オハラ夜のオペラ
【注意】
なのでジャンプ39号ネタバレあり。
さらに言えば、軽くR16です。
義務教育前のお嬢様は……本当、帰って!!←何かあったとお察しください。
燃え落ちた全知の樹の残骸を見上げてはすぅっと眼を細めた。人間は、随分と愚かしいことをするものだ。この樹、オーディンがただの巨木だとでも思っているのだろうか。別段はこの昼に行われた大量虐殺について思う心は特にはない。長い歴史の中で人の身勝手さには慣れている。それをどうも感じることもできずただ黙っている、それが魔女の悪意というもの。なまじ二年前、はただ一人、この、長い時間の中で、400年ぶりに心を許せたたった一人の男を失ったばかりである。気づけば二年の月日は流れているものの魔女にとって50年や60年くらいが丁度一般的な人間にとっての一年前というものだ。二年前など、つい先日のように感じられている。
はぐるりと周囲を注意深く周り、全知の樹の焼け跡を探った。裏の庭にはおびただしい書物が落ちている。どれも見れば貴重なものだった。たしか昨今、オーディンは大量の本をしまう場所として重宝されていたと聞く。おそらくは、この樹の護人であったはずのクロバーや、仲間の学者たちが、己らと心中するには忍びないとでも本をここへ投げたのか。ふむ、と考えるように顎に手を当ててはひょいっと、指を振った。するするとの指先から白い煙のようなものが出る。なんのことはない、実態を持たぬの使い魔の一つである。器用に泉のなかをシュルリと泳いで本をばくり、ばくりと飲み込んでいった。いくら、燃えずに済んでいるとはいえ、あまり長い間水の中につけておけば普通にインクが滲んで読めなくなる。泉の中の小魚が啄まぬとも限らぬ。本は知識、遺産であるから、魔女がこうして守る必要はなかった。人間の愚かしさで、本来は伝えられるはずの情報が後世に行かぬとしても、そんなことはには関係のないことだ。思い、は、そう、と呟く。が敬愛し、忠誠を誓った900年前から800年前に存在する王国の、すべては“歴史の本文”に刻まれている。あの夜、王国滅亡の夜、師も兄弟子も、に王国の意思を守れとは言わなかった。
ただ、これから起こる全てを見ろとそう言った。何をしろとも、期待はされていなかった。それでも、師はに“石”を託したし、兄弟子は、に悪魔の実の種を見せたのだ。
昔のことを、はそれほどはっきり覚えているわけではなかった。長く生きたせいで記憶がかすんでいるのか。まるで、どこまでが夢でどこまでが本当だったのか、わからなくなっている。あの日、自分の髪の色は何色だったか、燃える空は赤かったのか、振りあげられた赤騎士の剣を止めてくれた黒騎士のことも、何もかも、もうよくは覚えていない。
そうだ、赤騎士。とは口の中で呟いた。赤騎士バージル。王国に国を滅ぼされて、連合軍の王の一人に仕えていたバージル。をよく憎んでいた。が、あの夜以降「誰にも侵せぬ罪人」「世界の正義の証明者」「世界の敵」になってからも、それでもを隙あらば殺そうとしていた。黒騎士のダンテが常にを守ってくれていなければ、とっくに首を落とされていたのではないだろうか。思いだしては口元を緩める。昔のことだ。がまだ、今はエニエスに封印されている体を使っていたころのことだ。
は、昔の名前をここ暫く、400年ほど使っていなかった。、は、王国で師が付けてくれた愛称である。本当の名前はと言った。と、は口の中で呟く。意味は古い言葉で「光」である。こんな己にその名は似合わぬと、師はという名前を付けてくれた。は「明るさ」である。
だったころ、はなんだって出来た。師がの教えはすぐに覚えたし、難しいといわれていることも、すぐに会得できた。王国の進んだ技術はとても面白かったし、が400年、世界政府から逃亡し続けていられるのも、その時に覚えた技術を駆使しているからだ。
はバージルのことを考えた。かわいそうなバージル。兄弟子のアマリトアの首を落としたことをは恨んではいない。けれど、その時に彼は誤って、悪魔の実の種を口に含んでしまった。本来であれば海の褥に包まれてじっくりと歪みをはぐくみ一つの実となるはずのものを、すべてが凝縮された種の時点で受け入れてしまった。
