トン、と突然空から黒衣の男が降って沸いたとて視認できるようにしていなければ何の問題もない。ルシフェルは彼が「もっともヒトがヒトらしく過ごしている」と評価する2011年の新宿、スクランブル交差点の中央に降り立って「ふむ」とあたりを見渡してみた。本日は晴天。折角なら雨の日に降りてくればよかった。天界の気候を管理しているのはエゼキエルだが、彼女は雨を降らすことを滅多にしないし、天使が意識的に降らせた雨の下よりは、こうして自然な空の下で傘を差したいものだ。行く時代時間は選べても天気まではわからない。不便といえば不便だが思い通りにならないことがいくつかあって当然で、そのほうが面白いからいいじゃないか、とルシフェルは納得することにした。
それで、晴天であるというのにしっかり用意してしまったビニール傘片手に交差点の人ごみを歩く。

この時間旅行を最後に暫くは自由に時代を行き来することができなくなりそうだ。神に全面の責任がある、などと不敬なことを言うつもりはないが、ルシフェルとしては少々納得のいかない展開である。しかし神の仰せは絶対であるし、これから起こる「問題」を多少なりとも楽しむ心が自分にもあるわけで、ルシフェルはなんともいえない感覚を味わっていた。

平たく言えばとある天使たちが堕天する。これはもう確定事項だ。ルシフェルがこの時代から「戻る」のは彼らが堕天する前に当たるのだけれど、まぁとにかく堕天を成功させてしまった(成功することになったのはルシフェルの所為ではなくて彼が敬愛する「神」の御業なのだが、まぁそれはいいとして)帳尻あわせをしようと、そういうことになる。

さて一体神がどんなことを考えているのか、それはルシフェルはまだ聞いていないけれどあの神のことだ。こちらに対して散々面倒をかけてくるに違いない。頼りにされている、というのはこの身には歓喜であるというはずなのに、やはりどこか腑に落ちない。

(避けられなかった私が悪いとさえ彼は言ったしな…)

ルシフェルはセムヤザたちが堕天を成功させないようにと何度も何度も、それこそ100万回近く同じシーンを繰り返して「そこから先」を進めさせなかった。パチン、と指を鳴らせばその通り。神を裏切るなど許すものかと、そういう心で繰り返していたのだが、何を考えたのか神は「少し先に進めてみて」とそんなことを言ってきた。

もちろん神の頼みなら断ることはできないが、しかし神の言う「少し先」をルシフェルは慎重に測った。だから必ずすんでのところで堕天は止まりセムヤザたちも天使のままであったのだ。

(あぁ、それなのに彼ときたら!)

思い出してルシフェルは抑えていた苛立ちが再びふつふつと沸き起こる。無論神に対しての苛立ちではない。ルシフェルが思い出して憎憎しく思うのは、指をパチン、と鳴らそうとした己に突っ込んできたアルマロスだ。あの純朴まじめで陽気な天使。こちらに向かって突っ込んできて、それを避け損ねた(同じことの繰り返しであるはずなのだ!イレギュラーな状況など対応しきれるわけがない!)ルシフェルは指を鳴らせず時間は進み、セムヤザたちの堕天は「成功した」という事実ができてしまった。

(まったく、忌々しい、アルマロスの所為だ)

アルマロスをけしかけたのは明らかに神で、ルシフェルもそれをわかっているが、しかし怒りや苛立ちを神に向けるなど彼は思いもしない。それで気の毒なアルマロスは今度いっさいルシフェルに嫌悪されるのだけれど、それは今は関係のないことだ。

とにかくそういうわけで「堕天」は成功してしまい、たとえこのまま時間を元通りに戻したとしても「決まった事実」であるこれを覆すことはルシフェルか、あるいは神でなければできない。ルシフェルは意地になって「協力しない!」と神に突っぱねた。それが神の怒りを買ったのかはちょっとわからないが、しかし神も意地になってルシフェルに時間を戻すようには言わず「わかった!じゃあ自分でなんとかすればいいんだろ!」ということになった。

それで「堕天した」「その後の処理をどうするか」と神が考えた「手段」があって、それが「堕天するまえからネタ仕込み」されることになった。

当初ルシフェルはそれを傍観していようと決めていたのだけれど、これまで天界のさまざまな問題の矢面に立ってきたのは自分であり、神の相談相手、あるいは神の理解者であったと自負があった。

