午後の海軍本部は至って平穏そのものだ。大将ら将官クラスの執務室のある本部“奥”にて、は珍しくサカズキの私室に足を運んでいた。この時間は赤犬の執務室にて定位置のソファに座り朝選んだ本を読みながら時間を潰す、というのが常であるが、今日は違う。

「っていうか、ピアくんが新作出さないのが悪いんじゃないの?」

ぶつぶつと不平をこぼし、が小さな背を精一杯伸ばして眺めるのは部屋の半分を占める本棚だ。サカズキが私用に使っている部屋は二つあり、一つは寝所、もう一つは書斎になっており、蔵書量こそ海軍本部の資料室・図書室に劣るがこの20年ばかり読書を続け今ではすっかりすべての本を読み終わってしまったにとっては「目新しい本がある」場所だった。

「これはもう読んだし、「盆栽百選」なんてぼくの趣味じゃないし」

背表紙を眺め眉を寄せながらは唸る。

海軍本部の本に飽き、そろそろ新しい本をと注文しているがが手配した本は運悪く運搬の最中海賊船に襲われて沈んでしまった。それで暇を持て余していたところ、サカズキの書斎から本を選ぶ、という、そういう展開になっているのであるけれど、それにしたって、ここの本のセンスはには渋すぎる。

大将赤犬サカズキ、その外見にぴったり当てはまり盆栽や書道を嗜む。それゆえ私室の書斎にある本もそういう類が多く、他には歴史書や時代小説であるが、仮にもウン百年生きている、時代小説や歴史書は読むたびに「これは訂正入れた方がいいのかな」といらないストレスがかかり、好んで読みたくはない。

サカズキの隠れた趣味である料理本もあるけれど、これはが読むより食堂のマリアちゃんが読めば面白いだろうと、そういう発想になった。

「ぼくが好きなのはラブロマンス系だからサカズキとは180度趣味が合わないんだよねぇ」

あれこれ眺めて、もうタイトルから全く興味がそそられない。

が愛読するのはお姫さまと騎士、あるいは王子さまの物語や恋愛ストーリーだ。いや、確かにサカズキの書斎にそんなものがあるとは欠片も期待していないが。

それにしたって、一冊くらい自分が読めるものはないのか。諦めるより探して時間つぶしという手もある。は辛抱強く目を走らせ、そこで自分には手の届かぬ高さの段に一冊だけ大きさの違う本があることに気付いた。

「うん?なんだろうねぇ」

んー、と背をめいいっぱい伸ばしても届かぬ。いや、デッキブラシで浮かぶという手もあるにはあるが、魔女やら魔法やらを嫌悪しているサカズキだ。彼の私室で勝手に使用しようものなら烈火の如く怒り狂い殴り飛ばされるだろう。部屋というのはもっとも重要なテリトリーとは心得、そして尊重している。それであるからサカズキの、ということだけではなくできる限り無礼を働かずにいようと心掛けたかった。

第一、届かぬ、それなら棚によじ登ればいいだけのことだ。

は器用に棚を足掛けにして目当ての本に指を当てる。

「んー、もう、ちょっと」

全くなぜノアの体がもう少し成長するまで待てなかったのか。はこの体になって不満はあまりないが、こういう時に不便とは思う。腕が吊りそうなほど思い切り伸ばし、やっと背表紙に爪をひっかけることができた。

「よし、ぼくって努力家!」

ここに誰か海兵、センゴクあたりがいれば「黙れ魔女め」と顔を顰め呟いたろうが生憎一人である。トン、とは目当ての本をその手に採り、小首を傾げた。

「おや、まぁ、珍しい。サカズキが文庫本?」

の手には丁度いいが、あの大きな手には不釣り合いと思える文庫本。几帳面なサカズキらしく丁寧に保護カバーがされており、角も凹んでいない。

文庫本、というだけでも珍しいのにその本、詩集のようだった。

「………サカズキが詩集って、いや、魔女の詩編とかならわかるんだけどね」

パラパラとめくれば、自然を題材にした詩が程よい余白と共に綴られている。も読んだことがある、もう100年ばかり昔に生きて、死後作品が評価された画家がその死の淵に書いた詩集だ。死が近づき、その詩人は絵を描く体力はないとそう悟り、それならと見た世界を詩で書いた。死の淵より見る世界はまた違うのか、誰よりも死に近く、また遠いからは窺い知れぬ世界の顔がそこにあり愛読した時期もあったと思い出す。

名作であることは間違いないが、しかしそれをサカズキが持っている、というのがにはなんだかおかしい。思わずころころと喉を震わせているとその本から何かがパサリ、と落ちた。

「うん?」

反射的に一度しゃがみ込み、はその落ちたものを拾い上げる。




 

 

 

 



意外な破壊力がありました

 

 

 

 

 

 






お客さまが、とカリファが控えめな声で告げたのは午後の日が傾き、お茶の時間が過ぎて少し、という頃合い。パウリーが出した書類に目を落としていたアイスバーグは顔を上げて首を傾げた。