しかも、現在と違い、あのころはそんなものはなかったものだから、彼の身の変化はすぐさま、王たちを恐れさせた。バージルが口にしたのは、炎の悪魔。の知る限り、ここ数年は持ち主のいないものだ。最初にその実を取り込んだのは、バージルだった。炎の化身。ここ数百年で、炎は浄化されてただの赤々しい、烈火となったが、元始のころは、それはひどいものだった。アマトリアは、古の神の庭の主を焼いたとされる業火をどこからか手に入れてきていた。それが、最初の悪魔の力。神の庭を守る少女を焼き殺した力が、人間などに容易く扱えるわけもない。しかも、初代の能力者には、当然だが、歴代の実の記憶がない。気遣いも、思いやりもない、ただ力を反映させるだけの悪魔の力は、バージルの臓腑を内からよく焼いた。の耳には、今もバージルのうめき声が残っている。全身が変わり往く。実体のないロギア。そうなる、のは激しい痛みを伴った。そういう犠牲が代々続いて、何度も何度も芽吹いては悪魔の実は、「奇跡の能力をくれる」素晴らしい贈り物。になったのだ。には海で悪魔の実を求める連中の気が知れぬ。その上にどんな、どれほどの人の断末魔の叫びがあるのか。
炎の悪魔となったバージルは、戸惑い、そしてを詰った。己の身に降りかかった境遇をの所為にした。まぁ、見当違いということもないのだが、は反発した。我ながらあのころは幼かったものだとは飽きれる。王国にいたころからは子供らしいところがちっとも無くてアマトリアに苦笑いをされていたし、師の母であるベレンガリアも困らせていたが、バージルには、ムキになって感情を露にしていた。思いだしながら、は使い魔が本を飲み込んでいく様子を再度確認する。随分な量だ。あまりこの場所に長居していたくはない。もう一度指を振るい、もう一匹の使い魔を出す。先ほどの白い煙のような、トカゲに対して今度は白い魚である。お行き、と背を叩くと魚もゆらゆらと水の中へ進んで行った。あまり使い魔を出したくはない。一度に一匹、が道理である。それを超えると、いくらといえど、力を激しく消費する。遣いには命があるのだ。命はから出している。もしも彼らが死ぬようなことがあれば、は僅かに、機能を停止せざるおえない。この、オハラの無残な場所、今も島付近には海軍の軍艦が停泊している。おそらく、三日はこの周辺にいるのだろう。バスターコールの後始末。中将の軍艦は流石に何隻かは帰ったようだが、まだ一隻残っているのをは気づいていた。そしてその中にいる悪魔の声も、聞こえている。直接会わねばわからぬのだが、おそらくこの声の大きさから言って自然系、それも、魔女に影響を与え、影響を受ける序列の上位だろう。ならば、たとえ遭遇しても、を傷つけることはできない。能力者、それも自然系・あるいは動物系の肉食は魔女に危害を加えることができない。アマトリアがそう定めたのだ。王国の生き残り、大事な、大事な、妹弟子を、王国の遺産が傷つけぬように。
その気遣いを最初に体験したのは、バージルの様子が変わった時だった。思い出しては顔を顰める。先ほど上げた実の能力者は、魔女を傷つけられるのと同時に、当人の意志とは無関係に、無条件に、を愛してしまうらしかった。アマトリアは、自分たちの死後もを守る者を残そうとしてくれたのだろうか。それともまた別の副産物なのか。それはわからない。
愛は、どんな絆、呪いよりも強い。事実、を愛してしまったバージルは、を憎んでいながら、それでも、傷つけることができなかった。悪魔の能力者の飢餓。どうしようもないほどに、魔女を求める。男の欲の肥大。ぶるり、と、は身を震わせた。この数百年、を「愛した」男はどれほどいたのだろう。能力者も、そうではないものも、みな、を心から「愛して」くれているらしかった。それが本当かどうか、ということはには興味はなかったし、は誰も愛しはしなかった。だが、バージルだけは。あの、赤騎士は?