……まぁ平たく言えば、意地になって神への協力を拒みはしたものの、やはりルシフェルは神が絶対であり、彼が困っているのなら力のある自分が動くのはやぶさかではない。それにほんの少し、自分以外が、たとえば自分と同等の力を持つとされている双子の弟のミカエルが、自分の代わりに神の使者になって今回の神の計画の協力者になる、ということが気に入らないのだ。

そして協力することが確定し、神は「暫く時代の行き来を止めておいて」と言ってきた。さすがにこれは予想外であるが、必要なことならと条件を飲んだ。そういうわけで今回が最後の時間旅行。ルシフェルは暫くこれないこの時代を惜しみつつ、ヒトの作り出したちょっとした小物を仕入れようと買い物には最適なこの街に降り立っているのである。

「神への土産は何がいいかな」

あれこれと馴染みの店で自分の好みの品を求め一通りの買い物を終えてから「さて」と考えた。もちろんこのまま戻ってもいいが、折角最後の時間旅行なのだ。このまま帰るのはもったいない。といって、この時代のヒトに自分の姿は見えないのをいいことに、また普段のように会議中のヒトの中に入り込んでペットボトルを全てさかさまにする、といった悪戯をするのも微妙だろう。それで折角だから神への土産の品でも用意するかとあれこれ考えてみることにした。

「先日持ち帰った家庭用ゲーム機はいたく神のお気に召したな…私はあぁいうものには興味を持てないが、関連したゲームソフトでもいくつかみつくろっていくか」

PS3とかそういう長ったらしい名前の黒いフォルムの機械を、別にただなんとなく「この時代の話題だったから」と気軽に持ち帰った。自分は使わないし天界にテレビがあるわけでもないので使用することはないだろうと思われて何となく神に献上すると、普段いろんなことに対してやる気がなくほとんどを自分やアークエンジェルたちにまかせっきりにする神は嬉々としてそのゲーム機に向かい「懐かしいな!」とルシフェルにはわからぬことをいいながら……それからヒトの時間で2,3年出てこなくなり「神が御隠れになられた」と天界はちょっとした騒動になったが…まぁ、私の所為ではない、とルシフェルは思考を切り上げた。

確か新作のゲームが出ていた。それなら新宿から中央線に乗って秋葉原まで行くのが早い(飛ぶこともできるがルシフェルはヒトくさい行動を何よりも好んでいる)と、チャージしたばかりのスイカを取り出して駅へと向かうことにした。

「ろぉっと、すまない。急いでいたんだ」
「いえ、大丈夫です」

くるり、と反転した拍子に、丁度こちらに向かって歩いてきていたセーラー服の少女とぶつかる。どん、と少女の細い体を受け止めて謝罪の言葉を口にすると、少女は都会人らしくこういったことにさして関心をみせないのかすぐに歩き出した。

去っていく学生服の少女を見送ることなく自分もくるり、と背を向けて、ルシフェルはそのまま自分も駅に向かおうとするが、ギクリ、と顔を強張らせた。

電車に乗ろうとしたためルシフェルの姿はヒトにも視認できるようにはなっている。しかし、アストラル体の自分は注意していれば自分が他人に「触れられている」という感覚を与えることはできるが、実体ではない。しかし無意識のうちに彼女にぶつかった。

ルシフェルは咄嗟にパチン、と指を鳴らして時間を止めた。今己に何が起きたのか、それを明確にするためにぶつかった少女を探そうとするが、しかし、かなりの時間をかけてその場にいる全てのヒトの顔を改めても、つい一瞬前にぶつかったはずの少女はそこに存在しなかった。




++++




「それってじゃないかな」

ルシフェルは時間旅行した先で見聞きしたことを神へ報告する義務がある。彼自身それを楽しんでいるので負担に思ったことはないが、今回は彼にしては珍しく「報告」というよりも「相談」に近いものになった。

2011年の時代で体験した不可思議なことを神に告げると、TV画面から顔を外さぬまま神がぽつり、と答えた。プレイしているのはルシフェルが土産として持ってきたアクションゲームだ。奇妙なことを経験したため報告より先に神に土産を渡してしまったが失敗だったか。自分の話をきちんと聞いて貰えない可能性を思い出しつつとりあえず話をしてみたが、意外なことに神は(画面を見てはいるものの)聞いているようで、あっさりとルシフェルの遭遇した少女の名を言ってきた。