「今日はもう予定はないはずだが?」

普段カリファにスケジュール管理を任せているとはいえ、アイスバーグも自分の予定の把握はしている。特に人と会う約束事なら記憶違いということもないだろう。問うて見ればカリファが眼鏡の奥で瞳を困ったように揺らした。

「アポはないのですが、その」
「ぼくと君の仲じゃァないか、アイスバーグくん。予定がなくたって最高のもてなしをしてくれると信じているよ!」

しっかりとカリファが閉めたはずの社長室の扉を蹴り開けて、立っていたのは暖色の髪の小さな少女。アイスバーグにとって馴染み深いと言えばこれほど馴染み深い者もいない。

「ンマー、なんだ、、お前か」

突然の訪問者、訝しんだがなら納得、とアイスバーグは安楽椅子にもたれかかる。ギシリと軋ませながら言えば、がふふん、と鼻を鳴らした。

なるほど、仕事熱心、生真面目で忠誠心のあるカリファはアポのないを当然断ろうとしたろうが、の自分中心さ、どうしようもないとこうして自分に判断を仰ぎにきたのか。

カリファが入ったのは一年前か。以前がこの島に来たとき、同じころに入ったパウリーやカクとは顔を合わせ話もしたが、そうえいばカリファにはきちんと紹介していなかったと思い出す。

「カリファ、悪いが茶と、それに何か適当に食べるものを持ってきてくれ」
「よろしいのですか?」
「ンマー、客と扱ったってロクなことはねぇヤツだがな、こんなんでもおれの昔からの知り合いだ。仕事は切り上げるが、何か問題はあるか?」
「いいえ、ありません」

見るからに幼い少女を「昔からの」と言ったことでカリファの目に何か疑問が浮かぶのがわかったが、アイスバーグはそれには気づかぬふりをする。一々説明するのが面倒だ。

「……きれいな秘書さんだね。とても仕事熱心で、このぼくがアイスバーグくんに会いに来たと言っても「アポがありません」と通してくれなかったよ」

丁寧に礼をして社長室を退室するカリファを横目で見送り、はソファに座り込む。仕事も(強制的に)終了したことだ。アイスバーグもの向かいに腰かけて、久しぶりに見る知己の様子を眺めた。

「あぁ。名前はカリファ。一年前から秘書をやってくれてる。ンマー中々優秀でな、助かってる。そういえばお前にはちゃんと紹介したことがなかったな」
「そう、君がそう言うのだからその言葉以上に有能で、ガレーラに貢献してくれているんだね」

感情の籠らぬ声で言い、はひょいっと腕を振りティセットをテーブルに並べた。

「茶なら今、」
「必要ないよ」

用意させていると、それをも聞いていて知っているはずだ。アイスバーグの言葉を遮りそのまま自分で茶の準備をしていく。どういうつもりかわかりかねる。だがアイスバーグは差し出されたティカップを自分の傍に引き寄せた。

「良い香りだな。アールグレイか?少し香が強い気がするが」
「変種さ。お茶請けはスコーン、ジャムは薔薇だよ」

いつの間にかテーブルの上には真っ白いレースのクロスが惹かれており、見事な「午後のお茶会」の支度が出来上がっていた。しっかり茶請けまで出されてしまってはカリファが用意したものは無駄になる。の性格の悪さはアイスーグも長年の付き合いで知っているが、こうもあからさまなものを自分の目の前ですることは滅多にない。そして「お茶会」というのはの数少ない本心から好むものの一つ。招かれた身の上で自らが用意する、というほど無礼なことはない。アイスバーグに手間をかけさせたくないというのなら丁寧な断り方をするはず。しかし今はただの「無礼」としか扱われぬだろう振る舞いをしている。

それでもアイスバーグはそれについては言わず、が勧める言葉を受けてからカップを傾けた。

「ンマー、美味い」
「ふふ、当然!このぼくが入れたんだもの。ぼくがお茶を入れるのはこの世に五人といないんだ。味わって飲むといいよ」

実際の入れた紅茶は上手い。それはアイスバーグも認めている。の入れたお茶の後に飲むものは色のついたお湯としか思えないほどだ。褒めればが機嫌よさそうに目を細めるけれど、本心で喜んでいるとアイスバーグは思い違いをするほど短い付き合いではなかった。

「しかし珍しいな。お前の定期的な滞在日にはまだあったと思ったが」
「うん、だから残念ながら日帰りの予定だよ」

は半年に一度一か月ばかり水の都に滞在する。このときばかりは赤犬の(あの暴力海兵の)影響も及ばぬ。しかし訪れるたびに大やけどを覆い、月の半分を治療に専念し寝込まねばならぬを見てきたアイスバーグ、日帰り予定とはいえ海軍本部を飛び出していいのかと気にはなった。

