ぼんやり真っ青な眼を向けて、、ふぅんと興味があるのかないのかよくわからない声を上げた。ホーキンスの肩の上、ゆらゆら足を揺らして、手には色とりどりの菓子を持つ。とんがりとんがった三角帽子を被ったその姿は小さな魔女そのもの。その、下のホーキンス、魔術師なんていうおっかない二つ名で知られる超新星の一つ、魔女と魔術師、外道のコンビ、すたすた歩く、シャボンパーク、似合うのか似合わないのか判断にはつきかねる。はホーキンスの首にしがみ付いた。
「煩いね」
にせがまれて買った風船を片手に持っていたホーキンス、首をかしげる。この人の多い場所が騒がしいのは当然のこと。そういう喧騒が聞きたくてはここへ来たのだろうと思ったのだが、違うのか。そういう眼を向けると、幼い子供のような顔をしてが笑った。
「たくさん、いろんなものを身に寄せている。あれ、あの子供。なんてかまびすしいんだろうって思ったんだ」
「喧しい…あぁ、あの男か」
この魔女の言うことは魔術師には良くわかる。それで、が先ほどじぃっと見ていた場所を自分も目で追った。まっすぐ先、色彩豊かな一団。己と同じ海を行く悪魔だが、まるで違う生き物なのだとホーキンスは知っていた。その、目の前、少し先にいる男。船員を連れてシャボンディの遊園地を満喫中、の海賊団の、船長殿。
「キャプテン・キッドなんて冗談みたいな名前だよね」
が笑う。ふわり、ふわりと眼を細めて笑う。その頭をホーキンスはぽん、と手を置いて撫でてひょいっと、を地に下ろした。片手で掴んでも十分に下ろせるが、一点のみを握れば少し痛いかもしれない。だから割れ物でも持ち運ぶかのように慎重な手つきでもって、ホーキンスは両手での腰を押さえ、ゆっくりゆっくり、下ろした。
「ホーキンス?」
おや?と、が首をかしげた。その上にまたポン、と手を置く。
「黙らせてくる」
「え!?…いや、そういうことじゃないんだけどね?」
煩いのが嫌なのだろうと問えば、が笑う。昨今噂のホーキンスとキッドのドンパチ、それはなかなか見ものだが、きっとホーキンスだってケガをするにちがいない。それがには今は嫌だったから、そうじゃないよと言って、腕を振った。どういう原理かホーキンスには解らないが、デッキブラシが現れる。それで、ふわりと跨って、ふわふわホーキンスの隣に浮いた。
「不思議、だねぇ。あの子、あの、かまびすしい音ばかり出す、海賊団のお頭殿。あんなにたくさんガラクタをつけているよ」
ちらりとホーキンスはを見つめた。赤い眼、真っ赤な眼に、なっている。最初に流れた咎人の血の色を怯え、覚えてしまったのだと随分昔に、ホーキンスは祖母に聞いた。は面白そうに、しかしどこか見くびるような眼でキッドを眺めている。
ガラクタ、という意味をすぐには判じかねた。今見た限りではキッドが身につけているものは(少々派手ではあるが)ただの服、銃、装飾品といったところ。音を発するものはない。だが先ほどが「煩い」と言っていてすぐにホーキンスも思いたったのだから、全く見当がつかない、というわけでもないのだ。
キッドの能力は磁力に関係しているらしい。まだ見たことはないがそうだとに聞いた。 磁石はよくしゃべる。べらべらとさえずり石に似ている。雑音ばかりを立てて、しかしキッドという海賊が身につければ、その音は無意味なものにはならないのだろう。
「あの男が身につけているもので不用なものなんて、ないんだろうねぇ」
はぼんやりと呟いた。必要だから身につけている、のではないのだろう。あの男、キッドという海賊は、集まったものををすべて必要とできるのだろう。あまりこういった評価は好きではないのだが、ロノハ、素直にキッドには王の資格があるのだと認めた。
ユースタス・キャプテン・キッド。
(重たくは、ないんだろうか)
ガラクタばかりを身につけて、がしゃがしゃ、音を鳴らし、引きずりながら歩く男。その身はつかれないのだろうか。足は地に食い込まないのだろうか。身は沈まないのだろうか。にはころころと疑問ばかりがわいてくる。そういえば、ホーキンスとキッドは同期、であるのなら、キッドと赤旗だって同期になるのだとなぜだか思い出した。しかし、キッドの重さと、ドレークの重さは種類が違う。
「ちょっとからかいに行こうかと思うんだけど、一緒に来てくれる?」
「今日はお前といると運気の上がる日だ」
「昨日もそんなこと言ってなかったっけ?」
「昨日もそうだった」
「ここ一週間毎日?」
「あぁ、そうだ」
真剣な眼でそういう男。ころころと声を上げては目を細めると、そのまますとんと、ホーキンスの肩に乗った。
「」
「なぁに?」
「何故いつも俺の肩に乗る」
先ほど態々出したデッキブラシをしまってまで、揺れるだろうし、すわり心地も悪いだろう自分の肩に乗るのか。不思議に思って問いかける。はあまり好きではないことはしない。だから好んでいることなのだろうというのは解るけれど、しかし、なぜかが解らない。
「落ち着くから」
何でそんなことを聞くのかと不思議そうなの丸い眼。とん、とん、と、ホーキンスの肩当を叩きながら、軽い鼻歌。機嫌は良いらしいと知れる。ホーキンスはゆっくりと、普段の彼の速度以上に遅く歩いた。ゆらゆらホーキンスの髪が揺れる。その一房をが掴む。
「ねぇ、ホーキンス」
「なんだ、」
「ドレークは死ぬかな」
「人は死ぬ定めだ」
「ホーキンスも死ぬのは怖い?」
問われて、ホーキンスは首をかしげた。解らない。己は、恐ろしいと思っているのだろうか。毎朝毎晩、己の死ぬ日を占う。正確な日がわかるほどセフィロトを理解しているわけではないから、占うのは「今日は死ぬ日かどうか」ということ。毎日毎日毎日、毎日、占う。そして「今日はおれの死ぬ日ではない」とわかる。その時に己はほっとしているのだろうか。いや、そんなことはなかった。の頭をぽん、と撫でる。己に恐ろしいもの、というのはあまりない。全くない、わけではない。昔は様々なものが恐ろしかったのを覚えている。海からやってくる黒い悪魔たち、星屑を拾い集める死女の長い爪、ギャアギャアと屋根の上で踊り狂うショウケラの類が己は恐ろしかった。それは総て死に繋がっていた。だから、己は死が恐ろしいのだろうか。
「わからない」
嘘をつかぬホーキンス。思案して答える。
がふわりと微笑んだ。
Fin
・ホーキンスが出てくるとルーキーと絡ませたくても絡まなくなりますネ。
・ヒロインをドロシー化するにはかかし(ホーキンス)ブリキのきこり(キッド)であと臆病なライオンがいれば完璧なんですけど。ドフラ・・・?いや、ここはルーキで・・・!!