(………彼、ではないのだけれど)
バージルのことを考える。彼を、は嫌いではなかった。出会った時に自分を殺そうと敵意に光り輝いていた目も、炎に照らされた金髪も、まっ白な肌も、声も、何もかも、嫌いではなかった。だが、それは本当にバージルのことだったのだろうか。
時々、は夢を見る。自分の記憶なのかどうか、わからない。ただ、大きな水門のある庭。まっ白いベンチ。足下を歩くまっ白い猫。咲き乱れる白いバラ。その場所で、夕日色の長い髪をした娘が誰かを待っているのだ。そんな容貌の娘は知らない。の、パンドラ・の髪は海と同じ色だ。瞳の色は赤。ゆるくウェーブのかかった髪をバージルがひと房掴んで口付けたのを覚えている。だから、その娘が誰なのか、にはわからない。誰を待っているのかも、まるで見当がつかない。それなのに、娘の心がにはわかった。期待と、罪悪感。もうこんなことを続けてはならぬのに、とわかっているのだ。それでも、待ってしまっている。真夜中になってそっと、水門の向こうに待ち人が現れて、娘を呼ぶ。娘は長い髪を一房切って、門にほんの少しの隙間を作る。そこからやってくる人を迎え入れて、そうして彼女は。
ずきり、との眼球の奥が痛んだ。目を押え、は首を振る。夢のことだ。夢は、まとまりがない。考えてもせんないこと。だが、が目を閉じて見るのは、悪夢か、その夢だけなのだ。
その夢は、いつも女の悲鳴で終わる。夕日色の髪の娘のものではない。また別の女の、絹を裂くような悲鳴だ。振りあげられた手。娘の白いドレス、下腹部が赤く汚れていた。その夢を見た後に、はいつも「茨姫」の話を思い出した。糸紡で指をさしてお姫さまは眠ってしまう。は魔女だったし、うぶなお嬢さまではなかったから、糸紡がなんなのか、知っている。だから漠然と、ではあの夢はあの娘がしてしまったことはなんなのか、わかっていた。だが、それがわかったところで、ただの夢である。
わからないといえば、には不思議なことがあった。900年前、自分は師に拾われて王国の魔術師になった。でも、なぜそれから100年も、ただの子供が生き続けたのか。そして、その前に、自分はどこにいたのだろう。気づけば、の背は伸びていて、そして、王国の魔術師としての地位を確立させていた。だが、その前は?どうして覚えていないのだろう。
シュルリ、と白いトカゲが戻ってきた。まぁるい黒い目でを見上げて「もうムリっす」という顔をしている。確かに、身が随分と大きくなっている。白い魚も、今はシーラカンスほどの大きさになっていた。だが見ればまだ本は半分近く残っているではないか。は目を細めて「ムリじゃないでしょ。がんばりなよ」と自分は腰を上げる気もないのに無茶を言う。トカゲは一瞬ひきつったような顔をしたが、それを顧みるではない。諦めたように踵を返し、また水の中に入った。
二匹でも収容しきれない。は眉を寄せ、しゃがみ込んだ膝を伸ばして立ち上がった。別にここの本を守る義務はにはない。だが、オリビアが、を「かわいそうな子」と言って頭を撫でたあの女性が、守ろうとしたものだから、少しは手を貸してやってもいいと思った。
だがこれ以上のリスクは御免である。は白トカゲと白魚を呼び戻し、次の瞬間、真横に大きく飛んだ。
「………気配も、何の音もしなかった。化け物かい?君」
「この私の攻撃を避ける。ただの子供ではないな。貴様、ここで何をしてる」
「海兵、そしてこの力は悪魔の実。憤怒の悪魔だねぇ。マグマの熱量、無粋はマネはおよしよ、せっかくの書物がダメになるし、この樹の躯をこれ以上無残にする気かい」
軽口を叩きながらも、は慎重に相手との距離を取った。水の中のトカゲと白魚は危険を察して石の間に隠れたようだ。ここで彼らが撃破されたら中の蔵書も消える。すべてが無駄になるのでは彼らを呼び戻すことは諦めて、腕を振った。出したのはデッキブラシではない。セラフィタの樹で作られた弓だ。滅多に使うことはない。は構え、真っすぐに相手を見た。