「知ってるのか?」

聞いて愚かなことを言ったとルシフェルは顔を顰める。創造主、全知全能の神が知らぬことなどこの世にあるわけがない。ルシフェルは時間旅行をしても自分自身の未来を見通すことはできないが、神は何もかもをご存知なはずだ。だから自分が知らぬその不可思議な少女についても創造主である神が知らぬわけがない。しかし神の方は気にした様子もなく「私もまだ会ったことはなかったのだけれど。へぇ、2011年の日本にいるのか。ひょっとすると同郷なのかな」最後はひとりごとのように言う。

真っ白い特徴的なフォルムのコントローラーを手に持った神は一度STARTボタンを押してゲームを停止させるとくるり、とルシフェルに顔を向けた。

携帯越しならどんな態度で神と話をしても構わないが、こと面と向かっては顔を直接見る事はできない。ルシフェルは反射的に膝をついて顔を伏せる。こちらを見つめている神の視線を感じながら言葉を待つと、一瞬巡回したような間を空けてから神ののんびりとした声がかかった。

「ねぇ、私の可愛い大天使よ。イーノックのこともあるからって、今回が最後の時間旅行だと言ったけどね。もう一度その時代に行って貰えるかい?そしてを私の元まで連れてきてほしいんだ」

神からの要請ならルシフェルに断る、という選択肢はもちろんあるわけがない。いつものように「君の頼みなら」と答えようとしてハタリ、とルシフェルは伏した顔を顰めた。天界にヒトを召し上げる。それは別段前例のないことではないし、今回これから起きる「神の計画」の為にイーノックという農夫を向かえに行くのがルシフェルの最初の仕事だ。だが時間を移動させてまで御前に連れてくる、という行いについて即答しかねた。

すぐに返事を返さぬ大天使を神は暫く眺めていたが、いくら待っても答えぬので再びTV画面を操作しズギャン、バシッ、とゲームをプレイする音が「神の寝所」に響いた。やがてプレイキャタクターの死亡を告げる文字表示が出ると神はぽいっとコントローラーを放り投げて、もう興味はないとばかりにルシフェルに近づいてくる。ゆっくりと神の纏う白い衣の布擦れの音がルシフェルの耳に間近に迫って聞こえた。神は顔を伏したままのルシフェルに手を伸ばしその黒髪を優しい手つきで撫でる。

「連れてくるのを躊躇ってるのかい?でも、それはお前が心配することじゃないんだよ。まぁ、私が創ったわけじゃないし、言うこと聞いてくれるか微妙なところだね」

アストラル体のはずのルシフェルの体に触れ、さらにはルシフェルに「触れられている」という感覚を当然のように神は与える。創造主であるから当然といえば当然、だがそれだけではないことをルシフェルは天界でただ一人(もしかするとミカエルも知っているのかもしれないが)知っていた。

「お前は私が作り出した全てのものの中で最も優秀で、最も美しい。が素直に私の呼び出しに答えてくれるかわからないけど、だから私はお前に頼むんだ。お前ならきっと問題なくやってくれるだろう?」

ルシフェルは大天使だ。長き時に渡り神の右腕として働いてきた。神に信頼している、と、己が絶対忠誠を誓った相手に告げられることは彼の心を満足させることのはずだった。だがルシフェルが神の言葉の余韻をじっくりと染み渡らせる間もなく、ルシフェルの背後からコツン、と小さな足とが突如として聞こえた。

「あらいやだ。わたし、そんな面倒なことをせずとも、きちんとこうして挨拶に伺いますよ?」
「……お前、どこから……!いや、どうやって……」

振り返れば、神の許可なくば進入することの不可能なはずの寝所にて飄々とした顔で立っている、ルシフェルが2011年の時代に「ぶつかった」制服姿の少女がいた。全知全能の神を守る必要性は感じられなかったが、しかしルシフェルは「イレギュラー」には痛い目を見ている。それでこの得体の知れぬ、そして神の言葉を鵜呑みにするのなら「神が創造していない」というこの人物から(そんなものが存在するのかルシフェルには信じられないが)神を守ろうと六対の純白の翼を広げ神を背に守った。

「黒髪にセーラー服、いいね、萌えってものをわかってるじゃないか」

しかし神はルシフェルの翼からそっと身を乗り出して少女をしげしげと感心したように眺める。上からしたまでじっくりと少女の姿を眺めてからうんうん、と頷いて機嫌よさそうに声を弾ませる。そしてもぞもぞと身をよじって脱出したかと思うと、そのまま少女と向かいあった。

