泣いているの?

 

 

 

 




ひとの声を聞きながらそれを騒々しいと感じる一方で焦がれた幼い日のことを覚えている。切ない慕情、もてあましながらも不器用に手を伸ばそうとして、それで。

 

「ゾルルくん、どうしたの」

 

思考にふけっていた耳に、少し高い声がかかった。意識を現実世界に呼び戻し、いつの間にか自分の顔をしたから覗き込んでいる白いケロン人に視点を合わせる。ふわふわとした青い髪に大きな黒い目。小さな顔に遠距離飛行用の分厚いゴーグルをかけているところを見ると、リヴァリープールを浸かってこちらに来たのだろう。

 

「マリ、ア……どう…した」

 

本来は“水の塔”から出てはならないはずの智天使が、いくらの気安い性格があるとはいえそう簡単に自分のところにこれるわけがない。しかも今は自分の責任を果たそうと思っているが、その誓いを破ってまでこちらに来るのは、何か理由があるはずだ。の身に何か起きたのなら、ゾルルは何だって手を貸してやるつもりで、そう問いかけた。

 

はじぃっと暫くゾルルの仄暗い瞳を見つめる。居心地が悪い思いがした。殺戮しか能のない、壊れた自分が、奇跡のように綺麗なの目に映るなんて。の目は星を散りばめた夜の空に似ている。夜の闇はゾルルの領分ではあったけれど、そこに微かに、絶対的に存在する光は、ゾルルの所業を照らし出すだけでしかない。

 

見上げるが、掴んでいる掌はゾルルの冷たい金属部分に僅かな温もりを与えていて、そしての僅かな体温を奪っている。ゾルルは、自分の吐いた息をが吸って穢れないように、息を止めた。そっと、の小さな手が、ゾルルの頬に触れる。

 

 

「うん、ゾルルくん、呼んだ?」

 

 



Fin

 



はゾルルの声が聞こえればいい。ゾルルも、の声が聞こえると思う。