月明かりに照らされる、海兵。帽子にフードという、どこまで紫外線カットを試みているのかと指さして笑いたくなる格好。その影で顔は見えないが、険しく引き結ばれた口元はわかった。重々しい正義のコートを羽織っている様子から、将校なのだというのはわかる。は先ほど自分がいた場所、隕石でも落下したように燃えて、窪みのできた跡を一瞥し、目を細める。間違いなく、悪魔の能力だ。だが、に、魔女に攻撃を仕掛けたのに、報いを受けている様子がない。そして、こうしてこんなに近くに対峙しているのに、あの男からは、魔女に対して悪魔が抱くはずの「飢餓」が発動していない。
不審な者を見るようなのはお互い様であった。男はが弓を取り出したことで何か、思い当たることでもあったのか「……まさか」と小さく呟く。その声が聞こえた瞬間、は弦のない弓を構えた。弦も夜も必要ない。引絞って放てば、銀色の矢が男に向かって、破裂した。どうせ避けられるだろうとわかっているので、辺りに無数の矢が飛び散るように。
闇夜を明るく銀の光が照らし、男が防御のためにと出したマグマと化学反応を起こして爆発が起こる。煙に身を隠し、は素早く水の中のトカゲと魚を回収して、デッキブラシにまたがる。弓で飛ぶこともでき、そちらの方が速度が速いのだが、そうなれば攻防ができなくなる。
空に飛びあがったの頭上、男がさらに上空に飛びあがって、そのまま長い脚でを蹴り飛ばした。
「……なっ!!!!」
「なるほど、貴様、その力、貴様は“魔女”だな?」
大地に叩きつけられ、その場所に置かれていたマグマにの身が沈む。全身を焼く感触には絶叫を上げた。容赦なく細胞が死滅していく。マグマの中で体が解ける。は意識を集中させて、自分の周囲に薄い氷の膜を再生し続けると、ほんのわずかの隙に抜け出した。荒く息を吐き、高速で体を再生させていく。細胞が無理やり作られるのは激痛だった。顔を顰め、両足と腕を再生。背は大やけどのままだったが、動けぬわけではない。先ほどの一撃であっさりと折られたデッキブラシには目もくれずに、もう一度弓を構えて、今度はこちらも容赦なく矢を放った。
ぼこり、と男の片腕がマグマに変わり、巨大な手となってに襲いかかってくる。は自分の髪を抜き取り矢を絞った。直接魔女の悪意を叩きこめば、に届く前にマグマが消える。しかし消えた手を目隠しに利用し、男が突進してきた。は咄嗟に弓でガードをする。ガギッ、と鈍い音がした。押さえたの腕の骨が折れた。だが、弓はびくともしない。当然、これは人間などがどうこうできうるものではない。が、弓を蹴り、普通であれば男の骨とて砕けておかしくないはずなのに、びくりともしていない様子。がひるんだ、その隙をついて男の手がの首を掴む。
「……んっ……!!!!ぐっ、」
酸素を吸えず、は呻いて弓で男を殴ろうとした。その振り上げた腕を空いた手で押さえつけ、男はそのままを地面に押し倒す。当然、その下はマグマである。その能力者である男は何ともないが、は再度の激痛に体をのけぞらせた。のどを押えられているために声を上げて痛みを少しでも紛らわせることができない。
「貴様は、能力者か?それとも、“本当”の魔女か……?」
痛みに打ち震えるなど気にもせず、男は冷え切った目で見降ろし、独り言のように呟く。脳さえ焼かれるほどの痛みには答える気力がなく、ただ男の力が緩み脱出の隙ができるまで、荒く喘ぎながらも、体中の再生→死滅→再生、を繰り返していた。激痛であることは、いわずもがな。それでもの高い技術は、がたとえマグマの褥に横たわっている今であっても、の体を留めている。まるで、これはマグマではなくて、水か何かだというように、表面上は何の影響も受けていないように、見える。
「は、なせ……!!放せ!!」
