「あ、万屋の、」
「丁度いいとこに。ジミー、ちょっと顔貸せや」
「え」

ずるずると服の裾を引っ張って引き摺っていく銀時に、山崎は疑問視を浮かべながらも、最近の銀時と自分の関係に繋がる人物は「」だと咄嗟に判断して、このまま、のところに連れて行ってくれないかなぁ、と他力本願なことを、考えた。

しかし、連れて行かれたのは甘味処でなぜか、金を持っていなさそうな銀時は「あ、このデザートの項目全部ください」なんて大盤振る舞い。嫌な予感がして、山崎は恐る恐る。

「あの、旦那……」
「スミマセーン、やっぱ追加でこのジャンボパフェください」
「旦那」
「黙れジミー」
「……」

何だ、この扱い。でも現在確実にわかるのは、ここの会計は自分持ちでしかも山崎現在、給料日前だ。

「き、機嫌悪いっすね」

次々と目の前に並べられていく、なんか、甘ったるそうなもの。土方といいこの旦那といい、変なものがすきな生き物もいたものだ。いや、甘いものはまだ人間の食べ物で土方のあれはもう、拷問でしかないが。

「まぁな。聞いてよジミー」
「あの、ものすっごい当たり前になってるんですが、俺の名前は山崎です」
「どうでもいい。でさ、銀さんのかわいい妹がさぁ、風邪引いて寝込んでるんだよ」

どーしてくれんのーと、ぐだぐだ言う銀時の言葉の後半はもう、山崎は聞いていなかった。ガタン、と席を立って飛び出そうとすると、その腕を銀時に掴まれる。

「え、何?どこ行くの、ジミーくん」
「あの人は、攘夷浪士や幕府から狙われてるんだ!病気のところを一人になんてしたら……!!」

松平のとっつぁんが何を考えているのか、山崎にはわからない。けれど、が、少しでも隙を見せれば、あの男は、破壊神と呼ばれ、それを受け入れているあの男は、容赦しないだろう。

「アイツは今までずっと一人でやってきたんだよ」
「でも、」
「お前はアイツに関わった。は、一人じゃなくなった。なのに、またお前はいなくなって、一人に戻った。どうせまた、いなくなるなら、もう関わるな」

かわいそうだろうが、と銀時はガトーショコラを食べながら言う。

すとん、と、席に座りなおして、山崎はまた、自分が中途半端なことをしてしまいそうだったことに、気付く。今更、に関わって、どうすればいいというのだろう。松平は真選組の上司で、は敵にしか、なれない。こうして、もう、関われないような状況になったのなら、もう、彼女のことを個としてみるのは止めればいいのに。

ぼんやり、最後、松平に言われた言葉を思い出す。選べ、と、言われた。「真選組か、あの女か。お前が選べ」と、容赦なく言われた。両方を抱え込めるほど、自分はすごい人間ではなくて、山崎、そんな人間はどこにもいないと解っているのに、誰でも、荷物は一個しか持てないのに、選べなくて、それでまた、容赦なく、殴られたのだ。

「俺はさ、お前ならのこと“幸せに”できるんじゃないかなぁとか、思っちゃったわけよ。お前、のこと好きっぽかったから、そういう、妄想しちゃったわけよ、銀さん」

あ、もう本当にがっかり、と嫌味を散々言われて、それで、これはいったいどういう意味なんだろうかと山崎は考え込んでしまった。

昨日自分を殺しかけた男が自分のサイフを殺しにかかって、それで、を幸せにできるなら、してみろ的なことを言う。無理だってことはわかってくれているはずなのに、どうして、この旦那は自分に関わってまだ、と自分の繋がりを切らせてくれないのだろうか。



