そういえば君は随分赤い目をしているね




「バカだな、あんた」

うな垂れたまま呟いて、これ以上を望んでなどいないのにそれでも刺しか吐けず言って自己嫌悪に陥る。けれどだから、弁護する言葉が続けられる器用さはなく、押し黙った。はカチャカチャと小さな音を立てながら部室の救急箱を漁っている。その白いこめかみからは今も真っ赤な血がぽたりと流れていた。外では相変わらず王者立海大テニス部の地獄の特訓が続けられていて、部員たちの声が真夏の空にこだましている。

「……」

は何も言わなかった。ただ、部屋に入って最初にしたことは切原にアイスマクラを渡して少しだけ休むように言っただけ。自分の手当てよりもさきに、このマネージャー総括は副部長の裏ケンを食らった加害者の処置をした。切原は最初なぜそんな気遣いをされたのか理解できず、ただただ腫れた頬を氷枕で押さえているだけだった。

何がきっかけだったのかは、もう切原の記憶にはないけれど、今日の練習試合中に赤眼になった。暴走している赤也には部活の三年生たちでさえ近寄ろうとはしない。ただひとり、だけがコートに入り、飛び交うボールをあっさりと受け止めて奪った。そうして切原に近づいて彼の暴走を止めたのはきっとこれ以上部員に被害が出ないようにだろう。しかし赤也は水をさされたことへの怒りをそのままにぶつけて、彼女の細い体をポールに叩きつけた。誰もが息を飲んだ中、は何事もなかったように起き上がって、切原の腕を掴んだのだ。「部室へ。アナタ、少し頭を冷やしたほうがいいわ」と。こめかみから血を流しているというのに、彼女は切原の処置を優先させた。

切原赤也は立海大二年生エースで、その戦力は立海大には欠かせない。うぬぼれではなくて、それは事実だ。まだ三年の化け物三人には勝てないけれど、それでも切原の実力は重要。マネージャー総括のの仕事は立海大を全国優勝に導くこと、それだけが彼女の全てなのだということは去年の秋から嫌と言うほどに知らされてきたことだったから、そのために、彼女が自分の身を省みずに後輩の…立海大レギュラーの世話をするのは当然のことなのだ。

「ねぇ、センパイ」
「何?」
「アンタは俺を怖がらないんスね」

器用に鏡も見ずに消毒を始めたは振り返らない。切原は笑った。

「でも、たぶんアンタが一番冷たいんだ」

(貴方は「そんなことはないよ」って言ってもくれない。誰も彼もが俺自身の才能か、それか俺の外装に興味を持ってくれるのに。貴方は結局俺を見てはいないんだ)

(それって、少し悲しいな)

(テニスさえできればいいって思ってるのに。なんでだ)

Fin

立海大は難しいです。と赤也はこんな感じ。切原はを好き、な気持ちがちょこっとあるのに、どうしていいのかわからない。どうすればいいのかもわからない。は、本当はいっぱい赤也を心配しているのに誤解されている。

(7/31/06 11:27 PM)