ばふっと、背中にめがけて投げつけられた雪玉はドレークの黒いコートに見事に命中した。避けられただろうに、避ければ避けたで面倒なことになっていると承知の赤旗。ため息一つ吐いて振り返った。

「なんだ」
「寒い」
「船室に戻ればいいだろう」
「ふん、馬鹿かお前は。雪といったら雪兎か雪達磨かかまくらだろ」

見るまで帰らないつもりらしい。

「つ、作れと・・・?」

しかもなぜ段々難易度が上がっているのだろうか。若干顔を引きつらせて聞き返すと、すっぽりともふもふしたマフラーに顔を埋めている、寒いのが苦手だというのは昔からの付き合いで知っていて、だというのになぜ島の偵察に付き合ったのかと嫌な予感はしていた。見送った船員たちは「船長と一緒にいたいんじゃないですか!」などとからかってきたが、それはない。万に一つもそれはないと心底思っていたドレーク、ここにきて、納得した。

「いくら俺が北の出身でも、一人でカマクラは、」
「なぁ、赤旗。おれはなァ、寒いと暑いのとじめじめしたところと乾燥したところが嫌いだ。といって、何の特徴もない天気も好みじゃあない。ついでに言えば暗いのも明るいのも嫌いだ」
「結局何が言いたいんだ、お前は」
「作らないならここでお前を剥いでやる」

眼が本気でした。

ドレーク、言葉に詰まって一度喉をひっかけ、そしてわなわなと肩を震わせる。やる、この女は絶対にやる。というかもうこれはカマクラうんぬんが目的なのではなくて自分の身包みを剥ぐことが目的なのではないかとさえ思う。(あながち間違いでもない確信が在る辺り泣きたくなるが)

「カマクラは無理だ」
「男がそう簡単に諦めるんじゃあないよ」

実際作ることは不可能、というわけでもないのだが、しかし、時間がかかる。おそらくその間にが飽きるなりなんなりして、結局襲われる結果は眼に見えていた。ドレークはなんと言うかもう、いろんなものを一度に諦める深い深いため息を吐いて、に背を向ける。

「わかったから、お前は船に戻っていろ」
「お前が一人でするのを見ていてやるから安心しろ」

何でこの女の発言はきわどい、放送禁止一歩手前に聞こえるのだろう。ドレークはもう突っ込む気がなくなり、ザクザク前に進みながら答える。

「風邪を引く前に帰っていろ」
「・・・」

の体、いろんな常識を失っているが、しかしそれでも病にはしっかりかかるもの。先日もどこぞの島のウィルスに感染してしまい、治療手段がないと船医が匙を投げた。ウィルスが船内に広まる前にが自らの感染部分やら細胞を全て抉り出すという、荒業をしたばかりだ。

しっかり厚着をさせてはいるが、雪に歩きなれぬに無理をさせるのはためらわれる。

「おれを心配してるのか、赤旗」

一瞬黙ったが、ふふふ、と、妙な笑い声を立ててそう問うて来る。ロクでもないことを言うときと同じ声音だったが、ドレーク振り返らない。短く「当然だ」と答えると、今度こそ、が黙った。

「当初の目的どおり偵察を続けてくる。無人島のようだが、何があるかわからん。雪もこれから強くなるだろう。お前には辛くなるばかりだ」
「何かあったときお前一人で平気なのか」
「なんとでもなる。野生の動物にどうにかされる能力でもないんでな」

冬島の、現在冬だろうから獣たちも冬眠のさなかだろう。いたところで狼や白熊の類だろうから、最悪変身さえしてしまえば、獣、己よりも身の大きなものには挑んでこない。

「恐竜は寒さに弱いんだろ」
「俺は北の出身だ」

慣れていると短く言えば、ばふっと、雪玉が再び投げつけられた。しかも今度は、どこで手に入れたのか石までしっかり中に埋め込まれている。

「なんだ」
「赤旗の癖に何を男前なことを言っているんだ」

さすがにたまらず振り返ると、そこには心底嫌そうに眉をひそめたが、憮然と呟いて立っていた。その耳が少し赤いのは、おそらく寒いからだろうと思われる。次は耳宛をさせなければと見当違いのことをぼんやり思いながら、ドレーク、やっぱりその理不尽な言動にため息を吐いた。



Fin


・いや、仕事してたら雪が降ったので。




NEO HIMEISM