じぃっと、は執務机を見つめた。いつもサカズキがここで仕事をしている。大きな椅子だ。大将の椅子である。現在業務時間であるから、当然その椅子に座って、淡々と仕事をこなすサカズキがいる。

「ねぇ、サカズキ、仕事楽しい?」
「楽しい、楽しくないで仕事はしていない」

言ったきり、またカリカリと書類に向かう。その姿から顔を逸らして、は天井を見上げる。
この自分をここまで無碍にする男というのは随分と珍しい。不服に思うよりは面白く感じられ、はぽすん、とソファに頭を預ける。

「ぼく、邪魔じゃない?」
「黙っていろ」
「・・・わかった」

(サカズキの、邪魔はしたくないものね)

素直に頷いて、はひょいっと腕を振る。読みかけの小説を手にとって、そのままページを捲った。シェイク・S・ピアの新作だ。立場の違う二人の男女の物語。は恋愛小説や、騎士道物語が好きだった。現実にはありえないと解っているからこそ、憧れるのだ。

離れ離れになった二人、それでも心はいつも一緒にいる。そんな、ありえないことを、それでも文章の中では当然にしている。読み手でありながら、は物語のヒロインに自分を重ねて楽しんだ。しかし実際、自分が誰かのおひめさまになる、なんて気はさらさらない。まぁ、きっとだからこそに面白いのかもしれない。完全に野次馬根性、ということだろう。読書鋤☆も突き詰めればそんな外道性。細かく考えるのは止めた方がよさそうだ。


「・・・なぁに?」

そういう暗い、というか不健全極まりない思考に陥っていたに、サカズキが声をかけてくる。先ほど黙っていろ、と言った人間の態度ではないが、まぁ、それはそれ。小首を傾げて顔を向けると、サカズキがぺロリ、と一枚紙を出してきた。

「クザンに届けろ」

おや、とは珍しがる。 基本的に、何もかもすっかりそのまま自分でやってしまうサカズキだ。しかも、嫌悪しているに手伝わせるなど、どんな冗談か。しかし何か反論、というか質問しようものならインク瓶を投げつけられるとわかっている。首を傾げながら、は読んでいた本をソファの上に置いて立ち上がる。それでサカズキから書類を受け取って部屋を出て行った。

が出て行った後、暫くまたカリカリと書類に向かっていたサカズキだったが、先ほどまでが座っていた場所を、睨むように見つめ、眼を細めた。


*


お昼時である。いつものようにだらだらと仕事をしていたいのだが、この時期ばかりはそうも行かぬ。それで必死こいての仕事だったのだけれど、別に戦争があるわけでもない、クザンの集中の糸はぷっつりと切れていた。

このままチャリでさくっと本部から逃げてしまおうかと、そんな思考。しかしさすがにこの時期にやったら、軍艦でサカズキがじきじきに追いかけてくる。その上、ジュワッと能力で容赦なく溶かされそうな気がしたので、まぁ、うん、お仕事は大事だよね☆と思うことにした。
けれど、それでもやる気はなくなってしまったクザン。ペンをくるくると回しつつ、書類に悩殺ねーちゃんの曲線美(平たく言えば胸のライン)を書きながら鼻歌なんぞ歌っていると、ひょっこり、と、窓の外から暖色の色の髪が見えた。

「仕事しようよ、クザンくん」
「ありゃ、どしたの、パン子ちゃん。珍しいじゃないの」

ここは普通に三階なのだが、窓の外、黒い柄のデッキブラシ に腰掛ふわふわと浮かんだが咎めるような、けれど本心はどうでもよさそうな顔をして、顔を覗きこませていた。

「久しぶり。一人?サカズキは一緒じゃないんだ?」

窓から来たということは一人だろう。サカズキがいれば、きちんと扉から一緒に入ってくる。まぁ、よくサカズキの執務室に入り浸るクザンと違い、サカズキがこちらを訪れることは滅多にないが。

は部屋の中に入って、クザンの机に近づくと、その上に広げてある書類を見て眉を寄せた。

「クザンくんは胸の大きな女性が好みなんだね」
「あー、うん、まぁ、男のロマン?いや、でも、の美乳は立派なステータスだと思ってるよ」
「喧嘩売ってるの、それともおちょくってるの」

