鴎の声が心地よく響く港町。新鮮な魚類やらが並ぶというのはそれほど珍しいことではないけれど、あとはこの島には山菜の育ちのよい山があるおかげで海の幸、山の幸が市場では同時に売られている。ログがたまる一週間、この町に滞在することとなったX・ドレークはこの島特産の薬草を求めるという船医に付き合って市場大通りをゆっくりと歩いていた。
「すいませんね、つき合わせてしまって」
「いや、安全な島とは聞いているがそれでも何があるかわからん。船医に何かあれば船の大事だからな」
ふさふさとした白いひげにサングラス、ドレーク海賊団にはおなじみの帽子を被った老医師はドレークの隣を歩きながら一度ぺこり、と頭を下げてくる。別段何か用事があったわけでもなし、それに海軍時代から何かと世話になり、そして今日この日まで共に付き従ってきてくれた同志である。ドレークは遠慮は要らぬというように返事を返しながら、何気なく露天の品々を眺めた。
「やはり、ログが溜まる期間が長い島は観光産業が盛んになっているな」
この島を訪れるのは海軍時代を通しても初めてだが、長い海での経験でドレークが感じるのは、このグランドラインの島々の一番の収入源は観光収入ということで、ログが溜まる時間が長く必要な島になればなるほど、滞在期間が延びるわけで、自然「落としてもらおう」と消費者・観光者の目を意識した、いわゆるみやげ物などが凝ったものになっている。
見れば外食産業も盛んなようで小さな島の住人たちの規模を考えれば不用なほど飲食店が見受けられた。それらを眺めドレークは結局はグランドラインの住人にとっては海を自由に行き来する海賊たちというものも結局は彼らの収入源になるわけで、もしもこの周辺の海域を取り締まり海賊の往来を制限するのなら同時に海軍は住人たちに他の収入源が出来るように配慮せねばならぬのではないか。そんなことを考え歩き、そして目が露天のとある小さな品に止まる。
「おや、何か気に入るものでもありましたか、ドレーク船長」
足を止めたわけではないが、やや遅くはなったのだろう。気付いた船医が一歩前に出ると同時に振り返って、ドレークの目線を追う。
そうして目に入ったものを船医も眺め、眼を細めた。
「そろそろ昼時ですね。船長、食事は船で?」
「あ、あぁ。そうだな」
船医の声にドレークは我に返ったように顔を顰めてそして反射的に返事を返す。露天に並んだ品、色取り取りのピンだ。高山の野草を加工して透明な玉の中に閉じ込めたものが端についている、明らかに女性向けの品だった。工芸品であるからみやげ物には丁度いい、という値段ではないが、そのうちの真っ白い花のピンにドレークは目を引かれた。白い花、で、思い出される彼女の姿。今も瞼の裏に焼きついて離れない、美しい背筋を思い出す。やや痛んだ、だがキラキラと美しい髪はこの暑い夏の日差しの中で見ればどれほど輝いて見えるだろうか。そんなことを考える資格など己にはないと、そういう鬱蒼とした思い。船医は悟ったのか気を紛らわすように切り出してきた。
「お辛いですか、と聞くのは意地が悪いでしょうね」
「いや、そんなことはないさ。辛い、わけでもない。ただ、時折こうして彼女のことを思い出すたびに、自分が随分と遠いところに来ているのだと実感する」
「歩きましょう。あぁ、そうだ。食事は、船の皆さんには悪いですが、何かこう、名物料理でもどうでしょうね。いえいえ、あの子の料理に飽きたというわけではないですよ」
あの子、というのはドレーク海賊団の料理人のことだ。最年長の船医からしてみれば船のクルーはみな「あの子」になる。料理が下手というわけでもなくしっかりと栄養バランスを考えた食事を日々提供してくれドレークは感謝しているのだが、時には違う人間の、その土地特有の食事を楽しみたいという船医の言葉に同意する。
そして気を使わせてしまったらしいとドレークは感謝するように船医を眺め、そして船医はなんでもないようににこり、と皺の深い目の奥を穏やかに緩ませる。
「ではやはりここは海鮮でいきますか、いや、この暑い日には山菜の天麩羅というものも中々いいですね」
方向性を決めた途端、船医がにこにこと上機嫌にあれこれ料理の提案をしてくる。あれ、もしかして外食したかったのか?そういう流れにしたのか?とドレークは思わなくはないけれど、まぁ日々世話になっている年長者は敬うべきだと、そう判断し自分はなんでも構わないとそう告げた。そして、ひとまずは港町の飲食店が軒並みを連ねるという広場へ行こうと足を向け、がっしゃん、と背後の露天が大破した。
さぁさぁ、料理バトルをしてみよう!!
「正当防衛だしー、ぼく悪くないしー、か弱い女の子の正当防衛だしー」
路地裏の木箱の上にちょこんと腰掛けて唇を尖らせ堂々とのたまったのは、真っ赤な燃えるような髪に真っ白い布地に青リボンの日除け帽を被った悪魔っ子、ではなかった、である。真っ赤な靴をこつんとやって足をぶらぶらとさせている、その足には真っ白いレースの靴下、本日の装いは清涼感の感じさせる白のワンピースにレースのショールという育ちのよいお嬢様というに相応しい格好。それでもその手には握られているものは乳母日傘の令嬢には不釣合いなデッキブラシで、現在ちょっと赤く濡れていたりする。
「……直接見たわけではないが…なぜ何も悪くないはずのお前が無傷で、お前に絡んだというならず者が病院送りになっているんだ」
「病院送りで済んでよかったよね!ぼくが怪我したら命はなかったよ!」
まぁ、確かに。
に怪我をさせていたら自分とてどうしたかわからない。
頷きかけてドレークは「そういうことじゃない」と顔を顰めた。
なんと言うか、なんでか知らないががこの島に一人でひょこっとやってきている。海軍の魔女監視役は何をしているのだと、かつて自分がその任だった頃のことを思いドレークは眉を寄せる。自分とてを見失うことは多々あったが、マリンフォードの島から出したことはない。こうも離れた島にが一人でいて、その上、大事無かったからいいもののならず者に絡まれるような状況にあるなど。
「大将赤犬は知っているのか」
あの大将、が一人でどこかへうろつくなどまず許すわけがない。赤犬の不興を買えばは大怪我を負う。その自覚があるなら気軽に島を飛び出したりはせぬはずだとそう思って問えば、が急に怒ったような顔で頬を膨らませそっぽを向いた。
「知らないよ!あんなわからずや豆腐の角に頭ぶつければいいんだよ!」
「……なんだ、喧嘩でもしたのか」
いや、が赤犬と「喧嘩」なんて対等なことをできるわけがない。その上見る限り無傷であるから、普段の「喧嘩(一方的な赤犬の暴力)」後というわけでもないのだろう。しかしのその不機嫌な様子、子供っぽいと指摘したいのを堪えつつ、ドレークはぽん、とその頭を叩いた。
「それで怒って飛び出したのか。今頃本部は騒ぎになっているんじゃないか?」
「知らないし。ぼくは悪くないもの。サカズキがおつるちゃんとかセンゴクくんに怒られればいいんだよ」
「まぁ、実際そうなるだろうな」
「……」
魔女を見失ったとなれば大将赤犬とて責任を問われることになる。おつる中将やセンゴク元帥の小言だけですめばいいが、下手をすれば大事の例の貴族たちがここぞとばかりに赤犬を糾弾しを保護しようと赤犬から魔女所有の権利を奪いにかかりかねない。
ドレークとしては「正直赤犬から離れた方がのためにはいい(いろんな意味で)」と思っているので細かいところまでは口に出さないが、は急に顔を曇らせた。
「どうした」
「……ぼく、悪くないよ」
「そうか」
「……サカズキが…!サカズキがぼくの大事にしてるぬいぐるみ燃やしたのが悪いんだよ!!!」
原因小さっ!!!!
