ちゃんをぐでんぐでんに酔っぱらわせてお膝に抱っことかしてみたい」

次の遠征の打ち合わせを終えて一呼吸開けた後、会議中は「やや真面目」という程度の表情しかなかったクセに、途端、これまでサカズキが知る限り一番「真剣」な顔で、同僚のバカはのたまいやがった。

サカズキは頷くことも耳に入った言葉を流す暇もなく、即座にクザンの頭を殴り飛ばす。グーで。ということは、マグマの拳で。勢いよく同僚(最高戦力)の顔面が溶けて行くのだが、これでどうにかなるような可愛げなんぞ持ち合わせていないだろう。すぐに復活する頭を今度は能力なしでわしづかみにし、机をクザンの頭の固さだけで押し割った。「ふごっ」とか妙な音が聞こえたが、当然サカズキは無視する。そのまま鬱陶しいだけの図体、背を足で踏み、床に押し付ける。

「ちょ……おまっ、無言でここまですんの止めてくれる!!?今マヂでお花畑見えたぞ!!!?」
「黙れ」

余計な言葉は一切使わず、サカズキはジロリ、とクザンを見下ろして(というより、見下して)吐き捨てた。うわ、と、クザンが顔を引きつらせ何とかサカズキの足から這い出ようと身をよじるのだが、足一本でなぜそこまで、というほど、クザンの体は縫い付けられてしまっている。

逃げられない、と覚悟して、クザンは抵抗を止めると、サカズキを睨み返した。

「男のロマンじゃねぇか!!!」
「開き直るな、このバカタレ」

再度サカズキは体の一部をマグマに変化させ、詳しく言えばクザンを抑えつけている足をマグマにしてその腹に風通しを良くしてやった。能力者でなければ、酷い有様になっている。

この阿呆が年中脳味噌ピンクであることはサカズキもよく分っていた。無駄に長い付き合いである。真面目な顔をするときはたいがいロクなことを言わない。

今回はよりにもよって、に酒を飲ませていかがわしいことをする、というものである。ここで息の根を止めずにおく理由がない。ぐいっとサカズキは足に体重をかけてクザンを押し潰す。夕食前であるから妙なものが出てくることもないだろう。

「だぁああー!!マヂで殺す気か!!?お前だってそういう展開あったら歓迎するだろ!!」
「せんわ、このド阿呆。おどれの変態趣味にわしを巻き込むな」
「変態とかお前にだけは言われたくねぇよ……!!!」

ぐっ、とクザンは必死にそれだけ突っ込んだ。

どう考えたって、自分の「好きな子をお酒で酔わせたい☆」というかわいらしい企みと「精神的にも肉体的にも追い詰めて剥いで事に運ぶ」というサカズキの思考(限定)では、自分の方が健全だろう。

そもそもクザン、目はマジで言っているがいかがわしいことをしたくて提案したのではない。そういう下心があったら、まずサカズキに提案なんぞしない。溶かされることなど目に見えている(現在確かに)。別の下心はあるが。

ただちょっと、こう、気になるあの子のお酒飲んですなおになった状態が見たい、というささやかな願望である。いや、確かに、寄ったがキス魔になるタイプだったら大歓迎、とか思っているが。

「考えてみろって…?お酒は人を変えるのよー?あの強気なちゃんが泣き上戸だったらとかさ、日ごろ色々言えない本音とか聞けるかもじゃん!」
「泣き顔なら毎晩見ちょる。本音を言わんと終わらせんので必ず口に出させる」
「聞きたかねェよ、そんな惚気」

必死に提案しているのに、素で返されて思わずクザンも素で返してしまった。ぴくん、とサカズキが不服そうに片眉を跳ねさせる。まさか惚気たかったのか、とか本当怖い予想をしたが、サカズキ「惚気じゃねェ」と、全くもって無自覚極まりない返答。突っ込みを入れたら負けだ。クザンはいろんなものをなんとか堪え、一瞬サカズキの足から体重が移動したので素早く起きあがる。

色々溶かされたので、クザンも必死こいて修復する。ぱんぱん、とあちこち叩きながら、溜息を吐いてサカズキに顔を向けた。

「え、何?もう泥酔プレイとか経験済み?」
「味のわからんあれにわざわざ飲ませるか。もったいない」

この男、名前が「盃」だけあって相当飲む。酔ったところなどクザンは見たことがない。酒好きでもあるのだろう。飲んでいるのは中々良い物ばかりだろうから、それを味覚のないに飲ませる気はないらしい。ケチとかそういうわけではなくて、それってひょっとして強いアルコールを体内に入れて体調崩すのを気遣っているんじゃ、などとクザンは思い浮かんだが、ここはケチの方向を信じることにした。

ちゃんって毒とか効くんだから、お酒も酔うんでしょ?」
「まぁ、効くじゃろ。試したことはねェが」

これでサカズキを上回る酒豪だったらクザンは泣くしかないが、夢を見る分にはタダである。

泣き上戸でも怒り上戸でも可…!むしろお酒にものすごく弱くて「クザンくん、ぼくもうだめかも…」などと具合悪そうにするの世話とかもしてみたい…!!

本当、頭に花でも咲いているのか、と突っ込みたくなるような妄想であるが、生憎クザンはマヂだった。それを眺めてサカズキも、一応は考えてみる。ふむ、と口元に手を当てて、今頃はドレークと隣の部屋で遊んでいるだろう。飲ませたことはないが、いくら化け物じみているとはいえ、体は少女のものである。アルコールを満足に分解できる、とも思えない。

あの勝ち気で傲慢な目が酒の所為でぼんやりとし、白い肌は赤く染まる。力を入れたくとも中々入らず困惑しては眉を寄せ、こちらの手を払おうとする。いつも以上に柔らかく熱のある体を組み敷くのも、悪くない。

「お前…絶対おれよりいかがわしいこと考えるよな」
「気の所為じゃァ」

サカズキは私室の棚にが匂いを嗅いで警戒せぬようなものはなかったかとあれこれ思い出しつつ、ぐいっと、クザンの襟首を掴んだ。

「よし、珍しく貴様も協力させちゃるけェ、確実にあれを酔わせるぞ」
「うわ、お前目がマヂ…」

提案しといて何だが、クザンはサカズキのその本気の勢いにちょっと引いた。あれ?自分はただちょっとこう、「ちゃんかわいいー」というような展開にしたかっただけなのだが、なんでこいつは食う前提、前準備、下ごしらえ的な感覚になっているのだろうか。

酔わせて女をどうこうするなんてサイテイヨー!などと突っ込みを入れてサカズキをなだめようかとも思ったが、しかし、まぁ、結局がサカズキに食われるのはいつものことなので、自分もちょっとはオイシイ思いができるのなら、ま、いっか、と、クザンは開き直った。

「よし、任せろって。ジュースにしか見えない、甘い匂いしかしない酒みつくろってくっから」

クザンは、ぐっと、それは頼もしい顔で親指を立てる。
そしてかつて共に戦場で生き残る度、無事を確認して互いの健闘を讃えた時のように、片腕を交差させ、全くもってくっだらない内容を実行しようと硬く誓い合うのだった。




男が下心を持って行動する話!







(逃げろ…!!!今すぐこの島を離れてしまえ…!!!)
(なぁにディエス?サカズキ呼びに行ったんじゃないの?)



Fin



・短い話。リハビリ用です。
(2010/04/27 23:50)