「この再生力、飛行能力、先ほどの遣いを見れば、確かに魔女の条件を満たしているが、問題は貴様が、マジョマジョの実の能力者か、そうではないか、ということだ」
睨みつけるを一瞥し、男はもう一度繰り返した。も知ってはいる。悪魔の実シリーズには「マジョマジョの実」というものがあり、それはモデルが5種だけ存在している。古代種・自然・幻獣種と稀少な実はあるが、マジョマジョの実はそれらとはまた別格だった。マジョマジョの実は、のかつての友人たちの記憶と能力をそのまま引き継ぐことのできる、女性が食べなければ、ただカナヅチになるだけという迷惑な実だった。モデルは、師の母である「ベレンガリア」真実の眼の所持者「カッサンドラ」道を踏み外した歌姫「ローレライ」不死の「ブランシュ」荒野の魔女「ペルル」である。と同じように、政府にとっては厄介な古の記憶の所持者ゆえ、世界政府は700年前からマジョマジョの実を回収し、封印することに成功していたと聞く。世に放たれぬように。だが、5種全ては回収できていないのだ。そのうちの一つをが食べたのか、そうではないのか、とそれを考えているらしい。
「貴様が能力者であれば、話は早い。だが、“本当”の魔女なら、」
その可能性を呟き、男の目に危険な光が宿った。政府は、マジョマジョの実の確保も重要だったが、最も、重要なのは悪意の魔女の確保である。400年逃げきった魔女。ロジャーの船で何度か目撃され、迂闊には手を出せなくなっていたが、2年前にロジャーは死んだ。最初の1年はロジャーに縁あるものの処罰に忙しくしていたようだが、やはり忘れられはしていないのか。
は男の目の疑惑が確信に変わる前に逃げださなければ、と、焦り、腕に力を入れた。だが押し付けられた体はびくりともせぬ。歯を食いしばって、それなら大技を使うだけだと口の中で詩篇を呟こうとすると、突如、男の手がの足の間に伸びた。
「……んっ!!!!?いっ!!」
全身を焼かれる痛みとはまた違う、内への激痛にの眼尻に涙が浮かんだ。男の大きな手は、容赦も、遠慮もなくぐいぐいと乱暴にの足の間を押さえつけ、その手袋をはめた指が膣中をかき回す。
「んんっ!!!!!!うっ!!い、痛っ……!!!」
「黙っていろ。能力者ゆえの魔女か、そうでないか調べるだけだ」
「やっ、あ、あ、あぁっ!!!あんっ、やっ、だ、めっ!!!!!ひゃぁあああんっ!!!」
ぐいっと、中を押し広げられ、は声を上げた。手袋を付けているので、爪で引っ掻かれるようなことはないが、慣らされもせずに突然異物を挿入されの体が震える。体格差のあるためか、男の長い指がの最奥に当たり、確かめるように何度も差し入れされた。奥を突かれる感触にの体に衝撃が走った。ぞくり、と身を震わせ、知らず、弓を握った手の力が抜ける。はあられもなく野外で足を広げている己に羞恥心を覚え、ぎゅっと目を伏せた。襲い来る快楽に流されぬようにと意識を保ち、必死に耐える。その間も、男の指が容赦なくの中をかき回している。
「……処女ではないな。膜がない」
やがて、確証を得たのか男が感情のこもらぬ声で言い、あっさりとの中から指を抜く。そのとたん、の体がぶるっと震え、特徴のある呻きのあと、ぐったりと、体の力が抜けた。は意識が朦朧とし、特有のけだるさを覚えて、肩で息をしながら茫然と男を見上げた。
「な、んで……?」
「能力者の魔女たちは処女であることが能力を継続させる条件だ。だが、世界の敵、すなわち貴様はそうではない。貴様は、もう随分と昔に処女を失っているはずだ」
「……こ、このぼくを…!!ふしだらな女みたいに、いうな!」
睨み上げれば、男はの体液のついた手袋を外し、濡れたそれを眺めながら口の端を歪める。
「違うのか?初見の、自分を殺そうとする男に体を調べられ、随分と悦べたようだが。そういう女は、ふしだらではないのか」