の主張というか原因の告白に、ドレークは思わず顔を引き攣らせた。え、そんな理由で赤犬は謹慎処分になるやもしれぬ危機を迎えているのか。というかぬいぐるみ燃やしたって、あの大将は何子供の大事な玩具を奪っているんだ、とそう突っ込みをいれたい。
「……いや、しかし…なぜぬいぐるみなんて燃やしているんだ…あの大将は」
「知らないよ!最近ずっと一緒だった子なのに!すっごい気にいってたのに!あんなにおっきいくまのぬいぐるみはそんなないんだよ!」
「あぁ…あれか」
がいうくまのぬいぐるみ、というのに見当がついてドレークは頷く。こげ茶の大きな熊のぬいぐるみだ。リボンは真っ白で目の黒い部分はボタンやプラスチックではなく本物の鉱物を使っているもの、その糸から何から一級品、ハンドメイドで世にひとつしかない品。おおきい、とはいうがドレークからすればやや小さい、が持ち運びでき抱きついたり寝るときに下に敷いて丁度いい、というのためにあつらえられたものであるので、には「丁度いい大きさ」になるのだ。(わかりやすくいえばの身長の半分程度の大きさだ)
確かに自分が海軍にいたころからそのぬいぐるみはの気に入りだった。よく耳を引っ張られたり機嫌の悪いにボディブローをされたりしていたが、機嫌がいいときは話し相手にしていたりもしていた記憶がある。
「………」
だがそのぬいぐるみ、の元々の送り主を思い出してドレークは頭を抱えたくなった。
あー…あぁ、そうか。
そういうことか。
うわ、気付きたくなかった。
結構前なので忘れていたが、そういえばあのぬいぐるみ、そもそもに貢いだのは、かの悪名高きドンキホーテ・ドフラミンゴではないか。(※ハニーシロップ参照)
「……あ、相変わらず心が狭い…」
あれか?明らかにあれか?
ドレークすらドフラミンゴが贈呈したものとすっかり忘れていたのにウン年前のことをきっちり覚え、が常々大事にしているのにこう、色々イラっとしていたということか、それで何か些細なきっかけでもあってついに燃やしたと、そういう結果か?
からすれば「なんで突然!?」ということだったのだろうが、まぁ、うん、確実に大将赤犬からすれば「やっと清々した」というところか。
というよりも、何が原因で今回赤犬がそういう行動を取ったのか知らないが、しかし原因が理由なのか、それとも元々気に入らなかったから丁度いいと燃やしたのか。
「そうか、それはまぁ…辛かったな」
とりあえず、ドレークは深く考えないようにした。(←胃に悪いしな!)
自分の思考にケリをつける意味も含めて、もう何か「残念だったな」とそれですませてしまおうと、ぽんぽん、との頭を叩く。子ども扱いすればは怒るのだが、今は「ぼくは悪くないもの!」という主張、その裏に、そんな癇癪で赤犬の立場が危うくなるかもしれぬという罪悪感から妙に大人しい。
むぅっと眉を寄せているを眺めつつ、ドレークはさてどうしたものかと腕を組んだ。がこちらに来ているという状況のため、船医は一度船に戻ってもらっている。盗聴用の電伝虫を使用して現在海軍本部内では魔女の失踪がどう扱われているのかと、また対応はどうなっているのかという確認をせねばならない。考えたくないが大将が直々に軍艦使用で乗り込んでくる可能性もあるわけで、そうなればドレークはログがたまっていようがいまいがこの島から出ねば、熔かされる。
しかしを一人きりにしておくことなどできぬと、長年の世話役根性がしみついているゆえに、ドレークはさてどうしたものか、と思案した。
基本的に外道傲慢尊大なだが、赤犬に対してはそれなりに思うところもあるらしく、「迷惑かけたかも」とその赤い頭、うなだれる様が「反省している」とそう見える。いつもこんなに素直であればいいものをと思いつつ、ドレークは何かの気分を浮上させられるものでもないかとそう考えて、口を開いた。
「お前の気がすむまで付き合ってやるから、元気を出せ」
ドレークは自分も木箱に腰掛けて隣のの頭を撫でた。わしゃわしゃとその彼岸の花のように鮮やかな色をした髪を撫でればが眉を寄せる。
「ぼく、悪くないもの」
「あぁ、わかってる」
「サカズキが悪いんだよ。ぼくのぬいぐるみ燃やしちゃって」
「そうだな。新しいものを用意すればいいというものでもないしな」
「そうだよ。大事にしてたのに」
「だが、お前は「もう済んだ事」だとわかっているんだろう?」
酷な話だが、燃やされたものはどうしようもない。そしてそれをが一番わかっている。何しろ人の死すら「死んだらしょうがない」とあっさり理解する悪意の魔女。生きている人間との付き合いも「どうせ自分より先に死ぬ」と既にあきらめている生き物。物がなくなる、ということ程度どうだというのか、とそうその青い目は理解しているのがドレークにはわかっていた。
それでもこのようにぶつぶつと不平だというのは、の「甘え」なのだろうとドレークは思う。そういう、の微かな弱さというか、甘えを受けるのがこそばゆい。外道で悪意を世にばら撒く魔女も、本当はこんなに幼くあどけないのだと、こういうたびにドレークは思う。
ぽんぽん、と頭を撫でていると、ぱらぱらと頭上から何かが降ってきた。
「ん?」
「なぁに、ディエス」
「チラシのようだな」
器用に一枚パシンと取って目を落とす。真っ白い紙に派手な印刷がされた、何かのイベントの広告だ。頭上から降ってきのは高い所から一斉にばら撒いたのだろう。イベントごとでは珍しい配布方法ではないがこうしたことに遭遇することの少ないは興味深かったようできょとん、と空を見上げてからドレークの手元を覗き込む。
「『今日の料理バトル、出演者大募集』だってー。今日の料理って何、昨日もあったの?明日もあるの?」
「いや、この場合は何か凝った料理ではなく日常的に口にする料理のコンテストという意味じゃないのか?」
チラシを眺めながら二人であれこれと口に出す。しかし、派手な色合いのわりにはわりとマトモな主催テーマにドレークは妙な違和感を覚え、そしては「ふぅん」と一度考えるそぶりを見せた。
まさか、とドレークが思う間もない。ドレークの手元からひょいっとチラシを奪った、とんと着地して振り返ると、それはもういい笑顔をした。
「ぼくも出るよ!」
+++
ディエス・ドレークは胃が痛かった。
いや、この文面を造反後も使用することになろうとはどういう因果だと、ドレークは痛む胃を胸の上から押さえつつもう片方の手では必死にの肩を掴んでいた。
「いやいやいや、待て、本気で待て、お前、ちょっと待ってくれ頼むからそれは止めろ、止めてくれ」
「なぁに、ディエス。ぼくのすることに文句とか言う権利ないよね。ディエスだし」
なんだその理由は、とドレークは突っ込みたかった。だがそんなことよりも今はを止めることが優先だ。、奪ったチラシを片手に危機として町の方へ足を向けている。
元気になったのはいい。それは喜ばしいことだ。だがしかし、よりにもよってが「料理コンテスト」に参加など、どういう嫌がらせだとしか思えない。
あれか?参加を止める自分の必死な姿をからかって遊びたいのかこの悪魔っ子は。と、あながち被害妄想とも言い切れぬことを思いつけば、胃の痛みは酷くなる一方だ。