あの海兵、あの、大将は自分の元からが消えることが許せぬらしい。罪人は罪人らしく常に縛り首に合い、死ねぬのならその苦しみにのた打ち回り続けろと、それがあの男のへの扱いの根底。半死半生になって水の都に「逃げて」くるを見ていられずアイスバーグは赤犬に抗議したことがあったが、結果悟ったのは「あいつは自分が悪い、なんてこれっぽっちも思ってない」ということだけだった。

だからサカズキはが水の都で、ほんの一時でも楽しむ、幸福を感じる、落ち着く、のが許せぬのだ。その時間を少しでも減らすために、を半殺しにしてから水の都に送り出す。

「失礼します。アイスバーグさん、お茶の準備ができました」

思考に沈んでいたアイスバーグをノックの音が呼び戻した。控えめなノックの後にカリファが顔を出す。丁寧な仕草、だが室内ですでに立派な茶会が整っているということを素早く確認し、眼鏡の淵を持ち上げた。

「ンマー、悪いな。カリファ」
「いえ、失礼いたしました」

そのまま顔色一つ変えず、折角用意した紅茶が無駄になることも気にした様子なく、カリファは再び部屋を出る。それをは振り向きもせず見送った。

「どうした?」

ここまですれば、さすがのアイスバーグも問わずにはいられない。基本的にの性格は悪く、極悪で、性根はひん曲がって見事な円を描いているものの、それでも彼女の性根は腐ってはいないのだ。あからさまな嫌がらせを、ほぼ初対面のカリファにするとは考えにくい。

何かあったのか、とそう含ませれば、目の前でお茶を楽しんでいたがピン、と整った柳眉を跳ねさせるではないか。

「なぁに、どうもしないよ?」
「何もなくてお前が急にこっちに来るのか」
「いけないかい」
「ンマー、当然歓迎はする。ココロさんも誘って久しぶりに三人でメシを食うのもいい。帰りはエニエスまでならパウリーに送らせる。何もないならな」

念を押して言うとの顔が顰められた。カップを持つ小指が一瞬神経質そうに動いたのでアイスバーグはの地雷を踏みかけていると感づくけれど、といっての対応を不快に思っていないわけではないのだ。

カリファはできた秘書であるし、このの理由のない八つ当たりを気にすることはないだろう。アイスバーグも、のこの振る舞い事態をどうこうとは思っていない。ただ気に入らないのは。

「おれに嘘をつくな。そう約束したのはおれの記憶違いか?」
「……まさか、君との約束、何もかも覚えてる」

に隠し事が多いのはアイスバーグも気づいてる。自分はがなぜ海軍本部に、に酷いことしかしない男の傍になぜいるのか根底の所を知らぬ。なぜが時折人から「魔女」と呼ばれているのか、その使う力が悪魔の実とは違うものであるのか、そういうことも知らない。しかしそれを暴こうとは思わず、またに「言いたくないなら別にいい」とも言った。

だがだからこそアイスバーグは「嘘はつくな」とそう約束させた。

「もう一度聞く。どうした?」

先ほどは鋭く低く、半分脅すように言ってしまったが今度は努めて柔らかい声音で問うた。彼女の憶病さをアイスバーグはよく知っている。都合が悪くなれば逃げる。はそういう女だ。

何かあったのだろう。それは何だ。興味本位から、ではない。がここに来た。自分に会いに来た。それはなぜか。話をしに来たからに他ならない。それをアイスバーグは分かっていた。自身が理解しているのか、それは不明だが、にはそういうところがある。ただ甘やかすだけなら自分は適役ではなく、他に行く。誰かを甘やかしたいのならパウリーの所に行くはずだ。けれど「何かあって」やってきたのは自分の所。アイスバーグはと対等だと常々思っている。もそうだろう。だから自分の役割はの話を「対等の人間」として聞くことだと、そう理解していた。

「ここに来る前にね、今日は読む本がないからって、サカズキの書斎に本を借りにいったの」
「ンマー、読書か。設計図の描き方ならいつでも教えてやるのに」
「ふふ、ぼくはそういうセンスはないからね。それで、あれこれ本を探したんだよ」

軽口をはさめばが笑う。少しだけ説教をするような雰囲気になっていたのでアイスバーグはほっとした。は笑った顔が一番いい。責めたいわけでもない。

ぽつり、ぽつりとは「どうした」のかを語る。それをじっと、アイスバーグは聞く。

「もちろんサカズキの趣味はぼくにはあまり合わなくてね、興味をそそられる本はなくて、それでも探していたら一冊だけ文庫サイズの本が目に入ってきてね。詩集だったよ。知ってる?T・ジーンっていう画家のただ一冊の詩集なんだけど」
「いや、知らねェな」
「そう。名作だから今度持ってくるよ。それで、懐かしいと思ってぱらぱらめくっていたら、最後のページに挿んであったらしい手紙が落ちてしまってね」
「手紙?」
「そう、手紙」