かぁっとの顔が真っ赤になった。それでぐっと唇を噛んで男の首を飛ばそうと手を上げれば、その前に、再度地に押し付けられた。いつの間にか(たぶん体を調べ始めたときだろう)下のマグマはなくなっている。だがは、ドクドクと心臓が緊張で高鳴って、身動きが取れなかった。まっすぐに、男を見上げる。帽子の影になっていた目が見えた。真赤な、炎のように赤い目だ。
ははっと目を開いた。そして、次の瞬間、男の顔がの首筋に埋まる。
「…っ、んっ…」
肌の感触を確かめるように、男の舌がの首の肌の上を押し、舐める。その感触にわなわなとふるえていると、その顔が離れて、かわりに触れられた手が、首筋に激痛を齎した。
「ぁっ、あ、ああああ!!」
ざくり、と、身に刻まれる。咄嗟に再生しようとしたが、受けつけぬ。の、時の止まった体に打ちつけられた烙印。
は今度こそ、体力がなくなり、力を抜いた体を男の眼下に晒す。
「……どうして」
抵抗もできなくなったは、ただ呟く。何をされたのか、わかっていた。確認するまでもない。刻まれた、のだ。の首筋に、消えぬ烙印。魔女の庭に咲いていた冬の薔薇の刻印。
は己の体から急速に力が失われていくのを感じた。冬の刻印は、魔女の、の“知識”を封じる。魔女の力は「知っている」からこそ発動する。道理も原理も何もかも。刻印は首筋からの脳につながり、の思考や記憶の容量を規制する。
「どうして、この刻印を使えるの……?これは、この、力は」
朦朧とし、急激に襲い来る眠気と戦いながら、は全ての制限がされる前に問いかけた。冬薔薇の刻印が扱えるのは、バージルの子孫だけだ。バージルが扱えた力は、血の記憶となって受け継がれている。この男は、そうではない。
の問いに、男は答えなかった。ただ、何の感情もない、冷たい目でを見下ろす。はぐいっと、手を伸ばし、男の首に巻かれたスカーフを掴んだ。だめだ、意識が、途切れそう。だが、聞かなければ。この薔薇の刻印が浸透すれば、考えられなくなるかもしれない。だが、バージルの子孫は、代々必ずの前に現れた。はその度に、彼らを殺した。何度も、何度も何度も何度も。そうでなければ、彼らは子供が生まれない。一人が死ななければ、一人が生まれない。に殺されなければならない。は、彼らを殺した。ただ、ただ、彼らの子孫が途絶えるまで。殺して、殺して、殺しつくしてきた。それでも、彼らはいなくならなかった。何度でも、の前に現れた。
「どうして…君じゃ、ないのに…」
ふらり、との体が崩れた。倒れた反動での手がスカーフをしゅるり、と抜き取られ、男の首筋があらわになる。崩れ落ちながら、ぼんやりその首筋を眺め、は、驚いた。
男の首から、胸元にかけて、何か見えた。
◇
やっと意識を手放した悪意の魔女を見下ろし、男はフードを外す。月明かりにあらわになった黒髪は短く刈り込まれ、そこに立っているのはいかにも厳しい風貌の軍人である。彼は魔女に外されたスカーフを拾い、きっちりと巻きなおすと、そのまま魔女の体を抱き上げた。その表情は、何も感情らしいものが見当たらない。先ほど魔女の体を調べたときも、この男は熱らしいものを一切、感じていなかった。
これは、世界の敵である。男には、この生き物がただの子供に見えたとて、その通りのものではないことを解っていた。これは魔女である。世の悪。世界の悪意の現況。世界の正義の証明者である。
(世界の敵)
見下ろして、男は魔女の頬に掛った髪を払う。
その首筋に赤い薔薇が刻まれていることを確認し、ゆっくりと歩き出した。
And that’s all?
完全版出会い編です。能力とかはっきりわかったら絶対最初の出会い・戦闘を書こうと待っていたので、早速取りかかりました。
……でも、なんでR16になったんでしょうね。組長じゃないverの時はそんなことなかったのに。むしろさんの方が優位だったのに。ミステリー←
(8/22/2009 10:18 PM)
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