+++




すっかり気落ちして、サイフまで綺麗にすっからかんになって、山崎が屯所に帰ると、刀を差しなおしている土方に襟首を掴まれた。

「近藤さんが、上に行ったっきり戻ってこねぇ」

どうやら、あの後あれこれと調べたらしい。普段は自分の仕事なのだが、今回山崎は松平にいろいろ睨まれている。土方はそれを察して別の手段で調べたのだろう。

「……」

近藤局長が天導衆に呼ばれて上に行くのは真選組がちょっと無茶しちゃった☆とか、そういう時が殆どで、まぁ、別に珍しくはない。しかし、今回は近藤は呼び出したのは松平、ただ近藤が、戻ってこない、この事態も付属されている。

「久坂、玄水を連れて来いと松平様から直々の命令がきた。おい、山崎」

土方は山崎を離して、見下ろす。久坂を捕らえて、近藤と交換、という、きわめてシンプルなことだ。表向きはそうではないのだろうが、そう、いうことだ。事情を知る、山崎と土方にはそう受け取れた。

松平はもう、山崎を信用していないのだろう。だから、強硬手段に出た。山崎にとって真選組が、近藤がどれほど大切なのかを、上司である松平はよく知っているから、近藤とのどちらかと、選べ、と言うのだ。

「……」

じっと、山崎は土方の目を見つめる。近藤さんは、真選組そのものだ。その人を失うようなことがあっては、ならない。久坂玄水が何者で、いったい何を狙われているのか、わからないことはあるが、今確実なのは、ただ一つ。

「久坂をとっ捕まえる。行くぞ」

ザザッ、と歩き出した土方の後を、山崎は付いていくしかなかった。先にのとこりに走って異変を知らせる根性も、ない。




+++




慌しい、気配があれこれ動くのが鬱陶しい。と、割り切るのは簡単だが、まぁ、その中にどうしてもうっとうしいと思えない気配があったので、ひっそり息を吐いて、その、気配が二つほどこちらに近付いてくるまで、待った。

それで、パタン、と、勢いよく障子が開く。


「不法侵入って、言うんですよ」

ご存知ですか、と、は壁に背を預けながら、なんとか体を立てて、言う。今もフラフラと視界はおぼつかない。それでも、突然の訪問者に寝姿を見せるほど、は気安くはなかった。

「今日はお守りはいねぇな」
「銀兄さんなら、買い物に行かせています。そろそろ、来るだろうと思っていましたから」

にっこり、ギロリと応酬。土方は剣を抜かずに、真っ直ぐを威嚇して、周囲の気配を探る。本当にこの薬局に、現在人はいない。

実際、久坂は守らねばならぬようなか弱い女ではなかった。かといって剣術武術に優れているわけでもない。その色素の薄い目でハッキリと相手の黒目を睨みつけ己の意思を伝え込む“気”のある女である。
仮祝言まで挙げた高杉とも、睦言を囁きあうよりは討論から口論に発展した方が遥かに多い。そんな久坂であるから、土方の殺気交じりの脅しなどどこ吹く風であった。

(こんな若造に負けるわたしではありません)

と強気に思い、悠々のらりくらりと言葉で真選組をあしらってきたのである。しかし、その経験がいけなかった。久坂にとって土方は己で負かせる小僧だとしか思わず、さして警戒もしなかったのだ。
ドン、と床に背中を押し付けられたときにはすでに、遅かった。

「いい加減にしろよ、このアマ」

元々土方は女性には礼をつくす気質である。女は守らねばならない、特に京で過ごした時間、儚い京女たちの弱さ芯の強さは彼の目に眩しくこと、女性というものへの尊敬すらあった。なので久坂玄水がいかように幕府の敵とされていても、他の攘夷浪士たちを容赦なく拷問、尋問、暴力にかけようと、久坂には一応、手を出したことはなかった。

しかし、今日土方はこれまでとは事情が違う。これまでは、久坂を脅し調べるのは幕府から言われている仕事であり、気に入らなければ完遂せずともよかった、という意識がある。だが今日は、今は近藤の命が掛かっているのだ。

「久坂さん、」

呼んだのは居心地悪そうに入り口に立っていた山崎である。今の今まで無言で、ただ、土方のあとに、犬のように付いてきただけだったが、ここで、自分が何か言えば、は、考えを変えてくれるのではないかと、そう、期待した。