おうむ返しに言い、がにっこりと目を細めた。どこか仄暗い気配のする笑みだ。アイスバーグは知らず体を強張らせ、顔を顰める。

手紙、とは大切な宝物のように呟くけれど、その声音通りに思っているわけがないことは一目瞭然だった。

「赤犬の手紙か?」
「サカズキ准将へ、って書かれていたからね。そうだろうよ。とても綺麗な字だった」

ということは女性からのものか。准将、となればが出会う前。それだけを素早くアイスバーグは推測して、これ以上この話をさせるべきかと、そう迷った。しかし話を始めた以上は止まらぬだろう。魔女の能力「物語り」というのが、時折あるらしい。老婆が幼子に暖炉の前で昔の話をおとぎ話になぞらえて話すような、そんな行い。

「とても控えめで、けれど情熱的な手紙だったよ。愛の言葉を直接書いてはいないんだ。「お慕いしております」と、その正義を尊敬していると、できることなら眉間に刻まれるほどの憂いを取り払って差し上げたい。それができぬ我が身の何と口惜しいことかと、そう、とても美しい字で、流れる筆で、愛をたっぷりと含んだ言葉で書かれていたよ」

読んだのかとアイスバーグは批難しなかった。「読んでしまった」という罪悪感すら抱かぬではなく、当人が一番わかっているだろう。

「なるほどな。ンマー、男はラブレターの1枚や2枚もらうもんだろ」
「そんなのわかってるよ」
「じゃあなんだ」

赤犬をフォローするなどごめんだが、を不機嫌にさせたままというほうがごめんだ。それで仕方なく言えばが即座に切り捨てる。それじゃあなんだというのかとため息交じりに言えば、が眉を寄せてそっぽを向いた。

「別に、サカズキが綺麗なお嬢さんとどうこうなったって、奥方をもらたって、そんなの構わない。意外に女性海兵に人気があるのも知ってるし、二月には割と大目にチョコレートをもらってるのも知ってる」
「だから、ならなんでここに来たんだ」
「それがわからないから腹が立ってるんだよ!!」

理不尽って言葉を知ってるか、いや、知らないだろうな。
怒鳴られアイスバーグは紅茶をすすりながら目を伏せた。

話は分かった。十分すぎるほどよくわかった。素直に「ンマー、嫉妬してるのか」とでも指摘してやっていいが、そうすると多分社長室が破壊される。

感情的に叫んだため目じりに涙がうっすらと浮かんでいる、とりあえずアイスバーグは腕を伸ばしてそれを拭ってやり、ひじ掛けに肘を立てて頬杖をついた。

「ンマー、その手紙を燃やしでもすばすっきりするんじゃねぇのか?」
「外道!そんなことできないよ!人でなし!」
「ンマー、お前に言われる覚えはねぇよ」

のことは友人として好きだし今後も長い付き合いをしていくと思うが、しかし彼女に「外道」と言われることほど不名誉なものはない。

きっぱり言えばが「アイスバーグくんのバカ!」とボキャブラリーもセンスもない罵倒をされた。

しかし、嫉妬うんぬんだけではないだろうとアイスバーグは思う。そして本人がそうと自覚しているだろう。嫉妬など、本来には無縁だ。

だが人を羨み欲しがる心はある。

先ほど諳んじたラブレターの内容とやら。口に出すその声音は、聞いていて不憫になるほどが「劣等感」を覚えているものだった。

アイスバーグは目にしていないが、その文面はすら感心し、深く胸を打たれるものだったに違いない。相手を慈しみ、想い、労る感情が込められていたのだろう。それを目にし、は「敗北」したのだ。

の自尊心の高さは相当のもの。しかし相手を正確に評価する目も持っている。はその手紙の書き手の思慮深さ、愛情の深さ、優しさを感じ取り、苛立った。けれど苛立つ、のは自分が「負けた」ということ。それを自覚したくないのだ。

この傲慢尊大を人の形にしたような女が手紙一枚、それも随分と昔に送られたものでこうもあっさり落ち込んでいる。その姿がアイスバーグには珍しかった。けれどアイスバーグはの親友であると自負している。いつまでもが落ち込んでいる姿を望みはしない。それで、何気ない調子でぽつり、と提案してみた。

「手紙か。ンマー、お前も一度くらいあの大将に書いてみたらどうだ?」
「ぼくが!?サカズキに!?」
「嫌なのか?」
「書く理由と用件がないよ」

まぁ常にそばにいるのだ。用件はないだろう。だがが手紙によって傷ついたというのなら、同じように自分も書いてみればいいのではないか。そう思った。

「ンマー、おれは別にどっちでも構わねぇな。どうする?紙が必要ならカリファに頼むが」

のことだ。手紙を書く道具くらい持っていそうだけれど、とりあえず会話のつなぎとしてそう聞いた。は困ったように唸って、額を抑える。

「ぼくが、このぼくがサカズキに手紙なんて、笑えないジョークでしかないよ」
「そうでもないだろ。ンマー、確かにお前から手紙なんて何の嫌がらせかあるいは物騒な内容かと疑いたくなっちまうだろうが」
「…アイスバーグくんはぼくをいったいなんだと思っているのさ?」