心の底から励ましているつもりだが、相手には伝わらなかったらしい。あまりそういう話題を続けるのもどうかと思い、クザンは「で、どしたの?」と話を戻した。

「これサカズキが、サイン貰ってこいって。本当はクザンくんのところのやつでしょ?だめだよ、サカズキに迷惑かけちゃ」
「ありゃー・・・悪ぃねぇ。そうそう、こんなのあったあった」

が差し出した書類、確かにクザンが処理しなければならないものだ。先日遊びに行ったときにまぎれてしまったのかもしれない。まぁ、普段であればクザンの変わりにサカズキがさっさと処理を済ませてしまうのだろうが、この時期ばかりはそうもいかないのだろう。
礼を言ってサラサラとサインをする。サカズキがしっかり仕上げるところまではしてくれていたようだ。本当、あんなにおっかない男だが、デスクワークをやらせたら神?というほどである。大将の中でも一番そういうことが得意だ。これで戦わせても最高戦力、と呼ばれるほどなのだから、なんかずるくね?とクザンは突っ込みたい。

いや、といって、自分がサカズキと同じようにバリバリ仕事をしたいわけではないが。

「ゆっくりしてけばいいんじゃないの?どうせサカズキはぶっ続けで仕事してんだろうし」

丁度集中力も途切れていた。昼飯の時間にも丁度良い頃合であるから、ここでと食事、というのも悪くない。味覚がないのは知っているが、それでも見た目を楽しんであれこれ食べているが見たかった。第一、放っておけば食べないのだから、忙しいサカズキに代わって自分がしてやったっていいだろう。一応、自分だってサカズキと同じ大将だ。魔女にどうこうする権利はある、と、思いたい。たぶん。

「昼メシ、一緒に食おうよ。パン子ちゃんのなんでも好きなものご馳走するよ?」
「でも、ご飯はサカズキが、」
「食べないと思うよ、きっと」

はい、そうでした。そうだった。いや、まぁ、忘れていたわけではないけれど。組長にしか見えないいかつい男のサカズキ、帽子にフードとしっかり紫外線帽子した奇妙な井手達。それなのに、特技「料理」と来たものだ。捕らえられて暫く、偏食(というか、あれはハンガーストライキ)だったにあれこれ作っては無理やり口に突っ込んでいた。自分が作ったものは何でも食べろ、としっかり躾けているらしい。

今日とて、もしかすると重箱に昼ごはんを作ってきているかもしれない。とて長い付き合いでそう見当付けているのだろう。言おうとした言葉を遮って、クザンはにっこり笑う。

「今日は、絶対あいつ食事ぬくよ。半端ねぇもん、仕事量」
「忙しいの?今日」
「まぁ、ちょっとこの時期はね。おれが仕事してるくらいって言えば解る?」
「ものすごく」

深刻そうにが眉を寄せた。
・・・どんだけ自分は仕事しないイメージが定着しているのだろうかとクザンは心配になったが、まぁ、サカズキの傍にいるからすれば、クザンなど仕事をしていない部類にばっちり入って道理になるのだろう。

それで僅かに考えるように巡回したあと、にこり、とクザンを見上げて首を振った。

「折角だけど、やっぱり戻るよ。でも読みかけの本があるし、続き気になっちゃって」

魔女は嘘をつかない。嘘、ではないだろうが、しかし本心というわけでもないのだろう。クザンは余計なことを言ったと内心舌打ちをしたが、それは表には出さない。

「ありゃぁ、残念。相変わらず読書が好きだねぇ。何読んでたの?」
「ピアの新作。恋愛ものだよ」
「そりゃー・・・ちょっとおれ向きじゃねぇな」

全国もれなく指名手配+詩篇の回収、なんていう厄介な運命にあるシェイク・S・ピア、その悲劇性なんぞものともせぬのか、各地に散らばる詩の回収の傍ら、恋愛小説を発行しているらしい。危険思想が含まれているのなら、色々問題があって全力で政府も出版差し止めをしたのだろうが、ただの娯楽としての意味しか感じられない、なかなか気軽なもの。それを野放しにして、詩篇を回収することから逃げぬのであれば安いもの、とそれが政府の方針らしかった。

