どういう原理か、その黄色い蛙の傍にいると上手く呼吸が出来た。
同じ軍人だからというだけの理由なら、他の緑とか赤とかも当てはまるだろうに、それはなくて。
だから他の理由なんだと突きつけられるんだ。
尾っぽがはえるまで息を止めて!
西澤邸にて唯一質素と言える何もない白いだけの部屋に、普段は家具や調度品など一切ない無機質な空間に、現在は文明の利器・ノート型PCが一台カタカタと小さな音を立てて存在を主張していた。壁に寄りかかったは黒真珠のような瞳でじっとパソコンを抱える黄色い蛙を見詰める。
「ねぇ、クルルくん」
敵型宇宙人・ケロン星人の電磁マニアはどういうわけか、彼の本拠地クルルラボのある日向家ではなくて何もないの部屋に毎日飽きもせずにやってきては部屋の主を構うわけでもなく一人(一匹?)でパソコンに向かっている。なにか用があってやってくるのならわかるのに、一体彼が何をしたいのかには理解不明だ。
名前を呼んで見ると「ん?」と一応返事は返ってくるが視線はこちらには向かない。
「ボクがケロン人になる方法って知ってる?」
「クーッククック、さっきから黙ってンな下らねェこと考えてたのかよ」
自他共に認める他人を心底見下した笑い声には嬉しくなる。実際、この曹長の思考回路など所詮ニンゲン、種族の違う自分に解るわけはないのだけれど、こうして、自分の言葉に何らかの反応をしてくれるのがどうしようもなく嬉しい。(あぁ、まるで乙女みたいな初々しさ)
苦笑して、片目しかない目を閉じて、小さく息を吐く。
「本気で言ってるんだけどなぁ。あのね、シナプスの結合量の理論までは思いつくんだ」
はクルルがポコペン人で唯一賞賛に値する頭脳を持っているといってくれるから、それに恥じないだけの頭脳を持って誰も作り出せなかった発明をしようという意地もある。しかし12歳の小娘がどんなに試行錯誤を重ねたところで、完成する薬は蛙にはなれても宇宙人にはなれない。
「バッカじゃねェの?大体ケロン人になってどーすんだよ。今以上に引きこもるのか?あ?」
ただでさえ学校にも行かず、一日中部屋に閉じこもってばかり。時たま、タママの空間移動を利用して外出をする以外、そういえば太陽を見た記憶もなかった。
でも、それはこの黄色い眼鏡男も一緒じゃないか。思い立っては苦笑する。駆け引きなど自分にはできない。正直に言っても、彼は信じないだろうけれど、どうして嘘をつく必要があるの?
「どうすればキミと離れないでずっと一緒にいられるのか考えてたんだ」
心の底から、大切な宝石を掬い上げて差し出すように告げるのに、相手は何の反応もしなかった。視線さえ、こちらを向けてはくれない。あぁ、そんなもんだよね。期待などしていないので傷つく身勝手さなどなかった。
「くだらねェなァ。そーゆーの、ペコポンじゃ“現実逃避”っつーんだろ?俺を逃げ道にするたぁイイ度胸じゃねェか」
「ボクが地球の生活が嫌いだと思ってるのはキミの勝手だけど、現実逃避ならさっさと自殺するよ、ボクはね」
相手が黙ったのを確認しては立ち上がる。長すぎる髪が床を掃いた。西島家のメイドたちの出入りも嫌うの部屋は自主的に掃除するしかないので少々埃が溜まっている。
「キミにはどうでもいいことだろうね、クルルくん。でもね、ボクにはとても重要なことなんだよ。どうせキミは全てが終わったらさっさと消えてしまうから、少なくとも残りの時間をキミと近い場所で過ごしたいって思うのはくだらないことだろうけどね」
「あぁ、くだらないねェ。それじゃあまるでテメェは俺サマに惚れてるみたいだぜ?くっくっく」
「あはは、悪い冗談だ。そんなことはないよ」
調子を取り戻しかけていた相手を再び突き落として、扉に手をかける。ボクがクルルくんに惚れている?そんなことはありえない。
「ボクはキミに恋してるだけなんだから」
「待てよ、」
「なに?クルルくん」
「本気で言ってんのか」
「ボクはいつだって本気だよ」
「バッカじゃねェの」
本日何度目かの罵倒を聞いた。今度はがクルルから視線を外す。
「俺は宇宙人なんだゼ?侵略者だってわかってんのかよ。オマエが俺をどう思ってんのか知りたくもねェが、こう見えていくつも星を消してきたんだぜ?」
「そうだね。それでもキミの傍にいると息が上手く出来るんだよ」
にっこりとは笑った。
「それだけなんだ」
「くだらねぇ、それだけで、ニンゲン止めていいっつーのかよ。バカじゃねェの?」
(生き物は酸素がなければ生きていけません)
FIN
まだ、がケロン人だっていう設定になる前に書いたヤツ。
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