世界は貴方の敵ね

 

 

 

 

そういえば、会ったことはないが姉妹の中に行く末を全て知ってしまった少女がいるらしい。物語のように、そこでは全てが決まっているそうで、少女は何とか結末を変えようと足掻いて回っていたそうだ。少女はその世界で神のような力を持っていて、誰も彼もを倒すこともできたし、己の好き放題に荒らすこともできていた。けれど世界の運命は変わらなかったのだ。(魚が跳ねたとて川の流れは変わらない)つまり世界というものは、それほど巨大ということか。それとも少女も所詮駒のひとつでしかなかったゆえなのか。

「だとすれば、あの男のなんと悲しいこと」

ひっそりと呟いて窓から見る天守閣に視線を向けた。天下統一、まことに祝着至極。混沌の化身という無秩序に住む魔が日の本を統べた。誰が想像したことだろう?魔性とはいえ、それは乱波の肩書き。忍びとは足軽よりも下位の者。それが、それが天下を取るなど、おそらくは誰も彼もが悪夢だと願っていよう。(そう、結局ヒトが問題にするのは身分なのだ。種族などどうでも良い。ただ、その者が卑しいか賎しくないかというだけを重視する)さて、しかしそれは果たして全て予想外の出来事であったのだろうか。そうは思わぬ。たとば例を挙げてみても、武田信玄は長生きしなかっただろうし、上杉謙信も信玄と同じくらいの時に死んで当然だった。織田信長の気質から見ても彼が謀反に会うのは解りきっていることであったし、豊臣秀吉の天下も長くは続かぬと決まっていたことだ。つまり、彼は滅びる定めのものを滅ぼしたに過ぎない。物語の筋書きは多少変わったかもしれないが、結末は「めでたしめでたし」になってしまうように、結局は進んでしまっていたのだ。そう、今夜ははっきりとわかってしまった。

畳の上にうつぶせになって、葎乗りをする。天守閣の様子が脳裏に映し出された。狼が寝そべる、兄弟子が飛ばされる、親友が吊り上げられる。あぁ、その男の酷く退屈そうなことか。

(なんと憐れであろう)

結局は己も駒のひとつでしかなかったと、突きつけられて自覚させられたのであろう。世界を壊して楽しむつもりが、世界は彼よりも巨大なものであったのだ。彼が騒いだとしても、何も変わらなかった。

(義元さまが死ぬ運命だったということは、誰よりもわたしが知っている)

 

了 2006/04/15 

 

小太郎は世界に反抗期なんです。