達です」

きっぱりと答えると、老人が『そうではない』と首を降る。そして何か問おうと口にしかけるが、それを黙って聞いていたラチェフが口を挟んだ。

『××××××』
『ラチェフ様が、お前はどこから来たのかとお尋ねになられた』
「あ、そっか。そっちのお兄さんはわたしが突然ここに来たのを見てたんですね」

別に衝撃も何も無く、気付けばぽん、とクッションの上に落下していたである。それをしっかり見ていて「降ってきた」と見たのだろうか。はきょろきょろと天井を見渡し吹き抜けになっていないことを確認してから目を閉じる。

「わたしはわたしの友達のノリコが突然消えてしまって、どうしても探したくてノリコが消えた方法と同じことをしてみたの。そうしたら、ここにいました」

頭の中で道路、そしてプラスチック爆弾で自爆してみたシーンを思い浮かべると老人にもおぼろげながら伝わったのか『これは…』と妙な顔をされた。

『チモで移動した…というわけでもなさそうですな。ラチェフ様』
『××××××』
『××××××××××××』

最初の台詞はにもわかるように頭の中で伝わったが、ラチェフが何か言うとすぐに老人は心の会話ではなく直接の言葉に切り替えた。これではには判らない。

というか、チモって何?
移動ということは、自転車や車的な移動手段だろうか。

二人は何かあれこれと話をしている。といってラチェフが多弁なわけではない。あれこれ老人が何か言うのを受け答えている。その表情は完全なポカーフェイスでの位置から顔は見えるが一体何を考えているのかはさっぱりわからない。


「なぁに?」

一区切りついたのか、唐突にラチェフがこちらに視線を向けてくる。通じぬとわかりつつは返事をしラチェフを見つめ返した。

『ラチェフ様のお慈悲に感謝するのだな、。暫くお前さんを傍においてくださるそうだ』
「いや、この人と付き合いないけど
慈悲のあるキャラじゃないですよね、絶対

一連のやり取りは全く判らなかったが、「行き場のない可愛そうな女の子を預かる」とかそういう流れになる様子は欠片もなかったと思う。

どうせ心の中で突っ込んでもこの老人にはバレるとわかっているので正直に突っ込みを入れると、老人が一瞬沈黙した。

『…とにかく、身分もわからぬお前さんを放り出さず面倒を見るというのだからありがたいと思え』
「うん、それは普通に感謝したい」

素直には頷いた。この老人にははっきりと日本というこことは少し違う場所のイメージを伝えたのだ。頭もよさそうなのでこれでが「どこかから」か「来た」というのは理解してもらえたと思う。それでも「不審人物」と言ってしまえばそれまでの自分を置いてくれるというのだから、には正直ありがたい。

話は済んだのでさっさとどこかへ行こうとするラチェフを追いかけ、は再び服の裾を引っ張った。

『×××』
「ありがとう、ラチェフ」

多分「何をする」とか「何だ」とか、そういう不機嫌な単語だろう。ニュアンスでわかったがとりあえずは気にしない方向にして素直にお礼を言った。一瞬ラチェフの顔が不快そうに揺れる。

『ゴーリヤ、×××?』

そしてから顔を話さぬまま老人の名前だろうものを呼び、何かを問う。こちらが何と言っているのか聞いているのだろうか。はにこにことした顔のまま首を傾げ「ありがとうって言ったんですよ」と答える。通じぬのはわかっているが、言うのはタダだ。

こほん、とゴーリヤとよばれた老人が咳払いをし、短く何かを答える。ラチェフの眉が軽く跳ねた。そして聊か乱暴にの手を払い、何か小さく吐き捨てるように呟くとそのままカツカツと靴音を鳴らして去っていってしまった。

「お礼を言って不機嫌になられたの、初めてだよ」

おや、とは肩を竦めてゴーリヤを振り返る。
老人は何かいいたそうな顔をしたあと、ついて来い、とばかりに背を向けた。

「なぁに?」
『うろつかれても困る。お前さんにはドロスのいない間チモの世話をしてもらおう』
…だから、チモって何?

最もな疑問を口に出しつつ、しかしゴーリヤは答えてはくれなかった。




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(2010/11/22 21:44)