そもそもに料理なんぞできるものか。以前カレーを作らせて自分や青キジが瀕死状態になったことは記憶にしっかり刻まれている。が参加して、会場が惨劇になるのは言うまでもなく、また一般人に多大な被害を与えるとわかりきっている行動を見過ごすわけにはいかない。
「参加せずとも観覧しているだけでいいだろう…!!?」
「何言ってるのディエスってば。あぁいうのは直接自分が舞台にたって引っ掻き回すのが面白いんじゃないか」
引っ掻き回すってなんだ。
「それに、ほら!賞品見てよこれ!」
言い切ってうわ、と顔を引き攣らせたドレークにはチラシを掲げた。先ほどはイベント内容にしか読んでいなかったが、詳しく優勝賞品が書かれていた。なるほど、コンテストというだけあって豪華賞品でも出るのか、それにが食いついたのか、と目を落とし、ドレークは硬直した。
「……なんだ、このお前に対してピンポイントで狙っているような賞品は…」
「すごいよねぇ。ぼくが前持ってたのと同じくまのぬいぐるみと、海楼石を仕込んだデッキブラシだってー!」
一応優勝賞金として100万ベリー出るのだがその辺はには興味ないらしい。それにしてもその二つの賞品、なんだ、この、のツボを押さえまくった品はとドレークは嫌な予感がした。
というか、海楼石が仕込んであるデッキブラシなんて以外誰が要して得するのだ。おそらくはドレークの同僚のスモーカーが使用する十手のように先端部分に仕込まれていて使い手には無害、というものなのだろう。
……一瞬ドレークは、そのデッキブラシを入手したがそれはもう嬉々として自分を押さえつけている未来を想像してしまった。
……何が何でもここで食い止めねば……!!!!!
「嫌だよ、絶対出るからね」
ぐっと強く決意したドレークを、ばっさりあっさり容赦なくは切り捨てる。聊か乱暴にドレークの手を払い、は楽しそうに「料理バトル受付」と書かれたテントの下に駈けて行った。
いや、待てと、我に返ってドレークはその背を追うのだけれど、僅差で間に合わない。「はい、受付完了ですよ」と聞こえてきた声、やけに聞き覚えがあるその声に、ドレークは再び硬直した。
「おや、これはこれは随分とお久しぶりで、偶然ですね」
受付のそっけないパイプ椅子に腰掛け、簡単なテーブルを前にしにこにことしたその姿。髪はグレー、所々見事な銀が混じり気品という名の色があるのならまさにこの色だろうといわせるような色合いに、老練さを感じさせる堀の深い目元に刻まれた皺、口ひげは丁寧に整えられており、その口元には常に優美な笑みが引かれているものの「優男」というよりは笑みを浮かべることにより相手を支配することに慣れた、どこか貴族的な様子。しかし傲慢さはなく、「やりたいことをやる」人間ではなくて「やるべきことをやる」人間であると感じさせるストイックさがあった。
「……ア、アーサー・ヴァスカヴィル卿…」
「ごきげんよう、ディエス・ドレークくん」
にっこりと、人のよさそうな笑顔を浮かべアーサー・ヴァスカビル卿は椅子から立ち上がって左手を差し出してきた。
なんで貴方がここにいるんですか、という突っ込みはするだけ無駄だろうか。
「さん、選手控えはあちらのテントですよ。私はドレークくんと少々お話したいことがありますので、付き添えませんがよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ。でもアーサー、あんまりディエスをいぢめてはいけないよ。ディエスはぼくの玩具だからね」
「えぇ、心得ておりますよ。さんのお気に入りの玩具を奪うなんてそんな酷いことをする私ではありません」
アーサー卿はにこやかな笑みを(それこそに対してはなんの害もない屈託のない笑顔だ)向けてを少し離れた場所のテントへと促し、その背を見送り丁寧に腰を折ってから再度ドレークに向き直った。くるり、と再び顔を見せた途端その顔が百戦錬磨の悪の貴族というに相応しい様子なのだから、本当にドレークは胃が痛い。
というか、本当に、なんだってこの人がここにいるのか。
アーサー・ヴァスカヴィル卿。グランドラインに古くからある名家、ヴァスカヴィル家の現当主であり、世界政府の枢密顧問の役職に付く高官。表でも裏でもその名を知らぬ者のおらぬほどで赤犬とはまた違った意味で「容赦のない」と評判の人物。
にとっては古馴染み。アーサー・ヴァスカヴィルとジョージ・ペンウッド退役軍人、コルデ・ハンス司政官、そして数年前に戦死したもう一人の人物、合計四人からなる「独身貴族同盟」という、妙な同盟を作っており、どういうものかは知らないが(実際アーサー卿らにはそれぞれ子供や孫がいる)何かに関して「約束」をしているらしい。それはさておき、そのアーサー、ドレークから見れば崇拝者だ。
なぜここにいるのか、という疑問も「そこにさんがいらっしゃるからですよ」の一言で全て解決させるような男、一応疑問を顔に出してみれば、アーサー・ヴァスカビル、それはもういい笑顔で頷いた。
「ヴァスカヴィル家当主たるもの、さんの行方程度追えずにどうします」
「どこの黒い執事ですか、貴方は」
「執事ではありません。紳士です」
きっぱり言い切ったアーサーに、再度ドレークは「のストーカーは止めてください」と言いかけた口を閉じた。いや、まぁ、アーサー卿がストーカーなら例の桃色七武海なんてどうなるのだとそう思ったからではなく、言ったところで無駄であると早々に悟ったゆえのこと。ため息を吐きながら、ドレークはアーサー卿から視線を外す。
「ということは、がこの島にいることは赤犬の耳にも入っているということでしょうか」
「いえ。なぜ私がさんを悲しませるだけのあの坊やに大事なさんの行方をわざわざ知らせて差し上げねばならぬのです」
「……」
ではまだ本部では行方不明扱いになっているのか。
「……コンテストの優勝賞品が明らかに狙いなのは?」
てっきり赤犬が関与しているのだと思っていたが、関与しているのは過激な大将どのではなくて、過剰な貴族どのだった。
「ヴァスカヴィル家の財力と情報網を使えばあの坊やがさんを酷く傷つけて見失ったという情報を仕入れることも、さんの逃亡先の島で料理バトルを主催することも、さんの趣味趣向にあった賞品を用意することも容易いのです」
「つまり?」
「お可哀想なさん。さぞお心を痛めておいででしょう。差し出がましいとは思いますが、せめてその胸の内に悲しみを貯める事がないようすっきりできる場を設けて差し上げたかったのです」
「………料理コンテストで?」
いや、言いたいことはわかるような。さっぱりわからないような。
必死に理解しようとするのだが、どうも自分の理解力が低いのかそれともあんまりにあんまりな内容に理解したくないと脳が拒否するのか、ドレークは妙な知恵熱に悩まされつつ首を傾げる。いや、回りくどいがぬいぐるみを焼かれたに新しいものを贈るという意図ならわかる。だがなぜ料理コンテストという、第三者を巻き込むようなことをするのか。そう問えば、アーサー卿は「おや?」と不思議そうな顔をしてドレークを見上げた。
「何をおっしゃっているのです。料理コンテストではありません。料理バトルですよ」
チラシにそう書いてあったでしょう、と、そういうアーサー卿の怪訝そうな声に、ドレークは一体何が起きるのかと只管頭が痛くなった。
+++