…たしか、黄猿など、毎回発行されるたびに、どんな手を使うのか、一番最初、大一版の第一冊目を入手してにこにこと縁側で呼んでいる姿が見れる。

まぁ、それはいいとして、クザン、基本的に一夜の恋などは大歓迎だけれど、むずがゆい純愛やらなにやらは苦手だった。そういうのがない、なんて思っているわけではないのだけれど、どうも、あまり好みではない。本はそれなりに読むけれど、どちらかといえばエロ本の方が多いだろう。健全な男性なので。

「ふ、ふふ、ぼくは好きだけどねぇ。まぁ、そういうことだから、ぼくは帰るね」

顔を顰めたクザンを面白そうに笑って、、ひょいっと窓に足をかけた。

「入り口から出ないの?」
「うん、だって久しぶりの自由行動なんだよ?ちょっとお散歩したいもの」
「真っ直ぐ帰らないと怒られるんじゃないの?」

他意はないのだが、しかし、言えばがびくり、と身体を震わせた。まぁ、うん、
とクザンも言って意地が悪かったかと反省する。確実に怒られるだろう。しかし、いくら世に飽いた魔女であったって、年がら年中、しかめっ面のサカズキの傍で身動きも取れないのは疲れるかもしれない。

それなら、と、にっこりクザンは提案した。

「いいよ、じゃあ、俺がなかなか書類書かなかったってことにしてさ。十分くらいならその辺飛んだりしてても大丈夫だって」
「でも、そうしたらクザンくん怒られるよ」
「慣れてるから、俺。それにが楽しんでくれたら嬉しいよ」

じぃっとがクザンを見上げた。あどけない顔である。

「どうして親切にしてくれるの?ぼくは魔女なんだよ?」
「知ってるって。でも、俺はのことめちゃくちゃ可愛がってやりたいんだよ」
「大将なのに?ボルサリーノくんも、サカズキも、ぼくが嫌いだよ?」
「大将だったら嫌わないとダメ?」
「だって、ぼくは魔女だもの」

そう繰り返す。何事か刷り込まれたような、決まりきった台詞のような気がした。クザンは別に、自分が大将であることがうっとうしいと思ったことは・・・いや、まぁ、仕事多いのは嫌だが・・・ないといえば、ない。けれど、大将であることに縛られるのは、ないだろうと思っていた。縛る、という言葉がふさわしいのかどうかは判らない。サカズキなどを見ていれば、縛られている、というよりは、大将という地位をしっかり自分に縛り付けているような気もする。いや、悪い意味ではないけれど。

ぽん、との頭を撫でて、窓の外に促す。

「わかんないならいいって。まァ、行きなさいよ。サカズキから電話が来たら適当に言っとくからね。でも10分くらいでちゃんと帰れよ?」
「うん、ありがとう。ちょっとね、寄りたい所もあったの」

そういって、ひょいっとが腕を振る。真っ黒い柄のデッキブラシ、跨るよりは横乗りで、そのまま颯爽と飛んでいってしまった。その姿をクザンはまぶしそうに眼を細めて見送る。デッキブラシで悠々飛行、空を飛ぶ、というのはどんな感覚がするものか。高く飛び上がって落下、というのは経験したことがある。けれどもまだ、飛んだことはない。

そういえば、寄りたいところがあると言っていたが、何のことだろうか。そんな疑問に首を傾げつつ、しかし分別のあるならそう問題も起こさぬだろうと、机に戻るのだった。


**


あまり人に見られることのなさそうな場所にトン、と降り立ってはきょろきょろと辺りを見渡した。この一体はあまり来る事がないので見れば何でも新鮮。しかし挙動不審にしていれば妙な注目を集めてしまうだろうと承知はしている。腕を振ってデッキブラシをしまいこむと、そのままがさごそと、入っていた茂みから出た。

(えっと、確か…こっち?)

