妙な騒音、加えて目に見えるほどの、洪水のような、音楽。朝からドレークをいびり倒して遊んだ、お昼はホーキンスと鍋でもグツグツにて遊ぼうとそういうことを考えて、シャボンディの無法地帯をてくてく歩いていた。デッキブラシに乗って移動すれば直ぐなのだけれど、この島、まぁ、行け好かぬ天竜人が闊歩しているという胸糞悪い時もあるのだけれど、基本的に愉快な場所。出来ることならゆっくりじっくり観光も良いと、そういう風に思えているものだから、こうして散歩も兼ねている。これでまた人買い連中にちょっかい駆けられればドレークが島を駆けずり回ることになるのだけれど、いざとなったら、人身売買の元締めに電話するなりなんなりすれば、どうにでもなること。ふと、そういえば、とは思いつく。実際のとこと、たとえばこの島で本当に、この自分が奴隷のオークションにかけられたとしたら、あのドハデな鳥はどうするのだろうか。サカズキなら決まっている、とりあえず自分もろともバスターコールかけてくる。暗黙の了解とか、そういうのを一切無視するだろう。でもドフラミンゴは、あの派手な、けれど深く業に侵食されてしようのない生き物は、どうするのだろうか。
(まぁ、それはどうでもいいんだけれど)
実際、そうなったところでがドフラミンゴを頼ることなど、ありえない。そんな日は来ない。頼むことはない、わかっているからの、僅かな疑問、すぐに振り払って、、立ち止まった。
「……うん?」
妙な騒音、加えて目に見えるほどの、洪水のような、音楽。











鳴り響く、声







ジャンジャカジャンジャカと、表現しにくい、妙な音。どこからどう出しているのかと些か興味を引かれて、、人だかりをひょこひょこ抜けてみる。大きな大人がたくさん溜まっていて、小さなでは何も見えない。ひょいっと、ひょいっと、ジャンプして何とか、人垣の向こうを見ようとする、のだけれど。
「んー……」
見えない。というか、全く、これっぽっちも、見れる気がしない。いっそデッキブラシで飛べば早いとは思うのだけれど、ぎゅうぎゅうと人ゴミに押されて腕がうまく振れない。どうしたものか、まずこの混雑の中から退きたいのだけれど、と考えていると、なぜか一斉に人ごみが、引いた。
「え、わ、きゃっ?!」
ざざーっと、波でも引くような、逃げっぷり。巻き込まれては尻餅をついた。いたたた、と声を上げ、気付けば広い場所に自分ひとり。お、や?と目を丸くしていると、視界が暗くなった。
「何をしている?」
見上げればひょろっとした長身の男がを見上げている。さらさらとした藁と同じ色の髪が太陽の光を受けてきらきらと光っていた。
「ホーキンス」
名前を呼べばぽん、とホーキンスの手がの頭に乗る。尻餅を付いた痛みなど即行で忘れ、、にこりと嬉しそうに笑う。その様子を目を細めて眺め、魔術師バジル・ホーキンスはそのままひょいっと、を抱き上げた。
「う、わっ」
背の随分と高いホーキンスの左肩に容易く乗せられる。視界が突然高くなって、は素直に驚いた。
「うわぁぉ。高いね。でもなんで唐突に肩車したの?」
「?跳ねていただろう」
だから高いところを見たいのかと思った。と、そうあっさり言う。どこから見られていたのだろうか。は小首を傾げるがそれで疑問が解消されるわけでもない。けれど、淡々した顔で自分を甘やかそうとするホーキンスがなんだかおかしくて、ころころと声を上げて笑った。
「ふふ、ありがとう、ホーキンス」
「楽しいか」
「うん、。楽しいよ」
「そうか」
ならいい、と平板な声で言う。は随分と高くなった視界からあたりをぐるり、と見渡した。奥超えのルーキー、魔術師の異名を持つバジル・ホーキンスの登場に蜘蛛の子を散らすようにさぁっと人が引いた。なんだかおっかないものでも見るように遠巻きにされているのはどうでもいいのだけれど、さっきの人だかりは何だったのか。
「ねぇ、ホーキンス。さっきね、煩かったんだけど」
「昼の星は眠りについているが」
「それは聞いてない」
べしり、と周囲が常々突っ込みたがっていることをあっさり返す。うーん、と唸って、ホーキンスの髪をひと房掴みくるくる指であそぶ。
「なんかね、聞こえたんだよ」
「何がだ」
「……何か」
言葉に出すのは、随分躊躇われた。けれどホーキンスの感情の篭らぬ目は、がどれだけぼかしてもそれを悟ってはくれぬ。普段はそういう無機質さが楽でいいのだけれど。
「……おんがく」
ぼそりと、小さな、か細い声でそれだけ言う。50年ぶり、くらいだ。その単語を口に出すの。詰め込んでフタをした、いろんな記憶が溢れてくる。眼を一度伏せ感情をやり過ごし、はホーキンスの肩からひょいっと、降りた。
「気のせいだね。うん、ホーキンス、ぼくお腹空いちゃったな。何か食べに行こうよ」
「わかった」
見上げ、見下ろす魔女と魔術師。さらさら風に流れるきれいな髪をぼんやり眺めて、、自然な仕草で耳を塞いだ。



Fin





 

アプー出したかった・・・!!!
小説書けない病、リハビリSSでしたー。