参加選手控え所となっているテントの下、パイプ椅子にちょこんと腰掛けてはきょろきょろとあたりを見渡した。参加者はこの島の料理人が殆どのようだ。外食産業が盛んなこの島らしく経験豊富そうなコックたちはそれぞれイベント開催前に持参した包丁や調味料のチェックに余念がない。それもそのはず小耳に挟んだ話によれば、主催者であるヴァスカビル家は昨今外食産業に対して投資を始めているので、この大会で優勝、あるいは目に止まり縁を作ろうと期待しているそうだ。
抜け目ないアーサーのこと、腕のいい料理人を抱えていることは政治的に有利になると知っているのだから、この大会で何人かの料理人のパトロンになる目論見もあるに違いない。そういうお互いにとっての打算のあるこのイベント、その空気がには面白い。
最初はただ参加して自分があれこれひっちゃかめっちゃかにする姿をドレークがやきもきしてみていてくれればいいと思っていたが、アーサーが関わっているのなら自分もそれなりにやる気が出てくる。
「ふぅん、なんか楽しそうな雰囲気ー。ぼくもがんばるよー」
にこにことは機嫌よく鼻を鳴らしながらひょいっと腕を振ってエプロンを出そうとしたけれど、生憎ここは一般人しかいないのだからそういう場所でそういうことをすると面倒なことになる。
「お嬢ちゃんも参加するのかい?」
「うん?」
「小さいのにすごいなぁ、おうちのお手伝いをして料理を覚えたのかな」
さて準備をどうしようか、とがひと気のない場所を探そうとしていると、声をかけられた。
「違うよ、ぼくお手伝いなんてしないもの」
「?でもこの大会に出るんだろう?」
声をかけてきたのは白いコック服に青のスカーフを巻いた、妙な髪形のコックである。金髪にあごひげ、あれ?何か見覚えないか?とは首をかしげ、そして顔を上げたと目が合った男が「あ」と声を上げた。
「マルコを唆した魔女…!」
「エドワードくんのところのフランスパン!!!」
あー!と双方指を指し叫ぶ。大きな声だったので他の参加者たちが一瞬こちらに視線をやり、二人は慌ててその場を離れ、テントの隅で顔を見合わせる。
「フランスパン…!?サッチだ!四番隊の!」
「ぼくだってっていう呼び名があるよ。あと、別に唆してないし、勝手にぼくに懸想したマルコくんが悪いんだし」
その不名誉極まりない前置きはなんだ、とは眉を潜めて異議を唱える。というか、なんだって新世界の海賊、白ひげ海賊団の四番隊隊長がこんな辺鄙なところにいるのか。聞けばマルコ、現在白ひげ海賊団は「なわばり」の島を回っている最中で(定期的に立ち寄ることで「なわばり」の意味を保っているらしい)丁度この島の近くに寄り面白そうなイベントがあるので単身やってきたのだという。
「一人で来たの?いくら白ひげ海賊団のひとだって賞金稼ぎに狙われないわけじゃないだろうに」
「返り討ちにしてやるだけだって」
「騒動を起こすんじゃなっていうことだよ。全く、エドワードくんのところの子達は自由だねぇ」
「親父の教育方針だ」
褒めてない。なぜ自慢そうにするのか。は笑っていいんだか呆れた方がいいのだかわからなくなって息を吐く。
「でも賞品のデッキブラシとくまのぬいぐるみなんて、きみが貰ってもしょうがないじゃァないか」
一応賞金もあった気がするが、サッチのようなタイプの人間にはあまり興味のあるものでもないだろう。問えばサッチが「いや、それがよぉ」と、妙にデレっとした顔をする。
「あのでっかいぬいぐるみを夜こっそりキキョウの部屋に置いてやったら喜ぶじゃねェか」
「夢壊して悪いけどキキョウくんはぬいぐるみ持ってても人体急所を刺す練習台にしかしないと思う」
「いや!わかんねェだろ!!?以外にあぁいうかわいいものが好きかもしれねぇし!!!こう「ありがとうサッチ兄さん」とか昔みてェに言ってくれるかもしれねェじゃねぇか…!!!」
力説するサッチには「うわ」とドン引きした。
いや、確かにキキョウも女の子。こう、かわいらしいぬいぐるみに心をときめかせる可能性もゼロではないと言ってやりたいけれど、基本彼女が興味を示すのは内臓とかそういう類。賞品のぬいぐるみが解剖可能中には実物大のリアリティある臓器模型でも入っていれば別だろうが、たぶん綿しか入っていないものは切り刻まれて終わりな気がする。
「……まぁ、思い込むぶんには自由だよね。でも、優勝するのはぼくだけど」
ぐっと拳を握って「できればその後キキョウと夜のデートを…!」とかほざいているフライパンを見上げて、はにこりとのたまった。
「……キキョウだけじゃなくておれの恋路まで邪魔するのか…!!?」
「邪魔してないし、だからマルコくんがぼくを好きなのは能力者特有の病気だし」
その辺掘り返すのは面倒なのでは退屈そうに手を振って返事をする。白ひげ海賊団の一番隊隊長マルコが嘆きの魔女に懸想して一時期夜も眠れず恋煩いに悩んでいた、というのは長年船に乗っているサッチも知っているようだが、としては自分は全く悪くないので部外者にあれこれ言われるのは不快だ。
否定すればサッチが一瞬何か怒りにも似た色を瞳に宿したが、ここが大会会場であることを思い出したようで一度息を深く吐き、ぱん、と自分で自分の顔を叩く。
「お前にゃ負けねェよ、嘆きの魔女!」
宣言してきゅっとスカーフを締めなおすサッチ、その顔に料理人としてのプライドをかけるという決意がはっきりと表れ、は青い目を細める。
「ふ、ふふふ、このぼくより上位に立つって?身のほど知らずが」
ディエスをからかってお終いにしようと思っていたけれど、俄然やる気が出てきたとは低く笑い口の端を吊り上げた。
+++
立ち並ぶのはよく短い準備時間でこれだけ用意したな、どうせ金にものを言わせたんだろうヴァスカヴィウ家、と突っ込みを入れたくなるほど完璧な食材・調理器具の数々。町の小さなイベントというには大掛かりすぎるセット、そのステージには現在を含めた十数人の料理人たちがそれぞれゼッケンをつけてずらりと立ち並んでいる。
「……いや、ちょっとまて、なぜ白ひげ海賊団の四番隊隊長が参加しているんだ…」
とりあえずが参加者の中で一番小さいことを確認し、周囲が子ども扱いして機嫌を損ねることがないようにと祈っていたドレーク、ふとの隣にいるコック服の青年を見つけて頭を抱えた。
どう見ても大海賊白ひげのところの隊長だ。あの特徴のある髪型は一度手配書で見れば中々忘れない。目の下の傷もそっくりそのままあったので「そっくりさんだ」と思い込むことは不可能だ。
何やら敵対しているような態度がと四番隊隊長双方から出ていて、ドレークの胃が痛む。
しかし、今一番頭が痛い問題は別だった。
『紳士淑女、それに海のならず者方々…!長らくお待たせ致しました!ヴァスカヴィル家が主催いたしますこの料理バトル…!ご参加くださる選手方々をご紹介いたしましょう…!!!』
ステージ中央には拡声器につながれたマイクを持つアーサー卿。普段こういう司会などやるような立場の男ではないが「さんの晴れ姿一番近いところで楽しまずに何が独身同盟ですか」とのたまった。
大貴族主催のイベントだけあって島中の人間が集まっているのかイベント会場たる中央広場には人が溢れかえっている。アーサーは歓声に丁寧に感謝を示し手を動かしてそれを一旦沈黙させると(アーサー卿が手を振れば魔法のようにすっと歓声が止んだ)一人ひとり簡単に選手の説明をする。といっても名前と職業程度なもの。四番隊隊長の紹介には「自由業」としただけであり、の紹介には「働く必要などない身分の方です」とのたまった。
