彼女を思えば思うほど、脳裏に描けば描くほどにその全てがまやかしのように思え、それが、彼女を思う己の心の冒涜のような気がして、不快になる。ならどうすればいいのか、長期任務によりエニエスを離れるしかない自分が、どう、遠く離れた場所にいる、彼女を想えばいいのだ。


「写真を撮らせてください」

乞われては一瞬あっけに取られ、先日命知らずにもエニエスの女性職員が今まさに、この男が言ったセリフとそっくりそのまま同じものをこの男に吐いていた現場を思い出してしまった。

「ルッチ……おれは、ほとほとあきれ返るぞ」
「ご不興を買いましたか」

眉を顰めて謝罪しようとするルッチを制し、は困ったように額に掌を当てた。

ロブ・ルッチと言えば政府・海軍に属する者で知らぬものなどいない。匂うような美丈夫、実力も申し分のない、闇の正義を背負うに誇れる過去を持つ、流行の言葉で言えば「良い男」だ。
女性たちの黄色い歓声の的になるのも頷けると、でさえそう想うのだが、残念なことに、性格は心底歪みきっている。真心にも皮肉と嫌味を返すような鬼畜である、人に優しくという本能をたぶん、海の底にでも投げ捨ててきたのだろう。

先日頬を赤らめて近付いてきた女性らを「消えろ」の一言で一蹴したその記憶が、この男にははたして、あるのだろうか。

「おれの写真なんて、持っていてどうする」
「頂けませんか」

いや、用途を聞きたいだけなのだが、どうしてルッチは打ちのめされたような顔をするのだろうか。不遜、自信家が服を着たような人間ロブ・ルッチというのに。こと、パンドラ・の前にいてはただの、少年にしか見えない。は些か不憫に思ってしまって口を開きかけるが、その前に、二人の立ち尽くす廊下の横から、の良く知った声が掛かる。

、来い」
「おれは一度でいいからお前を会話のキャッチボールがしてみたいよ」

溜息一つ吐いて、はルッチを凌駕するほど「不遜」の塊を振り返った。フードに帽子と、一体どんだけセンスが悪いのか悩む格好の将校、サカズキだ。
この男も、本当に人の話を聴かない。いや、一応ルッチは聞いている姿勢があるだけマシか。

「何か約束事をしていたっけ?」

無駄と分かりつつも、は何とか会話を試みる。普段は放っておくくせに、ルッチと一緒にいるときばかりは狙ったように現れて邪魔をしてくるサカズキは、本当に、何を考えているのだか。

「大体、お前はいつも、」

言いかけて、の言葉が詰まった。ぐいっと、いつの間にか茨の縄が首に巻きついている。誰の仕業か、など確認するまでもない。

「パンドラ……!!」

すかさずルッチが間に入ろうとするが、魔法の一種でもある茨の縄を、彼がどうこうできるわけもない。ここは縄の主、サカズキの機嫌が治るのを待つしかなく、ルッチが大人しくする、その選択は間違いではない。

「二度言わせるな」

だから、どうしてお前はそんなにSなんだと、はいいたくなるが、茨の棘が首を容赦なく刺し、痛みで声が出ない。ズルズルと引き摺られながら、項垂れるルッチの姿を眺め、、なんだかもう、本当に、申し訳ない気持ちで一杯になった。



Fin