雲のない午後には
白い鉄パイプの柵を越える気は一向に起きず、だから、というわけではないのだけれど一層の退廃的さを持って高杉晋助は、仕方なく持参した弁当箱を広げている、と、ギィコギィコと、屋上の扉が開いた。給水タンクの上にいる、高杉は端を口にくわえながら、じぃっと、扉を見下ろす。誰か、入ってきた、らしい。けれど、その頭は中々現れない。まだ、入り口に立って、外に誰かいないかを見張っているのだろうか。
「、」
その、見えた旋毛に覚えがあって、高杉が声を上げかける、が、箸が口に入っているので、上手く声が出ない。一度、諦めて止めて、声をかけようとした。
入ってきたのは、久坂である。高杉と同じクラスの、しかし話したことはないが、話さないでいる理由にはならないと思った。
ごほ、ごほっと、咳が聞こえる。
「だから、あんま無茶すんなっつってんだろーが……」
もう一人、やってきた。
すくっと、長い腕を伸ばして、屋上の入り口に立っている久坂を引き寄せる。久坂は細い体がゆっくりとそちらに倒れていくのに悲鳴一つ上げず、むしろ、当然というように、身を任せていた。
「頼むから大人しくしてろよ、。こんな寒いトコにお前連れてきて、発作でも起きたらどーすんだ。銀さん責任とれねぇよ」
銀八だ。高杉のクラスの担任、ではないが、隣のクラスの、それでも、国語の授業では会うこともある、やる気のない、教師である。いつも死んだ魚よりも活きの悪い目をしていて、糖分とかいうふざけたスローガンを掲げている、教師が大事そうにを抱きしめた。
(なんだ、これ)
久坂が、体育の時間に怪我をしたのは聞いていた。あまり体が丈夫ではないらしく、あまり体育には出ないのに、なぜだか、今日に限って参加したのだと、久坂の体育着姿はレアだなんだと、クラスの男子が騒いでいたので覚えている。
別に、高杉と久坂は友達でもなんでもない。
ただ、いつも高杉が保健室にサボりに行くと、久坂が必ず隣のベッドで寝ていて、その青白い寝顔を、いつも高杉は見ていた、それくらいだ。その、白い顔に影を落とす長い睫毛が好きだったとか、その、目が開いたらどう、見えるのかとか、考えて時間を過ごすのが、別段嫌いではなかったのだけれど。
「あんまり、心配かけんなよ」
ぽん、ぽん、と、銀八が普段のあの、やる気のない態度からは想像も付かないほど優しい手つきと声で久坂の頭を撫でた。
久坂は安心したように息を吐いて銀八の肩にもたれかかる。その顔はよく見えないが、きっと、高杉がいつも見ていた、あの青白い顔ではなくてきっと、もっと違う、色をしているのだろうと、思えば、なぜか、ギリギリと歯の奥が鳴った。
(なんだ、これ)
Fin
私が聞きたい、なんだ、これ。
突然書きたくなったんです。3Z編。でも高杉さん違うクラス?修羅シリーズのヒロイン設定なので、銀さんとはそういう関係じゃありません、兄妹設定です。
3Zは…なんか、絶対に本編のような悲しい展開にはならずに済むって言う安心感がありますよね。一応学園モノだから、攘夷とか、幕府とか、殺し合いとか、ないからいい。精々が暴走族で、高杉さんも絶対に死ぬことはないって、思うと、切ないのか、嬉しいのか、疑問だ。(07/6/30 1時25分)
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