『さてそして料理イベントには審査員がつきもの…!!今回の特別ゲスト、審査員にはこちらの方にお越し頂きました…!!』
選手の紹介を終え、アーサー卿が手を翳して紹介した人物に、ドレークは本当、頭痛がした。
「フッフフフッフッフフフ、フッフッフ、面白そうなことしてんじゃねェか、アーサー・ヴァスカヴィル…!!!!」
どん、と用意された審査員テーブルに行儀悪く足を乗せ椅子に寄りかかっているのは見るからに性格の悪そうな(ドレーク視点)大男。金髪にサングラス、卑しく緩めた口元から始終低い笑い声を響かせ(ドレーク視点)人の嫌がることなら何でもするというような(ドレーク視点)七武海、ドンキホーテ・ドフラミンゴその人だ。幸いいつものドピンク、趣味が悪いとしか思えない派手なコートは着ていないのだが、趣味の悪い(ドレーク視点)シャツにパンツ姿はチンピラ(ドレーク視点)かと突っ込みたくなる。
大物の登場に会場がざわめき、写真を撮ろうとする出版関係者が見受けられた。しかし写真を撮ろうとするとアーサー卿の視線が飛び、すぐに黒服を来た警備がそのカメラマンを退場させていく。主催として完璧な態度だが、まぁ、確実に…「さんとドフラミンゴ氏が同じ枠の中に入った写真の存在など認めません」ということだろう。
当のといえば、隣の四番隊隊長と共にドフラミンゴのほうへ顔を向け「うわ、暇人…」と嫌そうな顔をしている。
明らかにドフラミンゴを呼んだのはアーサー卿だろう。なんだかんだと落ち込んだり悲しんだりしているにはドフラミンゴを差し向けるのが一番だと先ほど話していた。確かに容赦なく蹴り、罵れるドフラミンゴがいればは少しは気も紛れるだろうか、とドレークも頷いてしまった。それでいいのか七武海という突っ込みはしない。に対しては蹴られても可!と開き直ったドフラミンゴだ。
『それではルールの説明を致しましょう』
再度会場を静かにさせてアーサー卿が口を開いた。ルールといっても料理コンテストであれば制限時間や使用材料の制限規定などと言った程度だ。
料理コンテストなら。
『ルールは単純です。いかに料理で相手を倒すか…!!対戦相手を倒したほうが勝者ですが、審査員を倒した選手は無条件で決勝進出の権利を差し上げます。もちろん毒物・武器の使用は不可。料理人であれば己の知恵と食材のみでいかに相手を苦しめ倒すかが勝負というもの…!!!!!』
「いや、ちょっと待て…!!!!!」
ぐっと拳を握って説明を始めたアーサー卿に、四番隊隊長が待ったをかけた。
『なんです?エントリーナンバー4番、職業自由業の方』
「自由業って…いや、そりゃどうでもいいんだが……今、料理で相手を倒すとか、苦しめるとか…これ料理コンテストだよな…?」
見れば他の参加者も「え?」という顔をしてアーサー卿を見つめている。
アーサー卿は先ほどドレークにしたように、何を妙なことを言っているのか?という、こちらの理解力が乏しいと決め付けるような眼差しを投げたあと、が「なんで?」という顔をしているのに気付いたか咳払い一つの後、丁寧に説明をした。
『当イベントは料理バトルです。バトルとは戦い、戦いとは相手を倒すもの。料理の腕前、出来ばえ味のよしあしでの勝敗なんぞこのヴァスカヴィル家が主催するイベントではつまらないのでやりませんよ』
言い切った。
なんだその屈折した理由は。
堂々と宣言し、あまりの「当然」という姿に参加者や観客たちが言葉をなくしていると、アーサーはそれを勝手に了承の沈黙と処理することに決めて、ぱんぱん、と手を叩く。
『それでは第一回戦、それぞれ1・2、3・4、5・6と言った並んだ数字の方々同士での対戦となります。今更辞退は認めませんので、ご了承くださいませ』
+++
数時間後、会場は妙なテンションが染み渡っていた。
次々に出されるのはこの町でもおなじみの名コックたちが披露する「殺人料理」の数々。住民たちにとって馴染み深い食材で作られているはずなのにこの世のものと思いたくない悪臭、あるいは妙な音、色を出すそれら。
マズイ料理、というのは、名コックほど上手くやれるものらしい。要するに料理のポイントを尽く外しまくり「やってはいけません、まずくなりますからね」という心得を遠慮なく実行しまくればできる。
たとえばカレー。
特産のスパイスを使って腕のいい料理人が手がければ薫り高くまたまったりとコクのある素晴らしい一品が出来るだろうカレー。
皆さんは、レトルトのカレーに赤ワインを入れ、暖めずにそのまま食べたことがあるだろうか。
まずカレーの成分が分離しなんかこう、のっぺりとした感じになる。一口すくってみれば下の上にはなんともいえぬざらつき感が広がり、水分と固形が仲たがいをしたままのため味のハーモニーなどなく独自の強烈な個性、レトルトゆえの死に絶えた様子がありありと口内を荒らし、芯の残ったジャガイモが、それでも表面ばかりは油分を吸って妙に生々しい食管を演出する。
そういうカレーが、この島の「注文の多い料理店。オススメランチランキングでは常に一位を獲得しています!」という名物料理店のコックによって作られ、そして対戦相手に振舞われた。
相手も必死だ。そのカレーに負けぬだけのえげつないものを作り出し、観客の顔を引き攣らせることに成功し、そして双方共倒れになった。
そんな勝負が一回、二回と繰り返され、もうやけになるしかないのか、それともこういう妙な試合に、何か見ているほうもわけがわからなくなってきたのか、観客たちはハイテンションになっていた。
どさり、と一人料理人が倒れ、勝者となった料理人が「辛くも勝利」という顔をしてぐっと苦しげに顔を歪ませれば感動の嵐、双方引き分けになって共にタンカで担ぎ込まれれば涙し惜しみない拍手を送る、と、何だか本当に、え、なにこの展開、というようなものになっていた。
そうして勝負は進み、気付けば決勝戦である。
ドレークはアーサー卿からこの勝負のルールを聞いた瞬間を危険させようと思った。まずい料理で相手を倒すなんてどんなルールだ、と。第一そんな妙なものをに食べさせるわけにはいかないだろうと、反対した。
だが、考えようによってはこれも一つの町のイベントとして成功しているようだし(これほど盛り上がることなど滅多にないだろう)まずい料理の効果かマトモなものを口に入れながら観戦したいらしい観客らが屋台や近くの飲食店を利用しているため普段以上の収入があるように見受けられる。
そしてなにより、に味覚はない。
『それでは決勝戦、ここまで勝ち残ってまいりましたのは愛らしく賢く基本もある、まさに完璧なレディと言っても言葉の足りぬほどのお嬢様…!!!そして四番職業自由業の方』
最終決戦、ステージの上にはドン、ととサッチの姿があった。アーサー卿の贔屓しまくった紹介に突っ込むまともな思考の人間はもはやいない。
味覚がないため無事にここまで勝ち進み、その上堅苦しい料理コンテストではなく面白いものだったということで相当機嫌をよくしているがにこにこと観客に向かって手を振っている。
