(おっかないヤツ)

本気でそう思っているのか、思っていないのか、先ほど自分に向けられた殺気のような、奇妙な視線を思い出し、銀時はひょうひょうと、廊下を歩く。小さい、小さいといわれていても久坂薬局は普通の民家よりは広い。厠も二つはあった。

それで、銀時は宣言どおり厠で用を足してから、やっぱり、これも予想されたとおり、台所へ寄った。
山崎と銀時、それに自分の分の食事を作っているらしい、の背中は台所に入って直ぐに目に留まる。

「銀時さん、もうすぐ出来ますから、」

丁度振り返ったときに、台所に入ってきた銀時と目が合って、はさして驚いた様子もなく言う。きっと、銀時が来るのではないかと、想像していたのだろうと、銀時も思い、ごくごく自然に、台所で働くの姿を眺めるように、椅子に座る。
台所にある机は、椅子が二つが備わっているもので、朝食はここで食べているのかもしれない。

「あのさ、

パタパタ、動くの長い髪を眺めながら、銀時はだるそうな声を出した。

「はい?」
「銀さんすっげぇ疑問。何、お前普通に台所に立ってるけど……料理できたっけか?」

銀時の知る限り、に料理の素質は皆無である。常識は知っていても、いらんことをよく知っているせいかごくごく普通な調理をしない。
まさか、自分の知らない数年間の間に料理がまともに出来るように進化したのだろうか、とありえないことを想像してみる。進化、できるようなレベルではないのだ。あれは。

は一瞬キョトン、として、そしてッフ、と微笑した。

「春はうどん、夏はそうめん、秋はそば、冬はほうとう……山葵とネギがあればそれで十分でしょう」
「いやいやいや、米食えよ」

何哀愁漂いながら言ってんの?全然かっこよくねぇぞ、それ、情けないだけだがら、と銀時が突っ込めば、「その情けないわたしに食事たかりにきた貴方に言われたくはありません」とぴしゃり、と言う。まぁ、確かに、そうだ。

「なぁ、ぁ」

トン、トン、トトン、とがまな板の上でネギを切る。生姜を切る、その音が、階段を駆け上がる子供の足音のようだと、思った。

「お前、ジミーの素性知ってて雇っただろ」

その、トント、トトントン、の音に変わりはない。リズム良く、響く。

「えぇ、まぁ」

ぐつぐつと鍋のなかでそうめんが茹でられていく。あっさり肯定したに毒気を抜かれつつ、銀時は壁に寄りかかったまま、染み一つない、天井を見上げた。

「何考えてんの、おにーちゃんちょー心配」
「いい年した大人がちょーとか言わないでください」
「えー、ほら、銀さん心は永遠の中二の夏だから」
「中だるみの時期ですね」

と、そうではない、話題がズレていると、銀時は自分でずらしておいて、突っ込んだ。


「はい」
「ジミー君、気に入ってんの?」
「えぇ、まぁ」

先ほどと、同じ回答だ。けれど、そうか、と、銀時は頷いた。そっか、うん、そうか、と何度も、呟いて、それで、立ち上がる。

「銀時さん?」
「んー、帰るわ。なんか、安心したし」

大きく伸びをして、銀時はステン、と庭に下りた。
まぁ、のことだ、いろんなことを、きっと、いろいろ、上手くやるんだろう。そういうところが、銀時は好きだった。は、変なところで頑固で、不器用、だけれど、そういう、ところは、器用だから。(つまり、自覚のない、好意と好意に対しては、失敗しないとか、そういうことだ)
まぁ、うん、大丈夫なんだろうと、安心した。

真選組が、のことを探っている。けれど、は完全に、白だ。銀時が聞いた限りでは、白だ。
なら、きっと、の望みどおり「幸せ」になれるだろう。そう、思った。

「なぁ、

ステステ、歩いて暫く、銀時は、きっと自分を見送っているだろうに、振り返らずに声をかけた。

「なんですか」

そうしたら、やっぱり、はすぐに返事をくれて、銀時は、振り返る。その、顔は、お互い、まるで他人のようだと、言えるほどの、顔である。
はじぃっと、銀時を見つめて小首を傾げた。「なんですか?」と、聞き、銀時はグツグツ煮だっている鍋の中身を食い損ねたとか、でも、なんだか、いろいろ、安心したから、何、これ胸がいっぱいっていうの?と自分を納得させて。

それで、もう一度スタスタ、歩き出して、言った。

「頼むから、俺には嘘とかつくなよ。必要だって、思っても、頼むから、嘘はつくなよ。俺ァ、傷ついてもお前に嘘をつかせるよりはいい。なぁ、


 

 


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