普段の行いからと即答するとが沈黙した。

それで暫く一人でうんうんと唸り、「いや、でも」「だって」「別に嫌なわけじゃないし!!」などコロコロ表情を変えながら言うのを眺める。こうしていると、時折アイスバーグははあの大将を愛しているのかと、そう思えてくるから不思議だ。そんなことは万に一つもあり得ない。そもそもがあの男に懸想したところであの男が暴力以外をに与えるとも思えない。

だがルッチのあからさまな愛情表現とはまた違った気配でがあの男に何かしらの感情を抱いているのではないかと、そう、見えてしまうのだ。

手紙の送り主に「敗北した」というのも、アイスバーグは恋愛云々ゆえではなく「文章の素晴らしさ、自分にはない心」という書き手の女性自身の魅力や美徳によるものと思っている。だが、こうしていると、まるでが「サカズキがラブレターをもらってた。その女性は素晴らしい人だ」と、そういう意味にもとれるのだ。

「別に、サカズキに手紙を書きたいんじゃなくて、ぼくだってそれくらい書けるって証明したいだけなんだからね!」

うん、と、やっと自分の中で解決したらしい。が顔を上げて何やら決意したように宣言する。はっきり言ってアイスバーグはどちらでも構わないので、とりあえず「ンマー、がんばれ」と気のない応援を送った。

そうしてカリファに道具を用意させようとすると、はやはりひょいっと腕を振って手紙をしたためる道具一式をテーブルの上に出す。その時すでにお茶会のセットは消えているのだから奇妙なものだ。

クリスタルのインク瓶をキュポッと小気味よい音をさせて開封し、羽ペンにインクを含ませる。紙は触り心地のよさそうな上質紙で、縁取りは金箔だった。

「ねぇ、アイスバーグくん、何書こう?」
「自分で考えろ」
「そこをなんとか」
「ンマー、とりあえず宛名を書いたらどうだ?」

が内容を全て決めるべきだ。アイスバーグは手紙の中身を自分が知るべきとは思っていなかったし、が書き始めたら自分はソファから立ち上がって安楽椅子の方まで行こうかと思うくらいだ。それで助言というには乏しいものを出せば、が「そうだね!」と金言でも頂いたように顔を輝かせる。

「…………」
「………どうした?」

しかし「じゃあとりあえず名前だけでも」と紙に向かったはずの。その手がいっこうに動かない。ゆっくりと三十秒を心の中で数えられるほどの間ののち、アイスバーグは問いかけた。

「…………」
「まさか名前忘れたとかはないよな」
「……わかってる。サカズキだよ」

顔を上げぬままが呟く。その眉間にははっきりと深い皺が刻まれているが、アイスバーグは同時にのその耳が、ほんのり赤くなっていることに気付いた。

「…………」

一瞬アイスバーグは部屋の空調が効いてないのかと天井を見たが、自分には適温であるしきちんとファンも回っている。

それで再びに視線を戻せば、やはり耳は赤く、そして頬もうっすらと朱に染まっているのだ。その上、羽ペンを握る指先は小さく震えている。

「具合もで悪いのか」
「……ち、違う、そうじゃ、ない…」

問えばぼそぼそっと、聞きづらいがきちんと返事も返ってくる。本当にどうしたのだとアイスバーグはの顔を覗き込み、ぎょっとした。

、お前、熱でもあるのか?」

ンマー!と驚きながらアイスバーグは目を見開く。覗き込んだの顔、目は涙でぼんやりしているではないか。頬の蒸気も一緒になって、「泣きそう」というよりは「熱がある」という類のもの。額に触れようとすれば、さっとに拒まれた。

「ち、違う…熱とかじゃ、なくて…そうじゃなくて……」
「ンマー、それならなんだ?」
「……そうじゃなくて……そ、その…」

もぼもごとが言葉をどもらせる。相変わらず両手は紙の上に乗せたまま、何やらもじもじとしている

……まさかと思うが、照れているのか?

そこでやっとアイスバーグは見当付けた。いや、普通に考えればこの「顔が赤い」「目がうるんでいる」というのは熱以前に「照れている」「はにかんでいる」という様子に値するのだが、相手はである。羞恥心、恥じらいなんぞないだろうという偏見のもとまるで思い当らなかったアイスバーグ。彼は悪くない。

「その……だ、だって…!な、名前……名前、サカズキって、書くの…初めてだから…その、なんか、何か嫌だよ!!」

嫌というか、いや、お前それ「恥ずかしい」んだろうとアイスバーグは指摘したかった。

あのが照れている。恥らっている。親友だが(以下略)アイスバーグはうわ、と顔を引き攣らせた。突っ込みの言葉すら吐けずにいると、そんなことお構いなしにが言葉を続ける。

