半壊


 

 

 

ぎこちなく壊れた鋼の半身に体を寄せて、そっとの嗚咽を聞いた。
どうしたのか、と問いかけようと口を開いても、どのように利けばうまく、彼女のことを傷つけずにすむのか分からなかった。だから、ゾルルはそれしか出来ない馬鹿な子どものように、じっとのその震える小さな体を抱きしめていた。ゾルルは世界を愛していたし、憎んでもいる。けれどは違った。それだけのことなのに、ただその立ち位置が違うというだけで、どうしたってゾルルはのことを理解することができそうにない。カタカタと鋼を鳴らして、ゾルルは目を伏せた。、声にならない声で名前を、ただひたすら呼んだ。それは彼女のためではなくて、自分自身を安心させるためだという、なんとも自分勝手で浅ましい理由からであったのだけれど。確かに、ゾルルはのことを愛していたし、も少なからず、この、見るのもおぞましいはずの醜い鉄の塊を、命を奪うことしか能のない中途半端な生き物を、確かに少しは愛してくれている、ように感じられてきた。けれど。けれどそのことが、何か大変な奇跡を呼ぶような事態になるわけもない。
誰かが彼女を救えるかもしれないとするのなら、それは少なくともゾルルではありえなかった。ゾルルではなくて、誰か、そう、例えば今も地球にいて何かをしているかもしれないあの、黄色いいけ好かないあの男であっても、きっと彼女のことを救うことはできないだろう。つまり、が少なからず好意を持っている相手ではなくて、また違う第三者でなければ、彼女の本当に抱えている“闇”あるいは宿業ににた何かを悟ることすらできないのである。それを、ゾルルはひっそりと恐れていた。今は誰もを理解できるものなどはいない。それが、まだかろうじて誰もがの中の特出した何か、という存在にならずに済んでいるのだ。

(ねぇぞるるくん、せかいがこわれてもきっとぼくは、)

震えるその姿は雷を怖がる子どものようなのに、どうしても、そのつどに響く笑い声は、発狂した女のものと酷似しているように聞こえた。何かがひっそりと壊れていくのではないだろうか。少なくとも、まだこの星に帰ってきたばかりのころはこうではなかった。まだ、あの星の余韻でも残っていたからなのか。それを、それを、どうして気付けなかったのだろうか。彼女をここに連れてくるべきではなかった。小さな子どもが泣いている、そう判断するにはまだ彼女は、あまりにも小さくて、そして巨大すぎる。それを他人がどう感じるのかなど、軍籍において既に軍人とは扱われない彼にとってはどうでもいいこと、ではあったのに。

(彼女は確かにここに生きているのに。どうしてその存在が、あまりにも希薄に過ぎるのだろう)

Fin