目的の場所は、サカズキの部屋からなら何となく行き方くらいはわかるけれど、こうして本部の表側、つまりは一般海兵らが多く、メインで利用する場所からともなれば不安しかない。中庭に降り立ったはいいものの、さて迷子になってしまえば10分があっという間に過ぎてしまうかと困りつつ、は歩き出した。

昼休みのためか、木陰や隅で休んでいる若い海兵らの姿が多く見れる。トコトコと歩きながら、は興味をそそられて彼らを眺めた。サカズキやクザンとはまるで様子が違う。必死に汗水たらして訓練に勤しんだらしい。皺一つないスーツを着ている大将らを見慣れているせいで、は泥や汗で汚れた姿が珍しかった。
昔まだロジャーの船にいた頃はバギーやシャンクスがそれはよく汗を流して雑用をしていたけれど、船の上には土がないから、汚れ方が少し違う。

「と、わっ!!」
「ん?なんだお前、ここは海兵たちが訓練してる場所だぞ?誰か家族を探してるのか?」

考え事をして、完全に余所見をしていた所為ではドン、と人にぶつかった。尻餅をついて、自分がぶつかってしまった人を見上げる。ごく普通の、海兵だ。

ぶつかったのはこちらだが、すまなさそうにに手を伸ばしてくる。その手を取っては身体を起こし、体についたほこりを払った。

「ありがとう。えっと、うん、迷子なの」
「誰かの子供か?父親を探してるのか?」

ここで赤犬、と答えたらどんな展開になるのだろうか。しかし自分は嘘をつけないので、そういう悪戯は出来ないし、サカズキに普通に蹴り飛ばされる結果が眼に見えていた。緩やかに首を振ってから、は「あのね」とあどけない声を出す。

「ぼく、食堂に行きたいの。でも道がわからなくって」
「案内してやろうか?」

おや、親切だね、とは素直に喜んだ。それで、笑顔を向けると海兵がなんでもないさ、と短く言う。人に親切にするのは海兵の義務だと、そういうことなのだろう。それなら当たり前に受けてしまえるとは開き直れた。自分のことを魔女だと知っている人間に優しくされるのはうっとうしいのだが、何も知らない人間であれば別にいいのだ。

それでは海兵の手を握って、てくてくと隣連れ立って歩き出した。

「それにしても、女の子がこんなところに一人で来るんじゃない」
「どうして?」
「危ないだろう。とてもキレイな子だから、何かあったら大変じゃないか」
「ぼくはきれいじゃなくて、かわいいんだよ」

堂々と言い切れば、海兵が一瞬引きつった笑いを浮かべた。けれどあえて何か突っ込むことはしないらしい、無言でそのまま歩く。

てくてくと歩いていきながら、おや?とは眉を寄せた。

「ねぇ、海兵さん。ぼくは食堂に行きたいんだけどねぇ」
「あぁ、わかってるよ」
「でも、道違うよ」
「近道なんだよ」

嘘だ、とはすぐにわかった。一瞬この男がサカズキの回し者か、と疑うが、しかし、どう考えても本部の奥、からも離れている。どちらかといえば、ひと気のなさそうなところへ連れ込まれるような。

「ねぇ、海兵さん」
「うん?なんだ」
「ぼく、やっぱり帰る」
「もう少しで着くのに?」
「どこに着くの?」
「食堂に行きたいんだろ?」

は頭の中で様々な可能性を考えてみた。革命軍のスパイ、ドフラミンゴの知り合い、科学者たちの招集、けれどどうもしっくりこない。もしも自分が悪意の魔女と知っている人間であれば、もっとこう、強い人間が来るのではないか。しかし、今自分の手を握っている海兵は、ただの海兵だ。別段、能力者でもなんでもない。

気にしすぎなんだろうか?

