皆さんこんにちは、です。
寒くなりましたね。ドラム王国は雪だから仕方ないと思うんですが、東京生まれの私にはしんどいです。

それはさておき、いろいろあって魔女になりました☆とかそんな楽しい展開かと思いきや、早速問題です。

「……なんですか、これ」

手元にある本を見下ろして、は顔を顰めた。

「何って、見ての通りさね」
「……いや、見ての通りって…え?」

魔女の教本という「リリスの日記」をイヴさんの鞄から出したまではよかった。一体どんな展開が舞っているのだろうと聊かの期待にない胸を躍らせていたは、「ちょっとまってください」と一度パタンと本を閉じた。

見間違いか?
きっとそうだ。
うん、そうに違いない。

ゆっくりと深呼吸をしては再び本を開く。

「…………………だから、これ何なんですか」

魔女の教本。

てっきりこう、重々しく難しい言語であれこれと魔方陣や何かが書かれていたりするんじゃなかろうかと、インクのはっきりした挿絵やおどろおどろしいルーン文字が躍っているのではないかとそんなことをは期待したのだが。

「……カタログですかこれ」

開いてまず目に入ったのは、色取り取りのカラフルな写真ににも読める日本語。

端には型番まで記載がされている…どう見たって、何か雑用品のカタログだ。

まず、日記じゃない。

あれか?リリスの日記っていう企業のカタログなのかこれ。株式会社「リリスの日記」とかそういうのなのか。そういう展開誰が望んだ、と、はぶつぶつ呟く。

「使用者に一番わかりやすい形になるんだよ。イスカリオテが使っていた時は楽譜だった」
「……つまりわたしがお手軽用品ってこと!?」

どういう認識されたんだろうと釈然としないものはあったが、確かに自分に楽譜やら医学書を出されても困る。

ぱらぱらと捲りながらは首を捻った。

「色々あるんですね。魔女の道具なんですか、これ?」
「そうさねぇ。これなんて見たことがある。あぁ、そうだ。魔女の鏡だ。遠くのものを見ることができるそうだよ」

ドクトリーヌが指差したのは黄金の細工の施された立派な鏡だ。白雪姫の継母が使う鏡のイメージが浮かぶ。この鏡を使用してイヴさんが「鏡よ鏡」と言っていれば、中々迫力があったのではないか。想像してはくすくすと笑い、ドクトリーヌを見上げた。

「これ、私も使ってみたいです」
「無理だね」
「即答!?」

あれこれ面白そうな道具がある。きちんと魔女になるため使いこなせるようにならなければ!と決意をして、まずはイヴのように、と思い口に出してみたのだが、ドクトリーヌは容赦なく切り捨てる。

「遠くのものを映し出す鏡なんて並みの魔女だって使えやしない。ましてやあんたは見習い魔女以下なんだよ。ほら、ここをよくご覧、星の数が十五もある」
「あー…この星がレベルってことなんですか?やっぱり…」

実は目にはいっていたのだが、やはりそうなのか。できれば見なかったことにしたかった。

「それなら、私のレベルってどれくらいなんですか?」
「普通は見習いなら星はひとつからだけど、アンタは、まぁ、イヴ・イヴェンのお墨付きだ。星2つまでなら何とかなるだろうよ」
「えーっと、それじゃあ二つで出せる道具は……」

一度パタン、と本を閉じると、再び開けば親切なことに星2つで使える道具のリストに並び替えられている。なるほどの意思に従ってくれるのか。中々便利である。

「……」
「最初から欲張るんじゃぁないよ」
「いや、だって、こんなに分厚いカタログで……十個って、どゆことですか」

星1つで使えるのは3種類。2つで使えるのが7種類の計10種類か。

「……そ、それじゃあ、魔女の箒で飛ぶとかは…」
「はるか先の話だね」

ためしにカタログに「飛行用の道具リスト」と念じて並べ替えて貰ったが、結果は落ち込むばかりだ。

「……う、ひどい。こんなにあるのに……!」

カタログの中には魔女の移動道具ということで、デザイン様々な箒やらオーダーメイドのリスト、デッキブラシに弓など様々なものが載っている。

「可愛いのに…!この掃除機とかすっごい可愛いのに…!っていうか掃除機で飛べるんですか?魔女って」

吸引力の衰えないと評判のダイ○ンに似た掃除機も掲載されていてのテンションが上がった。ほかにもチリトリとかはたきとか…魔女の移動道具って、基本的に掃除用具なのか…?