「ディエスー!見てる?ぼくは勝つよ!」
言っている言葉や態度だけなら本当に愛らしい。持参したらしい割烹着にほっかむりをした小さなはステージでぴょん、と跳ねつつお玉を握っている。てっきりのエプロンはレースがあしらわれた女性らしいものかと思いつつ、「油とかはねると痛いから」という理由で腕までしっかり守れる割烹着。
いや、普段油以上に熱い大将の相手をしているんじゃ、とドレークは思ったが、考えたくないので止めた。
ちなみには、意外に苦戦した。いや、が相手の料理に苦しめられることはないのだが、相手がの料理に耐えた場合、次の料理を出す前に審査員、つまりはドフラミンゴの判定になる。
これがただの料理コンテストならはドフラミンゴの贔屓を受けて圧勝しただろう。だが、これはいかにまずい料理で相手を不快にしてぶっ倒すか、というものだ。
の料理を口にしたドフラミンゴ、たとえ脂汗に塗れようが、息苦しくなろうが、意識が遠のこうが「の手料理が食えんならなんだって構わねぇ…!!!」と、尽く耐えた。
そのおかげでは対戦相手がドフラミンゴを料理で倒さぬよう「ぼくが負けるような結果にしたら嫌う」と無言の圧力をかけ、何度も料理を作るハメになっていた。
そうしてやっとたどり着いた決勝戦、普段楽して上に行くは久しぶりに努力した、とその顔は何か晴れ晴れとしている。
「………決勝、あと一歩でキキョウの笑顔…それはいい。それは大歓迎だ…!!」
そうしての最後の対戦相手、白ひげ海賊団四番隊隊長のサッチ。の向かいに立ち、腕を組んで目を伏せている。その態度は何やら真剣に考えている様子。気付いたが「うん?」とそこで顔を幼くさせた。
料理人としての腕もあるのか、白ひげ海賊団のサッチ、見事な料理を作り対戦相手を圧倒させた。そして観客たちが感動した一番の理由は、サッチは今のところ一度も「まずい料理」を作っていないのである。
食材の味を生かし、彩りを沿え、それはもう、まさに「完璧」といえる料理だけをサッチはこの戦いで作った。対戦相手がどれほどまずい料理を作ろうとも、えげつない味に苦しもうと、彼は自身の料理人としてのプライドからか、けして材料を泣かせるような料理は作らなかったのだ。
彼と対戦した料理人はサッチのその姿に胸を打たれ、料理を口にして涙し自ら負けを認めた。
エンターテイナーとしては両方とも有能で、やはりこのイベントを「材料の無駄遣いだ!」と異論を唱えていた人間はサッチを、「これもありだ」と娯楽と構えた人間をが魅了し、それぞれ味方につけ、会場は上手い具合に回っていた。
そういう感動ドラマを作ってきたサッチと、相手を容赦なく叩きのめしてきたの対決である。
「なぁに、サッチくん」
しかしここでサッチがじっと考え込むよう目を伏せて呟く言葉、が耳に拾って首を傾げた。
「……おれは、料理ってのは人を幸せにするし、生きるための大事な糧だと思ってる」
「そうだね、食べることは生きることだよね」
「もちろん楽しむ目的ってのもアリだ。面白いものを作って笑わせる、楽しませるのも、いい。だが、料理人として…これ以上こんな素材の死体の山を見るのは我慢ならねぇ……!!!」
今までただ黙して料理を作り続け、自身のポリシーを体言してきたサッチの、初めての叫び。会場が一瞬で静まり返った。
「では決勝戦はきちんとした「料理」で勝敗を決めたいと?」
その静寂を破ったのは、玲瓏としたアーサー卿の言葉。すっとサッチの前に進み出て、その意思を確認するように瞳を覗き込む。
「あぁ。おれの大事な女に贈るものだ、ポリシーを貫いて手に入れてこそだろ」
ただ目が合うだけでも威圧されているような妙な迫力のあるアーサー卿の目を真っ直ぐ見つめ返し、サッチはそう言い切った。清々しい、迷いのない青年の目である。アーサーはふむ、と眼を細めたが、「しかし」と手を軽く上げた。
「信念はご立派です。しかし、これはあくまで「ルール」のある「イベント」なのですよ。自由な思想や信念が許されるのはルールのない世界。ルールのある世界で勝者となるには、己の信念と違おうがルールに則って行動せねばならぬのです。それでも貫きたいのであれば、それはこの世界では通用でぬこと、つまり、この世界での「敗者」となるのみです」
海賊ならその意味がわかろう、とアーサーはその鋭い目で問う。人生経験から、その言葉を痛いほど理解しているサッチは一瞬ぐっと唇を噛んだ。だがいっそ「それでも構わない」という顔をして顔を上げたので、観客たちは完全にサッチに心を奪われた。
「ではルールを認めぬというその意思、主催者権限により貴方をこの場で」
「ぼくもそろそろちゃんとした料理作りたいな」
失格、と宣言しようとしたその途端、アーサー卿の後ろで枝毛がないか髪を弄っていたがぽつり、と独り言のように呟く。
当然のように、決定を下そうとしていたアーサー卿の手が止まった。
「……そうですね、折角素晴らしい食材が揃っているのです。最後の勝負は真剣勝負という形に変更しても問題ないでしょう」
「いや軽っ!!!アンタ今おれのこと失格にしようと…!!!」
「お黙りなさい。さんがルールで何が悪いというのです」
あまりにあっさりとした方針転換にサッチが素早く突っ込めば、シルクハットの老紳士、堂々と開き直った。
そして最終決戦、かなり真面目な料理対決が始まった。
+++
完全に燃え尽きたその、悲壮感漂う背を眺めてドレークは「気の毒に」と只管思った。しかし、なんと声をかけるべきか、適切なものが浮かばない。
「……いや、まさかこういう結果になろうとは…」
とりあえずドレークはその隣に腰掛けて、同じように夕暮れ、夕日の美しい海を眺めぽつり、と切り出した。
「………全力を出したんだ。悔いはねェさ…」
ドレークの気遣いがわかったのか、ぐすっと鼻を啜りなんでもないように笑ってみせるサッチ。その目は少し腫れていて、ドレークはなんだか申し訳なくなった。
料理バトル、最終決戦「味で勝負の料理バトル…!審査員は観客全員!」というこれぞ料理勝負だろうというものになった最後の戦い。
結果はの圧勝だった。
(というか…料理が出来たのか…あいつは)
この料理バトルでも数々「破壊力のある料理」しか作ってこず、それはもう手馴れた仕草で悲惨なものばかり作り出してきた。過去ドレークの体験とあわせて、てっきりは料理の才能皆無の殺人料理しか作れないのだとばかり思っていた。(アーサー卿がこんなとんでもルールのイベントを開いたのもが料理を作れないとわかっていてのことだと思っていたが)
この島の新鮮な材料を使い、またヴァスカヴィル家の財力にものを言わせた器具やら何やらを使って作り出された料理。
白ひげ海賊団サッチの料理は、完璧だった。既に観客たちの心を掴み「是非真の料理人と…!」と認められているサッチであるということを差し引いたとしても、十分優勝レベルに相応しいものだった。観客の一人としてドレークもその料理を口にしたが、かつてマリージョアの宮廷料理人が手がけた料理に勝るといえるほどの味とそう感じ、これはは気の毒だが負けるしかないだろうと、そう思ったほどだった。
「……まさか、あの魔女があんなに美味い料理を作るなんてな……マルコが惚れるわけだぜ…」
「いや、それは関係ないと思うが」
