注意:クザン微エロです。
海軍本部、魔女の部屋、ではないの控え室。サカズキが執務中は待機させられる部屋。玩具やなにやらが散乱しているのは仕方ない。X・ドレーク、今は赤旗なんぞと呼ばれている海賊が海兵だった頃はのお守り役として、その部屋は十分丁寧に整えられていたのだけれど、ドレークが海軍を去った今、ここ半年ほどばかり、は放置状態。部屋が荒れることはない。ひょいっと腕の一振りをすればなんとでもなる。魔女を一人きりにすることの危険性をセンゴクは承知して、熱心に新たなお守り役を任命しようと次々にに海兵を会わせてみたのだが、今のところが気に入る者も、また、の癇癪に耐えられる者がおらぬので、仕方なしに部屋の前に海兵を見張りに立てるだけ、というのが現状だった。
部屋の前に立つ海兵。当然身分は准将以上。今日の見張りは最近少将に上がったばかりの男。当然パンドラへの謁見も終えた少将は部屋の中にいるものがどういう生き物なのかを承知していて、己がこうして立っている以上は猫の子一匹通さぬ心構え。何が何でも魔女を守り通すと背筋を伸ばしている。海軍本部に不埒な侵入者がいるかどうか、という突っ込みはしないで欲しい。
そうして広い部屋にぽつん、と、一人きりになっている。絨毯の上に寝転がり天井を見上げて数分、何を思うのか傍目にはまるでわからぬぼんやりとした青い目。キラキラと輝いたのはいつが最後か知れぬもの。ドレークが海軍にいたころは、毎日毎日その胃をいびり倒しその青い目は楽しそうにしていた。それであるから、は遊び相手がいなくなって寂しいのではないかと、以前クザンが呟いて、サカズキに一蹴にされていた。
真っ白い天井を見上げながらは数日前、ドレークのところへ行き、そして貰ったものを思い出す。ひょいっと、寝転がったまま腕を振ればポン、と胸の上に小さな皮袋が落下した。はごろり、と体を動かして紐を解く。中には一センチ程度、光を受けてキラキラ輝く小さな珠が入っている。その一つを指で摘みは眼を細めた。
ガラス製なのか、それはの目にもよくわからない。グランドラインで買い求めたものであるのなら、ガラスではないのかもしれない。単色のもの、中に模様の入ったものと様々、は一番気に入っている赤い色をしたビー玉をじぃっと眺める。仰向けになって、片手は胸の上。絨毯の上にの暖色の髪が散らばった。
「海賊が寄越したもんをこの場所に持ち込むな」
はっとした時にはもう遅い。は髪を捕まれ、壁に投げつけられた。背骨をしたたかに打ち、呻く。げほり、と口から生ぬるい血が吐き出され、眉を寄せながら、ずるずると崩れ落ちる。腕を振ってはデッキブラシを取り出すと、続けて繰り出された蹴りを何とか受けた。が一方的に殴り飛ばされ、蹴られるというのが常である。サカズキはデッキブラシで防いだことに若干驚いたようで、不快を表すように眉間の皺を深くしながら、腕を伸ばしての肩を掴んだ。
「大人しゅう蹴られりゃァえぇモンを」
じゅっと、マグマと化した掌が肩を焼く。うめき声を押えながらは腕を振って床の上に落下したビー玉を回収しようとした。その様子にサカズキが気付き、眼を細める。
「おどれの身よりもあれが大事か」
「サカズキ…ッ!!」
は制止の声を上げるが、無意味なことと判りきっている。サカズキがちらり、と床に視線を投げ、そのまま見えるビー玉の袋、転がった赤い珠を確認して、拾い上げる。
ノックもせず突然現れて、何だこの対応、とはは思わなかった。サカズキは数日前にが赤旗のところへ行ったことを知っている。魔女の行動は大将には制限する権限がない。罪深い行いを堂々とする。の気まぐれ、魔女の悪意。それらは無関心という最大の結果があるゆえに、誰にも口出しできぬこと。しかし、サカズキはを殴り飛ばせる。魔女を止める権利はないが、を殴り、蹴り飛ばすことができる。間違ったことをするな、海賊と関わるな、と、理不尽ともいえる、己の正義ゆえの都合をに押し付ける。
