レストランバラティエ 8
海に沈むゾロを眺めて、は唇をかんだ。
「バカみたい」
「そんな顔で言う言葉じゃねぇな。魔女って目をしてねぇくせに」
ぽつり、と呟けばゼフが再びの頭をくしゃりと撫でる。ゾロはヨサクとジョニーが助けに行った。今はルフィが、ミホークに殴りにかかっている。それをあっさりと避けて、静かに呟く。
「若き剣士の仲間、貴様もまたよくぞ見届けた」
は自分がいまどんな顔をしているのか、鏡で見る気にはなれなかった。何に対して、自分が感情を乱しているのか、正確なところはわからない。ミホークがゾロに倒される運命にある、という流れが決まったことが嫌なのか、それとも、ゾロが命を失うよりもより敗北を疎んだことがイヤだったのか。わからない。ぎゅっと、ゼフの恰幅のいい腹に腕をまわして頭を押し付ける。
「バカみたい」
***
「安心しろ。あの男はまだ生かしてある」
麦わらの子供に背を向けてミホークは静かに口を開いた。この子供がロロノアの仲間なのだろう。歯を食い縛りながらこの戦いを見届けていた。並の人間ではできることではない。決闘とは何かを理解しているということだ。
呟けば、同時に海面からロロノアが仲間に助けられて顔を出した。血と海水を吐き、意識などはない。気すぐに小さな船に乗せられる。重傷ではあるが、命を奪うほどのものではないとミホークはわかっていた。大事な組織には傷を付けていない。筋肉や臓器の間を避けた一撃。
それを繰り出すまで、ミホークはゾロを殺す気であった。しかし、背から、前に振り返り、剣士としての心構えを告げた途端、ミホークは、山さえ切ることのできる己の剣の威力を、慎んだ。
「我が名はジュラキュール・ミホーク。貴様が死ぬにはまだ早い」
仲間の手により、傷薬を傷に掛けられ、なんとか治療を始めている。ミホークの声が聞こえているのか、それはわからない。しかしミホークは続けた。
「己を知り、世界を知り、強くなれ、ロロノア。おれは先、幾年月でもこの最強の座にて貴様を待つ。猛ける己が心力挿してこの剣を越えてみよ!」
ふと、唐突にミホークはのことを思い出した。この戦いの、後半から彼女のことが頭からきれいに消えていた。こんなことはこれまで一度もなかった。ミホークはいつものことを考えていた、しかし、今は、きれいに、忘れてしまっていた。
の唯一の願い、今がずっと変わらずにあること。しかし今、ミホークはそれを崩しかねぬ一手を放とうとしている。何も変わらぬままでいるのなら、ミホークはここであの剣士に止めを刺すべきだ。しかし、そうはしない。いつか、ロロノアと再び剣を交える日をミホークは望んだ。
ミホークは声を張り上げる。
「このおれを越えてみよ!!!ロロノア!!!!」
は泣くだろうか。そんなことを考える。しかし、いつかロロノアが己の剣を越えようと、その日を待つことがミホークには面白かった。久しくないことである。目を細め、意識のないロロノアを眺める。
そしてロロノアの仲間らしい麦わらに問いかけた。
「貴様は何を目指す」
「海賊王」
もうこちらに対しての勢いは削がれたのか、先ほどよりは落ち着いた様子で子供が答える。
「ただならぬ険しき道ぞ。このおれを越えることよりな」
のことを考える。が、この子供らの船に乗ると決めた。この子供は船長か。海賊王、たった一人しかその称号を手にしていない、王座を求める。
麦わらが舌を出した。
「知らねぇよ、これからなるんだから」
ふと、昔赤髪が話していた東の海の面白い子供の話を思い出す。サルのようにすばしっこくて、子供そのものの生き物。しかし、あの海賊王と同じことを言うのだと、嬉しそうに話していた。
(これは偶然か、それとも運命ゆえのことか)
何かに気づきかけるミホークだったが、しかしスッ、と、ロロノアが剣を持ち上げたことでその思考を遮った。
「ゾロ?」
麦わらの子供が目を見開く。か細い声が聞こえた。
「ル、……ルフィ…聞、コえ…るか?」
「あぁ!!!」
致命傷、ではないが、けして今意識を取り戻せるはずのない大けがだ。しかし、剣を握り、掲げている。じっとミホークはその姿を見つめた。
「不安に、させたかよ…おれが」
口を開くたびに、唇から血があふれ出る。歯を食いしばり、それでもロロノアは言葉を続けた。
「おれが、世界一の……剣豪にくらい、ならねぇと……お前が、困るんだよな…!!!?」
「アニキ!!!もう喋らねぇでくれ!!!!!」
