「嫌ぁああ!!絶対に嫌ですよ!!!なんでその人にフラグ立てないといけないんですかぁああ!!」
「何が不満だ?これ以上の男は今のところいないぞ。何しろエドワードのところの子だからな」

私が立候補したいくらいだ、と言うパン子さんの目は全くもって本気ではない。悠々と「白髭本船」に向かって進む船、止められるものなら止めたかった。

「ポートガス・D・エースとなんて!!どう考えても悲恋じゃねぇかっ!!!」




 

 

 

夢の海へ!


 

 

 

 



ザッパーンと波の音。立ち並ぶ、艦隊、何隻あるのかなど数えたくもない。、ビクビクプルプルと心底体を縮こまらせてパン子さんの影に隠れていた。

目の前には名高い海賊方々。白鬚海賊団の誇る船員の方々が一様にこちら本船に終結していらっしゃる。パン子さんの船が近づいた途端、いろんな警報が鳴った。砲弾こそ撃ち込まれなかったが、思えば「海賊船の船長」というらしいパン子さん、白ひげは敵船にあたるのではないか。マンガで見たシャンクスのような覇気でもあればいいのだが、この、悠々とした隻眼の女性にそれがあるとは思えない。

パン子さんは堂々と、ふむ、と仁王立ちになってあたりを見渡した。

「エースの姿がないが?家出か、エドワード」

いきなり挨拶もなしにそれですか!?

ヒィイイと、は声にならない悲鳴を上げる。ざわっと、その無礼な態度にいきり立つ気配が、素人のにもわかった。ガチャリと鳴る武器の音、それを止めるように声を発したのは、パン子さんの目の前にいる、世界に名高い海賊、エドワード・ニューゲートその人だった。

「うちの船のけじめをつけに出してる。何か用か、イヴェン」

あ、そうか。この世界のパン子さんの名前はイヴ・イヴェンというのだったか。もうの中ではパン子さんでしっくりきているので、こうして誰かが呼ぶのを聞くと妙な感じがした。

パン子さん(以下イヴ)はゆったりと腕を組み、淡い笑みを浮かべて目を細めて口を開いた。

「私のところの見習い娘が良い年でね。エースと引き合わせて青春をさせてやるのも一興だと思ったのだが、留守ならばいい。マルコで手を打つ」
「待てこら!イヴェン!俺で打つとはどういう了見でぃ!俺がエースより下か!?」
「年を考えろ。ロリコンと誹られたいのか」

イヴはノリノリでドS発言をかまし、ふぅっと困ったように頬に手を当てた。

「あの胸糞悪い黒い髭のムサイ男の姿もないな。見れば、ふぅん、四番隊の顔も一つ減った―――なんだ、やられたのか」

ぴくっと、白ひげの眉が跳ねた。先ほどとは違う緊張が、いや、殺気が十万する。

は血の気が引いた。これは、これは、あ、明らかに、挑発行為ではないのか。白ひげは仁義をしっかり通す人。イヴの言うことは、黒ひげティーチが海賊団としての汚点を出した、という、ものすごく痛いところをじゅくじゅくついているのだ。

いくら仲間内で解決させるつもりとはいえ、いや、だからこそ、ここでイヴに突っ込みを入れられたら、それは、まずい、とてもまずい。

「だから以前忠告したのだよ、私は、あの男が、」
「あはははっはははは!!!!!いやぁああ、今日はお日柄もよろしいですよね!よっ!白ひげさんの顔色もいい!!ナースのおねーさんたちのタイツも素敵!!マルコさん!よっ、男前!!!!」

がつんっ、と、は背後から思いっきりイヴをド突いて、その腕をぐいぐいっと引っ張った。

「おい、…私はまだ、」
「いいから!!いいですから!!パン子さん私のフラグ立てに来たのであって喧嘩売りにきたわけじゃないでしょう!!!撤収です!撤退です!!どう考えてもこのままじゃ、パン子さんはいいとしても、私の命がない!!」

テキパキ言ってさっさと船に戻ろうと腕を引くと、「待て」と背後から声をかけられた。

「待ちません!!」
「待てと言っているんだ。そこの、なんて名だ?」

はギギギイイィイと首を機械のよに動かして、ぎくしゃくと口を動かした。

「ナ、ナナシノゴンコ…」
「井原だ。愛らしい名だろう?」

堂々と偽名を使ってこの場をさっさと去ろうとしたを放置、イヴは堂々と言って、ぽん、との首を引っ張った。普通に苦しい。

「少々わけありでな。このわたしの船にいるが、エースに会わせてやりたいと思っている。あれは良い青年だ。お前の息子にするにはとても惜しい」
「喧嘩を売りに来たのか、褒めにきたのかはっきりしねぇ女だな。ふ…まぁいい。その娘、エースが戻るまで預かってもいいぜ」

マジっすか。

を放置して勝手に処遇が決まりそうな気配。いや、別に白ひげさんが嫌いとかそういうのはない。だが、エースにフラグはちょっとまずい。エースは好きだが、しかし、が最後に確認しているあたり、エースはインペルダウン行きだろう。もしも、自分がエースに惚れてしまったら、すごく苦しい。ものすごく、嫌だ。どうにかしたいと思うのに、どうにもできなくなるだろう。そんなのは、嫌だ。上から読むのは楽しいが、その当事者になって、苦しむのはいやだ。

(どうせなら、ただただ楽しいだけの物語がいい)
(私はおいしいところしかいらないから)

「せ、せっかくですけど……!!!」

この二人の会話に入り込むのはとっても怖い。ものすごく、とっても根性がいるのだが、しかし、このまま白ひげさんのところにお世話になります☆なんて展開は、精神的に無理である。なんとか声を上げると、白ひげが「ん?」とこちらに目を向けてきた。

「何だ、

もう呼び捨てですか。いや、いいです。白ひげの旦那だったらそれはいいです。ぐっとは手に力を込めた。

「私は…私はパン子さんと、イヴと一緒にいたいんです!!」


「「「「「「いや、それはどう考えてもお勧めできねぇぞ」」」」」」


ものすごく大量の人がきれいにハモって突っ込みを入れてきた。

だが他にいい言い訳も浮かばなかったのである。おや、とうれしそうにニヤニヤするイヴに、白ひげがものすごく気の毒そうな顔をこちらに向けてきた。


 

 


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