可能な限りのシンメトリー
瞼の造型を確かめるように舌で謎って、ぴくりと反射的に震える皮膚を唇で摘んだ。些細な児戯のように、ひっそりと呼吸を殺したまま、お互い無言。銀フレームの眼鏡はじれったいとばかりに馬乗りになる少女がどこかへ投げ捨てた。紳士のような男の、さらりとした髪を愛しいと言うような手つきで撫でる。答えるように、相手の手もモノクロの髪に触れた。最終時刻を知らす鐘の音、細く、響く運動部の声。汗を吸った、肌触りの悪いシャツをたくし上げようとする、細い指を払い落とした。
「調子に乗らないでよね、仁王くん」
「何じゃ、バレとったんか、」
「欺くには、キミは役不足だ」
言って小柄な少女は詐欺師と名高い男から離れ、身を整える。その痩身ならば簡単に押し倒せるのではないか、と仁王は一瞬考えた。鍵は掛かっているし、今日はテニス部の部活もない日。のように授業をサボって昼寝をしていたのではないかぎり、誰もここにはこない。だが、だがしかし、押し倒して、服を剥ぎ取って、無理やりに犯して抱いたとしても、おそらくはこの少女は、誰よりも化け物のにおいのする少女は道端で転んだ以上の感慨を持つことはないだろう。性欲発散なら、これほどに都合の良い相手もいないだろうな、と考えて笑う。相手をあざ笑うのではなく、自嘲。そこに感情を伴ってしまえば、これほどに嫌な相手はいない。
「いつバレた」
「見間違えなど、しない」
「愛か」
柳生は果報者じゃの、と茶化して言うと、は「は」と蚊の鳴くような声で笑った。
「仁王くん」
「うん?」
「柳生くんなら、ボクは抱かれると思っての茶番か」
「まぁの」
「くだらない」
は吐き捨てた。意味を考えようとして、仁王は一度の表情を読み取るために顔を向けた、とたん天上を仰ぎ見る。時間が戻ったわけでもないのに、同じ状況。いや、あっさりと脱がれたシャツが真横にふさりと捨てられる。「さき」驚いて、名前を呼んだ。
「抱かれんじゃ、なかと」
声が上ずった。少女の左の指先が、手管を知った女のそれのように頬をなで上げる。右手はシャツの中へ入り込み、触れるか触れないか、羽のように肌を滑った。
片手に握って、もう片方は閉じようとする膝を開かせた。銜え込んだ根からあっさりと射精して、の顔に白濁がかかる。「あ、あ…ぅ…」生娘のように、仁王が呻いた。主導権は完全に握られていて、それでいて、抗う気が起きない。羞恥心だけが募る。荒く呼吸をして、包まれていた指の感触が消えたことに気付き、目を開く。下半身にいた少女の頭はない。カサリ、と紙をする音のした方向に顔を向ければ、ちらばった書類を机の上に整理している。顔には仁王の精液がついているというのに。
「飲んではくれんのか?」
言うと、また「は」と笑われた。は床に落ちていた仁王のシャツを拾い、そのまま投げつけてくるかと思えば、頬を拭ってから、もう一度床に捨てた。そうして自分のシャツを広い、袖を通す。
「所詮代用品しかできない、その分を弁えろ」
了
なんだ、これ。一応日吉→←です。え。いろいろあって氷帝を離れて立海に来たという設定です。何このカオス。
柳生と付き合っている(?)のも喋り方とか気遣いの仕方が日吉に似ているから、というだけ。だから別に柳生に変装した仁王でもいいんです。は本当に日吉のことが好きなんだと思う。とかそういう感じでお願いします。