ガブッ、と、大量の血が吐き出された。すかさず二人の仲間が止めようとするが、しかし、それでもなお、そんな状態でも、やはり、止めぬのだ。
「おれはもう!!!」
二人を振り払うように、ロロノアは声を上げた。
「二度と負けねぇから!!!あいつに勝って大剣豪になる日まで、絶対にもういおれは、敗けねぇ!!!!文句あるか!!?海賊王!!!」
瀕死、敗北のあとであって、これほどの決意を口にできるわけがない。しかし、言いきった。ミホークは目を細め、そして、目を伏せる。麦わらの子供が嬉々と笑った。
「ない!」
いいチームである。この海ではもう少なくなった、本当にいいチームだ。ミホークはマントを翻し、己の船に足を向ける。背中越しに振り返って、独り言のように呟いた。
「また、会いたいものだな。お前たちとは」
暇つぶしでここまで来たが、思いもかけずよいことあった。最近ミホークは以外に興味を持てなかったが、しかし、これから楽しくなるかもしれない。そう期待が持てる。この海を後にしようとすると、その背に粗野な男の声がかかった。
「おう、鷹の目よ。テメェ、おれの首を取りに来たんじゃねぇのか」
こちらに近づいていることは知っていたが、あえて相手にする気はなかった。この東の海の覇者という、ドン・クリーク。もちろん、ミホークはそのつもりでここまで来た。丁度気分よく昼寝をしていたところ、この男の船に邪魔されたのだ。に会う夢を見ていたもので中々苛立ったためこんなところまで追いかけてしまったが、本物にも会え、そしてロロノアや麦わらとも出会えた。
「そのつもりだったがな。もう充分に楽しんだ。オレは帰って寝る」
「まァ、そうカテェこと言うな。てめぇが充分でもおれはやられっぱなしなんだ」
愚かな男である。こちらとの技量さがまるでわからぬのか。勝つ気でいる。先ほどのロロノアも勝つ気でいたが、それとはまるで違う愚行にミホークはただただ呆れた。見ればこの男は、これからあのレストランを襲おうというところ。それならにも害が出るやもしれぬ、と斬ろうと思うが、しかし、こんな小物程度に殺されるでもない。そして何よりも、あの麦わらの子供がどうするのか。
ミホークは剣を構えた。殺すつもりはない。何の傷もつけず、その場を去るとミホークは決めた。この場にクリークを残せば、麦わらとぶつかる。
海賊王を目指すのだ。クリークごとき越えられぬようでは話にならない。
「さすが、懲りぬ男よ」
ミホークは振り下ろした剣で海を割り、大波を起こしてその場を離れた。
***
大波に揺られながら、は腕を振ってデッキブラシに飛び乗った。ルフィはウソップたちにナミを追うように叫んでいる。
「おれとゾロは必ずナミを連れ戻す!!おまえはしっかりコックを仲間に入れとけ!!!6人ちゃんと揃ったら、そんときゃ行こうぜ!!グランドライン!!!」
しっかりと自分も数に入れられていることがうれしくて、はルフィがミホークに殴りかかった折、落ちた麦わら帽子を拾い、ルフィに届ける。デッキブラシに乗ったまま、はルフィの額に口付けた。
「ぼくもナミを追いかけるよ。船よりは早いからね」
「あぁ、頼む!!」
それに少し一人になりたいとは思った。
ミホークと会えて嬉しかったが、グランドラインのにおいに心が魔女に戻りかける。いや、いつだっては仄暗い心であるのだけれど、ルフィたちといて、あどけなさが多くなっていた。それでは乗り切れぬのだ、と、言い聞かせたい。ミホークに会う、とも考えたが、しかし、折角楽しみを見つけたミホークに、今自分が関わるのは良くない。ミホークが楽しいことを見つけたのなら、自分は喜ぶべきだ、と胸の中でつぶやいて、は一度ゼフのそばに近づいた。
「久しぶりに君に会えて嬉しかったよ。ゼフくん、長生きしてね」
「さっさと行け。これからここは戦場になる。お前に怪我なんてさせたら鷹の目が戻ってきちまうだろ」
ゾロと戦う前の過保護っぷりを全員が思い出したのか、うんうん、と頷いた。それにはコロコロと笑って、デッキブラシの柄をナミが消えた方向へ向ける。そのままとん、と手すりをければ、の姿がかき消えた。
Fin
バラティエ編終了
長かった…!!これで戦闘シーンなんかやってたらどんだけ長くなったのか!!(ガクガク)
一回データ消えた(例の組長の呪いというパソコン初期化現象)ので書き直したら、なんかアレになりましたが、基本ミホークが書けたからよし!
(11/22/2009 3:49 PM)
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