「べ、別に、名前くらいどうってことないよ?でもさ、でも、名前書こうとすると、なんか本人のこと考えちゃうし、何か書かれたもの見ちゃうとそこにサカズキいるみたいでなんかオロオロしちゃいそうで、っていうかサカズキっていう名前がそもそもダメなんだよ!ぴったり似合いすぎてて、サカズキって書いたらちゃんとしないといけないみたいで…とにかく、ぼく、書けないよ……!!!」

なら書くな。とは言えず、アイスバーグは顔を真っ赤にしてあれこれ言い訳をするを前に思わず額を抑えるしかなかった。





+++





暗くなる前に再び戻った海軍本部は出てきたときとなんら変わりない。は外出がとうにバレているとはわかっていたが、逃げ回っていても余計ひどくなるだけと覚悟をし、自分からサカズキの執務室を訪ねることにした。

水の都に行っていたことは知られているはずだ。は(デッキブラシより早いので)海列車でエニエスまで行き、そこからデッキブラシで戻ってきた。それであるから途中を見かけた海兵が本部に報告を入れている。

それでもいつもの調子で執務室に入れば、未だ仕事を続けていたサカズキが顔を上げることなく口を開いた。

「遅かったのう」
「た、ただいま。サカズキ」

てっきり一言も言葉をもらうことなく殴り飛ばされるかと思っていた。身構えていただけには驚き、そしてそのまま扉の前に立つ。

「怒ってるよね」
「何ぞ覚えがあるんか」
「水の都まで行ったし」
「一か月後の滞在を取り消す手続きをした」

なるほど、しっかり「報い」はあるのか。それなら今ここで殴り飛ばされ両足を切断された方がましだった。的確に己を傷つける術を心得ている。

は数少ない自分の心から安らげる日々が遠のいたことを落胆しつつも、とりあえず殴られずに済んだと素直に喜ぶことにしようと自分に言い聞かせた。そして普段通りにソファに座り、目を見開く。

「………」
「わしの書斎に入るのは許可したが、動かしたものはもとに戻せ」

テーブルの上に置いてあったのは一冊の文庫本。が飛び出した時、書斎の床に投げ捨てたままだったのをサカズキが見つけたのだろう。

手に取り、は素早く「手紙」がもうはさまれていないことを確認する。

「何か挿んでなかった?」
「あぁ。昔もろうた手紙があったのう。どこにしまったかと思うちょったが」

その答え方がには気に入らなかった。

普段のサカズキなら「あぁ」と肯定しただけで、機嫌が良くてそのあと「手紙が」と物の正体を教える。けれど今はそれ以外にも、サカズキの個人的な感情までも口に出してきた。

「挿んでおかなくていいの?」
「おどれにゃ関係ねぇ。なぜ気にする」

サカズキは何かの違和感に気付いた。普段のであれば興味を示すことはないはず。それで訝しむ顔を向けられ、はそっぽを向いた。

その途端、ガタリ、と椅子が動く音がしたかと思えば、そのままは壁に押し付けられた。

「……っ」
「このわしが問うた。答えねェとはどういう了見じゃァ」

理不尽に扱われるのは慣れている。しかし今日ははどうしようもなく腹が立った。キッとその青い目を鋭くさせて、自分の首を掴む腕を剥そうと掴み返す。

「おどれの貧弱な力で抵抗できると思うちょるんか」

首を絞められているため言葉で答えることはできない。もちろん自分の力でサカズキの腕を払えるとは思っていない。は珍しくサカズキに「抵抗」したかっただけだ。きつく睨みつけ、そして腕を拒む。だがそれがサカズキには何の意味もないのに、それなのにサカズキは眉間に皺を深くする。

締め付けられてだんだんと視界が赤くなっていく。口から泡が吹き上げてきて、それでやっとサカズキは(舌打ちまじりに)を床に落とした。

だがそれで許すつもりは当然なく、そのまま床に崩れ落ちて急速に酸素を求め喘ぐの背を踏みつける。

「……ぐっ」
「これで口は開けるじゃろう。言いたいことがあるなら言え」

失神寸前まで首を絞められてすぐに喋れると思っているのか。理不尽だ。は生理的に浮かんできた涙を床で拭い、げほげほとむせつつ手のひらを握りしめた。

手紙を、手紙を書いた。アイスバーグに呆れられながら、結局3時間かけて手紙を書いた。

ほとんど内容らしいものは思い浮かばなくて、自分でもしようのないことを書いたと呆れている。手紙を書いた。それを、できればここで渡すつもりだった。しかしサカズキが、あの本に挟まっていた手紙をどこかに、おそらくは後生大事に保管している、と、そう知った今、そんな気は欠片もなくなった。

答えぬにさらに苛立ちが増したのか、サカズキは再び首を掴んで釣り上げる。手指に力はそれほど籠められていないので息が止まるほどではない。適度な苦しさ。拷問には的確だ。