「気休めはよしてくれよ。おれは白ひげ海賊団で一番料理が上手いんだって、慢心してた。そうだよな、こんな腕じゃ、キキョウが振り向いてくれるわけねぇんだ」
いや、だから料理関係ないだろ、そこ。
突っ込んでも無駄だろうが、とりあえずドレークは突っ込んだ。
の作った料理は、ハンバーグだ。
ただのハンバーグ。ひき肉とパン粉、豆腐をこね合わせて焼いたハンバーグ。形はハート型だったり星の形だったりといろいろの趣味も入っていたが、ただの手捏ねハンバーグ。サッチの作った珍しく、また刺激的な料理の数々と比べれば平凡すぎるものだった。
だが、結果は大差をつけてのの勝利。
サッチ自身のハンバーグを口にして素直に敗北を認めたほど。
ちなみにドフラミンゴはまさかの本気の手料理が食べれるとは思わず、かなり感動し、自分の分だと渡されたハンバーグを半分食べずに持ち帰るとか言い出して呆れられていた。
ドレークも食べた。そして、これほど美味いものはこれまでの人生で一度も食べたことがないと、そう感動してしまったほどだった。
サッチに感情移入していた観客らもあそこまで美味い物を出されてはに票を入れぬわけにはいかぬ。そういう、有無を言わさぬ、圧倒的な「完璧さ」がの料理にはあった。
「……おれ、皿洗いから出直すよ」
「いや、なんでそうなるんだ」
「初心に戻って、いつかキキョウにあんなハンバーグを食べさせてやるんだ」
ぱんぱん、と土を払いながら立ち上がるマルコ。そのニカッと笑った顔は夕日に照らされて何だか雰囲気が出ているが、いや、だから何かおかしくないか、とドレークは突っ込みたい。なんだこのドラマ展開。
海岸に止めてある小船に足をかけ、サッチがドレークに手を差し伸べる。
「アンタには世話になったな」
「いや、してないと思うが」
「海であったら敵同士だけどよ、おれ、今日の事は忘れねェから」
「忘れた方がいいぞ、に関わったことは特に」
とりあえずドレークも手を握り返したものの、いや、だから何かおかしくないかこの流れ、と突っ込む。会話のキャッチボールをしたいのにできない。
船に乗り遠ざかっているその姿を見送って、ドレークはなんだかどっと疲れたような気がした。
もう今日は船に帰って寝よう。そう考えて踵を返すが、振り返った先でが大きなくまのぬいぐるみを抱えてちょこん、と座っていた。
「サッチくんには悪いことしちゃったかなァ。キキョウくんがぬいぐるみを欲しがるかどうかは別としてさ」
「本気で悪いと思ってるか?」
「うぅん、全然」
聞けばにっこりと、悪魔っ子が外道極まりない返答をしてくる。ドレークはため息を吐き、が腰掛けている防波堤に自分も腰掛けてその頭をぽん、と叩く。
「お前が料理ができるとは知らなかった」
「できない、なんでぼくは言った覚えは一度もないよ」
「いままでちゃんと作らなかったのはなぜだ」
そういえば以前がカレーを作った際、赤犬が「あれが参加してこの程度の味になったのは奇跡だな」と言っていたが、それは酷い味にならなかった、という意味ではなくて、が作ったのにこの程度の味にしかならなかったのか、という意味だったのか…?
数年前の記憶を掘り起こし「そういうことか」と納得していると、がぎゅっと熊の耳を噛みながらその頭に顔をうめる。
「もう作らないよ、ちゃんとした料理なんて」
「嫌なのか?あれだけ作れるじゃないか」
「だって、ぼく味わかんないし。だから正確に作るしかないんだよ」
言われてドレークははっと気付いた。いや、に味覚がない、というのは忘れていないつもりだった。だからまずい料理もまるで効かぬということだと思っていた。だがしかし、味のわからぬがなぜあんなに美味いものを作ることができるのか。
記憶していればいいだけのことだ。完璧な料理の手順、分量、何もかも。は長い時間を行き、様々な場所を訪れている。それだけ知識も豊富で、また頭もいい。どういうものを組み合わせて、どのようにすれば「美味い」とされるものが出来るのか知っている。それだけのことだ。
美味いものを作れば人は楽しめる。だから食も進み、美味い物で栄養を取りたいと思うからそれを求める。しかし味のわからぬには、美味い物を作った、という結果など意味がない。その過程「面白いことをして作る」ということしか楽しめないのだ。
「ではなぜルールを変えるようにアーサー卿に進言した?」
あそこでがアーサーに何も言わなければ、イベントとしては失敗だったろうがアーサーは目的通りに賞品を贈呈できただろうし、も今のように、嫌な思いをせずに済んだはずだ。
「……べつに、なんとなく」
そっけなく答えるを見つめ、ドレークはぽん、と頭を叩いた。
「そうか」
何かしらの理由はあるのだろう。サッチの主張に共感したのか、それともアーサー卿のことを考えてイベントを成功させようと気遣ったのか、はては食材を無駄にしてはならぬという原点に気付いたのか、それはドレークにはわからない。しかし、こういうとき、こういう顔をして「べつに」というのその声をドレークは想い、ぽんぽん、と頭を撫でる。
「それなりには楽しめたか?」
「まぁね。このあと鳥に食事に誘われてるけど、ディエスもおいでよ」
「そんなにドンキホーテ・ドフラミンゴをいじめて楽しいか」
絶対にと二人っきりに…!と期待しているだろう七武海の顔が浮かんできてドレークは額を押さえた。いや、聞いてしまった以上を一人で行かせる気はないが(過保護)しかし、二人っきりになりたいという相手の思惑を理解した上で自分を誘うの性根は…まぁ、いつもどおりか。
「いぢめてないしー、鳥はぼくが招待に応じてあげたってことだけで十分感謝するべきだしー」
青い目をそれは面白そうに輝かせてがのたまう。先ほどまでとはうって変わった普段どおりのその表情。ドレークはひょいっとを抱き上げて目の高さを合わせた。
「食事もいいが、まず一度おれの船に行くぞ」
「なんで?」
「赤犬に直接知らせる無謀さはないが、青雉に連絡してお前がここにいると知らせねばな」
すっかり忘れていたが、は現在逃亡中の身である。今頃本部では変わりなく魔女捜索がされていると思うと、元海兵として放っておくわけにもいかぬ。幸いの気分も治ったようで、それなら明日になればが自主的に本部へ戻るだろう。
アーサー卿といえば、の身が心配なことには変わりないが「貴方がいますからね」とのことはドレークに任せ、自分はイベントの後始末をしている。あんなルールを使ったにも関わらず、最終的にアーサーは参加した料理人何人かに投資の話を持ち出したようだった。まずい料理を作るその技術の裏にある才能を測ったとかなんとかもっともらしい理由をつけていたが、何もせず引き上げてはこの島で何をしていたのか、と政府や海軍に勘繰られると理解してのことだろう。(いや、実際利益は確実に出しているだろうが)
「知らせなくていいよ。サカズキはちょっとはぼくの心配すればいいんだよ」
「赤犬が心配して取り乱すと思うのか」
「言ってみただけ。ディエスはぼくがいなくなったら取り乱す?」
言われてドレークは考えた。が失踪などしょっちゅうだった海兵時代。目を離した隙に蝶を追いかけていくようなだ。いつもいつも、はらはらさせられた。だが、不思議と危機感はなかった。(いや、赤犬に殺される、という危機感はあったが…!!)