ここ最近平和そのものだったから、何が危険か、忘れてしまっていて、ただ普通のことでもそうと思い込んでしまっているのか。

確かに、食堂には行きたい。このまま帰っても、あまり意味はないだろう。虎穴入らんば虎子を得ず、とも言う。ふむ、とは思案して。

(でも逃げよう)

と、即座の判断。意地を張って自分の身を危険に晒すようなことはしない。魔女なんぞ何百年もやっていれば、何が大事か、くらいはわかる。それで、足を踏ん張ってぴたり、と動きを止めると、海兵が振り返った。

「どうした?」
「帰るから手を放して」

いつでも腕を振ればデッキブラシを取り出せる、そういう余裕があった。それでそう言えば、突然ぐいっと、壁に押し付けられる。いや、壁ではない。扉に押し付けられて、そのままガチャッ、と部屋の中に押し込められた。一人きり、ではなくて、その海兵ともども、だ。

「ちょ、え!!!?」
「人が親切に教えてやるって言ってるんだ。ちょっとくらい楽しませろよ」

気付けば空き部屋の床の上に、腕と身体を押さえつけられて組しかれていた。え、うそ、何この展開、とは焦るしかない。いや、あまり危機感はないが。

「楽しませるって、なぁに?海兵さん」
「実は俺、どういうわけか毛の生えてない幼女にしか突起できないんだ」

知るか、そんな性癖。

「海兵さんがセーハンザイはまずいと思う」

一瞬脳裏にサカズキが浮かび、「あれはどうなんだろうか」と素朴な疑問。だが、まぁ、一応は合意の上なのでいいとしよう。うん、たぶん。きっと。

「ちょっといたずらするだけだ」

すいません、この台詞変態のセリフなんですけど、とは突っ込みを入れたかった。

しかし、声を出す前に、もごっ、と口の中に何かを突っ込まれる。なんだか見覚えのある色だったので、すぐに、あ、自分のパンツだと気付いた。というか、脱がされていたのか、自分。

いろいろ相手に対する突っ込みがあったので、いつの間にか足を掴まれていたことに気付くのに時間が掛かった。というか、なんか、手馴れていないかこの男。

ハァ、と内股に男の息が当たるのが、なんとも言えず不愉快である。

腕を一つにまとめられているために身動きが取れない。しかも腰をしっかり押さえつけられているので本当に、動きにくい。悪戯程度、と相手は言っているが、なんだかこう、自分の下半身に顔を埋めて、なにやらしげしげと、開脚した中心を眺めている様子から、それだけで終わるわけがないとは冷静に判じた。

とりあえず、逃げたい。できれば急所を潰してから逃げたい。

しかし今の自分に何ができるか?はそういう面ではどこまでも冷静である。別段、犯されることを恐ろしいとは思わないし、処女なんぞとっくにないのだから構わないといえば構わない。時の止まったからだは妊娠することもないのだから、問題はないといえば、ないのだ。

ただ、不快なのが嫌だった。

そうしてがあれこれ考えている間にも、海兵は大胆になっての膣に指を入れたり、中心の突起を舌で味わったり、としている。

自分で言うのもなんなのだが、この幼女体系に興奮できるなど、本当に変態さんだ。

ふぅ、と困ったように息を吐こうとしたのだが、口内に下着を突っ込まれているためにうまくできない。その吐息をどう勘違いしたのか知らないが、海兵が興味をそそられたように顔を上げ、ぐいっと、の口の中のものを引き抜いた。

「子供なのに、濡れてきたんだが、慣れてるのか?」

答える義理はまるでない。濡れた、といわれてはため息を吐きたくなった。別段感じている感じていないはともかくとして、生理現象だ。擦られれば、痛みがないようにと出てくるものと割り切っている。いや、まぁ、快楽を感じていないわけではないが、触るところを触られれば、相手がバカ鳥でもこうなるだろう。そんな展開はごめんだが。

さて、どうするかとは思案。できれば自分がこの男を殺すのはいろいろ問題もあろうから、サカズキ辺りが気付いてこの男をどうにかしてくれるのが一番だ。しかし、本部の奥から離れたこの場所に大将が来ることなどまずない。しかも、クザンにしっかりアリバイ工作まで頼んでいるのだ。ここは自分で乗り切るのが道理だろう。

それで、さて舌でも噛み切って血を流せばこの男も慌てるかと、けだるげに思う。ぐいっと、舌を出してそのまま歯をあわせようとした途端。

「お怪我はありませんか?パンドラ」
「……うん、普通ここで出てくるのはサカズキとか鳥だよね。なんで、ルッチくん?」
「貴方のお傍であれば、俺はいつでも参上しますよ」

