この掌に残ったもの

 

 

 

 

王道とは争いの無い、完璧な世界である。ゆえに、争いの種を滅ぼしつくすことがわしの夢。完璧な世界に、相応しくないものはいらぬよ。たとえば信長公、おことは危険すぎる男じゃ。おことは世界を敵に回しておる。そのような者がいては、永遠に平和などは訪れまいて。乱世に生きる者どもは、皆好戦的で粗野過ぎる。わしの、信玄の威光を持って狼を犬に飼えることは造作も無いが、それでも、変われぬ者がおろう。それが、義元公じゃ。あれは、一見何の害もないように思える。じゃがよう見てみ。何の害もない腑抜けが魔王を退けるか?軍神を唸らせるか?真の敵は、あやつのことじゃろう。義元が望むのは、ただ己の国の発展のみ。腑抜けゆえに、誘われればほいほいと戦をする。なまじ、国が巨大なだけに、その勢力は危険なのじゃ。あぁ、今川にはもう一人危険なものがおったなぁ。(いや、あれはヒトではない。化け物じゃ。あのように、己を感じさせぬ生き物など、わしは知らぬ)恐ろしい、生き物じゃ。義元のために生きるというその眼。その頭脳は王道には危険。義元が望むことを何でも叶えるだけの力があやつにはある。(もし世界の破滅を願っても、あの化け物は叶えるだろう)じゃから、災いの種は摘んでおかねばならんなぁ。今川さえ滅ぼしてしまえば、わしの前に敵はおらぬ。(宿敵、おことも所詮は、王道にはいらぬよ)

 

 

了 2006/04/16 20:34:43

 

 

結局のところ、信玄だって野心くらいある。