「なるほど、おまえがだね?」
「おまえ、だなんて呼ばれる筋合いはありませんよ。折角何百年もこっそりバレずに居候していたのに、失敗したわ」

神は少女に手を伸ばした。ルシフェルには習慣のない、ヒト同士の「握手」というものを神が少女と交わす一種信じられない光景を眺め言葉をなくしていると、少女が神から手を離しつつルシフェルを一瞥した。

失敗、というのは2011年の時代にルシフェルと、神の使いである「天使」と遭遇し異質性を感じ取られたということだろう。その悔しそうな少女の様子に神は苦笑した。

「まぁ、彼は特別なんだ。暁の、ほら、ルシフェルっていう大天使でね」
「ルシフェル……?ルシファー…あぁ、なるほど」

不可思議な少女もさすがに大天使ルシフェルの名は知っているのか納得したように頷いて再びルシフェルに顔を向けた。黒髪に白い肌、そこはルシフェルと変わらない色だが、その目は赤ではなくて深い青であった。その目がルシフェルを見上げる。が、普段彼が他の天使たちに向けられる羨望の眼差し、あるいは畏怖のこもったものとはまるで違う視線だった。

「なるほど、これが」

これ、と呟く小さな声だったがルシフェルにははっきりと聞こえた。ヒト風情がこの己に対して使う言葉にしてはあまりにも不敬極まりない。こちらの内の感情を神は当然気付いているだろうに、しかしルシフェルの反応をさらりと無視して神は自慢げに頷く。

「美しいだろう?私が作り上げた天使の中で彼ほど美しく完璧な存在はないよ!」

先ほど聞いた神からの賞賛の言葉と同じ声音であるのにルシフェルはこのときほど(いくら周囲に同等の力を持っている、右腕、とそう称されていても)己は神の作り出したものなのだと自覚させられた瞬間はなかった。神が告げる言葉の一切は事実だ。ルシフェルは指を鳴らしてどうなるわけでもないが、一瞬鳴らして時間が停められぬか試してみたくなりつつ、神と少女の話に割って入った。

「神よ、このヒトの子は君の知り合いということでいいのかな?」

こうしてアストラル体、天界というルシフェルの力が最も強くなる場で改めて少女と向かい合いこの少女が天使でも悪魔でもないことを感じ取る。ただのヒトの子以上の力を感じない。だが確かにこの少女はヒトならば入り込めぬはずのこの場所に存在している。それであるからヒトの子、と口に出しつつルシフェルは神からの詳しい説明を求めた。

「知り合いじゃありません。彼とは初対面だわ」

少女はルシフェルの言葉を訂正し、ひょいっと腕を振った。しかし何も起こらない。それで不満そうに唇を尖らせてから神に向かって「女性を立たせて置くのですか」と椅子を要求してくる。

ヒトが神に要求するとは!

少女の尊大な態度に苦笑した神が何か言う前にルシフェルはパチン、と指を鳴らしてパイプ椅子を出現させると、そこへ少女を促した。少女は何か言いたそうな顔でルシフェルを見たもののキシキシと椅子を軋ませて大人しく座った。ルシフェルはそのまま再度指を鳴らし、神の玉座、とまで仰々しいものではないが神が収まるに相応しい豪奢な純白の椅子を呼び出して神が座るのを待ってから自分はその傍らに立った。

「君が入り込んでることは気付いてたけどね。いつ挨拶に来るのかなぁって待ってたんだ。やっと来てくれて嬉しいよ」
「私、こちらが初めてというわけではないんですけど、ここまで放置してくださったのはこちらが初めてですよ。自分からは女性に声もかけられない、典型的な草食男子ですね、あなた」
「一応私は全知全能、思い通りにならないことなんて何一つもない神なんだけど」

淡々と言葉が交わされる。不機嫌を全面に押し出したと対照的に神は機嫌が良さそうだ。久しくない上機嫌、堪えようのない歓喜!といわんばかりの神の様子にますますルシフェルは面白くなかった。

神の言うようにこの世界の唯一絶対神はこの彼ただ一人だ。己は彼に仕える忠実な天使であり右腕。それをこの少女の存在は破壊しかねない何かを秘めているように思える。いや、一見ただのヒトの子、小娘一人に何を恐れる必要があるのか。そう自嘲してしまえばいいのにそれができない。なぜだ。ぐるぐるとルシフェルは久しくなく「戸惑い」を感じた。この世に誕生して以来ここまで困惑したのは初めてかもしれない。それほど、目の前の得体の知れぬ小娘が当然の顔で神と「対等」に言葉を交わすことが「自然なように」思えてしまったのだ。

