真っ白い病室に、真っ赤な髪を散らばらせて、すやすやと安心しきった様子で眠る。その柔らかな頬を指で撫でれば、時折くすぐったそうに眉を寄せる。

そういうことを何度か繰り返せば、ぼんやりと青い眼が瞼を上げて覗かせた。サカズキが眼を細めると、青い、の目が眠そうなまま、何度かうとうととして、息を吐く。

「なに、してるの?」
「悪戯しちょる」

誰か警察呼べ、と、本当に突っ込みを入れればいい。

しかし、生憎この話のにそういうオプションなどない、面白そうにころころと喉を笑わせてから、ふわり、とサカズキの手の上に自分の小さな手を重ねる。

「どうした」
「どきどき、してるの」

サカズキは喉の奥で引っかいたような、奇妙な低い笑い声をもらし、そのままの瞼に唇を寄せる。とろん、と眠さと戦っていた目がぱちり、と驚いたように開くのが面白い。しかしこの時間、は眠らなければならない。うとうとと、する目が面白く、サカズキはの耳の後ろの髪を撫で、そのまま、首筋、鎖骨をゆっくりとなぞった。

「・・・・・・ん、ぁ」

普段は抑えるだろう吐息も寝起きで素直になっている今ならあっさりと漏れる。ぎゅっと、サカズキのシャツを握り締める手が心地よさに震えているのがまた、サカズキの興をそそった。

この行為が何を意味するのか、知らぬが面白くて仕方ない。いずれ、頂くところまでしっかり頂くつもり、ではあるが、何も知らぬ、ただこちらの与える快楽のみに身を任せるところが、愉快でたまらなかった。

これが男女の情交、今の幼いの頭では想像も出来ぬものであると、自覚したときの羞恥心を思うだけで、サカズキは今はそれで満足できた。

しかし、できれば今の、この夢を見るような眼差し以外にも見てみたい。できれば泣き顔など強く希望、と、本当に変質者じみたことを考え、サカズキはの肩に噛み付く。

「いっ」
「痛いか」

カリッ、と軽く歯を立てただけだが、まどろむような快楽の中にいたには驚きだったらしい。かっと眼を開いて、サカズキを見上げる。不安そうに揺れる眼、浮かんだ目じりの涙を指で拭い、サカズキは口の端を吊り上げた。不安になろうと、それでもこの自分を拒絶することのない、そこまで従順になっている。

「貴様のこの柔らかな肌に歯を立てて、食い破ったら、貴様は泣くか?」
「ん・・・サ、カズキになら・・・何されても、うれしいけど・・・」

押し倒していいか。

いや、もうこのままいってしまっていいかと、サカズキは一瞬真剣に考えてしまった。しごく真面目な顔で、性犯◎者きわまりない問題を悩むサカズキの心境知らず、は苦しそうに喘ぎながら、問いかけた。

「・・・へん、なの、サカズキは、ぼくを食べたいの?」
「そういう趣味はないが、貴様の苦痛に耐える顔が見たい」

ハイ、この人変態です。

生粋の鬼畜です。
ドSです。
変態です。

本当に、通報してやりたいのだが、そういうことを突っ込める人間が今この病室にはいない。何度も言うが、本当に、なぜいないのか、惜しい。

はくすくすと声を弾ませて笑う。幸いなことにサカズキの変態発言については細かく考えない頭をしているらしい。

「ディエスがこの前読んでくれたよ。おおかみは、あかずきんを食べてしまうんだね」
、わしに食べられたいか?」
「知らないの?おおかみは猟師に撃ち殺されてしまうんだって。ぼく、サカズキが撃ち殺されるのはヤだなぁ」
「安心しろ、返り討ちにしちゃるわ」

サカズキなら本当にやりかねない。は頭の中で、サカズキに殴り飛ばされる猟師のディエス・ドレークを生々しく想像した。なんで猟師役がドレークなのかと言えば、それは、うん、ドレークだから、という理由しかない。

「じゃあぼく、ずっとサカズキのおなかのなか?」
「どちらかといえばわしが貴様の中という状況が好みじゃ」

だから、この変態は本当に捕まればいい。

きっぱり、あっさりなんでもないようにのたまったサカズキに、はきょとん、と首を傾げるのみである。逆に意味わからなくてよかったね!!と、そうクザンがいれば叫んだだろう。

は再び襲ってきた眠気、くたり、と、サカズキに身体を預ける。

「また、だ、ね。ぼく、どうしてすぐに眠くなるのかな」
「心の病じゃ、貴様が気にすることでもない」
「・・・サカズキと、話してたいのに」
「なら貴様が眼を覚ましたら、また来る」