「取り乱しはしない」
「冷たいなぁ」
「お前は頭がいい。それに何が危険かをわかっている。姿が見えねば不安にはなるが、最終的なところでは心配していないのかもしれない」
「サリューのことは?」
がづん、と、いっそ頭を殴られた方がマシだった。
唐突に出された名前、そして質問の内容にドレークは一瞬息が止まる。
「サリューね、段々、段々、顔色が悪くなってくるんだよね。ぼくさ、わがまま言うし、サリューのこと困らせて忙しくして、笑わせるけどさ、サリューね、顔が真っ白なの」
不意にドレークは、今日が自分の前に現れたのは偶然だったのだろうか、とそんなことを考えた。先ほど自分でも言ったではないか。は何が危険かをわかっている。悪意の魔女たるが赤犬の監視を離れた場所に「逃亡」など、危険極まりないことではないか。ただいじけて逃げるだけなら、もっと別の場所、たとえば許容範囲と思われる水の都やエニエス、インペルダウンなど、場所は多くあったはずだ。それなのに、はこんな、知り合いがおらぬだろうところへ来た。
「おれに何をしろと?」
「言わないよ。ぼく、言わない。ディエスもサリューも、ぼくにはわからない、何かがあるってわかったし。ぼくは、愛とか、好きとか、わかんないけど、でも、ディエスとサリューのこと、邪魔したらいけないっていうのは、もうわかったもの」
以前、造反した直後、がドレークを殺しに来た。サリューを悲しませたからだと、そう叫び、ドレークを殴った。だが青キジにより連れて行かれ、そしてドレークの知らぬところで何か彼女なりに理解するようなことがあったのだろう。それ以降は、はドレークの前ではサリューの名を出さなかった。
それであるのに、今、は途方にくれた顔でドレークを見上げている。
「サリュー、泣かないの。ばか、なんでサリューにあんな顔させるのさ」
自分が彼女の前から姿を消してから、どれほど経ったのだろう。途方もない時間のように思われ、しかし、
ドレークはいつだって彼女を想って、思い出してきた。今も鮮明に彼女の姿を思い出せる。だが、髪は記憶にあるより伸びたかもしれない。肌は白くなり、そしてやつれているのだろうか。
がぽすん、とドレークの胸を叩く。小さな子供の力だ、さほど答えぬのに、ドレークは顔を顰めた。
「昼間、お前に会うまえに露天で彼女に似合うだろうピンを見つけた」
顔を埋めてくるの赤い髪を撫でながら、ドレークはぽつり、と口を開く。
「白い花の入ったピンだ。タイピンとして使うか、あるいは腕章を止めるものに使ってもいいが、彼女のほっそりとした身体に咲いたら似合うだろうものだった」
「……買ったの?」
「いや」
「今からでもいいから買いに行こうよ」
まだ店は開いているかもしれない。この町は電灯設備がしっかりしているので夜でも栄えている。しかし、たとえ購入したところでドレークは渡すことはないだろうと判っていた。
渡す手立てなら、なんとかなる。に運ばせる、というのは最終手段だが、海軍時代のつてが使えぬわけでもない。
自分からの贈り物だとばれればサリューの身に危険が及ぶだろうということを考えて贈らぬわけでもない。がこうして自分を訪ねる限り、サリューが「赤旗」と繋がりがあるのではないかと疑われずにすむことないだろう。そのリスクは皆、わかっている。
海賊として島を行きながら、ドレークは時折、サリューに贈りたいものを買ってしまった。部屋の木箱の中には既にいっぱいになった品々があり、しかし、いつか渡せる日が来るとは思っていなかった。
自分は、彼女を選べなかった。船医のように、他の仲間のように、共に来いということがどうしてもできず、彼女をあの場所に、自分はいることが耐えられなくなった場所に置いて行った。
あれほど自分に近かった彼女が、一人残されたあと周囲にどのような目で見られるのか、考えなかったわけではない。だが、ドレークは、あの時、サリューを連れて行くことができなかったのだ。
それはエゴだった。そして今もまだ、彼女に似合いそうなものを買っては貯めていくのも、ただの自己満足なのだ。彼女がつければ似合うだろうと、想うだけで心が穏やかになる。実際に渡せればどれほどの幸福感に襲われるのか、ドレークは考えないようにしていた。
こうして血に満ちた、茨の道を選んだ自分が、幸福など覚えるのは間違っている。心を穏やかにすることさえ、本来であれば許されぬのに。
「すまない」
必死にドレークを見上げてくる、のその青い目を見ぬように眼を伏せて、ドレークはぬいぐるみごとを抱きしめ、その肩に顔をうずめた。淡い薔薇の香り、だがしかし、思い出すのはかつて本部にいたころ、真っ白い小さな白い花を愛した彼女の香りだった。
Fin
アトガキ
「48他力本願ですいません目安箱」に投稿いただいたさんがデッキブラシで出かけた先で料理コンテストに参加する話」でした。いやぁ、本当、書いてて楽しかった。そしてこんな長さになるとは想わなかったです。
投稿くださったのは「バカッポー応援隊隊員一号(仮)」様で既に複数のネタを48に提供してくださっている女神様でいらっしゃいます。いやぁ、ありがとうございました!
そして頂いたプロットではもう少し後日談があったのですが、日付変わりそうなのでこの辺で終了。後日談として「その後海軍本部にて」を書きたいと思います。
……あと、ほのぼの目指したんですが…やっぱりこうなったか…!と苦笑いしてください。
いや…サッチとか、アーサーさんとか出す予定じゃ…。プロットでは「プロの料理人をさんが完膚なきまでに叩き潰す!」とあったのですが…サッチで←
まずい料理をバトル、は神坂一さんの某魔法少女小説「もったりとしてコクがなく」からです。
いや、楽しいものを書かせてくださってありがとうございました。
最終的な枚数が原稿用紙50枚越えして、現在只管驚いております。
(2010/07/16 22:34)
|