ざしゅっと、それはもう、気味の良い音。起こった事を単純に書いてみれば、の上に圧し掛かっていた海兵が、ルッチに襟首を掴まれて一度天井に頭から打ち付けられ、落下したところを蹴り飛ばし、壁に叩きつけられた。それだけでは飽き足らず、崩れる身体、急所をしっかり革靴で捉え、それはもう、見事なまでに踏み潰した。

……ちょっと突起していただけに、いい具合につぶれたようだ。

呻くというよりは、泡を吹いて白眼をむいた海兵、そのズボンが下がったままだったり、といろいろ見苦しい姿なのだが、はもう放っておくことにして、助け起こすルッチの手を取った。

「お怪我は?」
「ないよ。ありがとう、ぼくが殺すわけにはいかないしね」
「殺しても足りぬくらいですが…あなたが悲しまれることを考えて去勢するだけにしました」

いっそ殺してくれと、今後の人生は思うだろう。男として生きられぬのであるから、これほど悲劇的なことはないね、とは完全他人事で笑う。ルッチは同じ男なのだろうけれど、全く同情の篭らぬ声で「そうですね」と淡々と頷いた。

「でも、まぁいいのかな?この海兵さん、小さな女の子にしか欲情できないんだって。変態さんなの。だから使えるものなくなったほうが世のため世界のため。さすがルッチくん、正義と平和を守っているんだね」
「正直俺は貴方さえお守りできればそれでいいんですがね。お褒めくださって、ありがとうございます」

恭しく、の手を取って頭を垂れる。この従順さが人には「え、別人じゃん!!?」と驚かれるそうだけれど、出会ったときからにはこうだったので、わからない。

ころころと喉を震わせて笑い、ははたり、と気がついた。

「あ」
「どうしました?」
「うん、あのね、ぼくのパンツ、どっか行っちゃった。さっきまであの変態さんがぼくの口の中に突っ込んでて、それで取られたんだけど」
「なんですか、その羨ま…変態プレイは」

一瞬なんか妙な言葉が聞こえた気がするが、は気にしないことにした。おや?とあたりを見渡しても、自分の白いレースのパンツは見当たらぬ。まぁ、唾液が付着しているだろうから穿きたくないけれど。

……さすがにノーパンで帰るのはちょっとばかり抵抗もある。

「……まぁ、仕方ないよね」
「すいません、さすがに俺も、少女物の下着の持ち合わせはありませんね」
「あったら笑うよ。嫌な意味で」

ルッチが優秀なのは知っているが、そういう方面での準備もばっちりな有能さを発揮されても、正直困る。というか、なんで持ってるんだと引くかもしれない。

……ドフラミンゴあたりなら常に持っていそうな気がして、はとても嫌な気持ちになった。

「ところでルッチくんなんでいるの?」
「久しぶりに休暇を頂きましたので、貴方のお傍に参りました」
「ちゃんと休まないと身体壊すよ」
「心配していただけるなど、この身に余ります。とても光栄ですが、俺は貴方のお傍にいられることが何よりの至福なんですよ。それを奪わないでください」

じごく真面目な顔で言われ、ぽん、とは顔を赤くした。

「……ルッチくんは、結婚詐欺とか、できそうだね」
「プロポーズは貴方にしかしないと心に決めています」

今もんのすごいこと言ったよこの子。

相変わらずのパンドラ一直線なロブ・ルッチ。は顔を引きつらせつつ、そろそろサカズキのところに戻らないといろいろまずいような気がしてきた。

「ねぇ、ルッチくん。それはともかくとして(←さりげに酷い)ぼく食堂に行きたいんだけど、案内してくれる?」
「下着を着けられていない貴方をあちこち連れまわすなど、できませんね。入用なものがあるのなら俺が探してきます。どうか一度自室にお戻りください」
「サカズキが怒るから、部屋に帰る前に一回行かないと。それに、自分の欲しいものは自分で用意したいの」

いや、確かにノーパンでふらふらしたいわけではないし、そういう性癖もないけれど。優先順位というものがある。強くルッチに言えば、ルッチはしぶしぶ、と承諾した。





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・疲れたのでいったん終了。
 すいません、たぶん消えたパンツはさりげなくルッチがパクったと思います←