言いながらサカズキは大きな掌での頭を撫で、そのまま枕に頭を押し付けた。
寒くないようにとしっかり首元を布団と毛布できっちりとしめ、隙間をぬいぐるみ(トカゲが持って来た。あの女、顔に似合わずこういうものをよく買うらしい)を詰める。

がぼんやりとした眼を向けてきた。

「サカズキ」
「なんじゃァ」
「・・・・なんでもない。呼んだだけ」

本気で食っていいだろうか、と、サカズキは再度悩むことにした。



++




「・・・警察呼ぶぞ、この犯罪者」

ぼそり、とクザンは突っ込みを入れて、とりあえず額を押さえた。というか、何お前、オープンセクハラかましているんだと、本当に捕まりたいのかと、そう聞きたかった。

をベッドに寝かしつけて、数分間ずっと眺めて幸せ噛み締めています、という様子のサカズキ、邪魔をされたことに聊か眉を寄せ振り返った。

「やましいことなんぞ何もしちょらんわ」
「お前ッ・・・無自覚!!?」
「黙れクザン、これが起きたら貴様を窓の外へ蹴り飛ばすぞ」

どんだけの視界に自分以外の男を入れたくないのだ。

クザンは顔を引き攣らせ、病室のドアをそっと閉めると、声を押さえながら言葉を続けた。

「おい・・・マジで、いい加減にしろよ。その子は患者、お前は医者なんだから、手ぇ出すなって。っつーか・・・その前にそのコいくつよ?」
「半年後に十二歳になる」

うわ、と、クザンは改めてめまいを覚えた。
ということは今十一歳・・・真っ赤なランドセルが似合う年じゃねぇか。

「・・・お前いくつだっけ?」
「四十四」
「・・・三周してんじゃねぇか」
「なんぞ問題でもあるのか」
「問題はありまくってしょうがねぇだろ」

というか問題がない、と思っているお前の頭が一番問題だ。クザンは激しい頭痛を覚え、しかし、自分が頭痛薬を飲むよりも、この馬鹿になんかこう、つける薬はないかと真剣に考える。

、そろそろ退院させるかって話出てんだけど、お前か?圧力かけてんのは」
「わしがそんな大人気ないことをすると思うちょるんか」

思ってます。
思いっきり、思っています。

あれだ。絶対こう、入院していたらいつでも会えるとかそういう下心だ。
お前本当医者失格の烙印押されちまえ、とクザンは思う。

しかしそういう心中に気付いたか、ふん、とサカズキが鼻を鳴らした。

「バカか貴様は。退院したら気兼ねなく抱けるじゃろうがい」
「うん、そうだよな、お前いっぺん頭打ってくれよ、頼むから」

クザンは心底真面目にいい、がっくりと肩を落とした。こういう阿呆なやつではなかった。何この溺愛っぷり。

「・・・なんでそこまで気に入ったの?そういう幼女をさ。おれだったらこう、ボンキュッボンのスーパーボインなねーちゃんにちょっかいかけまくるけどな」
「わしが幼女趣味の変質者に聞こえるような言い方は故意にか、貴様」
「事実じゃねぇか」

突っ込んで、クザンは眉を寄せる。
そりゃ、確かにクザンもを可愛い、とは思う。ホント、医者としての領分を越えて甘やかしてやりたいと思うが・・・それに発情してるってどゆこと?とそう聞きたい。

「わしは、何も知らんでわしの言うとおりにしちょるあれが愛しくて仕方ない。誰にも踏み荒らされちょらん新雪をわしの熱でどろどろになるまで溶かして汚す、これほどの楽しみがあるか?」

・・・すいません、それで犯罪者の自覚がないってどういうことだろうか。クザンは、本当に、本当に、の将来が心配になった。
今もきっちりと、サカズキが頬を撫でている、幼い子供。それを眺めて、溜息を吐く。

「・・・で?今のところどこまで進んでるの?」
「手は出しちょらん」
「・・・・いや、それは嘘でしょ。あ、いや、お前基準か」
「訴えられるようなことはまだしちょらん」
「する予定だろ、お前」

言えばフッ、とサカズキは、それはもう楽しそうに眼を細めた。

クザンは、(一応)親友のサカズキが、性犯罪で捕まらないことを心の底から祈ることにした。

(あ、でもちゃん身よりないから、通報する人間いないか)

普通で考えれば天涯孤独、はとても気の毒な状況のはず。しかし、どうもサカズキとのこと、と考えれば「え、何この狙ったような設定」と眉を寄せたくなるのはなぜだろうか。







Fin