※注意
この話は原作全国大会にて氷帝vs青学で手塚vs夢主の試合をやるよ、という
もう捏造妄想も程がある、という設定のうえお送りしております。
「あぁこういうのやりたかったんだな」と生暖かく見守れる方はスクロール。
夏が過ぎたらきっと僕は伸びた黒い髪を切り落としてしまうだろう
涙が出そうになった、というのはチープな言葉過ぎて嫌いだった。
けれど今、その言葉を僕は使いたい。どうして、どうして、こんなにも悲しくなるのだろう。氷帝学園の、絶対の帝王が破られた。氷の世界に君臨していた、彼が。僕は気絶をしたままコートに立ち尽くす彼を見て、胸が鷲?みにされるような痛みを覚える。こんなに、自分が人間らしい反応ができたなんて、と笑う余裕はなかった。(愛しているよ)
眼鏡の美丈夫に抱えられて、彼が戻ってくる。まだ、目を覚まさない。けれど、悪夢を見てはいないのだろう。意外にも穏やか過ぎるその顔に、それだけで僕は安心した。彼が目覚めた時に、泣き出さないようにしなければ。
すれ違う、キャップを被った短髪のチームメイトに呼ばれる。
「」
「宍戸くん」
「勝てよ」
「負けないよ」
言って、僕は笑った。カタカタと、小さく体が震える。それを気づいて、宍戸くんが優しく頭を撫でてくれた。何も言わないその手に、僕は「は」とかすれるような声で笑った。
(僕は今まで居場所というものを持っていなくて、最初に入部した、今敵対している学校のテニス部では受け入れられなくて、表面上はみんな仲間と呼んでくれるのに、みそっかすの扱いを受けていて、世界に絶望していたのに)
僕は氷帝学園のテニス部が大好きだった。跡部くんがいるから、というだけの理由ではなくて、みんな、誰も彼もが、僕を受け入れてくれたことが、僕には奇跡のようだった。それを、きっとみんなは知らないんだろう。それが当たり前のことだと、そう思ってくれている。
(それすらも、僕には愛しいだなんて)
「負けないよ」
頷いて、繰り返す。静まり返った、氷帝学園のテニス部員たちは、ぐるりと会場を囲んでいるのに、これじゃあ、通夜じゃないか。それに引き換え青いジャージの青春学園はお祭り騒ぎ。なんたって、一年生が、三年生の部長を破ったのだ。これで、次の試合で勝敗が決まる。
次のカードも、立場が変わるだけで先ほどの繰り返し。つまりは、青春学園の部長対、一年生ルーキーの真剣勝負。僕は、声を上げた。
「誰が負けるもんか!!引退なんてさせやしない!勝つのは僕だ!氷帝だ!!!」
跡部くんのように、歌うようにはいかなかった。涙混じりに叫んだ言葉は、必死で見苦しかっただろう。だって当然だ。おそらくは、中学テニス界で頂点に立つだろう手塚国光と、こちらは公式戦に二回しか出たことのない。僕が負ければ、僕は自分の愛している世界を自分で消してしまう。(そんなのは、いやだ)僕は今まで、自分以外の人間のせいで大切なものを壊されてきた。だから大切なものを持たないようにしてきて、それでも、愛してしまったこの世界を、今度は自分の手で壊さなければならないなんて、そんなことは嫌だ。
返せない。なんでだ、走っても、走っても、コートは広すぎて、僕は泣きたくなった。コールは接戦。どちらが勝つのかみんなにはきっと分からない。けど、試合をしている僕と手塚くんは分かった。絶対的な、男女の差が僕らには確かに、観たくなくても、あった。
きっと僕は負けるだろう。どれほど全力を尽くしても、体のつくりからして、女は男には勝てないようにできているらしい。(だって、そうじゃないと、区別がつかなくなるからね、なんて笑うな)
そんなこと、どうでもいい。
(負けたらどうなるの)
それは、青春学園が勝って、次に進んで、越前はその名前を高めていくだけだ。そして僕は三年生のいない、新しいレギュラーたちと毎日の練習をこなす。次の大会まで。ヒヨ子はいる、鳳くんも樺地くんもいる。跡部くんたちだって、卒業するまでは顔出しくらいはするだろう。
でも、それはもう、僕が愛している世界じゃない。
「絶対に守るんだ!僕が、勝って、氷帝が全国制覇をする!!」
だから気づいたんだ。結局こんなに怖いのも、必死になるのも、全部自分のためだった。僕はもう一度一人になりたくはないから、今両手に抱えているものを失いたくないから、みっともないと思いながらも、必死でラケットを振りながらボールを返す。
(手塚ゾーンがなんだ、零式ドロップがなんだ。接戦上等。僕に返せない球なんてないんだ)
一生懸命生きることをバカらしいと思ってこの学校に入ったのに。いつのまにか僕は一生懸命、本当に、僕の一生を懸けて生きているんじゃないかって思うくらいに、走り続けていた。
結局僕は、自分がここにいたいから、跡部くんが部長で、忍足くん、がっくん、ジロちゃんがいる部室に行きたいから、自分のために戦うんだ。
(あぁ、なんて、なんて、僕は幸せなんだろう)
自分自身のエゴのためだけに生きているなんて、僕の人生に、一度もなかったことだ。僕は誰かを盾にとられて、それを守るために生かされてきた。その、人形以下の
この僕が、自分のために戦っている。
「勝つのは僕らだ!氷帝だ!!!!」
叫んで打った球は返ってはこなかった。
Fin
夢です。テニプリで氷帝が勝つお話。は自己中に見えて、いっつも自己犠牲ばっかする子だったという前提で、でも、がちょっとでも手を伸ばせば、彼女の望む世界は存在し続けたんだってことに気づいた話。妄想にも程がある!
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