「……何か落ちたのう」

にらみ合い数秒、ふとサカズキが床に目を落とした。

「…っ、それは……!」
「手紙か。ロブ・ルッチからでも押し付けられたか」

懐に入れていたのが吊り上げられた拍子に落ちたらしい。は慌てて奪い返そうとするが、サカズキは再びを足蹴にし、動けぬよう押さえつけると、その手紙、封筒をひっくり返す。

「魔女の蝋印か。見るのは初めてじゃのう」

白い封筒に押されたのはが使用する蝋印だ。赤いバラをモチーフにしたものは以外で使用を許されているものはいない。それでルッチからのものではないと判断し、サカズキの足がの背から退く。ルッチからという疑惑があったため背骨を折られていたは急いで回復しつつ、サカズキが手紙を開くことのないよう、それよりも、宛名を見ることのないうちに奪い返せればと、無理なことを願う。

「……」

案の定、表に書かれている名前は、あっさりと読まれてしまった。

サカズキへ、とそう短く書くのに2時間かかった。アイスバーグは呆れていたが、にはどうしても、名前を書く、というその行為ができなかった。簡単なはずだ。口に出すのはあっさりできる。けれど、名前を、文字にして自分が見る、というのが、どれほど感情を込めるものなのか、その覚悟がなかなかできなかった。

だから、サカズキ、とそう書かれた文字は震えてしまった。できれば書き直したかったけれど、二度も書けはしないし、はサカズキ、と書かれたその封筒を捨てることができなかった。

「……おどれが書いたのか」

自分の名前が書かれている、魔女の蝋印のされた手紙。それでわからぬサカズキではないだろう。問いというより確認、いや、呟きが吐かれ、はびくり、と体を震わせる。

手紙を読まれてしまうのだろうか。恐れ、しかし、一瞬期待した。

自分で直接渡すのは躊躇われた。それならこれは不幸な事故だ。サカズキが勝手に呼んだ。自分は何もしていない。渡すことができなかったから、これはこれでよかったのかもしれない。そう思った矢先。

「身の程をわきまえろ、罪人風情が」

びりびりと、目の前で封筒ごと破かれた。

これまで受けたどんな暴力よりも強く頭を打たれたような、そんな衝撃がを襲う。ハラハラと落下する紙の残骸を見るため顔を動かすこともできず、ただ茫然と、自分を見下ろすサカズキを見上げた。

「手紙とは相手に己の感情を、考えを伝えるもの。また提案し、情報を伝えるためのもの。おどれが、罪人のおどれが、このわしに何ぞ伝えられるなど思い上がるな。己の罪を振り返ることも償うこともできん醜い女は、黙って己を縛る茨の棘に血を流せ」

軽蔑を、侮蔑を孕んだ声と、これ以上ないほどを「汚らわしい」と嫌悪する目で、サカズキは罵る。
(言いたいことがあるなら言えと言い、そして今は黙っていろという。矛盾しているとは指摘しなかった)

アイスバーグに話して、そのあとの心は落ち着いた。は、サカズキへ宛てられた手紙を読んだ時、苛立ちはしなかった。たぶん、感じたのは悲しみだった。

どんな女性が、一体サカズキとどういう関係にあった女性か、それは知らないが、それでもその当てられた手紙には誠実さ、思慮深さ、慈愛、何もかもが籠っていた。直接的な言葉で書かれずともサカズキを愛し、そして敬っていうとわかる文面。書き手が優れた人学者、教養のある女性であるというのがには分かってしまった。

その手紙を、サカズキが本に挿んで取っておいた。その事実がを打ちのめした。理由は分からない。だが、はサカズキが彼女を「想っていた」事実を感じ取ったのだ。

手紙を、書いた。自分は彼女のように優れた言葉で、サカズキを案じることはできない。サカズキの正義をつらぬ姿を尊敬する言葉も綴れない。無事を祈り、励ます言葉も書けない。

は魔女だ。そして、サカズキにとって最も許しがたい罪人だ。その己が、「彼女」のようにサカズキを、大将赤犬を愛する文などかけるわけがない。

それでもは手紙を書いた。書けるものなどほとんどなかった。だから、水の都であったこと、自分の好きなこと。ガレーラの職人たちの腕前の素晴らしさなど、そういうことを書くしかなかった。

書くことができたらどんなによかったか!

きみの正義バカっぷりが好きだよ。
眉間によった皺が好きだよ。
手ひどい扱いをしたあとも、それでも呼べば返事をしてくれる声が好きだと。

そう、書ければどれほどよかっただろう。

だが書けなかった。

けれど手紙を書いた。読んでもらおうと、正直、そこまで大それたことは書いている最中には欠片も考えていなかった。

ただ、ただ、受け取って欲しかった。「彼女」の手紙のように大事にしてくれなくとも、それでも受け取って、サカズキがいつも使用する執務机の中に入れておいてくれれば、あるいは、そのスーツの内側に一時だけでも収まってくれれば、それでよかった。

