青い空、白い雲。
カルミナ・ミラーナ号、今日も元気に爆走中です。
「っていうかイヴさん…本当にこれ、なんで無人で動けるんですか……」
甲板から海を眺めつつ、はもう突っ込んではいけないと思いながらも突っ込まずにはいられない日々の疑問を口にする。
イヴさんの意思で自由に動く、そういうものだというのはわかるのだが、いや、そこ、どうなの?と思う。ワンピースの世界観無視しているよね、っていうか、まずその前に。
「グランドラインで嵐に遭遇しない船ってどうなんですか」
「わたしはずぶぬれになるのは好きじゃない。なんだ、卿にはそういう趣味があったのか」
夢の海へ!
船酔いしました。
「気持ち悪い……」
うぇっと、全く持って乙女らしからぬ呻き声をあげながら、やっとのこと、地面に足をつける。その隣ではイヴさんが「吐くなら海に吐け」と外道なことをおっしゃる。
「そんなに具合の悪いものか?」
小首をかしげてこちらを眺めるイヴさん。船酔いなどしたことがないらしい。
いや、船酔い。
まさかなるとは思わなかった。ここ数日は平気だったのだが、やはり緊張していたからだろうか。
「ものすごく、死にそうです」
「は、はは、は。一度死んでいるのにおかしな娘だ。――口を開け」
言う言葉に頷く前に、ぐいっと、顎を掴まれた。そのまま乱暴に、口の中に何かを放り込まれる。反射的にはきだそうとしたの口と鼻を押えこんで、ごっくん、と飲み干すまでイヴは手を放さなかった。
「…げほっ……なんですか、これ」
「薬だ。まぁ、効くかどうかは相性だがな。少しこの港に停泊しよう。、私は船にいるから、卿は町でくつろぎなさい。二三日は滞在できるから、少しこの世界に慣れるのもいいだろう」
「え、イヴさんは一緒に来てくれないんですか」
「あまり陸は好きではないのだよ」
できる限り海にいたい、と答えてイヴさんはふわりとあくびをした。白ひげ海賊団の船と分かれてからここ数日よく眠たそうにしている。年がら年中寝ていそうなイメージはあるのだが、無人で動くカルミナ・ミラーナ号、とくにやることもなく寝放題ではないのか。
(もしかして、これが「終わる」という予兆なの?)
考え込むに、ひょいっと、イヴは革袋を渡した。
「?なんですか、これ」
「この世界の通貨だ。価値はわかるか?」
「あ、はい。52巻に描いてましたから」
「?何?」
「あ、いえ、こちらの話です」
パタパタと手を振って、は中身を確認する。
「五千円…じゃなかった、五千ベリーですか」
結構はいっているんじゃないかと期待したのだが、イヴさんは厳しかった。
「土産を買って食事をするには手頃だ。大通りを行くのだよ。ガラの悪い連中に絡まれたら「チカン!」と叫んで逃げろ」
それは逆効果だと思われます。は突っ込みを入れて、革袋をどこにしまおうかと考える。ちなみに今日の服装はセーラー服である。イヴさん、には制服が似合うとセーラー服を三着程作ってくれた。それぞれ黒襟、青襟、紺襟だ。合わせの靴下は残念なことに豹タイツではない。普通にハイソックスである。
「カバンは持ってきてないのか?」
「そういう気力ありませんでした」
吐きそうだったので船を下りることに精いっぱいだった。おや、とイヴは眉をはねさせて、くるりと腕を振る。デッキブラシを出すのと同じ要領で、イヴさんの愛用のカバンが出てきた。
「私の鞄を貸してやろう」
「え」
「嫌か」
「いえ…なんかいろいろ入っていそうで」
「取り出そうと思わなければ出てこない」
何が入ってるんですか。
「えっと。ありがとうございます……」
「楽しんで来い。カーニバルでもやっていればいいのだが、さすがにそう都合よくはないだろう」
そしてポン、と背中を押された。途端これまでの気分の悪さがなくなってきて、は驚く。船を振り返ると、もうそこにイヴさんはいなかった。
■
「うわ、なにこれ、見たことない!へぇー、ここの島の文化なのかな?あ!こっちのかわいい!!!」
手に焼き鳥やら綿菓子やら、頭にお面やらをつけた完全「観光満喫中☆」な姿の、中央通りに出ている露店をあれこれ周り覗き込んでは声を上げる。
イヴさんは名前を言わなかったが、この島、グランドラインにあるだけあってなかなか独自の文明を築いているようだった。どことなく、の世界のインドに似ているかもしれない。アジアン雑貨は大好きだ。、露店に並ぶ装飾品を眺めて目を輝かせた。
着飾ることに基本的に頓着がなくとも、こういうものを見るのは好きである。そしてオタク生活の延長で、小さなアクセサリー類を作るのも好きだった。(いや、ほら、コスプレの時に使える)
「参考になるなぁ……あ、なんか作りたくなってきた!」
この世界では材料とかはどうやって手に入れるのだろうか。イヴさんに頼めばひょいっといろいろ出してくれそうな気もするが、やはり自分の足で材料をそろえるのも楽しい。と言ってこの世界にクロス××とかがあるわけもない。
「せめてビーズとワイヤーが手に入ればなぁ。指輪とか作れるのに」
んー、とは何もつけていない自分の手を眺める。いや、別に自分がつけたい、というわけではないのだが、作るのは楽しいし、作ったならつけたい。それにイヴさんにも似合うだろう。
一応はイヴさんに保護してもらっている身だ。
何かお礼に作ることはできないかと、そんなことを考えた。
「おじさん、このヘンにビーズとか売ってるお店ないですか?」
は覗き込んだ木彫りの露店の店主に声をかける。木彫りの熊を真剣そのもので掘り上げていた店主は一瞬「え、今この状態で声掛ける?」という顔をしてきたが、それはそれ。しかも客でもないにいろいろ言いたいこともありそうだったが、すぐに愛想よく答える。
「この島は販売専門だからね。材料なんかは隣の島で売ってるよ」
「え、そうなんですか?」
「ここは週に二度こうした市場が開かれるための場所なんだ。作物も育たない土地だけど、こうして栄えてるのは隣の島との連携があってこそなんだよ」
へぇーとは感心して声を上げた。
グランドラインは交易が難しくて一歩間違えればすぐに滅んでしまえる場所だといつも思っていた。だが、それはあくまで客観視するの感想であり、そこに生きる人からしてみれば「だからどうした」と、それを理由に滅んではしまえないのだろう。
こうして知恵を出し合い、むしろ「え、なんで滅ばなあかんの」的なノリで乗り越えているのか。
「ところでお嬢ちゃん」
「はい?」
「何かしたのかい?」
え、とが首を傾げる前に、カチリ、という音が耳元に届いた。
そして気づけば銀色の刃物がこちらにいくつも突きつけられている。
「え、え?」
「抵抗するな。大人しく連行されろ」
見ればカモメマークの制服を着た海兵さんがぞろぞろと、のまわりを囲んでいる。その中の一人、野暮ったい様子の、しかししっかりとした足取りの海兵がに向かって何やら書状を突き出してきた。
「お前を海賊団員の容疑で逮捕する」
なんですか、この展開。
はただ驚いて、え、そんな妙な罪状アリですかと呟いた。
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