「……私の今のレベルで出せるのって、この石5個入りくらいなんですね…」

用途はよくわからないが、色の綺麗な小石のシリーズ。とても綺麗なのだが、しかし石をどうしろというのだ。

「魔女の移動手段を使ってイヴさんを助けに行きたいのに…。一番ランクが低い掃除用具でも、星は7つ必要って…」

落ち込んでいるとドクトリーヌがため息を吐いた。

「その本は未熟な魔女を育てる役割も持ってる。その本が今のあんたはそこから始めたほうがいいと判断して見せてるんだ。大人しく従いな」

にべもない。

がっくりとは肩を落とした。
確かにイヴ船長の元へ行くまでに猶予は2,3年はある。けれど魔女になるためにどれほどの時間が必要なのか。

「第一、この石何なんですか」

自分が出せるもの、という代表の写真を眺めは頬を膨らませる。

「自分で出してみりゃいいだろう」
「……どうやって?」
「アタシが知るもんか」

魔女じゃないんだよ、とドクトリーヌは顔を顰めるが、としては今現在一番頼りになる人間なのだ。ここで見捨てないでほしいが、しかし、自分のことはある程度自分でやらねばならないと母の教育方針を思い出す。

(そうだ。お母さんはいつも、自分で考えなさいって言ってたっけ)

この世界に来て色々あったため、元の自分の生活が今は夢の中のように思える。けれど思い出して、じんわりとの心が、温かくなった。

あの世界で私はどうなったのだろう。今はもう、自分が本当にあそこにいたのか証明できるものがない。イヴさんだけがが「別の世界の人間」であると認識し、保証してくれるただ一人の人だった。

そこでハタリ、とは気付く。

私は自分自身を失いたくないから、イヴさんを助けたいのだろうか?

イヴがいなくなれば、自分はこの世界にぽつん、といる生き物になる。誰もを知らない。知らないということは、なんにだってなれるということ。それはではなくさせる可能性を孕んでいる。

それが、ぼんやりとした不安として根底にあるのか。それだからイヴを助けたいのか。

は一瞬わからなくなった。

赤犬に対しての怒りがあった。憎しみがあった。けれどこうして時間がたつにつれ、は「わたしはもう終わるのだよ」とそう決めていたイヴ・イヴェンを思い出す。彼女はそれでよしとしていた。それをどうにかするのは、それはのエゴだ。

「………ねぇ、ドクトリーヌ」
「なんだい」
「人に生きていてほしいって思う心は、エゴ以外の理由を見つけられるの?」
「なんだ、唐突に」
「なんとなくです。もし、それがどんな場合だってエゴだっていうなら、私は安心してイヴさんに自分のエゴを押し付けられるかなーって」

にこり、と笑ってはカタログを胸に抱いた。

イヴさんがこの本を託したのが偶然にしろ、素質とやらを自分に移してくれたのに何らかの理由があるにしろ、やはり己は今現在イヴさんを助けたい。それを強く思う。その根底が自分自身を守るということだろうが、正直イヴさんのファンになったというミーハー根性だろうが、それは今はどうでもいい。

「とにかく、わたし、魔女になります。だって、そうしたら、きっといろんなことができる」

言って、カタログを床に落としびしっと指を指した。

「と、いうことで、わたしは魔女になります。このわたしにわかりやすく手っ取り早く教えなさいよリリスの日記!」

本当ならピンヒールか何かで踏みつければそれっぽいのだが、生憎はローファーである。

「……なにしてるんだい?」
「いや、こう、パン子さんっぽいかなーと思って」

実際それでリリスの日記が反応するわけもない。相変わらず無言の本。まぁ、反応したらそれはそれで怖いのだが、さてどうしようかとは考える。

とりあえず魔女としての自分の力を磨きたい以前に、今の時点のものを把握したいが、リリスの日記のカラログとして以上の使い方が判らないのが現状だ。

本を手にとって、振ってみるがそれで何か出てくることもない。

「とりあえず、ドクトリーヌ。お願いがあるんですけど」
「ごめんだね」
「まだ何も言ってませんよ!?」
「アンタがこのタイミングで言うことなんて判りきってる。いやだね。なんだってアタシがアンタの世話をしなきゃならないんだい。そんな義理はないよ」

先手を打たれては言葉に詰まった。

この流れでこのままドクトリーヌのところに居候させてもらおうと思ったのだが、即行で却下である。

「そこをなんとか!わたし、ここ以外に行くあてがないんです!」
「そんなのアタシの知ったことか。勝手に野タレ死にゃいいんだよ」

しかしドクトリーヌも、何も面倒がって拒否しているわけではないだろうとにはわかる。チョッパーのことも、考えているのではないだろうか。ルフィたちが来るまでチョッパーはヒルルクとドクトリーヌ以外には心を開かけなかったのだ。今もその状態であるのなら、がここで暮らすことがチョッパーにとってストレスにならぬわけがない。

