海軍本部、終業時刻。 最近入籍したばかりの大将赤犬閣下、残業なぞする気もなくさくっと終わらせた書類をトントン、とまとめて席をたった。 入籍、と堅苦しい言い方はしたものの、言い換えれば『新婚』である。 似合わない、はっきり言って、赤犬には似合わぬ単語。どっちかっていうと、濃い感じで「愛人」とかの方が似合うだろう組長にしか見えない男。 しかし、娶ったのは世に慣れた熟女やら絶世の美女、女傑、ではなくて幼女。 新妻通り越して、幼妻である。 犯罪じゃね?と言う突っ込みが時々クザンから入るが、そんなものは蹴り飛ばして黙らせる。 というか、サカズキとの入籍が確定した翌日から海軍本部、抗議の電話が殺到したりした。 の自称兄から呪いの人形が届いたり、元将校から「本当にいいのか!!?」と意思確認の電話もあったが、まぁ、それはそれ。 どこぞの赤髪の海賊からの電話が一番多く、どこでその情報を聞きつけたのかとセンゴクが頭を抱えたりもした。 っていうかお前ら、海賊が海軍に電話かけてくるんじゃねぇよ、という突っ込みは今更過ぎて誰もできない。 ちなみにその抗議の電話は赤犬の「諦めて祝え」の一言で軽い戦争が勃発しかけたが、今はなんとか収まっている。 情報に寄ると新世界では日夜自棄酒をかっくらう四皇の一角と、それに巻き込まれる大剣豪の姿があるとあないとか。 まぁしかし、サカズキには何の関係もない話である。(←おい、大将Σ) そんなことより、早く家に帰りたいとご亭主気分。 今日は暑かったがあれはきちんと水分を取っていただろうか、留守中誰も尋ねてこなかっただろうか、尋ねて来たとして、しっかり追い返したかなど、心配は尽きない。 過保護、という自覚はもちろんサカズキにもあった。 だが逆に聞きたい。 過保護の何が悪い。 別に誰に迷惑をかけているわけでもない。 寧ろが誰かに迷惑をかける可能性を根絶やしにしているのだから正義の行いに部類されても良いのではないか。 完全な開き直りである。ちなみにその自覚はサカズキにはない。 そこにガチャリ、と開く扉。 「よ、サカズキ。おれ今日お前の家行くからな」 新婚バカッポーが始まるよ!!! 現在の住居に向かう道すがら、サカズキが何度目かになるかわからぬ念を押してきた。 「一時間以内に帰れ」 「わかってるって、別に新婚の邪魔したいわけじゃねぇし」 二人並んで出歩き、言いながらクザンは新婚、という単語に違和感を覚えた。 いや、本当、似合わない。 似合わなさ過ぎる。 入籍前はよく「お前ら本当さっさと結婚しちまえよ!」と日々突っ込みをいれていたのだが、こうして本当に結婚されると、似合わなさ過ぎて気持ちが悪い。 新婚? あの赤犬が。 どこぞのヤ○ザにしか見えない、というのはもうさておき、40過ぎたオッサン が「新婚」? しかも相手はである。 その二人の「新婚生活」見たいような、見たくないような。 そんなジレンマがクザンにはあった。 だから今日は勇気を出して、というところ。 「ならいっそ来るな」 クザンの胸中を呼んだのか、煩わしそうに眉を寄せてサカズキが呟いた。はっきり言って邪魔だと、付け足すことも忘れない。 「いや、ほら、気になるじゃない?あのがちゃんと若奥さましてるのかって」 若奥ではなくて幼妻だが。 「妻としての努めは果たさせちょるわ」 「それって下ネタで?」 「帰れ」 げしっと、結構本気で蹴られた。 クザンは軽く笑い、氷になって砕けた部分を戻しながら肩を竦めた。 「冗談だって。でもなぁ、あのが家事とか・・・できるのか?」 「問題なんぞない」 「そうじゃなくて、だから、できてんの?だってさ、あの傲慢で我侭で、他人に全く興味のないが。かいがいしく家事とかするか?想像できないんだけど、おれ」 「貴様の想像力が乏しいことは先ほどの発言で知れちょるが。できないからと言うて、このわしがあれを甘やかすと思っちょるんか」 めっちゃ思います。 クザンの中ではサカズキ=に激甘という認識になっている。 何堂々と言っているんだと突っ込みを入れる前に、フン、と鼻を鳴らした大将がのたまった。 「できないながらも拙い手つきであれこれ懸命になる姿や上手くいかずに申し訳なさそうにこちらを見上げてくる様子がなくなるのは惜しい。心底困惑してもわそしか頼るものがいない以上、顔を赤くしながらも助けを求めてくるあれを誰が甘やかして許すものか。勿体無い」 だからそれ下ネタじゃねぇのかよ、とクザンは思った。 (というか、あれ?ひょっとして惚気られてんのか?) クザンは顔を引き攣らせた。 というか、お前そんなキャラだったか? 長い付き合いだが、いくら同僚といえど他人に色恋沙汰(あのサカズキが!?)を話す男とは思ってもいなかった。 唖然と見ればその顔は、普段仕事をしているときと何ら変わりないストイックな横顔。 畏怖堂々として歩く、その姿に何の変化もないのだけれど。 あの赤犬が、惚気ている。 表情こそ変わらないが、まんざらでもなさそうな雰囲気が腐れ縁のクザンには伝わってきている。 私情を人に語ることのない、あの赤犬が自分の幼妻について、惚気ている。 ・・・・気色が悪い。 自分で言い出しておいてなんだが、クザン、とっても帰りたくなった。 なんというか、砂を吐きたい。 甘すぎて砂糖を吐けるんじゃないかと、思う。 サカズキ一人でこれなのだから、とセットになられたら、どうなるのか。 「あ、悪ぃサカズキ、おれやっぱり用が、」 「遠慮するな」 帰ろう、と踵を返そうとしたクザンの肩をがっしりと掴んで、サカズキが妙に楽しそうな声で続けた。 「たまには知人を交えての食事も悪くなかろう。貴様がいればあれも喜ぶ」 「その心は?」 「わし以外の男に笑顔を見せて、躾直す良い口実になると思わんか」 思いません。 というか、帰らせてくれ。 そして、マジで逃げろ。 なんでこんな男と結婚したのかとクザン、やけに嬉々としているサカズキにずるずる引きずられながら、夕日を眺めた。 (これでがフリルのエプロンで迎えたりしたら、自分はきっと砂を吐く) 終わっとけ ★アトガキ★ 一葉も砂吐きます。 組長・・・タガ外れすぎだよΣ 何この愛妻っぷり。←ちょっと違う。 ちなみに少女ヒロインはエプロンじゃないです。 割烹着です。 油が跳ねたり転んだりしたときにフリルエプロンは防護性に乏しいから普段は着 せないそうです。 ・・・”普段は”って何? |