手が届かないお方なのだと、会った瞬間に思い知らされました。大殿の妹君であらせられたというだけではございませぬ。それであれば、僭越ながら織田家の譜代の家臣、家老である某なら、恐れ多くも大殿の妹君とて、望めぬ花ではありませぬ。(身分とはそういうものでしょう)貴女の身分ではなくて、理由は、まだあの頃の貴女は今のような気品に溢れた方ではありませんでしたが(ご無礼を)天真爛漫な、お天道様のようなご気性が、わしには酷く眩しかったのです。わしは荒々しい無骨な武人です、戦場でいくつもの命を奪うことを誇りにしているような男です。(それを恥じてはいません、恥じればわしはわしではなくなります)貴女とは違う世界で生きているのだと、貴女の屈託の無い笑顔を見るたび、思いました。 一年前に会ったとき、貴女は随分とお変わりになられていた。それだけのことがあったのでしょう。それだけのことを、わしらがしてしまったのでしょう。申し訳ないと謝れば、それはあの者への無礼になりますゆえ、何も申し上げられませぬ。(「さぞやがっかりしたでしょう。貴方の好んだ魂が穢れて」などとおっしゃるな)変わっても、貴女は貴方です。貴女の笑顔は美しい。わしには眩しいくらいに、美しい。その貴女を守れるのなら、わしは喜んで貴女とともに戦いましょう。何、何もお気になされるな。わしは貴女が届かぬ花であることを承知しておりまする。貴女が愛するのは、あの者ただ一人であること、それだけの男であったことをよく、わかっております。だから、お気になされるな。貴女に愛されなくともこの勝家、共に在れるだけで幸福なのでございまする。
了 2006/04/15 22:00:24
まさかこのヒトを書くとは思わなかった。柴田勝家。 |