ぞんざいにあしらわれながらもその親心のようなものに気付き、としては強情を張ることができない。

だが、ここ以外に行くところはない。航海術や魔女の移動手段がないはこの島から出て行くことはできないのだ。

「ド、ドクトリーヌ…」

どうしよう。自分の力だけで何ができるだろう。

は黙って唇を噛んだ。

すると、部屋の扉の隅から、ぼそっと、おっかなびっくり、という小さな声がかかる。

「おや、チョッパー。何してんだい」
「ド、ドクトリーヌ、そ、そいつ、行くと来ないんだろ…?お、追い出すのか…?」

とドクトリーヌが声の方に顔を向ければ、おっかなびっくりこちらを窺うという様子の、ピンクの帽子のトナカイが一匹こちらを窺っているではないか。

その犯罪急の可愛らしさはどうすればいいのかと、は真剣に悩む。

「か、かわいそうだよ、こんな寒い中に追い出したら、死んじゃうぞ…」
「だったらなんだってんだい。お前だけでも手一杯だってのにアタシにもう一人養えってのかい?」

ダテに長生きしていないドクターくれは。現実面でも考えている。このドラム王国。今現在まだ黒ひげ襲撃前なら医者狩りのお触れは続行中だろう。ヒルルクが死に、それならドラム王国で唯一生き残った「国に認められぬ医者」は彼女だけ。

腕は確かだが破格の治療費を要求する彼女だ。「国に認められていない」という事実もあって、商売が十分繁盛しているわけもない。医療品を常に揃えて、自身も研究に余念が無い状態を続けるとなれば維持コストだけでも相当かかる。そんな中チョッパーに医学を教えるために消耗する薬品類なども合わせれば。

の家は医学一家だったからわかる。医術は、お金がかかるのだ。

「じゃ、じゃあ、その子の分もおれが、」
「わかりました…!わたし、それなら薬草を生み出せるようにします!!」

このままではただの足手まといじゃないか。はぐっと腹に力をこめて、チョッパーが何か言うのを遮った。

「は?」
「わたしは魔女です。魔女になったんです!不可能なんてありませんよ!」
「その自信はどこから出てくるんだい。飛べもしない魔女が」

ドクトリーヌの呆れた声はさておいて、は閉じたリリスの日記を再度開き、「薬草の種と栽培方法を!」とお願いしてみる。最初の時にドクトリーヌはイヴさんが珍しい魔女の薬草などの苗をワインと交換させたと話していたではないか。

自分がイヴと同じことをできると思うほど驕ってはいないが、しかし、何かできることがあるはずだ。

パラパラとページを捲り、は指を止める。

これなら、と頷いてドクトリーヌにページを見せた。

「レベル3だけど、これは道具じゃなくて作り方が載ってます。失敗する可能性もありますけど、これなら手も届きます」
「……随分と懐かしいものを」

が選んだのは「夏の庭、冬の庭の腐葉土の作り方」である。魔女レベルはそれほど高くはないが、利用度は高いはず。が知る少女ヒロインことリノハも庭弄りはお手の物だったが、何よりも大事なのは土だ。自分の意思を組んでくれる土が出来れば薬草を育て、品種改良するにも役立つはず。

リリスの日記は何も道具のカタログというだけではないらしい。魔女の知識も教えてくれる気のようだ。それが先ほどが地面に叩きつけたための協力的さなのかちょっとばかり気にはなったが。

本に触れていてると、多少なりとも「魔女の育て方」というのが見えてくる。なるほど、魔女というのは道具を使うばかりではない。知識があってこそのもの。レベルを上げていくのは知識を増やし、経験をつんでということらしい。道具を使いたければ実験などをして経験値を積めということだ。

(学校の授業みたい)

つまり、あれか。数学の知識を増やして公式を暗記し解ける問題が増えればテストの点数が上がるように、魔女の知識を増やせば使える呪文やら道具が増え、レベルも上がる、とうことか。

一つ道が開けた。

それならここはうってつけの場所ではないか。

ぽん、と手を叩き、はドクトリーヌに頭を下げる。

「お願いします。魔女の知識や道具は、きっとドクトリーヌの役に立つ。だから役に立てるだけのものをもてるようにしますから、だから、私をここに置いてください!!」

これでもダメといわれたら、仕方ない。

ここはチョッパーを人質にとっての説得に切り替えよう。



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(2010/12/14 16:20)