「お願いします、局長は俺たちにとって一番大切なんだ、だから」
「わかりました」

あっさりと、素直に頷いた久坂。あっさりしすぎて、山崎は拍子抜けするが、さんが、自分の言葉に耳を向けてくれたことが嬉しくて、一瞬笑顔になりかけるが、気付いた。
彼女の目にはもう、山崎が映ってなど、いない。以前、山崎が履歴書を持って不安そうに久坂の家を訪れたときにように、ぼんやりと硝子珠のような瞳で土方を見つめている。

(あぁ、そうか、俺は、もう、)

気落ちしてまた黙り込む、山崎。

それを眼の端で感じながら、もはや、どのようにでもなればいいと久坂は思った。そして、それでもまだ諦めてはいなかった。真選組に、いや、幕府になど己は殺されてなるものかという、意地がにはあった。

土方が嫌味か、丁寧に自分をエスコートだか、誘導だかして、車に乗せる。いつのまにか久坂薬局の周りは真選組で綺麗に囲まれていて、近所の人間が何事かごそごそ、言い合っているのがぼんやり見えた。

その人だかりに向かって、土方が怒鳴る。

「見せもんじゃねぇんだぞ!おら、散りやがれ!!コイツは証人で呼ばれてるだけだ!!」

なんて、チンピラのような、怒鳴り声。すぐにへの不審の眼差しが、真選組副長への嫌悪の眼差しへと変わった。は、驚いて、土方を見つめる。

「……なんだ」
「いえ、あの。あなたは……そういうの、得意なんですね」

そういう、自分は誤解されても、相手を守れる。と、がふわりと微笑むと土方が眉を顰めた。

「……勘違いすんな」
「しません、意味のない」

にっこり嫌味にしか見えない笑みを浮かべて即答すると、土方が「上等だァ」と青筋を浮かべて、にのってくれた。そういう、のは楽だなぁ、とはぼんやり、思う。
こういうのが、楽だ。なのに、山崎はどうしてか、こういうことをできない。お互い遠慮し合っているような気がしてしまって、ぎこちない。

は後部座席に座って、ぼんやり窓を眺めていると、暫くして助手席の土方がバックミラー越しに視線を向けてきた。

「阿修羅っつったか」

最近は呼ばれることがあるが、懐かしい名前である。が困ったように眉を寄せると、土方は一瞬思案したようだが、気にせずに、言葉を続ける。

「俺ァ、攘夷戦争にゃ参加してねぇから知らねぇが、アンタのしたことは知ってる。一晩で千人を殺したとか」
「千人じゃ、ないですよ」
「だろうな」

そんなことはあの白夜叉でも不可能だ。何か尾ひれが付いて広まったのだろうと興味を失った土方が煙草に火をつけると、が「さんぜんにんです」と、なんでもないことのように、言い換える。

「は…?」
「三千人です。わたしが殺したのは、三千人ですよ」

嘘、ではないだろう。しかし、それほどの人数をどうすれば一晩で殺せるのか。山崎の報告を聞く限り、この女に戦闘能力はない。しかし、土方にじわりと今も伝わってくる、何か、奇妙な匂い。それがこの女がただの、か弱い生き物ではないと本能的に悟らせるものなのだが、いったい、なんなのだ。

「天導衆は、なんでアンタを狙う?」

ふと、原点に気付いた。天導衆が、久坂薬局を潰した。彼らは、この女の正体を知っているのだろう。そして、その「何か」を狙っているのではないか。土方が問いかけると、は一度ちらり、と、窓の外に視線をやって、思案するように黙ったが、一度、自分の手首と、首筋に白い指を這わせてからゆっくり、口を開く。

「竹取物語はご存知ですか?」

は奇妙なことを言い出した。何故突然昔話など、と土方が眉を寄せる。この女、こんな状況でまだ、話をはぐらかそうというのか。刀の柄に手をかけ脅すようにを睨んだが、別段効果はなかった。

