めぐみるく
軍服姿のまま来る非常識さはかろうじて持ち合わせていなかったらしいけれど、真っ白い仕立ての良いスーツに黒いスカーフをした格好も、非常識には変わりないと思う。きざったらしい笑みを浮かべて、薄い橙色のサングラスをかけている姿からはどうしても、授業参観に来た父兄ではなく、結婚詐欺でも企むギャングだ。
どういう経緯で今日のことがバレてしまったのか。ケロンの情報網を掌握しているのはぼくなのに、まさか、一般レベルしかコンピューターを扱えないこの男にデータが読み取られるわけもない。
(そういえば、授業参観お知らせのプリントを机の上におきっぱなしにしていたような気が)
大佐の名前は、本当は××というのだけど、ぼくは大佐のことを大佐、と呼ぶ。階級に間違いはないし、ぼくがラルル、と呼び捨てにするのはに会わなかったから、言わなかった。
大佐はぼくが彼をどう呼んだとしても気になんかしないだろうけれど。
「どうしてあなたがいるの」
授業が終わって、帰り道を歩きながらぼくはやっとそれだけ口にした。いつも一緒に帰っている従姉妹の桃華は遠慮して先に帰ってしまっていて、仕方なく、ぼくは大佐と一緒に歩いている。大佐は長い足で、ぼくの歩幅に合わせて歩いた。
狭いペコポンの道は少し歩きにくそうで、ぼくは時々道に外れてしまう大佐のスーツを引っ張らなければならなかった。べつに、この男が車に引かれて内臓を道路にぶちまけたとしてもかまわないのだけど。
授業参観っていうのは、父兄が来るもんなんだよ。ぼくが不機嫌な声でそれだけ言うと、大佐は不思議そうに首をかしげて「女性もいたが」とつまらないことを言う。父兄、という言葉の意味は知らなかったみたいだけど、漢字の読みはわかったみたいだ。
「父兄って、保護者ってこと」
話題をすりかえられたような気がして、ぼくは大佐をにらみつけた。
「ぼくに構わないでよ」
帽子のつばを押さえながら大佐が顔を伏せたから、ぼくはがつん、と大佐のふくらはぎを蹴りつけた。
「星に帰れ」
言って、躓いている大佐を置いて走り出した。
「」 「心配なんかしなくたって、ぼくは幸せなんだよ。ばか」
了
大佐とは不器用な親子みたいであればいい。 |