掘り返さないでください、蓋をして、海に、沈めてください


 

 

 

 



思えば昔から、は嘘ばかりつく子だったと、ぼんやり帰り道を歩きながら銀時、思い出してみたり、してみた。どうして、か、嘘を付く。その、嘘に気付くのだって、随分とたって、付かれた嘘が本当だと自分の中にしっかり染み渡ってから、まるで、数年前に埋めたタイムカプセルの中身が床下浸水、ぐちゃぐちゃになっていたような、そんな感覚で知らされる。
つまり、は嘘をつくのが上手い、のではなくて、嘘を本当だと扱って、しかたがないのだ。

(最初に嘘だって気付いたのは、確か高杉と、)

「おい、銀時」

思考に耽っていた銀時の、足はいつの間にか万屋二階玄関入り口ハイいらっしゃい、の場所。それで、今まさに自分の思考回路を遮ってくれやがったのは、暑苦しいロン毛の。

「ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」

上質の羽織と着物を着た、一見貫禄のある落ち着いた風体の、青年である。銀時が呟くとすかさず突っ込み。これはもう、一つの挨拶じゃね?と思っているのは銀時だけである。
まぁ、立ち話もなんだ、というより、全国指名手配されているこの男と一緒にいるところをまた、真選組の奴らに見られたら、アレだ、いろいろ面倒くさくなる、と保身より最悪なやる気のなさで判断し、桂を万屋の中に入れた。

「茶は出ねぇからな」
「俺は客だぞ」

ステステ歩いて、先に桂をソファに座らせ、銀時は台所へ一度引っ込んだ。

「銀さんお茶入れんのニガテなんだよねぇ。イチゴ牛乳ならあっけど」
「御免被る。そのような軟弱なものを飲むくらいならばの茶を飲んだほうがマシだ」

いや、お前死ぬぞ、と突っ込みを入れようとして、ピクリ、と銀時の眉が動く。そういえば、ヅラと再会して随分と経つけれど、今の今まで、この男の口からの名前を聞いたことが、そういえば、なかった。

「……で、今回は何しに来たんだ?」

なんか、イヤな予感すんだけど。銀時は冷蔵庫の中からイチゴ牛乳と、麦茶を出して、こぽりこぽりと、コップに注いでいく。お互い背を向けているので、顔は見えない。銀時は左手にイチゴ牛乳、右手に麦茶を持って、桂のところに行った。
どっかり、腰を下ろして、ごくりごくりと、イチゴ牛乳を半分ほど飲み干してもまだ、桂は何も言わない。

こうしての名前を出した以上、のことだろう。桂はまだ、自分がと再会していることを知らないはずだ。しかし、だからこそ来たのかもしれない。そういえば、あの頃三人の中でなんだかんだと一番気が合っていたのはヅラだったなぁ、とぼんやり銀時、思い出す。

のことなら、隠すんじゃねぇぞ、ヅラ」

ぎろり、と睨めば桂は一瞬目を細めて「……ヤツに会ったのか」と、普段のヅラうんぬん、突っ込むこともしなかった。それで、ゆっくり、十秒ほど沈黙してから、やっと、口を開いた。

がたちの悪い攘夷浪士たちに狙われている」
「なんで攘夷浪士にアイツが狙われんだよ、っつーか、ヅラァ、お前の庭の人間だろうが、なんとかしろよ」
「それが出来ればここには来ん。動いているのは攘夷浪士の中でも俺とは思想が違うからな。同じ攘夷でも、奴らは裏切り者に対しての憎しみでのみ動いている連中だ」

かつて攘夷戦争に参加したのに、今は安穏と生きているものを見つけては天誅と抹殺しているらしい。

「で、なんでが狙われなきゃならねぇんだ」

そんな連中は、正直、腐るほどいるだろう。自分だって、そうだ、と言う銀時に桂は溜息を吐いた。

「幕府と通じている、と思われているのだ」
「アイツがそんなことできるわけねぇだろ」

間髪いれずに銀時が否定する。が、そんな面倒ごとに自分から首を突っ込むとは到底思えない。何よりも、面倒を嫌うのだ。それは桂も知っているはず、と銀時は桂を見た。

「銀時、お前は本気でが幕府と関わっていないと思えるか」
「……どういう意味だ、そりゃ」
「そのままだ。昔、何度ものところに幕府からの使いが着ていたのを忘れたか」

は孤立無援。昔から、そうだった。誰もを信用しない。松陽先生しかの正体を知らなかったし、も自分の事を語らなかった。だから、攘夷戦争のおりも、が幕府と通じているのではないか、元々、松陽が幕府から預かり、松陽の監視をしていたのではないか、という噂もあったほどだ。

「俺ァ、アイツを疑ったことねぇよ」

けれど、銀時はを信じてきた。何を疑う理由があるのか解らないほど、が自分の味方であり、自分がの味方であることを信じてきた。それは、自分だけじゃなく、あの頃の、親しかった人間は同じだと、銀時は思い、桂を強く睨む。

「そうか、だが、俺はある」

ズズーと湯飲みを傾けながら、桂は天気でも告げるようにあんまりにも気安く言った。ぴくり、と銀時の頬が引きつる。

「ンだとォ」
「お前はあいつを妹のように思っていたからな。それは被保護者と見ることによって相手を弱者と置きそれ以上の理解を放棄していることだ」

桂はと気が合っているように見えた、それは、銀時とは見方が、扱い方が違ったからだと、桂は暗に言う。

「実際、お前はアイツを本当に理解していたのか?ならなぜはあの時たった一人で、」

ガダン、と机に足を置いて、銀時は桂の胸倉を掴んだ。今にも噛み付き、殴りかかりそうな勢いだ。

「え、何だ?ヅラァ、オメー昔の話を掘り返してぇのか?あ?」
「落ち着け、銀時」

ぱしん、と桂が銀時の手を振り払った。狂乱の貴公子と呼ばれるテロリストは心底真面目な顔で、続ける。

の、居場所を触れ回っている幕臣がいる」


 

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