「なんだってんだ」

はぐらかす、つもりはないらしいと悟り、土方が続きを促すと、はにっこり、笑ってから続ける。

「あれが、この国に最初に来た天人なんですよ。さすがにそれは、ご存知なかったようですね」

驚いていますよ、顔が、とが目を細める。
当然だ、そんなこと、思いもよらなかった。ガキのころ何度か聞いたことのある、あの物語。そんなこと、考えるわけもない。

「竹取物語りの、かぐや姫。かぐや一族という、昔は月に住んでいた天人です」

それは、久坂一族が千年守り続けてきた、記録であった。9世紀か10世紀の頃の作とされている竹取物語は元々作者が不明になっているが、戸は立てられぬ、というのか、久坂一族が守り秘密にしてきた事柄が少しずつ漏れ広まって、あの物語として人の耳にはいるようになったのだろう。

竹取物語は、竹の中から誕生した美少女かぐや姫が、あまたの貴公子たちの熱烈な求婚を退け、難題をふりかけかわし、さらには時の帝にまで寵愛されるものの愛には答えず、明月の晩、厳重な警戒網をぬけて月の世界に昇天する、という、物語である。

「天導衆、あの胸糞悪い外道どもが狙っているのは、かぐや姫の不死の薬です」

自分の掌をじぃっと眺めながら、がぽつり、と呟いた。久坂は千五百年前から帝の傍らで歴史記憶してきた一族だ。代々、体内に特別な血を持ち、それが酸素を取り込むように、情報を記録していく。
松陽のところに身を寄せるまで、は江戸城の御祐筆・記録役として将軍の傍らにいた。天導衆の数人は江戸時代より政治に関わってきた一族の出が何人かいる。
あの薬の存在を知らぬわけがない。

「物語にあるでしょう。かぐや姫は月に帰るときに、帝に薬を贈ったと。その薬を帝は飲まずに富士の山に捨てたとありましたが」

本当はその一部は久坂に受け継がれ、成分を研究され、そして、さらにその一部が久坂の血の中にはある。
がじぃっと眺める手首にぼんやりと見える血管にも、その成分があるのだ。しかし、にはその薬は合わなかったか、虚弱な体質になってしまったようだが。

「不死の薬だァ…?」

胡散臭げに、土方がを見下ろした。そんなもの、ありえるわけがない。天人たちの進んだ技術でさえも、不老不死はありえないものなのだと、以前土方は誰かに聞いた覚えがあったし、自分でも、不老不死、というものの言葉の容易さ、そして実現の難しさは、なんとなしに、わかる。勘だが。

「そんなもの、作れんのか」
「作ったこと、ありませんからわかりません」

それでも、代々久坂の家に伝わっている秘薬があるのだということは、も受け継いだ自分、知っていた。
天導衆にとっては別段、本物かどうかは、この最重要ではないのだろう。彼らは、もはや滅んだかぐや一族の情報が欲しいのだ。

「……まぁ、近藤さんが無事に帰ってくるってんなら、それでいい」
「そうですね」

ぼんやりと月を見上げながら、はひっそり、息を吐いた。
かぐや姫はこうしてよく月を見上げては目を腫らしていたという、けれど、己にはその感傷はなく、ただ、月を見て思い出す、あの日の面影、くらいである。(霞んでいくのが怖くてぎゅっと、は目を閉じた)

進む車の振動がことりことりと心地よくて、そのまま、眠ってしまいそうだ。



+++



河川敷に座り込んで、今後の行く先など二人で話しながら、もう直ぐ祝言だなんだと、ぼんやり思った。
それで、は結局、この人には隠し事をすれば余計な心配をかけるのだろうと、思い、松陽意外にはこの辺りでは誰も知らなかった、己のこと、己の血のこと、己の一族のことをついに、高杉に語ってしまった。