目の前で溶かされるガラスのような球に、は唇をかみ締めた。
こうやって、段々と
「ちゃんってさ、Mっ気あるでしょ」
自分で冗談めかして言いながら、クザンはちっとも面白くなかった。普段真っ白く、きめ細かく陶器のようなの肌が今は無残に爛れていて、赤黒い箇所、ピンク色に生焼けになっている箇所、様々な「醜い」有様になっていた。体の半分がそうして焼かれていて、床の上に放置されているを見下ろす。顔も半分焼かれていた。青い綺麗な目が抉られている。ここまでなっていれば普通は死んでいるのだけれど、生憎は死なないのだ。
「薬と包帯だけは、かき集めてきたんだけどさ」
身を屈めて、クザンはの無事な腕に触れる。は体中を苛む痛みと戦っているのかクザンがいることにも気付いていない、うつろな目をしていた。
本当なら軍医か、それか自分よりもこういうことに慣れている海兵を呼んできたいのだけれど、生憎サカズキがそれを禁じていた。魔女に対してのサカズキの容赦なさは常々問題になっているけれど、今回の、赤旗との接触ゆえの折檻は、誰にも咎められないこと。
ぽりぽりと頬をかきながら、クザンはその場に座り込んだ。
こういう時に、の傍にドレークのような「お守り」が必要なのだとクザンは思う。赤犬の逆鱗に触れることを省みず、を守ってやれる芯のある海兵。しかし、ドレークが造反して以降、センゴク元帥がに引き合わせる海兵たちは皆、赤犬信者のようなものだった。サカズキのしていることに何の疑問も抱かない。魔女であるに取り入ってどうこうしようという心があるものさえいる。そういう連中にを任せたくはなかった。もそういう連中には容赦なく「ぼくの我侭」と堂々と言う理不尽なことをぶつけていた。お陰では一人きりだ。
クザンはの火傷具合を眺める。ここまでなっているものはどうすればいいのか、クザンにはわからない。普通は死んでいるのだ。手当てする必要がない。それであるから、どうすればいいのか。眉を寄せて、それでも何かしなければ気がすまなくなった。クザンは乱暴にかき集めてきた薬を手に取り、布に浸した後、それでゆっくりとの体を濡らしていく。やけどの薬をぶっ掛けたところで、治るわけもないことはわかっている。
「……染みるんだけど」
「あ、悪ィ。って、ちゃん、喋って大丈夫?」
「内臓だけは戻したの。時間かかったけどね」
ひゅうひゅうと、がしゃべるたびに肺の位置から妙な音がする。こちらに片目を向けていることにクザンはほっとした。そして染みる、と言われたことを思い出し慌てて手を離す。
「……サカズキは?」
「仕事戻ったんじゃね?そんなことより、、平気なのか?」
ここにいる自分のことよりも、まずが気にしたのはサカズキのことである。そのことにクザンは少し苛立つ。面に出すのも大人気ないものだから、ぐっと堪えつつ、の身を気遣った。は青い目をぼんやりとさせたまま、ぱちり、と何度か瞬きをした。
「ぼくはMじゃないよ」
「あ、聴こえてた?」
「うん。ぼくはSがいい」
「おれもちゃんになら踏まれたいね」
いや、ホントに、と神妙な顔をすればがコロコロと喉を鳴らして笑った。笑うと猫のようである。クザンは眼を細めて、のその爛れた頬を撫でる。骨が浮かんで見えている。「醜い」という有様で、それでもクザンは目を背ける気がこれっぽっちも沸かない。
「Sなの従順なM男ってことで、おれに何かして欲しいことはあるか?」
「ウンケにミルクをあげないと。牛乳ある?」