けれどサカズキはそれさえも拒絶し、そしてそれを「願った」己を罵倒し、嫌悪している。

はっきりと呆れ、見限られる。そういう顔だ。

「ふ、ふふふ…ふふ……ぼくとしたことが」

一度きつく目を伏せ歯を食いしばり、は体を起こした。ゆっくりと立ち上がりながら、己を塵屑か何かのようにただ見下す男に顔を向ける。

仄暗い笑い声を響かせ、ぐいっと、瞳から涙を拭い払う。そうしてパチン、と一度瞬きをしてから、は軽く顔を傾けて目を細めた。口元を釣り上げ、サカズキがこちらに向けるものと同等、あるいはそれ以上の蔑みを向ける。

「ぼくはこの長い生涯で己の行いを恥じることはない。けれど君はそれを罵倒する。それならあの女の手紙を燃やすんだろうね」

己は魔女だ。そしてサカズキは大将。

(ぼくは何を期待していたのだろう)

恋文を見る、書く、など己の本分か?馬鹿らしい!切り捨てて薪にし、炎にくべてしまえるような愚行ではないか。

己に必要なのは悪意を貫くこと。そしてサカズキに必要なのは、正義を貫くことだ。

の提案、いや、事実の突きつけにサカズキは一瞬眉を寄せた。(それほどあの女の手紙が大事なのか、と、は思わぬようにした)

サカズキが何か言う前に、は畳み掛けるように言葉を続ける。

「後生大事にとっておくなんて、ぼくの悪意を見くびっているのかい?ぼくは悪意の魔女、世界最大の犯罪者、世界の敵。この世の悪の保証人。きみはこのぼくを「抑える」役目を持っている。それであるのにほかの女にうつつを抜かしていられるの?片手間にぼくを「抑えられる」というの。ぼくの悪意はその程度かい?ぼくの悪意の裏側にある世界政府の正義は、その程度だと、君はそういうのかい」

己は、サカズキの正義を支援することはないだろう。サカズキがどれほど正義に戦い、血を流し、平穏から幸福から、まともな人生から遠のこうと、ただ黙っている。サカズキがその正義に身を焦がそうと、燃え尽きようと、ただ、ただ、黙って見ている。

それが正しい、己らの姿ではないか!

の連ねる言葉に、サカズキが黙り、そしてこちらを見下ろす。その瞳を見つめ返すことすらできぬ己を自覚し、なぜ甘い夢など見たのかとますます自分が愚かに思え、はさらに言葉を続けた。

「きみは、ぼくを殺すと言った。ぼくを咎めるとそう誓った。それなら君の正義の、君の心の全てをぼくに向けて。ひとかけらだって、他に目移りするのは許さない。ぼくを魔女と、悪と、君がそう罵倒する言葉の強さを保証して」

言い切り、ぎゅっと、は手のひらを握りしめる。手紙の残骸がその足元にあった。も、サカズキも踏みつけている。燃やされるより、こうして切り刻まれる方が辛いのだと初めて知った。それならいつか、はサカズキに切り刻まれて、バラバラになったその体を一つ残らず海にでも投げ捨ててもらえれば、今以上の悲しみを味わうことができる。そうなれば、今のこの胸の内など、まるで些細なことだったと、そう、乗り越えられると、そう思った。

以降黙りきるを、サカズキは長い事見下ろしていた。一度の顔に手を伸ばし、触れようとでもしたのか手が上がる。だがその手はそのままひっこめられて、カツン、とサカズキが身を翻した。

何をするのかとが窺えば、サカズキは執務机の引出から、にも覚えのある「手紙」を取り出し、掴んだそのまま無言で燃やした。

その顔には感情らしいものは浮かんでいない。何を考えているのか、には分からない。だが、燃やし灰すら残さぬ手紙に視線も向けず再び歩きだして、サカズキは戻ってきた。

腕が伸ばされ、今度は首ではなく、頬に手が添えられる。

反対の手で殴られるのかと、そうは身を強張らせた。それでもいい。あの女の手紙が消えた。その代償に殴られるのなら構わぬと、そう目を閉じる。

だが痛みはなく、振ってきたのは低い声の言葉だった。

「決まりきっちょることを、言うな。この大バカタレ」




(その時、目を開けていれば、きっとぼくは自分の言った言葉を後悔しただろう)




Fin

 




(2011/03/03 19:52)



あとがき
ネタ目安箱に投稿していただいた「バカッポー応援隊」さんからのネタがきっかけで始まりましたこの話。投稿ありがとうございました!!

 

やー…貰ったプロットではクザンが「ちゃんも書けば?」と唆し、恥ずかしがって逃亡したさんがドレークの所に愚痴、それで手紙を書いて、結局渡せず⇒その後サカズキが発見し読んでクザンに自慢、という流れだったんですが……。なんでこうなった?

……や、すいません。
でも書いてて久しぶりにDVバカッポーが書けて楽しかった…。

この、サカズキさんに手紙を送った「彼女」についてはきちんと考えているんですが、二部で登場してくれるのか…。