ぴくり、と体を動かして、ゆっくり目を開いた。

全身が気だるく起き上がりたくはないけれど、喉が乾いてしまった。

それだけではなくて、軽い脱水症状前ですらある。はぼぅっと眼の前に見えたシーツの皺と、自分の手首を確認して軽く眉を寄せた。

シーツはところどころ破けているし、の細い手首には強く掴んでうっ血した後が残っていた。

サカズキは、時々手加減を忘れる。

とサカズキはどう考えても体格差とか体力の差とか、その他様々な問題があって、情事においてがサカズキを受け入れることができるのだって、かなりが無理をしてこそである。

普段であればサカズキはかなりセーブをしての快楽のみを優先し情交を行うのだが、ほんの稀に、理性を失うこともある。機嫌が悪い時、というわけではない。むしろ逆だった。

最中に何か、サカズキが機嫌のよくなることをがしたり、言ったりするとそうなる。何がヒットするのか未だにわからぬので、としても気をつけようがない。

手首の痕を眺めながらは自分を抱き込み眠るサカズキを見上げた。

さすがに寝室でまで帽子を被っていることはないが、深く目もとに刻まれた皺は寝ている時もそのままだった。こうして見れば、サカズキも随分歳を取ったものだと、は感じる。

出会ってから、もう20年も経つのだ。当然だろう。けれど、はいつまでも変わらないし、サカズキとてに対する態度を20年前と少しも変えていないのだから、あまり変化を感じ取れることはない。いや、でも、確かに、変わってはいたのだ。

はもぞもぞと体を動かして、サカズキの顔に手を伸ばした。

少し前まで、そう、サリューが海軍にいたころまでは、サカズキは徹底して自分に触れてはこなかった。殴る、蹴る、はさんざんあったが、それでも、こうして体を重ねるような関係になりそうだったことはなかった。

それなのに、なぜだろうか。本当に、突然。何か開き直ったかのように、サカズキがに触れてくるようになった。

これまで、けして触れてはならぬ、とばかりに頑なだったのはどうしてか、それすらわからないのに、その変化。はわけがわからぬままに、それでも、己の所有者であると自覚している相手に逆らおうとは思わなかった。

それで、体を重ねるようになって、このしばらく。

は、別にサカズキが自分を好きだなんて妄想は抱かなかったし、サカズキを好きだ、とも思えなかった。

「どうしたんじゃ」
「起こした?」

そうではないとはわかっていたが、礼儀として謝するように聞いた。

サカズキは眠りが浅いのだ。大将は皆そうらしい。
クザンもそうだと言っていた。

大将は、真っ向から向かえば最高戦力、勝ち目などないから、だから、てっとり早く寝首を狙われることが多かったのだと、クザンから聞いたことがある。リンハはサカズキが答えぬのを気にもせず、ぽん、とサカズキの胸に体を預ける。

「考えてたの。ずっとこのまま何も変わらないでいればいいのに、って。そうしたら、いいのに。ぼくはずっと、」
「寝ろ、

続けようとするを遮って、サカズキがの顔に手を当てた。

強制的に視界を遮られる。反論しようと口を開きかけたが、確かに、体はだるいのだ。だが起きた理由を思い出しては目隠しをされたまま言う。

「でも、ぼく喉乾いたんだよ」
「……待っていろ」

流石に責任を感じているのか(いや、それはないか)サカズキは起き上がって、から手を放すと、床に落ちていたズボンを履いてベッドから離れた。

簡易冷蔵庫は隣の部屋にある。カチャリと扉を開けて出ていく音を聞きながら、はポスン、と枕に頭をつけた。

「サカズキが優しい…!」

本人聞いたら蹴られそうなことを平然と呟けるのは、いないからである。はもぞもぞと体を動かして、サカズキが寝ていた場所をそっと手で触る。

サカズキの体温は、その能力ゆえ当然ながら常からほんの少し、人より高い。温もりの残ったシーツを指でたどり、は顔を紅くさせた。

(ぼくは変態か……?!)

どこの女々しいお嬢さんであるか。はぶんぶん、と首を振った。そうして、一人きりになると、逆に、眠る前までしていたことが鮮明に思い出され、は顔を赤くする。

サカズキが戻ってきて、こんな顔をしているのを見られたら恥だ。は重い体をなんとか起こし、とことこと窓のそばに寄った。出窓に腰かけて、ゆっくり窓を開けた。

涼しい夜風が入ってくる。は目を細め心地よさを感じ、空を見上げた。夜空、ではあるが、もう時期夜明けであることを感じさせる、白い夜だ。星はかろうじて見えている。

「休んでいるようにと言ったはずだが」
「暑かったから」
「飲め」

突然かけられた声に驚きはせず、振り返って平然と言えば、ひょいっと、瓶を投げられた。受け取っては開けて口をつける。水だ。

ごくごく、と喉を鳴らして飲むと、じっとサカズキがこちらを眺めているのに気づいた。

「なぁに?」
「わしは、お前の羞恥心がよくわからんな」

言われては自分が素っ裸だということを思い出した。しかし別に慌てることでもない。

「だってサカズキ、もうしないでしょ?」
「お前はこれ以上は無理じゃろ」
「だから、へいき」

自分を見るサカズキの目に欲がないわけではないが、しかし、他の能力者とちがってサカズキには悪魔の身の副作用がない。

それに加えて、年配者なので理性もしっかりしている。(時々吹っ飛ぶが)別に、抱かれることがなければ、恥ずかしい、と思う心がない。

そのあたりが魔女基準なので人にはわかり辛いらしい。

けろり、と答えたに珍しくサカズキがため息を吐き、が飲んでいる瓶を取って自分も口をつけた。

「もう少し寝ていろ。夜明けまであと一時間ほどだ」

これは間接キスで顔を赤くするべきなのだろうかとはきょとん、と顔を幼くさせたが、しかし、自分たちにはかなり今更?な気もする。

不思議そうな顔に気づいたのだろう。サカズキがを見下ろした。

「なんじゃァ」
「うぅん、サカズキは飲んでるところもかっこいいなぁって」

思ったこととは違うが、別に嘘ではない。ズボンしか履かず上半身は露出されているが、海兵、というか世界戦力。無駄な肉など一切ついていない引き締まった体と、刻まれた刺青には感心していた。

「赤旗とか、ガレーラの船大工とかでさ、上半身はだけてる人結構いるけど、でも、サカズキって本当にかっこいいよね。どうしてだろ?」
「押し倒されたいんか」

不思議だねぇ、と心底まじめに言えば、ぐるん、と視界が回った。はサカズキに抱きあげられて、そのままぼすっ、とベッドに投げられる。

「いいから寝ろ。わしを本気にさせたいなら続けて構わんがな」














朝明けまであと1時間


(明日早朝会議がなかったら押し倒したんじゃがなァ)






アトガキ
組長、うわぁい、R16にならないで書けねぇよ(泣き事)


借りしたのはお題サイト「TV」http://lyricalsilent.ame-zaiku.com/ 「一日を想う10のお題」より。