ある、と、クザンは請け負った。の体が治る仕掛けは「ウンケの屋敷蛇」という蜥蜴の刺青である。童話の一つ、裏庭で子供が遊んでいた。子供はミルクの皿を前にしていた。と、そこへ白い屋敷蛇がやってきて、子供はそのウンケにミルクをやった。毎日律儀にやってくるもので、子供はミルクを毎日やった。ウンケがミルクを飲むうちは子供がすくすく育っていく。子供がよく肥える。そういう童話の力とやらが、の腹の刺青にはあるらしい。
それであるから、が一人では修復しきれぬほどの怪我はウンケが手伝うらしかった。ミルクをやればいいと、それは以前クザンがドレークから聞いたことだ。
クザンは持って来た牛乳瓶の蓋を開け、少し考える。
「サカズキにこうされるってわかってても、なんでドレークに会いに行くわけ?」
Mじゃないならなお更変だって、と付け足して言えばが沈黙した。ふいっと、顔を逸らす。言いたくないことは言わないのがだと判っていても、クザンは不満に感じた。は自由に気ままに振舞う。けれどサカズキはその行動を制限する。それがわからぬではない。自分やガープ中将ならある程度、のその勝手な行動も許すだろう。しかしサカズキはそうはしない。どんな事情があろうとも、どんな理由があろうとも、容赦なく、徹底して悪を、正しくない行いを許さない。
(海賊になんぞなっちまったドレークに会いに行けば、こうなることくらいわかってるでしょうに)
何度も何度も、クザンは「忠告」した。もう会うなと、そう言った。けれどはクザンの言葉を聞きやしないのだ。
わざわざ会いに行くほどドレークに価値があるとは思わない。海兵で、のお守りを出来るのならクザンはドレークを「重要」だと判断する。けれどもう、ドレークがとサカズキの間に立って、を守ることはできない。寧ろ、ドレークの存在がの身を危険に曝しているのだ。
沈黙するの横顔を眺めながら、クザンは牛乳瓶に口をつけ、そのままぐいっと、の上に覆いかぶさった。
「んっ!!!?…ん、んっ…!!!ん…!!」
力などまるで入らぬだろうに、それでも抵抗しようとしてくる体を自分の体重で押さえつけ、逃げようとする顎に手をかけ、聊か乱暴に唇を重ねた。生ぬるくなった液体を注ぎ込み、そのまま舌を絡め取る。白濁とした液体がの唇から伝うのを間近で見るのは悪くなかった。ごくん、とが飲み干すのを確認してもクザンは離れる気は起きない。シュウシュウと回復していく体には目もくれず、腕を押えて足の間に自分の足を入れた。絡め取った舌の厚みを丹念に味わいながら、時々歯を立てる。びくりと体が震えるのが面白い。呼吸が苦しくなったのか、がどん、とクザンの胸を叩いた。それでも止めずにいれば、の手がクザンの後ろ髪を掴んで引き離そうとしてくる。その弱々しい力にクザンは妙に興奮した。
のもう片方の手はクザンの腕を掴み、爪を立てる。氷に変化せぬようにクザンは注意を払いつつも、の白い首筋に舌を這わせた。
「ッ…!!!」
まだ多少なりとも火傷の残る首筋、そして薔薇の刺青に当たれば気の毒になるくらいにの体が反応する。サカズキに焼かれたからだろうか、普段であれば一輪だけの薔薇の刺青が今は首から腹部にかけて刺々しい茨を伴いの体に蔓延っている。
(素っ裸にするよりエロい気がする)
腹部には蜥蜴の刺青、首と胸、鳩尾には薔薇と茨の刺青と、のような小さな少女の体にこれだけ刻まれているのは、なんと言うかいかがわしい。茨の鋭さは本物なのか、ふっくらとした柔らかな肌に細かい傷が作られる。その赤々とした血が白い肌を汚す光景を目の当たりにされれば、クザンの中の雄が素直に刺激された。
サカズキが時折を組み敷いていることはクザンも知っているが、しかし、なるほどこれは、躊躇いにくいものである。クザンはごくり、と喉を鳴らしながらもこれ以上する気はなかった。ビクリビクリ、と震えるの頬を撫で、ゆっくりと呟く。
「ドレークの代わりにおれがを守ってやるからさ、もう行くの止めろって」