「あ、そうだ、ねぇ、。君はどうせ行くアテがないんだろう?それならもう暫くここにいるといいよ」

思考に沈むルシフェルを放置して神との会話は続く。それでひとしきりの情報交換が終わったらしく(ルシフェルは耳にしても理解できない言葉が多かった)ぽん、と手を打って神がに提案する。は面倒くさそうに眉を跳ねさせ首を傾げた。

「だからってあなたとTVゲーム三昧はお断りですよ。しかも…悪魔狩りなんて趣味じゃないわ」
「面白いんだけどね。ほら、一応私は神なんだよ?良いチョイスかなって思ったんだけど」
「そのゲーム、最後に主人公のお兄さんが地獄に落ちて悪魔と戦って終わりですよ」

ネタバレされた!と神がショックを受けた顔をした。しかしこれで暫くゲームへの興味は失せてくれるだろうとルシフェルはこの件のみは彼女に感謝した。

神は暫く「いや、まぁ、バコスカ撃ったりするのが楽しかっただけだから内容はいいんだけどさ?」とぶつぶつ言っていたが、気を取り直して再びに顔を向ける。

「まぁ、わざわざ一緒に引きこもろうなんて誘わないよ。悪魔じゃなくて堕天使狩りなんてどう?テレビゲームじゃなくて実際にプレイするっていうのはさ」

どうやら神は今回の「問題」にこの少女を参加させる気になったようだ。ルシフェルは阻止しようと口を開きかけるが、その前に神がとんでもないことを言いだした。

「いや、それがさ。私の創った天使たちがヒトになりたいって言って堕天しちゃってね。もちろん私の所為じゃないよ?そこのルシフェルがしくじったんだ」
「……神よ、君に歯向かう気はないんだがね。それはちょっと酷い言い方じゃないか?」

私の所為か!?とルシフェルは先ほど神を止めようとした言葉を忘れて文句を言った。何度思い出しても自分に非はないはずだ。だがすでに神の中では「ルシフェルが間違えた」というのが事実になっているらしい。神に言葉に出されればそれは確定される。不名誉極まりない展開にルシフェルはもう協力するのを止めようかと本気で考えた。神はそんなルシフェルの思念を感じ取っているはずなのに取るに足らないことと思っているのか、あるいはなんだかんだとルシフェルが神を裏切れるわけがないと知っているのか(ルシフェルも結局は拒否できない自分をわかっているだけに)無視してへの説明を続ける。

「それで、まぁ、地上に天使とその知識を持った連中がいるとマズイだろ?このままノアってもいいんだけど、大掃除には一寸まだ早いしさ。それでいろいろ考えたわけ」
「貴方がヒトのふりして地上に降りてバッタバッタと堕天使を倒していく、なんて観ていてチート全開の夢物語なら観たくもないわ」
「いや違うよ!そんなことはしないさ」

ノアって、というのは大洪水のことだろうか。ルシフェルは今回の神の「計画」というか「御考え」を思い返し額を押さえた。

堕天が成功してしまい、地上に転生した堕天たちは神のもとから持ち出した「知恵」をヒトに授けて不自然な「進化」「発展」を齎すことになる。そしてヒトと天使が交わって誕生するネフィリム、共食いした結果の存在である火のネフィリムが神の作り出した地上を破壊するという「危険性」をエルダー評議会は感じ取り全てを一掃する「洪水計画」を決定する。

その実力行使に対して「異議」を申し立てる者を作り出し、その者に堕天を捕縛させて自体を収拾しよう、というのが今回ルシフェルが協力することになった神の「計画」である。

神は何もしない。全ては堕天やエルダー評議会、さらにいはヒトが選択し行動した結果での「出来事」であると片付けられる。全ては神の手のひらであるのに彼らはそれを知りもしない。思い返して大天使は皮肉めいた笑みを浮かべ、憮然としているを眺めた。

この小娘が今回のことに介入するようになるのなら、きっと神はお守りを自分に命ぜられるんだろう。この場に居合わせたことを不運と諦めるべきかとルシフェルは考え、諦めを感じ取った神がこちらを見てニコリ、としてからに最後の説明を告げた。

「そんなんじゃないって。清く正しい心を持つヒトを召し上げてプレイヤーズキャラクターにしようと思っただけさ!」




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(2011/08/20)