「え何言ってんのお前マヂでかマヂで言ってんのかならマヂでお兄ちゃん怒るぞっつか泣くよちゃん銀兄さんのこと悲しませたいの」
見事ノンブレスで言い切って、銀時はが身支度をしている、その手を掴んで止めた。細い手首だ。真っ白で、何度も何度も、この手の細さに驚いて、しまう。同じように生きてきたのに、どうしてこんなにも、いろんなことが違うのだろうか。
「銀兄さん、」
は形の良い眉を寄せ、じぃっと、銀時を見上げる。その可愛らしい口元が何か、言う前に銀時はきっと、睨むようにを見て、言った。
「絶対反対だからな。鬼兵隊なんて物騒なトコに入るなって」
「正確には社僧隊です」
「でも鬼兵隊の傘下なんだろ」
まぁ、そうですよ、とは肩を竦めた。
わたしの、手
「荒れてんじゃねぇか」
振り返れば、同じように血まみれの、刀を持ったいやな男。銀時はさっと、刀を振って血を払った。
「に妙なことばっかり吹き込んでんじゃねぇよ、高杉」
昨日までは亡き松陽の後を継ぎ、あの塾で幼い子供たちに読み書きなり、なんなりを教えている身だった。時折、傷ついた仲間を助ける、医者になってはいたけれど、それでも、は“攘夷志士”の一人ではなかった。
というのに、今朝、朝食を食べている銀時の、前に現れて一言「わたしも戦場に行きます」と、言う。
一瞬何を言われたのかわからずに、隊員配置に詳しい桂に聞けば、が自ら、気携帯傘下の、社僧隊に入ることになった、と答えがある。社僧隊は僧侶と神主、神官のみで作られた舞台で、主な任務は医療行為、物資補給だが、最前線の、けが人を救う行為はそのままに、己の命を危険にさらすことでもある。
あの、が義務感から「人を救いたい」と思ってそんなことを言い出しているわけはないと銀時は即座に見抜き、あの、に(始終面倒くさそうに、いろんなことに関わることから逃げているが)何か言って聞かせることのできる人物は、今はこの世に一人きりしかいないと、すぐに気付いた。
高杉は鬼兵隊の制服をきっちり着こなし、額に白い鉢巻を巻き長引かせ、いっそ、優美とさえいえる表情をし、銀時の鋭い視線を受けても一向に、気にする様子もなかった。
「アイツは役に立つからな」
言い切って薄っすら笑った高杉の胸倉を掴んで、銀時は殴りかかった。が、平然とそれを止められて、高杉も銀時の首元を掴む。
「こりゃ戦争だぜ?戦えるヤツが戦わねぇでどーすんだ」
いったいどこで学んだか、の医学は戦力になる。しかも、血は繋がっていないとはいえ“白夜叉”の妹だ、侍たちの士気も上がるだろう。そういう、腹積もりらしい。しかし、それが全てではないはずだ。この、高杉はを心底憎んでいる。
「は戦場には出さねぇ。嫁入り前の大事な身なんだよ、幸せになんなきゃなんねぇんだよ。戦場に出て、嫌な思いさせて、笑えなくなったらどうするんだ。俺ァな、高杉。を守るために、の未来を守るために戦ってんだ。なのにアイツを死なせるような場所に追いやるわけねぇだろ」
一気にまくし立てて銀時はバッと高杉からはなれた。この男に言ったところで、どうしようもない。は変なところで頑固だ。自分が、こうと決めたことを通す。こう、と決めたその仮定にたとえ、他人の思惑があろうと利用されていようと、構わないほどの、意地を持っている。
そしてさらに、は高杉に憎まれても仕方がないと、諦めているのだ。その、理由は銀時には理解できない。高杉は、を憎むのが当たり前だと、思っている。この、二人はいったい、なんなのだろう。それも、わからない。
「おい、銀時。俺ァ、アイツを死なせようなんざ考えてねぇぞ」
「当たり前だッ!」
高杉ののんびりとした声に苛立ち、吼えると高杉は、悠々口元に笑みを浮かべながら「まぁ、聞けよ」と続ける。
「戦で何よりも重要なことは、物資の補給経路と退路、それに充実した医療班を確保することだ。その任を受けてる社僧隊は俺ら鬼兵隊が常に守ることになる。そうなりゃ、アイツは安全じゃねぇか?なぁ」
なまじ、昨今ではどこにいようと、天人からの攻撃から逃れられる、という保障はない。彼らは上空からも平然と襲ってくるのだ。ならば、いっそ部隊にを配属して堂々と守った方がいいだろうと、そういう提案だ。しかし、高杉がそんな、ことを考えるわけがない。
「おい、高杉よぉ、お前、そういってアイツを騙したのか?」
「いや、これはヅラと辰馬用だ」
いけしゃあしゃあと言って、高杉は足元に転がっている天人の死体を蹴った。こうして日々増えていく天人たちを、白夜叉やら何やらが斬っても斬ってもしょうも無く、なってきているこの昨今。そろそろ坂本辺りは逃げ出すだろうし、何か、いろいろあるだろう。だからこそ、今、を戦場に連れ出す必要があった。
「アイツに何を言った」
「たいしたことじゃねぇよ」
「高杉!」
銀時の刀がギロリと、高杉に向けられる。「天人じゃなくって味方を斬るってか?さすがは白夜叉だ」なんて、ふらりと、笑う高杉は、一向に銀時の殺気を気にしない。
「の所為じゃ、ねぇだろ……!!アイツが一番苦しんでるってのに、なんで、お前は……!!」
「そんな理由で、アイツを憎んでるわけじゃねぇよ」
ギロリ、と、初めて、高杉が銀時を睨んだ。銀時は、松陽が死んだのがの所為だと、高杉が考えていると、そう、思っているのだろう。そう、思わせているのは確かだ。しかし、そんな、単純なものでは、もう、ないのだ。そういう、ことを全部知らせるつもりは一切、高杉にもにもない、のだけれど。
(あのチビは、自分が憎まれることを望んでる。なら、憎んでやらなきゃ誰が、あいつのことを救えるんだ、なんて、言って、聞くヤロウでもねぇか)
ぼんやり、思いながらその、二人の姿をがじぃっと眺めていたことなど、誰も知らないし、実際、どうでもいい、ことではあった。
Fin
高杉さんにとって、昔のさんは利用できる便利な女。でも、そういう、酷いことができた自分を、さんのことをスキだって気付いてから後悔して「あの頃に戻れたら、俺ァまず最初に俺をぶっ殺す」と言えばいいよ。っていう話を書こうと思ったら、なんか、ラブラブな話になりました。(これをラブラブと言い切る)
(07/7/6 23時50分)
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