囁けば、ぐいっと、の手に力が篭る。今度はの思い通りにしてやって、それでの自尊心を回復させた。意地でも回復せねばクザンに襲われると思ったらしい、はウンケの屋敷蛇の力も借りず無理やり体を修復し、疲労感のある顔をクザンに向ける。情事の後のように色付いた顔と体で睨まれても、クザンは「続けていいのか」としか思えなかった。
「たとえ、ディエスの代わりに君が包帯を巻いてくれても、ディエスの代わりにはならないよ」
「わかってるけどね。でもさ、もうあいつに関わるの止めろって。本気で、サカズキが怒るよ?」
言いながら、クザンはが従うわけがないと思った。恐らく、は先ほどクザンがした行いも、今の言葉も何もかも、さして意味を感じていない。
サカズキだけか、と思いつつも、いや、そうではないのだと、そこで初めてクザンは思い当たった。
はサカズキには従順だが、しかし、それでもこのドレークとのことだけは、はサカズキのことなどまるで気にしていないのではないか。サカズキのことなど省みる気はない。何か、の中でドレークとのことは、何か、意地のようなものがあるのではないだろうか。
かつては、ドレークを鬱陶しく思い、死ぬようにと酷い戦地に送り込んだことがある。何度も何度も送り込み、そのたびにドレークは死に掛けて、それでも生き残っての前に現れた。が酷い癇癪を起こし、棟が半壊したことだって何度もある。ドレークと。思えば、そこには、サカズキと、というものとはまた別な、何か、特別な関係があるのではないだろうか。
は、海軍を裏切った後でもドレークを、未だに「玩具」だとそう言う。
必死に、必死に、意地になって、「赤旗はぼくのだもの。ぼくの玩具だもの」とそういうその姿をありありと思い出し、クザンは真っ直ぐに、を見つめる。
「……なんで、ドレークに会いに行くの?」
恐らく、誰もにそう問いかけたものはいないのだろう。クザンはやっと、思い当たった。問えば、は青い瞳を揺らす。置いていかれた子供のような眼。
途端、今すぐドレークの船に、軍艦を差し向けてやりたい衝動に、クザンは駆られた。
バスターコールのスイッチはどこに置いてあったか、とか、ドレークの船が次に立ち寄るだろう島はどこだろうかとか、様々なことが一瞬で思い浮かぶ。
(今も昔も何も変わらずに、と、そう必死に、必死に、しがみついている)
ドレークは海賊になった。海軍を辞した。裏切った。ドレークを慕う者たちは未だに「何故!」と魘されるらしい。置いていかれたことを心の傷としている者が何人もいることをクザンは知っていた。少将まで上り詰めた男だ。そしてあの性格はよく慕われていた。そういう連中をドレークは「捨て」て、自分の道を選んだ。
しかし、は海兵ではない。そして、ドレークはの父親か何かのように、世話を焼いていた。の身を案じ、がサカズキに暴力を受けぬようにと注意を払っていた。が理不尽な癇癪を向けても、の悪意がドレークを殺そうとしても、それでもドレークはを「捨て」なかった。
「……だって、ディエスはぼくの玩具だもの。海賊になったって、ぼくの玩具だもの」
クザンの問いの答えにも取れる、しかし、自己暗示のような意味が強いだろう言葉をが呟く。ぎゅっと、がクザンの胸に顔を埋めた。自分であるからこの反応、というほどクザンは思いあがっていない。今この場にいるのがドフラミンゴでもは同じようにした。それほどに、問われた言葉に、本当の答えを返すのが嫌なのだ。
いつだって、置いていかれることを恐れていた。それをドレークは、良く知っていたのではないのか。
(選べないなら、振り払ってやれよ、頼むから)
Fin
リハビリ用。
つまり、さんは自分もドレークに捨てられた、と自覚したくないのです。
あと一回、今度はサカズキさん。
(2010/05.13 17:57)
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