「不死の薬たァ、随分御伽噺じみてるじゃねぇか」

かぐや姫の話をすると、高杉は心底面白そうに笑って、小石を摘んだ。

「御伽噺は全部、本当のことですよ」
「そうか」

は作り方は知っていても、不死の薬がいったい、どのようなものになるのかは知らない。作ろうと思ったこともなかった。
薬には、かならず副作用がある。気軽に売られている風邪薬すら、副作用があるのだ。不死という、おおよそ常識では考えられない効果を持つとされる薬は、いったいどのような副作用があるのか。

「で、その薬を作ったことはねぇのか」

高杉は立ち上がって、小石を川に投げる。二三度跳ねて、沈んだ。はそれを眺めながら、このひとが自分と結婚する、なんて本気で思っていないことをちゃんと理解していて、それで、自分も、別にこのひとと結婚したいなどとはこれっぽっちも思っていないことを、しっかり自覚している自分が奇妙に思えた。

「ありませんよ」

それでも、明日は祝言を挙げることになっている。銀時は最後の最後まで賛成していなくて、桂は「思いとどまるなら今だぞ」なんて今朝方、真剣な顔で説得しに着てくれた。だれも、と高杉の嘘に気付かないことが、本当にには不思議だった。
自分はよく嘘をつく。なのに、どうしてもそれが嘘にはなってくれないのだ。

「仲間を不死にすりゃ、不死身の部隊ができんだろ」

石を二、三個投げてまたしゃがみ込んだ高杉が、随分と酷いことをいうものだから、は手に持っていた小さなメスを高杉に向かって繰り出して、ザン、と高杉が刀を抜いて、の一閃を止めた。

物騒だな、と高杉は口元だけで笑う。は簡単に受け止められたメスを、仕舞いこみ、高杉を睨みつけた。

「酷いことを言いますね」
「当たり前のことを言ってるだけだろォが」

はぎゅっと眉を吊り上げて、立ち上がる。それは、そうだ。そういうために、使うのがこの男。

「でも、もしわたしが今後、不死の薬を作るとしたら、」

空には大きな満月が浮かんでいる。、高杉の双方の間には先ほどの切りあいで落ちた、の櫛と高杉の煙管。がぼんやりと、首を傾けて続けた。

「わたしが自分で飲みます」

それで、あなたが死ぬ最期まで、あなたのそばにいてあげますよ。と、言えば高杉は
心底、おかしそうに笑ってクツクツと暫く、突然の腕を引っ張って引き寄せて、小さな声で言った。

「バカか」
「馬鹿ですか」
「バカだろうが。俺が死んでもお前だけ生きてるなんて許さねぇぞ。俺が死んだら、お前も死ねや」

どんだけ亭主関白なんですか、と、心底面白そうに笑って、ふと眉を寄せる。この男は、わたしを愛してなどいない。けれど、わたしも愛してなどはいなくて、それでも、お互いどうしても離れられないように、思える。そう、気付いて、問うてみたくなった。

「わたしが先に死んだらどうなさるおつもりです」
「俺ァ、途中誰の死体が転がろうと止まるつもりはねぇよ」

酷いことを言うひとだ、とは笑って目を伏せた。満月は相変わらずぼんやり、雪洞のように黒い海に浮かんでいる。

「それでもきっと、高杉さんはわたしが死んだらものすごく、泣くんでしょうね」

答えは、返って来なかった。



+++



はっと、久坂は眼を開いて、見知らぬ風景を見つめている自分に気が付いた。車の中。コトコトした振動。眠って、いたのだろうか。いや、これが白昼夢か。そういえば、あの人と共にいたあのころをこうして思い出すのは自分と久しぶり。今はもはや、夢の中だけでしか、見ることのできない、面影。きっと今は、随分と変わってしまっているのだろうけれど。

「そろそろ着く。江戸城だ」

前から土方の声が掛かる。ハイ、と返事をして、もう一度窓の外に視線をやって、あの頃よく見たのと同じ、綺麗な満月が浮かんでやしないかと思うのに、高過ぎて、見えなかった。


 

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・やっとここまで来ました。長くなりそうだったので、桂登場シーンとか、乱闘シーンとか削ったので、物足りなさ爆発。(07/7/17 2時4分16秒)